15、ミリオンパーティーの行く末は④
ミリオンたちは新しく受けた魔獣討伐のために、プロキオンの街よりほど近い、カラカンの森まで来ていた。
「っはぁ! はぁ、はぁ、もう……追ってきてないな?」
「はぁ、はぁ、もう大丈夫みたいよ……はぁ」
ミリオンとティーンは後ろを振り返り、なんの気配もないことを確認した。
今回は、無駄な体力を使わないように、逃げられる魔獣は戦わないようにして進んできたのだ。
そろそろ討伐対象の、Aランクでも弱めの魔獣グレートホーンがいるはずだ。
「チッ……体力が……おい、誰か回復薬くれよ」
「はぁー、ほら、これでも飲んどけ」
一番体の大きいサウザンが、体力の消耗がはげしい。トレットが出発前に買った回復薬をわたした。
サウザンはいきおいよく飲み干してゆく。空き瓶をポイっと投げ捨て、長いため息を吐いた。
「チッ、この前から思ってたけど、最近の回復薬は効き目が悪くないか?」
「サウザンもそう思ってたか? 実は俺もなんだ。前のヤツは、半日くらい回復効果があったのになぁ……」
ミリオンも不思議に思っていた。最近は一度飲んで、すぐにまた飲まないと、体力が回復しないのだ。
「おかしいわね。いつも通り道具屋で買ってるのにね」
「まぁ、多めに持って来るしかないだろ。これしか売ってないんだから」
トレットがどうでもよさそうに答える。無い物ねだりしても仕方ない。
カイトが用意していた、リジェネ効果のある回復薬の存在に、ミリオンたちが気づくのは、もう少し先のことになる。
「おい、いたぞ! グレートホーンだ!」
ミリオンが討伐対象の魔獣に気がついた。グレートホーンは大きな渦巻き状の角をもつ鹿の魔獣だ。俊敏性がたかく、角による攻撃は一撃でハンターを葬る。
「いつもの連携で行くぞ。ティーン!」
「ファイアストーム!!」
前回は威力が弱かったかもしれないと、ティーンは自身が使える最大魔法を放つ。
続いてトレットが魔力を込めて両手剣を振り下ろす。
「おらぁ!!」
「チッ! くたばれ!!」
間髪入れずにサウザンも槍に魔力をまとわせて、攻撃を叩き込んだ。最後にミリオンが魔法剣でとどめを刺す。
「これでとどめだ!!」
だが、グレートホーンは倒れなかった。
攻撃は効いているが、決定打には欠けるようだった。フラついているグレートホーンが、体勢をたてなおす。
目の前のミリオンに狙いを定めたグレートホーンは、頭から突っ込んできた。
「クソッ! まただ! なぜこれで倒れないんだ!?」
ギリギリで攻撃を避けたミリオンは、魔法剣で応戦する。
ジリジリとグレートホーンの体力を削っているが、倒すまでは至らない。
当然、ミリオンたちの体力も限界を迎える。
「トレット! 回復薬は!?」
「さっきミリオンに渡したので最後だよ! お前らは持ってねぇのか!?」
「チッ! もう、体力が……はぁ、はぁ、持たない」
「ウソ!? これじゃぁ、下手したら全滅しちゃうわ!」
2時間に及ぶ戦いで、回復薬が切れた。メンバーを見れば、みんな満身創痍だ。
ミリオンはギリギリと奥歯を食いしばる。
「クソッ!! 撤退だ!!!!」
またしても、ミリオンパーティーの討伐は失敗に終わった。
***
「え? 魔獣のランク修正ですか?」
「そうだ! 前回に引き続き、今回もおかしかったぞ!! お前ら何やってるんだよ!?」
ミリオンは青筋をたてながら、ギルドの受付担当者に抗議していた。
プロキオンの街に戻ってきたのは、月が空高くのぼってからだ。すっかり夜も更けて、夜勤の担当者になっている。
今日の受付はSランクハンターのディーノだ。問題を起こせば、ディーノの氷魔法で即冷凍される。
(グレートホーンのランクがおかしい……? 突然変異の個体だろうか?)
ミリオンのハンターカードはシルバーだ。Aランクのハンターなら余裕で討伐できる魔獣だった。
「この前も魔獣のランクがおかしかったんだ! いい加減にしてくれ!!」
「この前も……?」
「そうだよ! この前のパラリシスベアーも、あれは絶対にAランクじゃなかったから、修正してもらったんだ!!」
「ふむ……承知しました。調査しましょう」
「こっちは命懸けなんだからな! 頼むぞ!!」
穏やかな微笑みを浮かべて、ディーノはミリオンに尋ねる。
「一つ確認ですが、カイト・シーモアは元パーティーメンバーですか?」
「っ! だ、だったら何だよ!?」
「いえ、ただの確認です。では、然るべき者に調査依頼しておきましょう」
そういってドカドカとうるさい足音を立てて、ミリオンはギルドを後にした。
(まったく煩い小物ですね。まぁ、でも納得です。アレではカイトの真価に気がつかないでしょう。調査は彼に頼めば、この後面白くなりそうですね……ククク)
ディーノは凍りつくような冷たい眼差しで、ミリオンをみていたが、当の本人はまったく気付く様子がなかった。
***
倉庫ではトレットとサウザン、ティーンが集まっていた。大きなテーブルの上には、前回の半分弱の薬草や素材が乗っている。
「私は薬草摘みながら進んだから、今回の後処理はミリオンでいいと思うの」
「そうだな、討伐は日帰りだったけど、俺は回復薬とか準備したし」
「チッ、俺が素材を回収したからな。あとはアイツでいいだろう」
満場一致で、今回の後片付けはミリオンに決まった。あとは、本人が来たら撤退するだけだ。
「おぉ、みんな集まってたのか。今回は誰がやる?」
ミリオンが呑気に声をかける。まるで自分は関係ないという言い草に、パーティーメンバーたちはイラついてくる。
「私はこれだけの薬草採取したから、帰るわね」
「俺も回復薬補充するから、お先に〜」
「チッ、素材はここにあるだけだ。俺が全て回収したから帰るぞ」
そういって、3人とも止まる間もなく、倉庫から出て行ってしまった。慌てて遠ざかっていく3人に怒鳴りちらす。
「おい! お前ら!! 誰がこれ片付けるんだよ!?」
「「「お前がやれよ!!!!」」」
速攻で返ってきた返事に、ミリオンは言葉につまった。何も言い返せないうちに、3人は姿すら見えなくなってしまった。
何でパーティーリーダーの俺が、そんな事やらないといけないんだよ!? ふざけんな!!
……でもこのまま置いて帰ったら、今回の収穫はゼロだ……クソッ! やるしかないのかよ!?
渋々だが、ミリオンは後片付けを始める。
薬草の知識もほとんどなく、素材の処理の仕方もよくわからない。今まではカイトがずっとやっていたのだ。
ここに来て、自分が下っ端の仕事さえできないことに、ようやく気づいた。だが、ミリオンのプライドが教えてもらうという選択を許さない。
クソッ! クソッ! こんなもん、面倒だからこのまま売ってやる!!
ミリオンは、まとめて袋に突っ込み、道具屋や素材屋に二束三文で売り払ってきた。
その二束三文の金で安酒を買って、ティーンの待つ家に帰る。
ティーンはもう眠っているのか、部屋は暗い。ムシャクシャしたミリオンは瓶のまま酒を飲み干し、そのままソファーで眠りについたのだった。