僕がシんだ後のせかい
平凡な部屋の隅で、ベッドの上に横たわる。
今日は何故か体調が良くなくて、まだ午後の九時だと言うのに、就寝を望んだ。
目を瞑って、ふと考える。
このまま、永遠に目覚めなかったら?
不調な所為か、そんな馬鹿馬鹿しい考えが脳裏をよぎった。
だけどどうも寝つきが悪かった為、余興の意も込めて少しだけ考えることにする。
まず朝になって起きなければ、母が起こしに来てくれる。最近は自力で起きることが殆どなので確証は無いが、起こしてくれるとしたらきっと母だ。
僕の部屋に来て、まずはノックでもするかな。ドア越しに叱られるかもしれない。
でも僕は返事をしないのだ。
できないのだ。
不審に思った母は、ただ寝坊してるだけだと思って、腹を煮ながら入室するだろう。
そして寝ている僕にまた叱って、それでも起きないもんだから、ゆさゆさ身体なんか揺すって。
でも起きなくて。
僕がもう起きない事を知るんだ。
その後どうするかな。一応救急車でも呼ぶのかな。
父はもう家から出た時刻だろうから、相談なんか出来やしないだろう。
でも電話くらいかけるかな。
父は飛んで戻ってきてくれるかな。
僕がこうなった時、あの人はどんな感情を得るんだろう。
父親って、どことなくミステリアスだなって、本当はピンピンしてるもんだからそんなことを考える。
脱線から妄想へ戻って、まぁとにかく、僕はもう起きないんだから、色々な手順を踏んで、日本だから火葬でもされるんだろう。
それから葬式して、通夜するんだけど、誰が来るかな。
友達は来るだろうか。おじいちゃんはどうだろう。母方の祖父は厳格な人だから、子どころか孫が先に逝くとは何事か! と叱られてしまうかも。
でもおじいちゃんは優しくもあるから、泣いちゃったりもするだろう。結構世話もしてくれてたからなぁ。
そう考えると、もっと生きてる内に、皆に感謝しとくんだったとか、後悔していたかもしれない。
僕は眉が下がる感情になりかけたけど、次の話に移って気を取り直す。
こんな長く短い行事が終われば、今度は遺品整理かな。
趣味で絵を描いてるんだけど、一日一枚は書くから、その多さに母はきっと舌を巻くだろう。
そう考えると、恥ずかしいけどちょっぴり誇らしいような。いや、やっぱり恥ずかしいか。
微笑んだり寂しい顔をしながら、母は片付けるんだろうな。
……辛い思いを、させてしまっているのかな。
でもきっとそれから数日くらい経てば、僕への喪失感は薄れていくんだ。
そして、母も父も妹も、僕がいない世界を歩いていく。
僕がいなくても……。
僕がいなくても、あの漫画はその内完結するし、僕がいなくても、友達の誰かは結婚なんかしちゃったりして。
僕が生前出来なかった事をしていくんだろうな。
そこでふと、僕はまだ何も成し遂げてない事に気がついた。
その過程で辛い事があったり、苦しんだりするだろうけど、チャンスも無いのは気怠いかもしれない。
それでも、死んだらなんでも無くなるから、生きてりゃなんとかなるような気がしてきた。
生きていれば。
どこか儚いその言葉に脅えつつも、僕は夢の世界へ旅立った。
そして、そしてーー。
陽光がカーテン越しに部屋を照らす頃。
僕はいつもと変わらない、朝を迎えたのだった。