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52、リュカオンとの融合の真実を知りました




 レグルスは九尾の魔獣の姿になって、黒狼の牙から逃れた。


『ふふふ……これでやっと、リュカオンを殺せるね。その為にいろいろと手を回した甲斐があったよ』


『ふん、8年前のスタンピードとレッドドラゴン、それと変異種の増加のことか?』


『そうそう、スタンピードを使って封印を解いて、僕が消そうと思ったのに人間と融合しちゃうんだもんなぁ。驚いたよ。仕方ないから魔獣を強くしてみたり、魔聖石を使って強化したり頑張ったんだよ?』


 レグルスは九本の尾から黒炎を放ちながら、今度はオレに襲いかかってきた。


 やっぱりレグルスが元凶だったのか! クソッ! コイツのせいで母さんは……!!

 溢れ出る憎しみは、あっという間にオレの心を染め上げる。でも、その憎しみにのまれそうになると、浮かんでくるのはリナの笑顔だった。

 憎しみに振り回されるな! それを原動力にして、いま大切なものを守るんだ!


青い(ライトニング)衝撃(・ショック)!」


 青い稲妻が四方八方に走って行く。レグルスが避ける先にも、稲妻が走っていたが黒炎の魔法で相殺された。

 口だけじゃなく、本当に魔力だけならオレより多いかもしれない。


 でもオレだって強くなったんだ。リュカオンの力はもちろんだけど、それだけじゃない。守りたいものの為なら、どもまでも強くなれるんだ。なぁ、リュカオン、こんな卑怯な魔獣に負ける気がしない!


『もちろんだ、カイト。レグルスを倒す』


 黒炎と青い稲妻がぶつかり、あちこちで大爆発が起きる。立ち込める土埃に視界を遮られても匂いで居場所を特定して、攻撃を仕掛けていく。

 レグルスは驚異的な反応速度でオレの攻撃を躱したり、魔法を相殺していた。


「リュカオン、隊長とクレイグたちが来ないな……途中で足止めされてんのか?」


『おそらく魔聖石で進化した魔獣と、戦闘になっているのだろう』


「あぁ、この匂いがそうだったのか……じゃぁ、仕方ないな。まぁ、みんな強いから大丈夫だろうけど」


 その時目の前を数十本黒炎の矢が飛んでいった。


『僕と戦ってるのに、ずいぶんと余裕そうだね!』


『ふん、お前の悪趣味について話しておったのだ』


『あぁ、ケルベロスのシグマとグリフォンのオメガの事だね。魔聖石をたくさん使ったけど、なかなかいい出来なんだ』


 レグルスは余裕気に話しながら、次々と黒炎の魔法を放ってくる。だが、躱したり青い稲妻で相殺したりして、ダメージは受けてはいない。お互いに繰り出す魔法や攻撃は互角だった。



『ふぅ、なかなかやるね。それなら人間の方を攻撃したほうがいいかな?』



『レグルス……貴様何を』


『カイトだっけ? 君が何で魔力の塊とはいえ、リュカオンと融合できたか知ってる?』


「えっ……? 融合魔法が使えたからじゃないのか……?」


 何が言いたいんだ? あの時は、オレの憎しみに共鳴して封印が解けたんだろ? コイツ何か知ってるのか?

 レグルスはニヤニヤと顔を歪ませて笑っている。


『半分正解で半分不正解かな』


「どういうことだ?」


 ここで、リュカオンの僅かな焦りの気持ちがオレの中にも流れ込んでくる。


『カイト、聞くな。戯言(ざれごと)だ』



『君の母親がリュカオンに頼んだからだよ』



「何の……話だ? 母さんがリュカオンに頼んだ? 何を?」


『だから、自分の命を差し出してリュカオンに頼んだんだよ。あのスタンピードから君を守るためにね』


 何で? だってリュカオンはオレが封印を解いたって……あれはウソだったのか? それなら、オレが弱かったから……母さんはオレを助けるために?


「それじゃぁ、母さんは……オレのせいで死んだのか?」


 だとしたら、オレはいま何をやってる? 魔獣の殲滅なんてただの八つ当たりじゃないか? 憎むべきは弱い自分じゃないのか?


『それは違う。シャーロットはすでに助からなかった』


 ……そうか、母さんが頼んだのは事実なんだな。


「何で……リュカオンは黙ってた? 俺の憎しみに共鳴したって……あれはウソだったのか?」


『すまぬ。憎しみを感じ取ったのは事実だが……言わなかったのは、シャーロットの最後の言葉だったからだ』


 母さんがオレに黙ってろって言ったのか? 母さんが何でそんな事を……?

 母さんは嘘や隠し事が嫌いで、黙ってればいいことも話しちゃうようなタイプだったんだ。何か理由があったのか?


『ふふ、どっちにしても君のせいで母親は死んだんだよ』


 オレのせいで母さんは死んだ——その言葉に胸がえぐられる。オレは何のためにここにいるのか、わからなくなってしまった。だって、母さんが死んだのがオレのせいなら、憎むべきはオレ自身なんだ。


『違う! カイトのせいではない! ……むしろ我のせいだ。我の封印が解けないようにするために、代々カイトたち一族は魔力を捧げ続けてきたのだ』


 リュカオンは何でそんなに必死になってるんだ? ああ、そうか、オレが死んだらリュカオンも消えちゃうからな。オレが死なないように必死なのか。


『カイト、お前もだ。我の封印に魔力を取られたから、ほとんどなかったのだ』


「そんな……」


『それなら君とリュカオンのせいで母親は無様に死んだという事だね。まぁ、面白そうで観察してたら、僕の魔獣作成のヒントになったけど!』


 レグルスの言葉はもう耳に入ってこなかった。オレを支えていた根本が崩れ去って、身体が動かない。気づけば人型に戻っていた。


『事実も知った事だし、もうこの世に未練はないだろう? 僕が殺してあげるから安心しなよ』




 そう言ってレグルスは、オレを鋭い爪で引き裂いた————はずだった。

 だけどオレの目に映る光景は、苦痛に顔を歪めたウラノスと二つに切り裂かれた不死鳥の身体だった。


「ウラノス……! なん、で……!?」


「カイト……さん、レグルスを……倒して……ひとりじゃ……な……」


 ウラノスの身体から赤い炎が燃え上がり、やがてその身体は灰になっていく。オレのせいで……また、オレのせいで大切な人が消えてしまった。


氷華乱撃(アイシクル・ディート)!!」


 氷の矢がオレとレグルスの間に突き刺さり、リナが庇うようにオレの前に立っている。目線はレグルスにむけたまま、珍しく声を荒げる。


「カイト、何があったかわからないけど、しっかりして!」


「リナ……ごめん、オレは……」


「カイトじゃないとダメなんだから! 誰が何と言おうと、私はカイトがいないとダメなの! 諦めないで、みんなで帰るって約束したでしょ!!」


 そう叫ぶリナの声も震えていた。目の前でウラノスが灰になったのだ。平気なわけがない。でも、いまはレグルスと戦っているから、歯を食いしばって耐えているのだ。


 ————約束……した。帰ったら結婚式挙げるって。みんな、1人も欠けずに帰るって。でも、ウラノスが……灰になってしまった。……約束か……母さんとも、約束してたな。


 その時、忘れていた記憶が蘇る。オレがハンターになる前に、何度も何度も母さんとオレは約束していた。


『カイト、母さんに何があっても自分を責めないで。母さんが貴方を愛してること忘れないで。約束よ』


 きっと身体が弱かった自分が倒れたら、オレが気にすると思って言ってくれてたんだ。その言葉をきっかけに母さんの思い出がオレの中で浮かんでは消えていく。


 そうだよ、母さんは、母さんならきっと……こんなオレを見たらゲンコツ一発食らわせて、しっかりしなさいって怒ってるな。……さっきのリナみたいに。

 そしてウラノスも、ひとりじゃないって……最後に伝えてくれた。



「ごめん、リナ。目が覚めた」


 グイッとリナを引っ張って、オレは前に出る。

 そうだよ、オレは何のためにここにいるんだ? 何のために特務隊のヤツらは戦ってるんだ?


 大切なものを守りたいからだろ!!

 ウラノス、気づくのが遅くてごめん。絶対に仇は取るからな。


『あれ? 復活しちゃった? もっと深く傷つければよかったかなぁ?』


「リュカオン、アイツを倒す!」


『ああ、当然だ!』

                              

                    

     

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