10、成功報告したら黒いハンターカードになりました
ギルドの練習場へ入ると、そこにはギルド長と他にもふたりのハンターが待っていた。
どちらも一流のSランクハンターで、氷魔法の巨匠ディーノと瞬殺の狩人と呼ばれるセシルだ。
「カイト、討伐ご苦労だった。待たせて悪かったね。まさかこんなに早く戻るとは、思っていなくてね」
ギルド長はにこやかに微笑んで、何やら戦闘の準備をしている。なんでギルド長は、炎剣を腰に差しているんだろう?
ちょっと、この空気……イヤな予感がする。
「あの、討伐終わって証明部位も提出したんですけど……」
「うん、それは問題なかったよ。ハンターカードを用意したんだけど、渡す前に最後のテストをしたくてね」
「……テストですか?」
なんだろう、新しいハンターカードもらうのって、こんなに大変なのか?
「疲れてるようなら、回復魔法かけてから始めたいんだけど、どうする?」
「あ、大丈夫です。食事したら復活しました」
「ハハ、そうか。では僕とディーノ、セシル、ムルジムで一斉に攻撃を仕掛けるから、10分間、凌いでほしい」
「あー、それで俺も呼ばれたのか……」
「え、4人からの攻撃を……10分間……?」
「そう、それができたら、新しいハンターカードを渡そう」
なんっつー最終テストだ!? もうさ、間違いなくギルド長は鬼だよな!? 10分……10分だな!? 1秒も延長なしな!
「わかりました、お願いします」
内心の動揺はなるべく隠して、平気そうに返事をする。
付き合いの長いムルジムさんはプルプルしてるから、たぶん俺の心のうちはバレバレなんだろう。
クソッ、ムルジムさん笑いすぎだよ!!
ちょっと本気出さないとヤバいだろうから、リュカオンよろしくな!
『ふむ、これは先程の魔獣より楽しそうだな……ククク』
よし、リュカオンもやる気になったみたいだし、本気でいかせて頂きます!
「僕はハンデとして魔法は使わないから、剣のみでいくよ。では、始めよう」
まずは、素早さのある弓を使うセシルさんと、短剣使いのムルジムさんから仕掛けてくる。どちらも風魔法を武器に付与して、攻撃してくるタイプだ。
後ろからはディーノさんが、杖に魔力を込めて魔法の詠唱を始めている。
「神速の矢」
「一陣の刃」
「氷塊の槍」
同時に放たれる3人からの攻撃に、まずは氷魔法が当たる寸前で、ヒラリと身をひるがえす。
ディーノさんの魔法にムルジムさんの放った短剣をぶつけて相殺させた。
追跡魔法のかかっている矢が、オレを追いかけてくる。次の攻撃をさせないために、ディーノさんとムルジムさんの足元に青い稲妻を落とす。
「青の破雷」
よし、上手く牽制できたみたいだ。あとは、このしつこい矢をどこにぶつけるか————
ディーノさんとムルジムさんが攻撃のモーションに入るたびに、青い稲妻で邪魔をしながら、ギルド長にむかっていく。
ここでディーノさんに、強めの攻撃を一発入れておく。
「青い一撃」
狙い通り、氷魔法で壁を作って防いでくれた。これで少し時間稼ぎができる。
そして剣を構えるギルド長の目の前で、大きくジャンプして宙返りをする。ギルド長は、目の前にあらわれたセシルさんの矢を、剣でなぎはらった。
そこでムルジムさんの足音を拾った。オレの背後にまわり込むつもりらしい。
「青の破雷」
次の攻撃のモーションに入っているセシルさんと、ムルジムさんの移動先に、青い稲妻を落として止める。
「青い一撃」
ディーノさんの詠唱が聞こえてきて、瞬時に強めの稲妻を放った。ディーノさんは、慌てて氷の壁でふせぐ。
そこで、ギルド長が目の前に踏みこんできた。
ギルド長はSSSランクのハンターだ。それなら、攻撃しても問題ない————瞬時にそう判断して、攻撃を仕掛けた。
「青い雷龍」
青い雷の龍が右手から放たれて、ギルド長に襲いかかる。
ギルド長は一瞬、目を見開いたあと「チッ」と舌打ちして炎剣に炎をまとわせて、雷龍を真っ二つにした。
あの炎剣の攻撃、エゲツない! あれ受けたらダメージヤバいな!! オレの雷龍がキレイに2枚におろされた!!
「そこまで!!」
そこでハンナさんの声が、練習場にひびきわたる。
その声にオレは膝に手をのせて、はぁぁぁ——っと長いため息をついた。
お、終わった————!!!!
なんとか、なんとか凌ぎきった——!!
「さすがだな! やっぱりカイトはすごいよ」
ムルジムさんが一番に駆け寄ってくれた。さっきまでとはまるで違う雰囲気に、プロ意識の高さを感じる。
「そうだな、あんなに周りを牽制しつつ、攻撃避けるなんて俺にはちょっとムリだ」
ギルド長も盛大に褒めてくれる。褒められ慣れてないから、ちょっと居心地が悪い。
「この私が、まさか一発しか矢が打てないなんて、思わなかったわ」
「私もだ。結局は防御をせざるを得なくて、攻撃は最初の氷魔法一発だけだとは……」
セシルさんとディーノさんも、ものすごく褒めてくれる。いい加減ソワソワしてくるんだけど、みんな大袈裟にいいすぎだろ?
「いや、そんな……皆さんならもっと余裕でしょ?」
「「「「んな訳あるか!!」」」」
一斉にツッコまれた。
「え、そうなの?」
「そうだよ、君は確かに能力が高くなったけど、それだけではないんだ。それに気づいて欲しくて、今回はこんな事をしたんだよ」
ギルド長は優しい微笑みを浮かべて、オレに説明してくれる。最後の舌打ちは聞き間違いだろうな、きっと。
「そうなんですか……」
「自分の能力を正しく把握して、もっとハンターとして活躍して欲しいんだ」
「ほんとほんと、こんな逸材が眠ってるのもったいないわ!」
「しかし今までFランクでしたから、ハンターカードだけだと信じないハンターもいそうですね」
「それなら、ベヒーモスの討伐してきたら、目立っていいんじゃないか?」
え、ちょっと待って。なに余計なこと言ってんですか、ムルジムさん!!
「それでは、戻ってきたらすぐに話が広まるよう、私が手配しましょう。フフフ……」
いやいや、ディーノさんまで!! オレ、報酬もらったらこの街出るつもりなんだけど! ちょっと勝手に話を進めないでください!
……って言えれば苦労しない。マズい、この8年で言いたいことを我慢するクセがついている。
いや、そもそもこのメンツで、意見できるヤツなんているのか?
「なるほど誰に依頼するか悩んでいたが、カイトなら適任だし、ちょうどいいな。頼めるかな?」
「は……はい……」
オレは空気を読んだ。その結果、心とはウラハラに頷くしかできなかった。
「よかった! 助かるよ! それでは、これが新しいハンターカードだ。SSSランクおめでとう!」
「ありがとう……ございます」
く、く、黒だ————!!!!
もしかしたらと思ってたけど、黒だった!! 逆レアから正しいレアに!!
よし、気分いいからベヒーモス討伐したら、この街から出て行こう! さて、それじゃぁ、今日はゆっくり休んで明日に備えよう!
そしてカイトは、ベヒーモスの討伐に向かい、そこでひとりのハンターと出会うことになる。
この出会いが、今後のカイトの運命を大きく変えるのだった。