ゴブリンキラー
「・・・・いた」
さっき決めた方針通り路銀を蓄えるため、村に向かう道すがら森で魔物を狩り、素材を得ようと魔物を探していたわけなのだが、丁度前方に五匹のゴブリンの集団を見つけたわけだ。
向こうはまだこちらには気づいていないようだ。
「仕掛けるなら今・・・・だよね」
自分が力を持つ吸血姫に転生したとはいえ、生まれてこの方狩りの経験なんて無い。ゴブリンが相手であろうと、心臓の鼓動を強く感じた。
自らを落ち着かせるため軽く深呼吸した。
「よし・・・・やれる」
自らを鼓舞し、足元に落ちている小指大の小石をそっと拾い上げ、左手の親指と人差し指で挟んだ。最初に狙うのは手前の一匹だ。
しゃがんでいた手前のゴブリンが立ち上がったところを狙い、指に軽く魔力を流しながら小石を弾いた。すると、その石はゴブリンの頭部を貫通しそのまま木の幹にめり込んだ。
頭を打ち抜かれたゴブリンの頭部からは赤い鮮血が飛び散った。手前のゴブリンが倒れたせいか他の四匹のゴブリンが奇声を上げた。
「グギャアアアアアアッ!」
気配を感じ取ったのか、ゴブリンたちが一斉にこちらに駆け寄ってくる。
私は、素早く足元の小石を拾うと、さっきと同じように向かってくるゴブリン目掛けて弾いた。
頭部を打ち抜かれたゴブリンの死骸が五匹になった。
「ふう・・・・上手く殺れた」
初めての狩りの結果は良好だ。軽く小石を弾くだけで弾丸のような加速が生み出せるこの体がいかに凄いのかよく分かった。
それにしても、飛び道具を使ったからか。自分の中で生き物の命を奪った感覚が薄い。これはあまり良くない傾向だと思う。自覚しないと・・・・。
「さてと、魔石を取り出さないと・・・・」
この世界の魔物は、体内に魔石という石を宿していて、それには価値があるらしい。
魔石の位置は魔物によって違うが、多くは胸の辺りに存在し、ゴブリンの魔石も胸の位置にある。魔石を傷付けたくなかったので、今回は頭を狙って攻撃した。
私は、解体用の刃物を持っていないため創ってみることにした。素手でゴブリンを裂くことも出来るけど、あんまり汚れたく無いし・・・・。
吸血姫が生まれ持った血を操る能力によって、周囲に飛び散ったゴブリンの血を使って、刃渡り15センチ程の鮮血に彩られた緋色のナイフを創り出すことに成功した。
「これで切れるのかな・・・・?」
初めて使った血を操る能力で創ったナイフでゴブリンを切ってみると、その切れ味は抜群で、力を掛けなくてもサクサクとゴブリンを切り裂いた。
切れ味の心配は杞憂だったみたいだ。
というより、解体作業が思いのほか抵抗も無く出来たことに驚いた。どうやら私はこの世界に来た時に適応できるようにされたのかもしれない。
五匹のゴブリンから小さな紫色の輝きを放つ魔石を五個回収した。そこで、私は"収納魔法"を使うことにした。詳しい容量は把握出来ていないが、詰め込もうと思えばいくらでも入ると思う。
虚空に現れた歪に次々と魔石を放り込んでいく。
ついでにゴブリンの死体も回収しておく、後で使えるかもしれないからだ。"収納魔法"内の時間は止まっているため死体が腐ることは無い。
◇
私は、ゴブリンを狩りながら能力を磨いていった。最初は小さなナイフ一本しか創れなかったが、自分の血を使ったほうが少量の血で済み。尚且つ力を引き出しやすく、剣や槍、盾や弓矢など割と自由に創れることに気付いた。
ゴブリンを狩りながら。私は血を操る能力でゴブリンの全身の血を固めたら楽に狩れるのではないか? と考えたのだが、それは出来なかった。
どうやら、生きている生き物の血をどうこうは出来ないらしい。唯一の例外が自分の血である。
私の場合、自分の血を使うことに抵抗は少なかった。不老不死であるし、痛みも感じない。血を取るために傷を付けても直ぐに治るからだ。
その後も私はゴブリンを集中的に狩り続けた。
途中、ゴブリンの解体を忘れて、そのまま"収納魔法"に入れてしまう事故があったが、どうやら"収納魔法"内でも解体は出来るらしい。
私の苦労は何だったのだろうか・・・・?
その後もゴブリンを狩り続け。気が付けば陽が傾き、森の出口に差し掛かろうとしたところにそれは現れた。
今まで狩ってきたゴブリンよりも巨大なゴブリンだ。自分の身長の悠に三倍はあろうかという緑色の筋骨隆々の巨人が立ち塞がった。
『天眼』で覗いてみると、ゴブリンキングという魔物だということが分かった。
「ゴアアアアアアアァァ!!」
とても怒っているようだ。たぶん私がゴブリンを乱獲したから怒ってるんだろうな・・・・。
何となくハ〇クに似てる感じも・・・・やっぱり似てない。
「これがゴブリンキング・・・・見るからに今までのとは格が違うな」
私もさっきよりは経験を積んでいる。相手がゴブリンの王でも引く気はない。ゴブリンとの戦闘を繰り返す中で得た技術で仕留めるまでだ。
今回は大きな獲物の感触を掴むために魔法を使わずに接近戦を挑むことにする。
私は親指に爪で軽く切り傷を付けて血を流す。そこから零れ落ちた血の雫を数滴集めて、緋色の刀身を持つ剣を一振り創った。
不老不死なので傷口は直ぐに塞がる。
私は剣を左手に持ち中段に構えた。
それを見たゴブリンキングが、巨大な棍棒を私のいる場所に向かって振るう。私はそれを前に避けると一気に距離を詰め、剣でゴブリンキングの首を撥ねた。
「グギャァ・・・・?」
呻き声のような声を上げ首を撥ねられたゴブリンキングの巨体は、鮮血をまき散らしながら後ろに倒れこみそのまま動かなくなった。
「これが・・・・大きな魔物を斬ったときの感触か・・・・」
仕留めたゴブリンキングの死体を直ぐに"収納魔法"に入れると。中でゴブリンキングから、魔石を取り出した。
ゴブリンキングの魔石はゴブリンから取れる物よりも五倍の大きさはあり、色も濃い紫をしていた。
狩りの結果に満足しながら私は、夕暮れ時の村に足を踏み入れた。
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