14、街から脱出するはずが、ルームメイトができました
リナの面談が、滞りなく進められている。だが、ヒトコトいいたい。
なぜ、こんなにも空気が違うんだ!? オレの時のあの殺伐とした、胃がキリキリするような、刺すような空気はどこに行った!?
……ぜんぜん、ヒトコトじゃ足りなかったな。まぁ、リュカオンの話してたから仕方ないけど……納得いかない。
「それではリナさん、これからもこの街でハンターとしての活躍を期待しているよ」
「はいっ! この街のために頑張ります!」
弾けるような笑顔でリナが宣言する。
いま、『この街のため』って言ってなかったか? 待てよ、この街ってプロキオンだよな?
え、何、リナはこの街で頑張りたいのか?
ギルド長も、ものすごくニコニコしてる。そりゃそうか、SSSランクで0.1パーセント、Sランクで3パーセントの出現率だ。今までギルド長や、10人くらいしかいないSランクハンターにかかっていた負担を、分担できるもんな。
クッ、「いや、オレはこの街を出て行きます」なんて、ギルド長とリナの笑顔を見たら、いえないっ!!
だって、オレは誰かの笑顔を奪うようなこと、いいたくない。
ギルド長のエルナトは、カイトが危険人物でないと周知するための準備を進めていた。熟考に熟考をかさねた結果、リュカオンのことも公にしてしまう方向にしたのだ。
最終的にはそれが一番カイトのためになると判断した。
様々なシナリオを考えていると、国王から毎年恒例のハンター派遣の依頼が来ていたので、これを使うことに決めた。
国王も参加する討伐だから、認めてもらうのには丁度いい。
そのためには、まだしばらくこの街にいてもらう必要がある。
(カイト……もう少しだけ、僕の力の及ぶこの街に残るんだ。もう少しだけ、君に必要な地盤固めがすむまではーーーー)
この日、無事カイトパーティーが成立した。このあとカイトの快進撃はいきおいを増して進むことになる。
***
「え、リナってずっと宿屋にいたんだ!」
「うん、こんな体質だから、いつ街を出て行くかわからなかったし……でも、この街に住むなら、部屋を借りようかと思って」
ギルドの受付で、報酬やリナの新しいゴールドのハンターカードを受け取って、ふたりは倉庫に来ていた。
ベヒーモス討伐のさいに採取した薬草や、素材を仕分けしている。
「そっか。それなら、部屋が見つかるまでウチに来る?」
「カイトの家?」
「うん、オレひとりだし、2階はいま使ってないから、リナ専用にして構わないよ」
カイトは薬草の仕分け、リナは水魔法で素材の洗浄をしている。
「……それはありがたいけど、家賃はどうしたらいい?」
「家賃の代わりに、定期的に2階の掃除をしてほしい。正直、使ってないのに掃除するの、大変だったんだ」
「でも、本当に迷惑じゃないの?」
「迷惑じゃないよ。あ、そうか、魔道具で結界とか張ろうか? 女の子だし、不安だよな」
オレとしては、単純に宿代がもったいないと思っただけだけど、リナからしたら怪しい誘いに聞こえるよなぁ。
まぁ、宿屋の方がいいっていうなら、それでもいいんだけど。
「ううん、不安はないし、結界なんていらないよ。じゃぁ、お言葉に甘えて、部屋が決まるまでよろしくお願いします」
リナはそう言ってニッコリと笑った。
花が咲くような笑顔に、これは……もう少し危機感を持った方がいいんじゃないかと、思ってしまった。
「ねぇ、ところでさ、この素材すごく処理しやすいんだけど! なんで? 何が違うの?」
話しながらも手を動かしていたリナが、まじまじと素材を見ながら尋ねてくる。手にしているのは、ジャイアントラビットの皮だ。一般市民向けに幅広い用途があるので、ある程度の価格になる。
「あー、それな。最初に回収する時点で、血抜きしてからやるといいんだよ。あとは慣れかな」
オレは水魔法が使えなかったから、いかにキレイに回収して後処理をラクにするか、いつも考えていた。処理時間が短ければ、その分たくさん練習できたからな。
「融合」
処理し終えた素材を、融合魔法で大きな一枚の毛皮にする。こうすることで買取価格が高くなるんだ。
「こ、これは……! カイト、素材屋としても食べていけるね」
「うん、昔はそれやろうと思ってた」
「あはは、じゃぁ、街に行こうか。素材を売ったら晩ごはん買って帰ろう!」
「そうだな、行くか」
そうだ、これからは誰もいない家に帰るのではない。一緒に帰ってくれる、仲間がいるんだ。
軽くなる心にカイトは笑顔を浮かべた。
***
「ここが家だよ。遠慮せずに入って」
オレは扉を開けて、リナを先に中に入るようにうながす。
「お邪魔しまーす! わぁ、ステキなお部屋だね!」
「1階はリビングとキッチン、あと風呂やトイレ、右の奥がオレの部屋だ。2階は3部屋あるけど、どこも使っていないから好きにしていいよ」
「さっそく2階見てきていい? 荷物も置いてきたい」
ウズウズしながら聞いてくるリナを、微笑ましく思う。
「荷物は持っていってやるから、部屋決めてきていいよ」
「カイト、ありがとう!」
リナはリビングの奥にある階段から、2階へと駆け上がって行った。3ヶ月も滞在しているのに、宿屋から持ってきたのは、大きめのリュックひとつだけだ。
街を転々としてきたっていってたから、荷物はいつも最小限なんだろう。
何度も追放されてきたと、倉庫でリナから聞いた。それでもリナはオレのことを、全面的に信頼してくれてるみたいだ。
それならオレは、リナの信頼に全力で応えたいと思う。
「カイト! 部屋決めたよ!」
「そうか、いま行くよ」
嬉しそうにはしゃぐリナと、ルームメイトとしての生活がこうして始まった。