表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/55

3、魔獣王リュカオンと融合しました




 これで、魔獣王リュカオンがオレの代わりに、魔獣たちを殺してくれる。19年の短い人生だったけど、最後に望みを託せるだけ、よかった————

    

     

『おい』

     


 ん? 魔獣王リュカオンか? なんだよ、オレはもうすぐ死ぬってのに、そっとしておいてくれないのか……?

     

『おい! 聞こえてないのか!?』


「なんだよ! ほら、もうオレの身体は好きにしていいから、あとは頼むよ!」


『好きにできないから、話しかけているのだ! よく見てみろ!』


 ……は? 何で? 何で好きにできないんだよ!? 確かに融合はしてる……よな? 見た目も、多分変わってない。

 ……え? 変わってない。え? オレのまんま?


「どういう……こと?」


『それは我が聞きたい。お前、何をした?』


「何って、融合魔法を使って……オレの中に、魔獣王リュカオンを持ってくるイメージで……」


『それだっ!!』


「えっ!?」


 いつもの訓練通りに融合魔法を使ったんだけど、何がダメだったんだ!? 成功した感覚はあったのに。


『お前の中に、我を取り込むイメージをしたのだろう?』


「う、うん」


『それでは融合した際の主導権が、お前になるではないか!!』


「ええ!? そうなの!?!?」



『そんなことも分からずに、融合魔法を使ったのか! バカモノがっ!!』



 うっ、魔獣王から本気で怒られた。けど、姿がないから、ぶっちゃけあんまり怖くない。


 そもそも、誰も魔法の使い方教えてくれなかったから、独学なんです。本当にスミマセン。そして、融合魔法でひとつになったのって、複雑に絡み合って元に戻せないんだよな。


「え……どうしよう」


『はぁぁぁ、人間の話に乗った我が愚かであった……』


「ごめん、これじゃぁ、魔獣王リュカオンも一緒に死んじゃうよな……」


 あの怪我だと、あと何分持つのかな……。


『何を言っている。あの程度の怪我など、我の回復力によって一瞬で治っておる。もう痛みなどないであろう?』


 そういえば、母さんを抱きしめている腕もしっかりと力が入ってるし、背中も痛くない。視界もハッキリしてる。


「本当だ……回復してる。じゃぁ……オレ、死なないのか?」


『お前に死なれたら、今度こそ我も消滅してしまうではないか。意地でも生き残ってもらうぞ』



 いや、なんていうか……すっかり色々な覚悟を決めてたから、ちょっと心情的に追いつかない。えーと、確認だけど、オレは生きてる。これからも生き続ける。ハンターも続けられる。

 つまり、自分で魔獣たちを一匹残らず駆逐できる……!!


 それなら、まずは————



「わかった。魔獣王リュカオン、魔獣たちを駆逐しよう」


『……リュカオンでいい。今は魔獣王ではないしな。それで、お前の名は?』


「……カイト」


『では、行くぞ。カイト』


「おう!」


 母さん、少しだけ待ってて。魔獣たちを駆逐したら、ちゃんと埋葬するから。母さんの好きなユリの花を、たくさんあげるから。




     ***




 街中のいたる所から、悲鳴が聞こえてくる。

 この街にいるハンターたちも、随分やられてしまったようだ。住民を守るための人手が足りない。


「リュカオン、魔獣たちの動きを止めることはできる?」


『ふむ、そうだな。それなら黒狼の姿に変身すればよい』


「そんな事できるのか!」


『難しいことではない。カイトは我であり、我はカイトなのだ。そう願うだけで、我の力が使えるはずだ』


 願うだけで……黒狼の姿になれ!


 願った途端に、視線の高さが変わっていく。腕や足の配置と感覚も、いつもと違うものになる。

 だけど、使い方は理解できていた。どうすれば、興奮状態の魔獣たちを止められるのかも。


 黒狼になったオレは街で一番高い、時計塔を駆けあがった。その屋根に飛び乗って、威嚇の声をあげる。



「アオ————————ン!」



 その声は街中にひびきわたる。千年振りの魔獣王の声に、暴れていた格下の魔獣たちはピタリと動きを止めた。

 カイトはもう一度、威嚇の声をあげる。



「アオ————————ン!」



 リュカオンもその声に、想いを乗せる。


(誰の声だかわかるか? お前らの王の声を忘れたのか? 魔獣たちよ、我の声に従え!! 我と決着をつけるのだ!!)


 その声が届いたのか、魔獣たちは一斉にカイトたちに向かってきた。

 まずは、街の被害がこれ以上ひどくならないように、離れた場所まで魔獣たちを誘導する。





 街から充分距離をとって、5キロメートル先の平原でカイトは魔獣たちを待ち構えていた。今は人間の姿に戻っている。


『カイト、我の青い稲妻を使え。やり方はわかるな?』


「もちろん。それに、鼻も()くから匂いもよくわかる。もうすぐ魔獣たちがやって来る」


『融合して、我の能力も受け継がれているからな』


 オレは融合したことによって、リュカオンの魔力や能力も使えるようになっていた。

 とても不思議な感覚だ。ちょっと前まで、魔力はほとんどなく融合魔法しか使えなかったのに、今では体の中に魔力が巡っている。


 さすが魔獣王だけあって、魔力量が半端ない。これなら、今後もハンターとして活躍できそうだ。ミリオンの役にも立てる! この時はそう思っていた。


 ものの10分ほどで魔獣たちがオレのもとへ集結した。360度、魔獣に囲まれている。普通なら絶体絶命のピンチだ。


 でも、今のオレには余裕さえあった。



青い(ライトニング)衝撃(・ショック)



 オレを中心に、青い稲妻が走る。前方にいる魔獣から次々と倒れていった。

 最初の一撃で半分近くの魔獣たちが姿を消した。その威力に驚いて我にかえった魔獣たちもいて、元々生息していた森へと逃げていった。


 リュカオンの力……半端ない!! これは、使い方を間違えたら大惨事だ!


 多分、オレが一番ビビってたのは間違いない。使い方は分かっても、どれほど効果があるのかまでは考えていなかった。


『なんだ、驚いたのか?』


「いや、だってオレついさっきまで、ほぼ魔力なしのFランクだったし。正直、この力を怖いとすら思うよ」


 わずかに手が震えている。こんな大きな力を手にして、オレは正気でいられるのか? この力に狂ったりしないだろうか?


『そうか……だが、後悔しても遅いぞ。もう、元には戻れないのだ』


「うん、わかってる。魔獣を倒すことに、集中するよ」


 もし、オレが狂ってしまったら、どうか誰かが殺してくれますように。そして、そうなる前に魔獣を一匹残らず、駆逐できますように。


 手の震えは残っているけど、ムリヤリ意識を魔獣たちへ持っていく。まだスタンピードの興奮が冷めない、危険な魔獣たちを倒さなければ。



『さぁ、カイト、一匹残らず魔獣どもを狩り尽くすぞ』

                    

         

 リュカオンの力強い言葉に、オレはうなずいた。

                        

                

                         

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ