職員間の傷害事件は、自治安全を取り締まる第一部隊が迅速に対応しています。②
「おーい! 」
エリカが通りに出ると、人の波を縫ってニルが両手を振りながら駆け寄ってきた。
民族衣装と同じ山吹色の瞳が、破れた左袖をすぐに見つけて怪我がないか検分する。
「……家で待ってるんじゃあなかったの? 」
「一人でおめおめと帰れるもんか。他には? 怪我はない? 」
「無いわ。ありがと。……あら」
ニルの頭ごしに影が差す。そこには見慣れた顔があった。「晴光とファンちゃんじゃない」
「すぐそこで会ったんだ」ニルが言った。
「助太刀はいらなかったみたいだな」
赤毛の同僚、周 晴光は、体格のわりに幼い顔で破顔した。かたわらには長い桃色の髪をした少女もいる。
ファンは、珍しく長い髪をおろして片側を編み上げ、花飾りを差していた。晴光は何やら文机らしきものを、肩に抱えている。
エリカは(なるほど、逢引ってわけね)と得心した。
この少女のことをよく知っているわけではない。吃音がある孤児の女の子で、この同僚のことが好きな少女というくらいの情報だ。重ねて、いろいろな事情が混みあった障害の多い恋であることも分かっている。
しかしエリカは、この少女の恋をこっそり応援していた。なぜなら彼女なりに、この同僚の裏表のない人柄は気に入っているから。
「ねえ晴光。私たち、今夜はニルと二人なんだけど、あなた達も来る? 」
「えっ」と男女の声がそろった。
チラリと目配せをすると、ニルもにっこりした。考えることは同じらしい。
「お昼は僕たち、用事があるんだ。だからお礼に、夕食をごちそうしたいなって。ファンちゃんの下宿先には、ちゃんと連絡をいれるし」
「ほら、オフの日がそろうことって、あまりないでしょう? たまには若者らしい休日でもしたいのよね」
「いいのか!? 」
「最近食事がマンネリぎみなのよ」
「二人じゃ食べる量もたかが知れてるしね」
「これは自画自賛だけど、ニルも私も料理はそこそこうまいわよ」
「知ってる! 」
宴会が好きな晴光の眼は、すでに輝いている。こちらに説得は必要ない。
困った顔をしているファンに向けて、強調するようにニルが言う。
「帰りは僕か、晴光が送っていくしね」
「そうそう」
「あ、あの、でもわたし、お邪魔じゃ」
「そんなこと無いわ」
「そうだよ。むしろ僕たちのほうが、お邪魔しないようにするもの」
ニルが囁くと、ファンの頬に、さっと赤みが差した。
「あの……じゃ、じゃあ……お邪魔、します」
次回予告。異世界クッキングタイム。




