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2-1. はじめての依頼

 ルイスが朝の鍛錬を終え勝手口から台所に入ると、彼を最初に迎えてくれたのはスープが立てるおなかを刺激する香り。次いで、


「おはようございます、ルイス様。鍛錬おつかれさまでした。汗拭きはよろしいでしょうか?」


 とエレナがふわっとした笑顔で迎えてくれた。対してルイスは高鳴る気持ちを抑えるのに必死だ。


「あ、おはよう! エレナ! うん、自分で持って行っていたから大丈夫だよ。それより今日もおいしそうな匂いがするね、楽しみだ」


 そんなことを言いながらルイスは別のことを考えていた。夕べのことを聞いたほうがいいのかと。なんで同じベッドで寝てたのかと。


「……どうされました、ルイス様?」


 しばらく返事をせず固まっていたルイスに、エレナが不思議そうな表情を浮かべている。

「あ、や、何でもないよ。大丈夫! は、あはは!」


 エレナはそんな彼の様子に首をかしげる。

「? へんなルイス様」

 などといいつつ、その実エレナは彼の様子に満足していた。どうやら昨夜のことを意識してしまって仕方がない様子。朝の件を聞こうかどうしようか迷ってる、そんな様子が分かり易いほどわかってしまう。


「おはよう二人とも。言いつけ通り昨夜はサカらなかったようだな」


 ぼさぼさの頭をボリボリかきつつ、からかいの言葉を二人に掛けながらトニーが食堂に現れた。

 二人の反応が見たくてつい言ってしまうようだ。メイドといい、この人といい、本当に人が悪い。


「しっ、しませんそんなこと! あ、お、おはようございます、トニー様」

「おはようございますトニーさん。……あの、サカるってなん」


 本気で言っているのか、ルイスのおこちゃまな発言を受け、エレナは彼のお尻をつねる。


「あ痛った‼ なんなんだよもう」

「しりません!」


 尻を押さえながら振り返る彼から、彼女は思わず目をそらす。

 真っ赤な表情をごまかしたかったのだ。


「はっはっは、朝から仲いいな。メシ、食えるか?」

「あっ、はい! ご準備できております、どうぞ」


「――ところでルイスにはすまんが、昨日言っていた商人の話を聞いてやってほしい。いいか?」

「もちろんです。どちらに伺えばよいのでしょう」

「そうか、助かる。くわしくはメシを食ってからな」



 ◇ ◇ ◇



「よろしく。俺はライアン。ライアン・パジェットだ」


 トニーに依頼された雑貨店にルイスが顔を出すと、人懐っこそうな若者が歓迎してくれた。


 ルイスが「こんな若造、あったこともないのになぜ」と尋ねると、


「トニーさんの紹介だから。まず間違いないだろうと思ってね」と笑って答えた。


「トニーさんって、有名人なんですか?」

「有名も何も。あの人自身凄腕の大工だし、なにより職人を見る目は確かだからね」


(職人じゃないんだけどな)

 ルイスは心の中で苦笑した。


「刃物の品質が安定しないということですか……しかも購入品だから調べられない、と」


「そうなんだよ。こちらで調べられないから、お客さんに売ってからクレームがつく。けれど仕入れ先は『商品の受入時に言ってもらわないと』と取り合わない。本当に困っているんだよ」


「もしかしたら、仕入れ先は不良品が混じっていることを分かって売っているのかもしれませんね」

「だろ!?  っとにチャールズ商会のやつ……! でもさあ、調べようがないんだよな」


(ま、またチャールズ商会……)


「ま、まあそうと決まったわけでは。ところで、不良の内容は何ですか?」

「ああ、そうだったな。クレームはほぼ『脆い』、だ」

「脆い?」

「ああ、普通に使ってるだけで折れるんだよ。ぽっきりと」

「それはその、経年劣化ではなく?」

「二年三年経ってるナイフなら俺だって『そりゃ普通の劣化ですよ』って返すさ。けどこいつは」


 そういってライアンは指を一本立てる。


「一年ですか?」

「ひと月」

「ええっ。ナイフがたったそれだけで折れるもんなんですか!?」

「んなわけないだろ。だからクレームになるんだよ」

「そ、そうでした」


 ひと月は休息日が四回分。たったの二十八日だ。こんな短期間で刃物が折れるなんて。ルイスは聞いたこともない品質の悪さに絶句した。


「脆い……あのすみません、勉強不足で申し訳ないのですが、なぜ脆くなるのですか? なにか条件なんかありますか?」


「うーん、そうだな。ナイフは当然金属でできてるけれど、一般的に不純物が入ると脆くなると言われてる」

「不純物とは?」

「色々かな。金属でない物質だよ」

「ナイフに普通含まれる成分でない。だとしたら重量を計ればいいのでは?」

「それができればいいんだけどね。ナイフは手作りだから、全部重さが違うんだよ。だからただ重さを計るだけじゃわからないんだよね」

「なるほど……ちょっと考えてみます。少しお時間をいただいても?」


 それなら仕事に戻るから、なにかあったら声をかけてくれといってライアンは店に出た。


 ルイスは奥の事務所で持参した本を開き、参考になる情報を探し始めた。


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