7イムギット王国への道程
私たちは今、王国を目指して比較的整備の行き届いた街道を、慣れない馬車に腰を痛めながら進んでいた。
ボンヌさんと出会ってから。4日が経ち、早ければ今日にも王国に着く予定なのだが・・・・。
「それにしても、ここ数日盗賊や魔物の襲撃も無くて良かったですね!」
と、ルピナスが言った。
それについては二人には言っていないが、私が『暴圧』を使っているからだ。
『暴圧』とは対峙する相手に魔力で、本能的な恐怖を呼び覚まして戦意を喪失させる技だ。『天眼』よりも消費魔力は大いのだが、ルピナスの血を吸ってから。いつもより体の調子が良く、私の魔力量もなぜか増えたようなので『天眼』で魔物を見つけ次第『暴圧』で追い払っているというわけだ。
「そうだにゃ、このまま何も起こらなけば陽が高いうちにイムギット王国に着くにゃ!」
ボンヌさんが不穏なことを言った気がするけど、私もワイバーンの襲撃などは勘弁願いたい。竜とかは『暴圧』だけじゃ追い払えないと思うし・・・・。
まぁ、こんな整備された街道にはそんなもの出ないと思うけど。
そう思いながら『天眼』で辺りを探ると、私たちの前方。三キロ先に、数人の冒険者と比較的大きな魔力を持つ蛇の魔物が戦っている光景が視えた。
確か名前はトキシックスネーク。冒険者ギルドが定めるランクではBランクの魔物だった気がする。
整備された街道にも偶に魔物が出没するらしく。その度に冒険者が討伐に出るという話をボンヌさんから聞いていたが、まさかこのタイミングで現れるとは思いもよらなかった。
『天眼』で視たところ冒険者達が苦戦しているようなので、助太刀に行くか考えた。私たちは馬車の護衛の依頼を受けているので、馬車の安全を確保するのが最優先だ。
ならば、どのみちこのまま進めばかち合うのだから。先行して脅威を排除したほうが良いだろうと考えた私はボンヌさんに言った。
「ボンヌさん! この先にトキシックスネークというBランクの魔物が現れました! 私は先に行って倒してきますから。その間馬車の護衛はルピナスに任せます」
「馬車とボンヌさんを頼んだよ? ルピナス」
「はい! お任せくださいディオネ様!」
私はそう言うと、有無を言わせず一目散に駆けだした。全速力では無いものの十分間に合うだろう。
・・・・以前森の中で、試しに全速力で走ったらソニックブームが起きて周りが酷いことになったのだ。
「あっ・・・・ちょ、気を付けるのにゃ!!」
◇
一分程で魔物のいるところに着いた私は、前のほうで負傷した仲間を庇い応戦している槍を持った男性冒険者と、後ろからそれを援護する弓を持った女冒険者を見て女性冒険者のほうに声を掛けた。
「あの、助太刀に来ました!」
「助太刀って、あなたまだ子供じゃない!? 危ないから下がってて!」
無論、私とてこの見た目の子供が戦えるとは普通思わないだろうなと自覚しているのだが・・・・。
「私、こう見えても少しは戦えますから!」
そういうと私は、腰に吊るした安物の直剣を引き抜いて下段に構え、刀身に"強化魔法"を掛けると、トキシックスネークの懐に一呼吸の内に入り込み。
「"一刀十切"」
私は一太刀で、トキシックスネークを切り刻んだ。絶技"一刀十切"である。『宙の智慧』に記されていた剣を使った魔法で、文字通り一太刀で十回斬る技だ。練習では八~九回までしか斬れなかったが、今回初めて十回斬れた。なぜ最後の一太刀に届かなかったのか今ならわかる気がした。
しかし、無茶な使い方をしたせいで安物の剣が砕けてしまった。剣の強度不足に加えて、本来この技は東洋の刀を使って繰り出す技だからだ。
緋刃の直剣ならば砕けることは無いだろうが、軽すぎる。今の技を使うには剣の重みが足りていない。
・・・・これはちゃんとした剣が必要かな。
「おい、誰かこっちに来てくれ! 仲間が死にかけてるんだ!!」
などと考えていると、トキシックスネークに噛まれ意識を失っている。壮年の男性冒険者がいるので助けることにした。
トキシックスネークの毒は厄介で、普通の解毒薬では治療できない。上級解毒薬が必要なのだが、一般には殆ど流通しておらず幻の品と呼ばれている。
勿論、私もそんな物は持っていないのだが、私には『宙の智慧』がある。ここから解毒魔法の知識を引き出せば・・・・あった。
私は早速"解毒魔法"を男に掛けた。すると、男の顔がみるみるうちに穏やかになっていく。
・・・・あれ? もしかしてこれ止め刺しちゃった?
不安になった私は『天眼』で男を視ると、どうやら上手くいっていたようだ。体内から毒素が抜けていることを確認すると、私は言った。
「解毒魔法を掛けたので安心してください。後は、彼を何処か休める場所に運んであげてください」
「もしかして聖女様!?」
「え? 本当に"解毒魔法"を使ったの!?」
などと、男女の冒険者が騒いでいたので、私は速やかにその場から立ち去った。なんとなくこの場に残っていると面倒なことになりそうだと思ったからだ。
◇
馬車に戻ってきた私は事の顛末を二人に話した。
「さすがディオネ様ですね! 見返りも求めずただ人を助けたいという一心で飛び込んでいかれるなんて!!」
「ディオネちゃんはまだ小さいのにたいしたものなのにゃ!」
と、二人とも私を褒めちぎった。私は私の出来る範囲で人を助けているだけで、自分に対処できないことはやらないだけだ。そもそも不老不死じゃなかったら絶対毒蛇の目の前になんて立たないと思うし。
あまり過大評価されると後が怖いんだけどな・・・・。
そんなトラブルに足を突っ込みながらも、辺りに夜のとばりが降りる頃には、私たちはイムギット王国に到着していた。
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