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『星よきいてくれ(https://ncode.syosetu.com/n2519et/)』という、レトロファンタジーから一転、長文タイトルの異世界ものを書いてみたら、ファンタジー臭よりディストピア臭のする近未来SFになりました。


 洋風ファンタジー異世界のお求めの方はブラウザバックを。

 魔女と触手生物とサイボーグが同じ職場にいる世界観でも構わない方だけ、ちょっと進んでみてください。


 初めての長文タイトル、初めてのSFジャンルです。応援よろしくお願いいたします。


「……ここ、どこだ? 」


 ーーーーもう何年も前のことだ。


 晴光せいこうがその世界にやってきた日。


 その年、その国は、異常気象で記録にない大雪だった。……というのは、あとから聴いた話。


 これはボタン雪っていうやつだと、聞きかじりの知識をまず思い出した。


 無力な十四歳の少年は、き出しの二の腕を抱えてガタガタ震えながら、しもの下りた田んぼのど真ん中に立っていた。


 夢ではない。鳥肌はみっちり全身を覆っていたし、ほんの数秒で足先が痛いくらいに冷えていた。つねった頬も、しっかり痛かった。

 慌てて足元の雪を爪先で踏み固めながら、田んぼからみちに上がり、対岸にあたる土壁へと寄りかかる。


 壁際では、自転車の残骸ざんがいが、巨人がぐしゃっと丸めたみたいになって転がっていた。スプリングが飛び出たサドルに触れると、炎天下で吸収した熱が、まだジワッと染み出てくる。故郷の名残なごりの熱だった。


 みぞれ交じりの風が吹いた。


 吸収性のいい半袖のTシャツに、スポーツ用のぴらぴらしたナイロン製ズボン、ビーチサンダルをつっかけた足。もちろん裸足だった。

 呆然とした。とつぜんあらわれた冬将軍を前に、なんて頼りない装備だろう。

 それも当たり前だった。晴光はほんの十分前までは、確かに夏休みの学生だったのだから。


 喉の奥を刺す冷気にむせながら、あたりを見渡す。

 果てしないほど続く、禿げた田畑。

 さらに果てしないほど遠くには、灰色にかすんだ見慣れぬ山々。

 舗装されていないみちを挟んで、青い瓦の乗った白い土壁が、ずーっと先まで続いている。


 近所にある檀家の家に、桃を届けろと言われて自転車で家を出たのは、ほんの三十分前だ。

 中学三年生。受験準備前の、だらけた空白。買って満足してしまった綿あめがしぼんでいくのを放置するような、怠惰な時間。


 クーラーのない畳の自室。

 境内の石畳に溜まった打ち水のあと。

 まとわりつく太陽と蝉の声。

 波打つ緑の田んぼ。

 ソフトクリーム型の雲と、高い青空。

 暗転。目に痛いほどの、赤、青、黄色や紫。

 焼けつくような太陽の熱と光の中で交差した、極彩色の中にあった闇、星屑みたいなキラキラ――――。


 記憶はそこで途切れている。


 頭がガンガンしてきた。心臓も、大音量で早い。頭痛と心音が、体の中で完結する最悪の二重奏で響き、冷気に肌がひりひりする。


 どうしてこうなったんだろう。

 考えながら、彼は、見知らぬみちをトボトボと歩き出した。

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