7、ミリオンパーティーの行く末は①
ミリオンパーティーはこの日、魔獣討伐の目的地にむかっていた。カイトを追い出したあとに受けた依頼だ。
今回の目的地はピーコック山脈だ。そこに生息するパラリシスベアーを討伐するために、出発したのだった。
「クソッ、また魔獣かよ!」
「もう! こんなただのザコなんて、相手にしてる場合じゃないのよ!」
「チッ! トレット、こんな奴ら一発で片付けろ!」
「う、うるせぇ! サウザンこそダメージ喰らってんじゃねぇよ!」
今日はやたら魔獣が出没して、なかなか前に進めなかった。倒せはするものの、次から次へと襲われる。
「ファイアボール!」
「うらぁ!!」
ティーンが魔法で仕留めそこなった魔獣を、トレットがトドメを刺して、今回の戦闘は終了だ。
「なんだ、ティーン、調子悪いのか?」
今までは、あの魔法で仕留めていたのに、今回の討伐では一度も倒せていなかった。ミリオンは恋人の調子が心配で、優しく声をかける。
「うーん、なんでだろう? 昨日あんまり寝てないからかな?」
「それは……俺のせいだな。ごめん」
「もう、ミリオンったら仕方ないんだから。許してあげる」
「うわっ、また始まったよ!」
「チッ! ホント勘弁してほしいよな。こっちは独り身だってのに」
甘い空気を出しはじめたミリオンとティーンに、トレットとサウザンは辟易していた。たまに時と場所をわきまえずに、このふたりはハタ迷惑な空気を振りまくのだ。
そして周りにドン引かれていることに、気づいていない。
でも、そんなのはお構いなしに、魔獣たちは襲いかかってくる。
「オマエら! いい加減にしろよっ!!」
「チッ! 魔獣が来たぞ!!」
トレットとサウザンは戦闘状態に入っている。ミリオンとティーンも慌てて参戦した。
***
「はぁ……ったく、何なんだよ……!」
ミリオンは荷物をドサッと木の根元に投げつける。
カイトがいないことによって、野営の準備は担当制になったので、まずはトレットに割り振った。
ピーコック山脈の麓までは何とか来れたが、時間と体力的にその先に進むことができなかった。いつもなら、今頃は魔獣を倒したあとの、帰る前の野営のはずだった。
「ねぇ、ミリオン。今日の魔獣の遭遇率おかしいわよ」
ティーンが深刻な顔で、進言する。それにサウザンも続いた。
「チッ! まさかと思うが、スタンピードの前触れじゃねぇだろうな?」
「それはないだろ! 5年前に起こったばかりだぞ?」
トレットがすかさず否定する。だが、たしかにスタンピードの周期が来るのには、早すぎるのも事実だ。通常は10年から15年ほどで次のスタンピードが起きる。
「とにかく、戻ったらギルドに報告しよう。明らかにいつもと違う」
ミリオンはそう言って、眠ろうと横になる。夜の火の番も交代制だ。トレット以外の3人で、順番に見ることになっていた。
昼間に絶え間なく魔獣に襲われて、全員がいつもより疲れていた。最初に火の番をしていたサウザンも、やがて強い睡魔におそわれてウトウトとしてしまう。
深い眠りについているミリオンたちに、忍び寄る影があった。眼は赤く光り、グルグルとのどを鳴らして、鋭い牙ある口からは獲物を見つけて涎を垂らしている。
獰猛なブラッドウルフの群れだ。
サウザンは魔獣たちの息づかいに、気づいていない。ミリオンたちの周りは、すでに取り囲まれている。
ミリオンはふと肌寒さを感じて目を覚ます。隣に寝ているティーンが、掛布を独り占めしていたのだ。
「……寒っ」
ティーンに寄り添って、また眠ろうとした時だ。紅い光が無数にあるのが、ミリオンの視界に入ってきた。
一瞬なにかわからずに、瞳を閉じた。でも、それがその場所にあってはいけないものだと気づき、眠気は吹きとんだ。
————嘘だろ!? 魔獣に囲まれてる!!
「全員、起きろ! 魔獣だ!」
その言葉にパーティーメンバーたちは飛び起きた。
「え!? 魔獣ってなんで?」
「うわっ、マジかよ!!」
「チッ……いつの間に!」
イラッとしたミリオンは、思わず声を荒げる。俺が起きた時には、ガッツリ寝てたじゃねぇか!!
「サウザンが居眠りしてるからだろ! ふざけんな!!」
「チッ! うるせえ! さっさと倒すぞ!」
一匹目のブラッドウルフを倒しながら、サウザンは怒鳴り返した。ティーンとトレットもすでに応戦していて、余裕はなさそうだ。
「もう、やだ! 早くやっつけてよぉ!!」
「しゃべってる暇があったら、魔法打てよ!」
「トレット、うるさい! 今やるわよ!」
お互いに罵り合いながら、ブラッドウルフの群れを倒した頃には、東の空が明るくなり始めていた。
ほんの2時間ほどの睡眠しかとれていない。
回らない頭でミリオンは考えていた。
何かがおかしい。何かがいつもと違う。この依頼はただの魔獣の討伐じゃないのか? 邪魔だったFランクのカイトを追い出して、これからSSSランクを目指すつもりなのに……魔獣に重大な異変が起こっているのか?
……待てよ。それなら、この調査を進めて、いち早くギルドに報告すれば、俺の名声は上がりまくりじゃないか!!
やっぱりカイトがいなくなって正解だな。俺に運が向いてきた……!!
「きっと、魔獣に何か起きてるに違いない。これからは魔獣を討伐しながら、その調査もしよう。そうすれば、伝説級のSSSランクパーティーに一歩近づくぞ」
「えっ……魔獣を討伐しながら……?」
「チッ! 面倒くせぇなぁ!」
「でもSSSランクのパーティーになったら、もう討伐に出なくても一生食っていけるぜ」
トレットの一言に、ムクムクと欲望がわきあがってくる。
「そ、それもそうね!」
「ガハハ! それならやってやる!」
盛大な勘違いに気づかないミリオン一行は、パラリシスベアーを討伐するために、山の中へ進んでいった。