6猫の獣人
ここにきてストックが尽きましたが、週3~4で投稿したいと思ってます。
一夜明け、移動を再開した私とルピナスだったが・・・・。
「怪しい空模様ですね~」
ルピナスが呟いた。
私たちは今、原野を切り開いて作られた街道を歩き、剣術大会が開かれるイムギット王国を目指しているのだが。
先程から空の模様が優れない。厚い雲が太陽を覆い隠している。一雨振りそうだと思っていると、頬に一滴の水滴が垂れてきた。
・・・・雨か。
「ルピナス、結界をお願い」
「はい! お任せください」
そういうとルピナスは、周りを簡易的な結界で覆った。
それから程なくして、本格的に雨が降り出した。
ざあざあと音を立てて降る雨が、渇いた大地を濡らしていった。
雨が降っても私たちの歩くペースは変わらない。結界が雨を弾いているからだ。
◇
そんな風にしばらく歩いていると、前方に道の真ん中で立ち往生している馬車を見つけた。どうやら雨が降ったことにより抜かるんだ地面に車輪が嵌ったらしい。
馬車に近づくと御者と思われる。頭に猫の耳が生え、褐色の肌をした黒い髪の妙齢の娘が声を掛けてきた。
獣人である。
「あの~すみませんが馬車を押すのを手伝って貰えませんかにゃ?」
・・・・にゃ。
「それはいいけど、何故護衛も付けずにあなた一人で馬車を引いていたの?」
この辺りは盗賊が隠れて馬車を襲えそうな物影が沢山ある。一人も護衛を付けていないのはおかしい。
「いやぁ~それはこの辺りにはよく来るから。偶には護衛を付けずに行っても大丈夫だろう。と思ったのにゃ」
・・・・要するに護衛代ケチったのか。自業自得だな。
「仕方ないですね。押してあげるので下がっててください」
そういうと私は馬車の荷台に手を掛けた。
「にゃにゃ!? 一人で大丈夫ですかにゃ?」
「大丈夫です」
私は軽く馬車を押した。すると車輪が動き出した。
「にゃ!? ほんとに一人で動かしてるにゃ! まだ小さいのに力持ちなのにゃ!」
「これでよし。 次からはちゃんと護衛を雇ってくださいね? ではこれで」
そう言うと、私たちはその場を立ち去ろうとした。すると猫耳の娘が。
「ちょっと待ってほしいにゃ! まだ名前も名乗ってないし、お礼もしてないにゃ」
「いえ、結構です」
「そんなこと言わずに・・・・。私は、ボンヌって言うにゃ!」
一方的に名乗られてしまった。しかし、名乗られたからには名乗り返さないと失礼だろう。
「私はディオネ」
「ルピナスは!ルピナスです!!」
と、ルピナスがいつも通り元気よく自己紹介した。
「ディオネさんにルピナスさんにゃ。お礼に馬車に乗せてあげるにゃ!」
「ついでに護衛もお願いしたいにゃ。ちゃんと報酬は払うにゃ」
「私たちはイムギット王国を目指しているんだけど・・・・」
「それなら問題ないにゃ。私もイムギット王国に行くとこにゃ」
・・・・正直私としてはありだ。馬車での旅に憧れていたし、ついでに護衛の報酬も貰えるからだ。だけど、ルピナスの意見も聞きたい。
「ルピナス、あなたはどうしたい?」
「ディオネ様のやりたいことがルピナスのやりたいことですので!」
ルピナスから期待通りの返事が返ってきた。
「そう、なら決まりだね」
「護衛を引き受けることにします」
「引き受けてくれてありがとにゃ! 助かるのにゃ!」
こうして馬車の護衛を引き受けることにした私とルピナスは、馬車に乗り込むのだった。
相変わらず雨は降り続いているので、車輪が度々泥濘に嵌る。その度に車輪を押した。
◇
そうして馬車で進んでいると、いつの間にか雨も止み。原野を抜けて、草原に入った。
私は、少し早いが丁度いいのでここをキャンプ地にしたいと、ボンヌさんに提案すると、ボンヌさんもこの辺りには水場もあり、馬を休ませるのに適しているからと言うことで了承してくれた。
私はルピナスにテントの設営と火の番を任せると、料理に使える野草が無いか探しに出かけた。
ちなみに、ボンヌさんは近くの水場に馬を連れて行った。
私は緑が生い茂る草原のおいしい空気を楽しみながら、食べられる野草を探した。
私がテントに戻ってくると、ボンヌさんが戻ってきていたので夕食を作ることにした。
私は"収納魔法"から、フライパンと牛肉と調味料を取り出すと、牛肉に塩と胡椒を掛け、さっき摘んだハーブを細かく刻んで一緒に炒めた。
料理に使った香草はバジルのような香りがして食欲をそそられる。焼きあがった肉を切り分けると、ルピナスとボンヌさんに配った。
「にゃにゃ! 護衛をして貰うだけじゃなくて、料理まで作って貰っていいのかにゃ!?」
「ついでに作ってるだけなので、気にしないでください」
作る量が二人前から三人前に増えたところで別に変わらない。
「今日もおいしいですディオネ様! 香草のいい匂いがします!」
「ほんとにゃ、いい匂いなのにゃ! おいしいのにゃ!」
二人とも満足した様子なので、成功したようだ。私も食べてみる。
「うん、まぁまぁかな?」
◇
食事を終え、私とルピナスの二人は火を囲んで座っていた。ボンヌさんは馬車で横になると言って、今はいない。
「あの・・・・ルピナス、お願いがあるんだけど、あなたの血を吸わせて欲しいの」
吸血姫である私は、吸血鬼と違って血を吸わなくても健康に影響は出ないけど、一つだけ困ったことがあるのだ。
それが、吸血衝動である。全ての吸血鬼は満月の夜が近づくにつれて、徐々に吸血衝動が高まってくるのだ。
無論、それは私も例外ではなかった。今まで我慢していたのだが、今日が満月の夜と言うこともあって自分に掛けた枷が外れそうだった。
・・・・いや、既に外れていると言うべきか?
「こんなこと頼めるのあなたしかいないの・・・・」
私は、ルピナスの美しい藍色の瞳を見つめて懇願した。
「勿論です! 私の血で良ければいつでも差し上げます! ディオネ様のお役に立てて嬉しいですので!」
と、快く引き受けてくれたので、遠慮なくいただくことにする。普段の私ならともかく、今の私は理性が若干飛んでいる。
「それじゃ、遠慮なくあなたの血を貰うわね・・・・」
私はルピナスを抱きしめると、その白く美しい首筋に牙を立てた・・・・。
吸血する際には、獲物の抵抗を弱めるために麻酔成分が牙から分泌されるので、血を吸われているルピナスに痛みは無い。
初めて飲む自分以外の血の味はとても美味しかった。いや、幸運の女神であるルピナスの血であるから美味しいのかもしれない。
そうして、私は一分ほど血を吸うとルピナスの首筋から顔を離した。血を吸われたルピナスは恍惚とした表情を浮かべていて、なんて声を掛けたらいいのか分からなかった。
「その、初めてだったけど・・・・。痛くなかった?」
私は確認の意味を込めてルピナスに尋ねた。
「はい、寧ろ気持ちよくて癖になりそうでした! これからは遠慮せずに言ってほしいです!」
ルピナスの血を吸ったせいなのかいつもより彼女が魅力的に見えた私は、思わず目線を下にそらしてしまうのであった・・・・。
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