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19、リナの元パーティーメンバーが街から追放されました




 オレたちはグレートホーンと一角獣の討伐報告で、ギルドへと戻ってきていた。夕方のこの時間は、いつも混み合っている。


 そこへリナの元パーティーメンバーのハンセンたちがニヤニヤしながらやって来た。


「なんだよリナ、Sランクになったのか!?」


「だから何ですか?」


 リナは素っ気なく答える。そりゃそうだ、あんな風にパーティーから追い出されたんだ。しかも魔獣がウヨウヨいる森の中で。


「それなら、俺たちのパーティーに戻ってきてもいいぞ?」


 何言ってんだ、コイツは?


「……お断りします」


 リナも『何言ってんだコイツ?』って顔してる。


「はぁ? 何言ってんだよ、そんな底辺ハンターのパーティーに入ったっていいことないだろ? いいから戻ってこいよ」


 いや、底辺ハンターは事実だけど、何言ってんだよってオレたちのセリフだ。あ、ヤバい、リナがブチ切れてる。魔力があふれ出しそうになってるな。



「あなたたちのパーティーには絶対に戻りません!! ていうか、カイト以外とはパーティー組みません!!」



 うわ、オレ以外とは組まないって……こんな状況で申し訳ないが、思わず嬉しいって思ってしまった。でも、そろそろ静かにしないと、他のハンターたちの注目の的になってしまうな。……もう手遅れだろうか?


「お前っ! 生意気な女だな!! 俺が戻って来いっていってんだから、戻ればいいんだよ!!」



 ハンセンがリナの腕をつかもうと手を伸ばす。それを見てオレはハンセンの腕をつかんだ。勝手に手が出てた。

 コイツ、何でリナに触ろうとしてんだ?



「てめぇ! 離せ!!」


「オレのパーティーメンバーに何をする気だ?」


 妙に冷静になっている。波ひとつない湖面のように、気持ちは落ち着いていた。


「生意気だから、ちょっとわからせるだけだよ!」


【だから何をする気だ? 言え】



 無意識に王者の素質を発動していた。この能力を使うと、相手は命令に逆らえなくなる。あまり気分のいいものではないから、いざという時にしか使っていない。あぁ、人間相手に使ったのは初めてかもな。



「いや、その、生意気なこと……言えないように……部屋に連れていって……俺の女に、しようと……」



 ハンセンは話しながら、どんどん青ざめていく。

 カイトの瞳が金色に光り、息もできないような威圧感に押し潰されそうになった。王者の覇気の影響を受けて、ここにいる誰もがその場から動くことすらできない。




「リナに手を出したら、お前を殺す」




 その一言でハンセンは失禁した。本当に殺される、そう思ったのだ。脅しでも何でもない、今にも喉元を喰いちぎられそうな殺気に、立っているのがやっとだ。

 王者の覇気をまともに受けているハンセンは、すでに気絶寸前だった。


(こんなに怒るカイトはじめて見た……でも、このままじゃ、カイトも処分を受けちゃうかもしれない! 止めなきゃ!)


 この場でまともに動けるのは、カイトが王者の覇気をむけていないリナだけだった。


「カイト! 大丈夫だよ。私だってSランクなんだから、こんなヤツに負けないよ! だから落ち着いて、ね?」


 リナの手が、そっとハンセンを掴んでる腕に乗せられる。

 あの夜みたいに、優しくそっと触れてくる手は温かかった。その温かさにカイトの怒りも徐々に落ち着いていく。


「……わかった」


「でも、怒ってくれてありがとう。嬉しかったよ」


 ニッコリと微笑うリナに、本人以上にブチ切れてしまった自分が、急に恥ずかしくなる。


「いや、いいんだ」


 そうだ、落ち着け、オレ。リナだってSランクハンターなんだから、ハンセン程度のハンターにやられないんだ。

 でも、あの『俺の女にする』ってあたりから、何かがぶっ飛んだな。これからは気をつけよう。ホント、気をつけよう。



 そこで、同じく討伐の報告に来ていた、Sランクハンターのセシルがハッと我にかえって仲裁にはいる。


「ハンセン、今の一部始終を見てたよ。女の私としては許せないこといってたね。ちょっとギルド長と話そうか。文句はないよね?」


 有無をいわせず、セシルさんが水魔法と風魔法で失禁したハンセンをキレイにしていく。さすがSランクハンター、見事だ。


「カイトとリナは報告が終わったら、ギルド長のところに来てくれる?」


「わかりました、あとで伺います」


 カイトの雰囲気がいつもの状態に戻ったことで、他のハンターたちも報告を再開する。この事件のあと、カイトたちの実力を疑う声はぴたりと止んだのだった。




     ***




 報告を終えたあと、ギルド長の部屋へむかうとハンセンを含めたパーティーメンバーたちが、何故か正座で並んでいた。

 オレとリナは話のすり合わせのために、呼ばれたようだ。



「討伐お疲れ様だったね。悪いけど、少し話を聞かせてもらえるかな」


 ギルド長はそういうと、オレたちをソファーへ座るようにうながした。目の前には、いれたての紅茶も出されている。


「それで、まずはリナをパーティーから外した時のことを聞かせてほしい。魔法を暴発させたリナが、そのまま森の奥へ走って行って追いかけられなかったと、ハンセンは話しているんだけど事実かな?」


「え……違います。暴発したのは本当ですけど、森の中でパーティーから外されて、そのまま置いていかれました」


「ギルド長、オレもその辺は聞いてました。それで、魔物がウヨウヨいる森だから、出口まで送っていこうと声をかけたんです」


「ふむ……なるほど」


「でも……それは、仕方ないと思ってます。迷惑をかけていたのは、事実ですから」


 諦めたような顔で、リナは何でもないように話していた。そんなリナを見てると、胸がチクチクと痛む。


「では、先程の受付前の騒ぎはどういう経緯だったか聞かせてほしい」


「あれは、ハンセンさんのパーティーに戻って来いっていわれて、断ったら腕を掴まれそうになったんです。それをカイトが止めてくれただけです」


 ギルド長がセシルさんに視線をむけて、「事実か?」と確認をとる。


「間違いありません。付け加えるなら、自分の思い通りにするために、リナを無理矢理襲うつもりだったと、自白してました」


 この言葉にハンセンはビクッと肩を震わせた。そして、彫刻のように動かない。


「ほぅ……それでカイトのあの殺気か。それは、わからなくもない」


「すみません……やり過ぎました」


 オレは素直に頭を下げた。周りの人たちひとたちを巻き込んで、加減するのを忘れてしまったんだ。 


「よし、わかった。それでは、処分をいいわたす」


 ギルド長はいつもの穏やかな表情ではなく、為政者としての顔で毅然と告げた。



「ハンセンパーティーはメンバー全員、プロキオンより追放とする。今後この街に立ち入ることは、僕が許さない。カイトは、場所をわきまえず力を使い過ぎたため、3日間の謹慎とする」



「わかりました」


 オレは当然だと、処分を受け入れた。リュカオンの力は、そんな風に使っちゃいけないんだ。自分の感情が抑えられないのは、自分の問題だ。


「そ、そんな……!」

「私の家族はプロキオンにいるのに、追放なんて!!」

「なんでですか!? ハンセンはわかるけど、なんで私たちまで!!」




「何故……? 一度は信頼して仲間にしたハンターを、魔物が多数潜んでいる森に、置き去りにしてくるようなヤツらを、僕がハンターだと認めると思っているのか?」




「「「…………」」」


 静かだが、反論を許さない強い口調に誰もいい返せなかった。他の3人も俯いて、ジッとしていた。

 さらにギルド長の言葉がつづく。




「いいか、家族を、街を、国を、大切なものを守りたいから、ハンターになるんだ! ランクや能力なんて関係ない、何かのために、誰かのために自らの体を張るから、ハンターは尊敬され愛されるんだ! それができないなら、ハンターと名乗るな!!」




 ギルド長の熱い想いが、言葉とともに心に染み込んでくる。オレはこの街で、このギルド長の街でハンターになれてよかったと思ったんだ。

  

                       

                         

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