―ラストデイ―
皆様、お久しぶりでございます。あけましておめでとうございます(遅っ!)ドラゴンクエストビルダーズ2にどハマリし、ギルドとレイの自宅を再現するとか大いに遊んでいたちゃーりーです。この度、やっと更新できました。そして続きもだいぶ纏まって参りましたので、これからはもう少し更新の頻度を上げたいと思いますが、何分、本当にもうストックがありませんw 皆さんの応援で、少し更新の頻度が上がるかもしれません。気が向いたら応援してくださいw では、続きをお楽しみください。
アレからどうしたって? ───ああ、それだけだったよ。結局キスしてから、エリシアを部屋に連れ込む事も無く名残惜しくも部屋まで見送り、一睡もできないまま朝を迎えたのだった。……まぁ、もっと先に進めなくもない気はした。けど、慌てる必要も無いだろう。お互い気持ちが通じ合ってるのは確かなんだ。
そして現在。
俺達エアリアルウィングと、ばーさん。そしてロキは大広間のテレビに映される映像を食い入るように見つめる。テレビには、元老院ペテルギースの謀反に対し、アサシン部隊による記者会見が行われる事となった。
まぁ当然だ。未だに差別が根強く残るこの国では、ロキとマスターの結婚を良く思わない連中も少なくないし、粛清を行ったのがゼクス隊長ってのが問題だ。一応ターゲットの逮捕が目的であったが、暗殺ありきで逮捕に向かったのは紛れもない事実。コッチは証拠を全て揃え、ターゲットの激しい抵抗も全て予定通りだったにせよ、見方を変えれば、二人の結婚と他種族平等化計画に異を唱えるペテルギースを暗殺した。証拠はあとからでっち上げた。と、ペテルギースに賛同する市民たちが騒ぎ立てるだろう。無駄だとは分かりつつも、一応はこういった説明の場を設けなくてはいけないのだ。
『これより、今回の元老院ペテルギース氏の起した数々の事件について、ゼクス=アルビオン氏より説明させていただきます。では、ゼクスさん。よろしくお願いします』
「……は? はぁ!!!??? ちょ、だれか止めろ!!!」
俺は思わず、画面に向かって声を荒げてしまう。あの人が記者会見になんて出て、事態が好転したことなんて一度も無かった。
『……はいはいっとね。えーっと、新聞屋さんの皆さん。テレビ局の皆さんお疲れ様です。えー今回はね、簡単に説明すると、ペテルは最初から真っ黒だった、って説明しても多分納得しないと思って、手元に資料を配らせてもらったよ。簡単な箇条書きで申し訳ないんだけど、時系列で事のいきさつはそこに書いてある通りだ。別紙には証拠と、現場写真。そしてリーゼリット邸襲撃の際の目撃証言と、人質にされた被害者たちの証言も記載されている。各新聞社、テレビ局には、すでに彼らが使用していた爆発物の詳細データを送っている。手元の資料はそのまま持ち帰って構わないし、公表して構わないんで、好き勝手やっちゃってくれ』
ホーリーシット。やっぱり最低だ。その程度なら書面を各方面に配るだけでいいじゃないか。いや、むしろグッジョブと言ってやる。お願いだからもう裏に引っ込んでくれ隊長!
『はい、じゃー質問どうぞー』
途端に、ほぼ全ての人間が手を挙げる。
『はい、じゃあ3列目の右から4番目の人どうぞー』
そしてよりにもよって一番最後に手を挙げた人間を指名する。どこまで捻じ曲がってんだよ。
『コルトタイムズです。あのぉ、大変恐縮なのですが……。この『ペテルギース氏が冒険者ギルド、エアリアルウィングのマスター、セイラ=リーゼリット氏の暗殺を企てた経緯とその動機について』 の説明がその……。コレは事実なのですか? ロキウス王の子を現在妊娠中であり、予てより二人の結婚に反対していたペテルギース氏は、彼女とお腹の子を亡き者にしようとしたと記載されていますが……』
───あの糞師匠。そんな重大な報告をそんな紙面で、しかもあんたがカミングアウトしてんのかよ!?
『はい、事実ですが? 実際、俺がペテルギース邸に逮捕令状を持ってお邪魔したときには、既に実行犯達が帰省中の彼女を狙い、リーゼリット邸を襲撃してます。
いやー慌てましたよそりゃー。阻止するつもりで行ったら、やっこさんもう始めちゃってるんだもん。
それどころか、俺に私兵団である暗部と呼ばれる連中を差し向けてくるもんだから、アサシンから派遣してるメンバーに連絡遅れちゃってね。
避難はおろか、援軍すら間に合わないから、致し方なく、彼に敵の殲滅命令を出させてもらいました。
結果、エアリアルウィングのメンバーは全員無事。急襲部隊を見事鎮圧してくれた。あ、誤解無きようお願いしたいのだけれど、この事件によって犯行グループの主犯格がほぼ全員死亡してるけど、ちゃんとこちらで証拠もすべて揃ってるし、投降を呼びかけもした。
けれど呼びかけ空しく、依然として犯行に及んだため、敵として排除したに過ぎないし、やつらを皆殺しにしたのは俺の部下であるアサシンメンバーだ。
まぁ、誰の事だなんて、言わなくてもわかるよね? あのジジイのおかげで、元アサシンメンバーだなんて肩書きがついてる彼だよ。実際の処は、確かに外されていは居るけど、ロキウス王の愛するリーゼリット氏の命が危険が及ぶ場合、アサシンメンバーとして、彼女を守るという王命を賜るのが彼の仕事だ。批判は受け付けないからね? 現に彼女は命を狙われてるんだから。
おかげで、こちとら優秀な人材を取られてるんだ。唯でさえ人手不足の否めない精鋭部隊だってのに、俺のお気に入りのメンバーなんだよ? ロキウス王とセイラさんの信頼だって厚い。それくらい優秀な人材をさらにヘッドハンティングされちゃってね。もう今は完全に冒険者さ。おかげで次から、彼女に危害が及ぶ様なら、俺が未然に動いて防がなきゃならなくなる。これがどういうことか、頭の良い人なら分かるよね? お願いだから俺の『お仕事』を増やさないでくれよ? イライラして手加減できなくなっちゃうかもしれないから、さ? じゃ、次の質問行ってみようか? ってあれ? なんかみんな表情硬くない?』
なんて奴だ。我が師匠ながら本気で呆れてしまう。全世界中継で、自国の民に向かってガチの殺気を画面越しに生中継しやがった。
つまり、『もしまだセイラさんの命を狙う阿呆が居るのなら、次は俺自ら皆殺しにしてやる』と脅しをかけたのだ。
『はい、そこのきれいなお姉さん』
『あ、あの! 今の発言はつまり、犯行勢力は有無を言わさず殺害するということでしょうか!?』
『良い質問だ! もちろん、すべての証拠を揃え、逮捕という形が大前提だよ。
今回だって俺はぺテル爺さんを殺すだなんて不本意極まりないんだよ? 一応この国を長年支えてきた同志でもあるしね。そうだろう? 嫌な奴でも10年も付き合いが長いと情くらい沸くさ。
だがそれ以上に、この国が君主政である限り、ロキウス王とその子孫には絶対に手を出させてはいけない。どんな命よりも最優先されなくてはならない。それがこの国の形なのは、君らも重々承知してるはずだが?
そして君ら、ちゃんと分かってる? これ、君らが異議を唱える場所じゃないからね? 我等が王のご子息が、誕生以前に命を狙われてるんだよ? わざわざその経緯を説明しなきゃ理解できない? 王のフィアンセであり彼の子を宿した女性を手にかけようと、精鋭部隊を送りつけた逆賊を成敗し、精鋭部隊を俺の部下だった男とその仲間たちが見事返り討ちにした。そういうニュースなんだよ? そんでもってさ、お祝いするところなんじゃないの? 次の王族の誕生が迫ってるんだよ?
はい。というわけでね、今回の件で、エアリアルウィングのメンバー全員に、この国の軍を任されている俺から勲章を授与したいと思う。
ほら、記者の諸君。ぽかーんなんて間抜け面してないで、さっさと記事にしたら? もう質問とか要らないでしょ? 俺、今年最後の日だってのに、ありえないくらい忙しいから、ここら辺で記者会見終えるからね?
はい、おわりー。……ほら、拍手ぅ』
こうして、まばらに始まった静かな拍手の中、ゼクス隊長は実に気だるそうに、イライラしながらカメラの外へと、ポケットに手を突っ込みながら消えていくのであった。
「ああもう! やっぱりだめだった! 隊長が記者会見なんてするって聞いた時から嫌な予感しかしなかったんだ! 誰だ隊長を記者会見になんて引っ張り出したの!」
俺は思わず、隣で引きつった笑顔を見せてるロキに食って掛かる。
「えと、ゼクスが自分で『記者連中はこっちでなんとかするから、ロキウス様はセイラさんの所に居てあげていいよ。あと、レイにもよろしくね』って言うから……。でもまさか、マスコミ嫌いのゼクスが、さらに嫌いな記者会見なんてすると思って無くて……」
「ロキウスの馬鹿! ゼクスさんの言葉を絶対信用しちゃいけないってあれほど言ったじゃない! ああもう嫌っ。私なんかクラクラしてきた……」
マスターは眉間を指で押さえ、ソファーにぐったりともたれ掛る。
「ひどい。酷過ぎる記者会見だったわ。あれでは政敵が増えるばかりなのでは? 国民もあれを見て納得できるはずが無いわ」
「そう? ゼクスさんの会見っていつもあんな感じだしなぁ? きっと国民全員がもう、彼が出てきたとたんに『ああ、また有無を言わさないアンニュイ正論破会見になっちゃう』って理解してるから、もう大丈夫なんじゃない?」
ゼクス隊長の記者会見を目にするのが初めてのエリシアは血の気が引いたような表情をしていたが、アーチャーはのんきにコーヒーをすすりながらケラケラと声を上げて笑っていた。確かに、いつもの事といえばいつもの事なのだが、俺はどうにも、ゼクス隊長の態度が気にかかっていた。
「なぁロキ。隊長機嫌悪かったか?」
「ん? いや、むしろ良かった方だと思ったが、どうした?」
「……隊長がポケットに手を突っ込んで歩く時は、大抵最高に機嫌が悪い。何か厄介な情報が入ってきた時なんて特にああなるんだよ。そして言動も非常に攻撃的だ。マスコミ嫌いが原因でああはならないはずなんだが……」
俺は妙な不安を口にしたが、それをぶち壊しにする存在が現れる。いっちゃんだ。
「なんと! でしたらレイさん、隊長さんをもっと見習うべきです! レイさんってば、私がアギトル教信者だからっていつも辛辣に接してくるじゃないですか! ギルドで聖歌の練習をしていたら、すぐ隣で自分じゃ歌えもしないデスメタルを爆音かけたりするじゃないですか! 神を称える歌の隣で神に対して聞くに堪えない罵詈雑言を歌う濁声を聞かせられる私の身になってください!」
「うわ、最低っ! アンタ頭どうかしてるんじゃないの!? 私のいっちゃんにそんな汚物の塊みたいなノイズ聞かせないでくれる!?」
「……デスメタルねぇ。いっちゃんよくあんなん聞き取れたな。俺にはヴォエエエエエエエってリズムに合わせてえずいてるようにしか聞こえなかったぜ」
いや、そもそも嫌いだと明言してる奴がくつろいでる隣で聖歌を歌うってどうなんだよ。自室でやってくれよ……。
「まったくもう。そんな事してたの? レイ、そういう時はこうすればいいのよ」
不意に背後からエリシアの声が聞こえたかと思ったら、俺の耳にかぽっとヘッドホンを被せてくる。
一瞬の間をおいて次の瞬間。その場にいて、俺の事を見ていた連中が一斉に吹き出す。
「ぶははははははは! レイ、似合う似合う! それオーダーメイド? ってくらい似合うよ」
ジークが俺を指差し、笑い転げながら似合うと連呼するが、俺はそんな姿を見せ付けられて納得するわけが無い。そこへいっちゃんが笑いをこらえながら手鏡を持ってきて、俺の姿を鏡に映した。俺につけられたヘッドホンの頭頂部には、もふもふっとした犬耳のようなアクセサリーが装着されていた。
「なんじゃこりゃ」
「クスクス。この間、みんなでお買い物に行った時、たまたま見つけちゃったの。これレイに似合うかなーって思ってついつい買っちゃったけれど、でもレイにハイって渡したところで絶対つけないなーって思ったの。だからずっとタイミングを窺ってたんだー♪ うんうん、やっぱり似合うわ♡ ほらほら、レイ。携帯端末貸して見て? 中にレイのお気に入りの曲あるんでしょ? なんて曲?」
「───マックスダッカルビのゴッドファッカー」
「……なんていうか色々駄目よね、それ」
そしてヘッドホンから流れ出すデスメタルの破壊的なリズム。そして鼓膜を震わせる怨嗟のシャウト。……うむ。やはりいい。この神に中指を立てるような歌詞も最高だ。っていうか、音もなかなか良質だ。ヘッドホン自体の性能は高性能のようだ。今まで部屋で流す時は携帯端末からそのまま流すか、ギルドのスピーカーに繋いで流していたが、確かにこれなら聞きやすいかもしれないが……。
「……ヘッドバンギングしにくそうだな」
「レイちゃんがそんなノリノリになることなんて無いでしょう? 似合うんだし大切にしたら?」
「こんなのつけて外で歩けないだろ?」
マスターまでもがクスクスと笑いながら似合うだなんてぬかすので、俺はため息をつきながらヘッドホンを外そうとしたが……。
「あら、取っちゃうの? 私とお揃いなのに♪」
「っ!?」
隣に座っていたエリシアはシェリルと融合し、銀色の狼の耳をぴょこぴょこと動かし、そのふさふさの尻尾を左右にぱたぱたと振ってみせる。
「なんなら、尻尾も買っておくべきだったかしら?」
「あのな。尻尾なんて余計につけられるかよ!」
くっそう。こんなの反則だろ! まともに見れないくらいかわいいじゃんか!
「あら? レイ? ずいぶんと顔が赤いようだけど、どうかしたのかしら? クスクス」
「こんなヘッドホンつけられてりゃ恥ずかしいに決まってるだろうに!」
「ほんとにヘッドホンのせいかしら。変身してから急に顔が赤くなったように見えたけど、私の気のせいかしら? そんなに私とお揃いは恥ずかしいの? ねぇレイぃ?」
ぐぐぐっと俺に迫り、密着してくるエリシア。紺碧の瞳に、俺の姿が反射して映るほど、彼女は接近し、柔らかい彼女の胸が俺の胸板に密着する。
「ちょ、近い近い! みんな見てるだろうが!」
「……ああ、そうよね。人間はあまり人前でスキンシップを取らないものね。はぁ、ダメだわ……。精霊の感覚が混ざると、自身の心の在り様がどうも曖昧になっちゃうわ。特に狼の精霊であるシェリルにとっては、親愛のスキンシップは別に恥ずかしいものじゃないから、色々大胆になっちゃうみたい。だからこの姿の時は別に人前でキスしても、私は怒らないわ。あとで元に戻った私が本気で怒るかもしれないけれどね♡」
「いや、シェリルだかエリシアだかわかんないけど、そろそろ元に戻れよ。いっちゃんがオーバーヒート起こしてる」
「あっ……」
エリシアがいっちゃんに視線を向けると、いっちゃんは顔を真っ赤にして、指の間から俺らの様子を食い入るように、焦点がぶれ続ける目でガン見していた。
「おおおおおお構いなく!? どどどどどうぞぶちゅっとやっちゃってもらって構いませんハイ!!!」
「いや、やめてくれ二人とも。エリシアちゃんがいつも以上にレイに迫れば迫るほど、なんかレイを本気でぶっ殺したくなっちまう」
「そ、そうだね。うん。やっぱりTPOは僕たちとしても弁えてほしいかなって前々から思ってる、うん。仲間が目の前でいちゃつくと妙に気まずいよね……」
「やっぱりそうなのね。うん、今後は気をつけるわ。ごめんなさいみんな。と言うわけだから、レイ。やっぱりキスは二人っきりの時にね♡」
「ちょっ。お前なぁ……」
「何よぅ意気地無しー。大胆だったのは昨日だけ? なーんかがっかりー」
「ちょっ!? シェリル! 今すぐエリシアから出ろ!」
「な、なによもう! はいはい分かったわよ」
ポンっと白い煙とともに、シェリルは小さな省エネモードにもどり、俺にべーっと小さな舌を出して見せるが、俺はそれどころじゃない。そしてエリシアもまた……。
「な……ななな……私なんて事を……シェリルぅぅぅぅぅぅ! もう! あなたなんて事を! 待ちなさい! こらー! みんなの前でなんて恥ずかしい事をしてくれたのよぉ!」
エリシアの大声にびっくりして逃げ出したシェリルを、エリシアは真っ赤な顔をして追いかけ、大広間から飛び出して行った。そしてぽつんと残される俺と、エリシアを見送って一斉にこちらに注目する仲間たちとばーさん。
俺は冷静に状況を判断し、即座に逃げの一手を打つと決断した。
「神速」
「「「させるか!」」」
発動と同時に飛び掛ってくるグレン、アーチャー、ジークをすり抜け、テーブルの下をスライディングで抜け、即座に扉へと手を伸ばす。
「させないわよ♡」
一瞬にしてドアノブが凍結し、そのまま扉が氷付けにされ、出口を塞がれる。だがそんなものは想定済みだ。
「エア・マスタリー!」
シルフィードは手元に無いが、今の俺ならシルフィード無しでもできると確信があった。俺は突風を巻き起こし、ドアとは正反対の窓を開け放つ。そして突風を起こした事により生じたその気圧の低くなった一瞬こそ、俺の活路だ。
「奥義、超神速!」
その場にいた全員の顔が、驚きの表情を浮かべたまま静止する。俺はその瞬間に窓へと走り、そのまま外へと飛び出した。そして雪原へと着地した瞬間、超神速は解除される。
「ぷはぁっ! はぁはぁ! よし!」
「「「そこまでするかぁ!!!!!!??????」」」
ああするね! お前ら男連中はこっちが痛がるのも無視して関節技で拘束し、マスターは意気揚々と人のプライベートに干渉し、何が何でも満足の行く答えを穿り出そうとする。オリビアは俺の恥辱にまみれた表情をガン見して愉悦に浸る。もう何度もこのパターンを繰り返した。そして知れ。いつまでも簡単に捕まってる俺じゃないと!!!
「あちゃー。あの距離、私の重力魔法のぎりぎり射程外よ。ほかの魔法はほんの少し詠唱時間が必要だから、その一瞬でレイちゃんは神隠しで姿を隠すでしょうね。アーチャー君の弓なら届くかもしれないけど、レイちゃんの反射神経と神速なら余裕で避けられる距離よね」
「……エリシアさんとキスをしたという事実確認のために、仲間を狙撃するなんて意味分からない事絶対しませんけど、確かに今のスピードを鑑みると、うん。難しいですよね。すごいなレイ、死線を潜る度に速くなってません?」
……たく、そもそもキスくらい普通にさせてくれよ。いや、待てよ? どうせもうばれてるんだから、いっそ開き直っちまえばいいのか。
「つーかそもそも! 何でいつもお前らに殴られたり関節技決められなきゃいけねーんだよ! 俺が好きな女と手を繋ごうがキスをしようが、俺の勝手だろうが! なんか文句あんのかよ! 報告義務でも存在するのかよ! 人の恋愛をネタに笑ってんじゃねぇよ!」
雪原に響く俺の怒声。
その声を聞いた仲間たちは、しーんと真顔でこちらを見てたかと思ったら、なんだかため息をつき始めた。
「なーんだ。開き直っちゃったよ……。恥ずかしがるから面白いのに」
「あーやだやだ。この分だと、そのうち俺らの目の前でほんとにキスとか見せつけ始めるぜ? 割とディープ気味で」
「やめてよグレン! 私のエリシアが汚されて行く所なんて見たくないわ!」
「マスター。ギルド内恋愛を禁止にしませんか?」
「えー? それはそれで面白みが無いのよねぇ。ただ、節度を守り、風紀を乱さぬよう心がけるよう促す決まりは必要になりそうね。昼間から暖炉の前でベロチューとかされたら、流石にお姉ちゃん、レイちゃんにゲンコツ入れちゃいそうだもん」
「セイラ、君の事だ。ゲンコツどころか極大攻撃魔法を放つだろ? っていうか、こらレイ! お前がカミングアウトするなよ! 俺焼かれ損じゃないか!」
「うるせぇ! テメェのおかげで二度もお預けになったんだよ! お前が聖夜祭でイタ電なんてしてこなかったらとっくに済ませてたっつーの!」
俺とロキの言葉の応酬に、騒ぎを聞きつけたエリシアが慌てて飛び出してくる。
「ちょっとレイ!!! あなたまで何を口走ってるのよ!?」
「うっさいど天然! 元はと言えばお前がシェリルと融合して俺をからかうからこうなったんだろうが!!!」
「あーーーー! またど天然って言ったーーー! それが恋人に対する態度なわけ!?」
「そーゆー言動が天然だつってんだよど天然! 誰もが思ってる事を口に出せねーから俺が恋人として口にしてやってるんですぅ! 感謝してもいいんだぜ? ど天然プリンセス!」
「い、言ったわねこのシャイシャイチキン! 鈍感魔王! 意地悪キング!」
「なんだその罵詈雑言! 語彙がキッズなんですけど!」
「れ、レイなんてど天然の一辺倒じゃない! オウムみたいにど天然ど天然って!」
「おーおー、それが俺の優しさだとなぜ分からない!? お前の最大の欠点を伏せてやっていたがそこまで言うなら仕方ない! 何でもかんでも、片っ端から食材を炭化させてんじゃねぇよダークマスター!」
「ひどい! レイと違って私は料理の経験なんてほとんど無いんだから仕方ないじゃない! そう! あなたがそのつもりなら、私も遠慮しないわ! レイこそ洗濯めちゃくちゃじゃない! この間だってウールのセーターをそのまま洗って縮めちゃうし、色物のシャツをあろうことか普通の漂白剤に漬けてダメにしたくせに! そして何度も言わせないで! ポケットにティッシュ入れたまま洗濯しないで!!! 靴下は丸めずちゃんと伸ばして洗濯機に入れて!!! 返り血を浴びたマントはちゃんと水洗いしてから洗濯機に入れて!!! お願いだからその他の洗濯物と返り血マントは別にして洗ってぇぇぇ!!!」
雪原に響くエリシアの強烈なシャウトが、グサリグサリと的確に俺の心臓を貫く。何も反論出来ず、俺は言葉に詰まる。
「……それは、正直すまんかった」
「……フンだ。知らないもん。私がレイの洗濯してあげてるのだって、あまりにも酷くて、見かねてやってあげてるんだからね? それなのにレイってば、『お、サンキュー』だけよね? 挙句の果てに、パンツまで私が洗ってるわよね?」
「え……。だってお前が怖い顔してこの際だから全部出せって言うから……」
「しょうがないでしょう!? レイ、ほっといたら1週間以上洗濯物溜め込むんだもの!」
「いや、だって俺の洗濯機大容量だし……」
「一人暮らしの男の人が5人家族用の洗濯機を買うのがおかしいの! 最初から溜め込む事前提で買い揃えてるじゃない! 服も下着も! しかも天気がいい日でも乾燥機使ってるし!」
さらにグサグサと刺さり続けるエリシアのお説教に、俺はいつしかぐぅの根も出ないほどに打ちのめされていた。
「……アレなんぞ? 痴話喧嘩?」
「っていうよりもう、夫婦喧嘩?」
「を、通り越してただのお説教じゃない?」
「あーあー雪の上に正座なんてさせたわよ? マスター、アレ絶対マスターの影響よね?」
「あははは、エリシアちゃんったら。流石は、私のかわいい愛弟子ね♡」
「すごいです。あの狂犬のレイさんが完全服従ですよ。尊敬します、エリシアさん!」
「……ほんと、大したもんだな。流石は世界の男を魅了する女性。エリシア=バレンタイン皇女だよ。……その皇女に洗濯させて、お説教されてって、俺の相棒は果報者だな」
「クスン。トーマス、見ていますか? あなたの孫があんな幸せなお説教をされているわよ? これからも、レイを見守ってあげてくださいね」
「いや、だからごめんて」
「いいえ! まだまだ言い足りません! この際だから、あなたの『彼女』として徹底的に言わせてもらいます! お覚悟を!」
「あ、謝ってる彼氏をいじめるなよ……」
「レイが始めた事でしょう? これからもずっと一緒に過ごす為にも、レイには徹底的に学んでもらう事にするわ。もう簡単に『ど天然』だなんて言わせないからね?」
そんなこんなで、色々あった今年が終わろうとしている。時間にしてたった3ヶ月ほどだというのに、エリシアと出会ってから、俺を取り巻く環境は一変してしまった。
けれど、こんなものはまだ始まりに過ぎなかったんだ。
今年という一年が終わろうとしていた今この時。
この国を取り巻く環境もまた、大きく動き出していたのだ……。




