2散策とステータスと自称女神
私は朝シャワーを浴びると、この宿を営んでいるリアナさんに声をかけた。
「おはようございます」
「おはようディオネちゃん!」
リアナさんは五年前ニ十歳の時に王都から村に越してきたという。少ない人数で宿を切り盛りしているためか、客室数も多くない。
私は、朝食に出された固めのパンと野菜スープを食べ終え、リアナさんに尋ねた。
「今日はこの村を散策しようと思うんですけどお勧めの場所とかってありますか?」
「それなら村の西の外れにある湖がお勧めね、村の観光資源にもなっているし女神が出るなんて言い伝えもあるわ」
「女神ですか?」
「そう!なんでも四百年前にその湖を通りがかった古の英雄が、女神から託宣を受けて古き魔神を討ったというわ!それ以来魔神も現れていないし魔族も衰退していったという言い伝えが残っているの」
「まぁ、今でも魔族の生き残りはどこかに潜んでいて力を蓄えてるって言う噂もあるけどね」
すでに魔神討たれてるんだ・・・・。自分も魔族だけどこの力を使って暴れるつもりも無いし平和が一番だと思う。
「それでは、その湖に行ってみようと思います」
◇
スクラ村の周囲は石造りの塀で囲われていて、村の建築物も多くが石造りだ。
北の外れにあるスクラ村の周辺地域は丘陵地帯で、昔は石材が多く取れたためだという。
私は石造りの家が立ち並ぶ素敵な景観の村を歩き雑貨屋を訪れた。そこで、小瓶と調味料、野営用の装備を買い集めた。
雑貨屋を後にした私は、村で唯一の武具屋に入った。そこで、一番安い直剣を買い腰に吊るした。
武器を自分で創れるとはいえ依頼の時、冒険者が武器も身に着けていないのは怪しまれると思ったからだ。
防具に関してだが、私服で活動する冒険者も割といるらしく、今着ている魔力で編み込んだゴスロリ服のほうが圧倒的な物理、魔法防御力に加え自動洗浄、自動修復機能が付いているので買わなかった。
店で買い物を済ませた私は村外れにある小高い丘に登った。ここなら魔法を使っても問題ないと判断したからだ。
私は今使える魔法を確認するため自己分析してみた。
――――――――――――
名前:ディオネ
種族:吸血姫
称号:魔神
加護:幸運の女神の寵愛・勝利の女神の寵愛・月の女神の寵愛
職業:魔法剣士
魔法:『宙の智慧』
身体的特徴:『不老不死』『血液操作』『念力』『状態異常完全無効』『天眼』
――――――――――――
・・・・称号の欄は見なかったことにしよう。
何だか凄そうな加護が付いているが、使える魔法が一つだけになっている。
私は"隠匿"や"収納魔法"は使えたので何故載っていないのか調べるため『宙の智慧』について詳しく見てみた。
『宙の智慧』・・・・吸血姫のみが扱える魔法、発動によりあらゆる魔法の智慧を得る。
私が今まで使っていた魔法は、全部ラジエルから引き出していたようだ。魔法というより一種の知識体系な気がするけど。
「発毛を促すような魔法から、次元を超越する大魔法まで思いのままってことか」
どっちの魔法も使うことないと思うけど・・・・。
私は試しに"転移魔法"を使って五メートル前方に移動してみた。
これが"転移魔法"か便利ではあるけど転移する場所のイメージが固まっていないと発動しないみたいだし、行ったことのない場所に跳ぶのは無理そうだ。
次は"属性付与魔法"だ。私は小瓶に詰めた自分の血を数滴使って緋刃の剣を生成した。
店で買った剣では属性付与に耐えられないと判断したからだ。
私は刀身をなぞり"炎属性付与"を発動した。剣を軽く横薙ぎに払うと振るわれた刀身は弧炎を描いた。
何これ、凄くカッコイイ・・・・。
◇
私は"思考加速"の魔法により、引き伸ばした体感時間で三時間ほど魔法の練習をした後、今回の目的地である湖に来ていた。
湖は観光資源になっているだけあって、水の透明度も高く神秘的な美しさで、今にも休欲中の女神が現れそうな気がした。
・・・・あれ? 湖の真ん中誰かいる?
私は、目を見張った。
水色の腰まで伸びた長い髪に、彫像のような均整のとれた肉体をした。藍色の眼を持つどこかあどけなさの残る美しい顔をした。女神のような恰好をした人が立っていた。
やはり誰かいたようだ。
「あ、あの!」
私は思わず声を掛けていた。
すると向こうはこちらに気付いたのか近寄ってきた。身長は百六十センチくらいだろうか。私より二十センチほど高いきがする。
と、あれこれ考えていたらいきなり抱き締められた。
「ふぐぅ!?」
私には無いものが顔に押し当てられた。平均以上だと思う。
「ようやく会えましたね!主様」
この人・・・・。不審者さんだ。
咄嗟に振り解こうと思ったが、細い腕のどこから力が出ているのか、万力の様に掴んで離さない。
結局私はその後五分近く抱きしめられようやく解放された。
「その、どちら様でしょうか?」
私は警戒しつつ訪ねた。
「あっ!失礼しました主様、私、幸運の女神をやっているルピナスって言います!」
自称幸運の女神さんだった、でもなんでこんなに気に入られてるんだろう。 知らないところで何かしてしまったのだろうか、それに主様とは? 私は訝しんだ。
「私はディオネ、あの、私たち何処かで会ったことあります?人違いではないですか?」
「いえ、主様と直接会うのはこれが初めてです!魂だけの主様を見た時から思ったんです、この人に仕えたいと、つまり一目惚れですね!」
どうやら私は同性から一目惚れされたらしい、私はその辺は気にならないけど。
「それで、私に仕えたいというのはもしかしてついて来るつもりですか?」
出来ればお帰り願いたいのだが・・・・。
「勿論ですよ主様!きっとお役に立ちますので、お傍に置いてください!」
それを見て、私は説得を諦めた。この様子だと断ってもついて来るという確信があったからだ。悪い人ではなさそうだし、二人旅も楽しそうだと思ったからだ。
「わかったよ、ルピナス、一緒に行こう。その代わりちゃんと働いてね?それと私のことは名前で呼んでいいから」
その言葉を聞いたルピナスはとびっきりの笑顔を浮かべていた。私は、その表情に思わず見とれてしまった。
「はい!ディオネ様、これから末永くよろしくお願いします!」
末永くよろしくお願いされてしまった・・・・。
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