1、「最弱ハンターはいらねぇ」と追放されました
この日、いつものようにギルドに集合したところで、パーティーメンバーに取り囲まれた。みんな、いつもは目も合わせないし、挨拶しても無視するのに一体何だろう?
とりあえず、無視されるのはわかってるけど、挨拶してみる。
「おはよう。みんな、どうした?」
すると、リーダーのミリオンが一歩前に出る。
「カイト、お前さぁ、もういらないわ」
ミリオンから突然の宣告を受けた。昨日までは、いつものように魔獣ハンターとして仕事をしていたのに、寝耳に水だった。
まるでガラクタを捨てるような言葉に、胸が詰まりながらも、なんとかきり返す。
「えっ、いらないって……?」
「ホントわかんねぇやつだな。もうパーティーには必要ないから、これからはひとりでやれって事だよ!」
続いて声を上げたのは、剣士のトレットだ。つまり、パーティーをクビになったということだ。
「…………ひとりで?」
この魔獣がはびこる世界で、ひとりでハンターをやれと言っている。普通は4、5人でパーティーを組んで、人々を襲う魔獣を倒すのに……それを、オレひとりで?
「ああ! そうだよ! お前みたいなFランクの最弱ハンターなんて足手まといだから、もういらねーよ!」
ハンターは、魔力量によってランク分けされていた。余程のことがなければ、ランクは変わらない。オレは最低のFランクのままだった。ほぼ魔力がないランクだ。
「そんなっ……でも、オレだっていろいろ……」
「え、いろいろ? 荷物持ちとか、野営の準備とか? それとも戦利品の仕分けとかのこと?」
「ガハハ! 戦闘には関係ない事ばっかじゃねぇか!」
小馬鹿にしたいい方で、魔法使いのティーンと槍使いのサウザンがけなしてくる。
「まさか、そんな誰でもできるような事で役に立ってると思ってたのか? 勘弁してくれよ……幼馴染だからってギルド長に頼まれて、今まで組んでやってただけだ!」
ミリオンが、嫌そうに顔をゆがめて吐きすてる。
そうなのか……ギルド長に頼まれて……。あの頃は、いや、今もだけど、オレとは誰も組んでくれなかったから————
「まぁ、Fランクのハンターのくせに、このパーティーに入れた事をせいぜい自慢したらいいんじゃない?」
ティーンがニヤニヤしながら、オレを見下す。いつもこんな風にバカされて、よく八つ当たりもされていた。
「そうだな、このSランクパーティーに8年も雑用で働けたんだから、感謝しろよ!」
トレットの言葉に、唇をかみしめる。8年、そうだ、8年もこのパーティーに尽くしてきたんだ。Fランクのオレと、組んでくれたと思ったから。
「それから、今回の報酬はお前の分はないからな。なんの役にも立ってないヤツに、渡すものはない」
いつもは報酬の3%は、分けてもらっていた。そこから薬草や傷薬も全員分の補充をしていたけど、オレひとりなら食べる分には困らなかった。それすらもないだって?
「っ! ミリオン! それだと、オレは……」
「まぁ、この萎びたパンなら分けてやるよ。これでも食っとけよ!」
「ギャハハハ!」
「やだ、ウケる!」
「ガハハ! ミリオンは優しいな!」
そういって、ミリオンはカピカピのパンをオレの顔に投げつけてきた。右手で受け止めると、パンとは思えないほど硬かった。
…………ずっと、8年も尽くしてきてこれか?
こんな扱いされるために、オレは我慢し続けたのか?
そもそも、5年前に最初に全てミリオンに打ち明けたはずだ。オレは、伝説の魔獣王、リュカオンと魔法で融合したと。
それをミリオンがハナから信じてくれなかったから、今まで通りサポートに回るしかないって割り切ってたんだ。
最終的に魔獣を倒せればよかったし、みんなが喜んでくれるならと思って、いろいろやってきたのに……!!
オレの一方通行だったんだ————
「……わかった。確認だけど」
「あぁ? お前に分けてやるものは、何もねぇぞ」
ミリオンがもう用はないといいたげな視線を、オレに向けた。
「いや、何もいらない。ただ、今までオレが作ってた回復薬は、他では手に入らないけどいいんだな?」
これは融合魔法しか使えないオレが、なんとかより効果が出ないかと6年前に作り上げたリジェネ効果のある回復薬だ。意外と便利なんだけど、レシピはオレしか知らない。
「はぁ? 回復薬なんて、薬屋で売ってるじゃない! 何いってんの? バカなの?」
そうか、いらないんだな。じゃぁ、レシピを伝える必要ないな。
「それからトレット。攻撃の時にもっと体重乗せないとダメージ与えられないぞ。次からは気をつけろよ」
トレットは攻撃のインパクトが弱いから、いつもオレもタイミングを合わせて魔獣王の力を使ってたんだ。
「何いってんだ? いつもちゃんと倒してんだろ!? バカなこといってんじゃねぇ!」
一応、忠告はしたからな。
「サウザンは初手が遅れがちだから、攻撃を受けないように……」
「チッ! お前に忠告されなくとも問題ない!」
そうか、一発目の攻撃をくらわないように、魔獣の足止めしてたけど、大丈夫なんだな。
「ミリオ————」
「もういいから! さっさと行けよ!」
そんなにオレと組むのが嫌だったのか……。
心の深いところに、ミリオンの言葉がグッサリと突き刺さる。でも、それと同時に湧き上がるってくる感情もあった。
アホくさ。
本当にアホくさ。
なんか、急激にどうでも良くなってきたわ。
オレは何に恩義を感じて、ここまで尽くしてたんだろう?
「わかった。それなら、もういいや。もう遠慮はしない」
「何強がりいってんのよ!」
「ヘッ!どうせハッタリだろ!!」
「魔力ないくせに、何ができるんだよ!」
「カイト! もうその辛気臭い顔を見せんなよ!」
「…………今まで、世話になった」
それだけ最後に告げて、オレはパーティーから去った。