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この国では、多様な世界からやってきた、さまざまな生態の生命体が共存しています。①

 この国の夕暮れは、ちょっと遅い。

 十九時くらいまで青空が見えて、一時間半ほどかけてゆっくり日が暮れていく。そのかわりに夜明けが遅く、七時くらいにようやく空が白みだす。そういう気候なので、青空と太陽があるうちから夕食を取るのが、ここで暮らすうえでの常識となって久しかった。


 色とりどりの布でできた屋根が、象も三頭並んで歩ける通りの両端に、雑然と並んでいる。

 鮮やかで濃いピンクや黄色、緑や青の日除け兼雨除けの天幕は、日本の夜店というより、テレビカメラの向こうにあった海外の屋台に似ていた。


「かんぱぁ~い! 」

 陽気な犬獣人のクルックスが屋台屋根の影で、覆面の下で歯をカチカチさせながら、陽気な声でストロー付きのコップを掲げて音頭を取った。

 笑いながら晴光も、ジュースの入ったグラスを上げる。


「何回カンパイするんだよ! 」

 どっと笑い声がおこる。

 折り畳みテーブルを囲む男たちは、体格も種族もバラバラな五人だった。


 クルックスは、晴光の腰ほどしか()()がない小柄な犬獣人。

「こういうお祝いの時ってなんかないの? 」と『乾杯』の文化をきいてから、もう七回も『乾杯』している。

 カーキ色をした特殊繊維の覆面とスーツで体を覆った彼は、明るい声色とわちゃわちゃした動きから受ける印象とは逆に、固形物を食べられないので、一人だけストローで流動食を啜っている。

 目元から見える毛色は、グレーと金を混ぜたみたいな色をしていて、毛足が長く光沢がある。瞳は鮮やかな宝石みたいな緑色で、全体的な印象は二足歩行する太りぎみのゴールデンレトリーバーだ。


「おい、あんまりくっつくな! 」

 太い声で言うのは、は青い身体をした巨漢である。

 名前はハック・ダック。職業は、ここにいる若者たちを導く教官せんせいであった。

 鋼じみたつんつんした髪に、流れる血が青いゆえの、青白い肌と青い瞳を緩ませて、琥珀色をした泡立つ酒を舐めている。


 彼は、分かりやすく言うならサイボーグだ。

 昔は普通の……つまり肌が青くない人間で、科学者をしていたらしい。

 爆発事故から目が覚めたら上司にまるごと改造されて……という、アメコミの導入みたいな過去がある。

 今の彼は筋骨粒々としていて、インテリ時代の面影はない。金属的な青い肌に直接ジャケットを羽織り、四角ばった顎には銀色の無精髭。

 ハリウッド映画で肉体派俳優が特殊メイクで化けたような、渋い男前だった。


 そんな『巻き込まれサイボーグ』には、浅黒い肌の踊り子がぴったりくっついている。

 ハック・ダック教官が身をよじって逃げ出そうとするたび、踊り子の体についた無数の金色の輪飾りが揺れる。

 その踊り子は、しかし身長は3m近く、研ぎ澄まされた身体に柔らかそうな膨らみは無い。ハック・ダックが『鋼の肉体』なら、この生物は、『針金でよったような肉体』をしている。

 長くて大きな白い布で股間まわりをささやかに覆いーーようするにそれはふんどしであるーー他に衣服とよべるのは、その長く地面でとぐろを巻く髪だけだった。


 名はデネヴ。

 長い髪の間から覗いた鷲鼻の下にある口は擬態した飾りなので、後頭部と首の境目からバリバリ食事を取っているが、知り合って三年目ともなれば日常である。

『仲良し』になりたい生き物に擬態する習性を持つ触手生物で、本性の姿は髪の毛の一本一本だった。

 思考する細胞はそれぞれに分散されていて、人間の脳細胞と同じように電気信号を送信受信することで、会話したりする優秀な学習能力を兼ね備えた思考を得ている。そうすることで、触手の端が一本残れば細胞分裂を繰り返し二年ほどで元通りになる超生物。

 ……というのが、ハック・ダックの解説だ。


 そんな無表情で無機質な彼が、いちばん『仲良く』なりたいのは、このずいぶん年上の、おじさんサイボーグ先生なのだった。


 最後に、いちばん幼く見えるのが、端に座る山吹色の民族衣装の少年である。

 晴光の基準から見れば、外見は一番普通。

 顔立ちもしかりで、美形でもなく、不細工でもない。百人の人間が『知り合いに似ている』などと言うだろう。名前もごくシンプルで、ニルという。

 ただ、瞳がぴかぴかに黄色く、どう見ても中学生以下に見えて二十二歳。これは彼の人種的にも立派な成人男性とされた。

 にこにこしながらも、さりげなく飲み物や料理の補充を注文している。そういうたちの少年だ。


 この国では、自分で料理をするよりもこうした屋台で食事を済ませる文化がある。それと同時に、宴会や飲み屋もこの屋台が兼ねている。

 嗅ぎ慣れないスパイスや、名前の知らない調味料の香り。

 何年経っても、ふと、まだ慣れていない自分に気が付く。 

 自然と故郷の味を探す癖がついた。

 幸運だったのは、米と味噌と醤油の料理があったこと。

 教えてくれたのは、この黄色い服を着た少年だった。

 彼と、先駆者たちが残した文化の名残りに、晴光は泣くほど感謝したものだ。


タイトル迷走中。

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