―旧友―
「な、何……やってんだ馬鹿。どこの世界に……前線に出る指揮官が居るって言うんだ!……げほげほっ!」
「レイ、しっかり! 大丈夫、すぐに助けるからね。ひどい、これがソウルブレイカーの霊症っ! くっ……! 絶対に許さないんだから!」
エリシアは俺の言葉を無視し、傷だらけの俺の体に触れながら迫る敵を睨みつけていた。
「聞けよ、馬鹿! はぁはぁ、戦場指揮官のお前が前に出てどうするんだ阿呆! ぜぇぜぇ」
今度はエリシアは俺をじろりと睨み、呆れたようにため息をついた。
「……はぁ。あのねぇレイ? そんな死にかけの体で、何を偉そうにしているのかしら?
まんまと敵の罠に引っかかっちゃったのは、レイでしょう? 通信が切れる以前から、レイは私の声なんて聞いてなかったわ。この事は、あとでちゃーんと責任追及するからそのつもりで居てね?
私ね、怒ってるの。過去最高に怒ってるの。激オコです。
私を無視したレイにも、そして……。自分達がレイにしたことを棚にあげ、なんでもかんでも、自分の身に起きた不幸はレイのせいだと決めつけ、生きることを諦めて、レイを道連れにするあの人がどうしても許せないの!!!
ふざけるのも大概にしなさい! 何が復讐よ! そんな薄っぺらい恨みで、私のレイをよくもこんなに苦しめて!
あなたのやってる事は復讐なんて大それたものじゃないわ、ただの八つ当たり!!!
甘えてるのよ! 依存しきってるのよ! だから縋る物が無くなってしまった時、自立して生きていくことも出来ないのよ!
本当に、最低、最悪、そして醜悪だわ!
あなたに比べたら、レイの方がずっとずっと辛い思いをしてきたもの!
そんな事だから、そんな呪いの武具なんかに頼らないと、レイに勝てないのよ!
身の程を弁えなさい下郎! その汚い手で、私のレイに触れないで!!!」
「…………」
開いた口が塞がらないとは、たぶんこういう状況のことを言うのだろう。
エリシアのあまりの剣幕に、手負いとはいえ、理性を失ったはずのイーサンまでもが気圧され、通信回線を通じて、エリシアの魂のシャウトを聞いてしまっているメンバーも、押し黙るしかなかった。
念のためもう一度確認しておこう。
通信回線は、全体に対して開かれている。エリシアのこの魂のシャウトは、エアリアルウィングメンバー、および屋敷の中に居る連中、全ての人間にダダ漏れである。
『え、えとー。エリシアちゃん? あのー、非常に盛り上がってるところ、大変恐縮なのですけれど、エリシアちゃんとレイちゃんの今後のためにも、一応通信回線はこちらでオフにするからね? 連絡が必要なら、その都度オンにする事を忘れないでね? じゃ、じゃあごゆっくり~……あと、油断せず気をつけてネ……ホントに、ホントに……』
マスターの戸惑い気味の通信が聞こえ、回線がオフになった途端に、耳の先まで顔を真っ赤に染め上げるエリシア。そして彼女は、ボロボロになっている俺を、何故か涙目でキッと睨みつけた。
「いや、俺を睨んでもしょうがないだろう……って、おい後ろ!」
相手への注意がおろそかになったエリシアに、イーサンが迫る。俺は立ち上がろうと両足に力を篭めるが、立ち上がれずに再び雪に埋もれ、歯を食いしばりながら、イフリートに残りカスみたいな魔力を注ぐ。
しかし、やはり燃料不足。炎と呼べるような火力は生まれずに、イーサンの体に火が付いた程度の燃焼が起こるばかりだった。万事休すかと思われたその瞬間だ。
「シェリル、お願い」
エリシアの呼び声に応じ、瞬時に巨大化したシェリルが姿を現し、イーサンに向かってその口を大きく開き、雄叫びと共に閃光のような光の魔力を開放した。その閃光と、聖なる魔力の奔流の前に、闇の魔物へと変貌したイーサンは、成す術無く後退する。
そして、すかさずエリシアは腰のイリスを引き抜き、追撃するようにイーサンへと向けた。
「光よ。聖なる裁きの剣よ。現臨しかの者を貫き、封じよ。シャイニングソード!」
エリシアが詠唱すると、光の剣のような魔法がイリスから放たれ、イーサンを貫き、後方の大木まで吹き飛ばしてそのまま磔にした。
「ギィィィィィィィ!? グギャギャギィィィィィィィィィ!!! キシャアアアアア!!!」
人の言葉を失い、もがきながらこちらへと手を伸ばし続けるイーサン。どうやらあの光の剣の魔法は、身体的ダメージを与える物ではないらしい。だが、奴をあの場に貼り付けにすることが可能だという事は、封印や結界術の類と言う事になるのだろう。
「ねぇレイ。私が何も勝算無しにこんなところに出てくる愚か者に見える? チェスは時として、必要であればキングで敵の駒を倒す局面も出てくるわ。もちろん、そんな状況に持ち込まないに越した事はあるけれどもね。ねぇ、レイ。敵はあなたの対策をあれだけ練っているのよ? それでもあなたを殺しきれなかった。これはもう、あなたの勝利で良いと思うわ。だから、後は任せて? あの人の相手は、私、ううん。私達こそ相応しい。そうでしょう? シェリル!」
「ガウ……」
シェリルは体を小さくして、エリシアの足元で魔力を解放し、エリシアはシェリルへとイリスを向けた。
「いくわよ、シェリル! 汝、我が身に宿り給え! 我は精霊の巫女、汝とともに悪しき力を打ち砕く者なり!」
エリシアの詠唱と、魔力の開放と共にシェリルは光の粒となり、エリシアと融合した。エリシアの体には、シェリルの耳、そして尻尾が姿を現す。
「……よくも私の森で、私のレイに好き勝手やってくれたわね、汚らわしきモノよ。
まずは、その闇に隠れている心を、強制的に引きずり出してあげる。
正気を失ったまま、何が何だかわからないまま死ねると思わないでね?
そんな都合の良い事、私が許さない。恐怖に震えなさい、哀れな道化師よ。狼は、縄張りを荒らされる事を最も嫌い、侵入者、侵略者を絶対に許さず、徹底的に追い詰める。
容赦はしない、せいぜい貴方の神に祈り、懺悔を捧げなさい。それくらいは許してあげるわ。……さぁ、目を覚ましなさい! 『ライトニングディスペル』!!!」
イリスから放たれる光の波動。まるでこびり付いた泥が高圧洗浄機で洗い流されるように、イーサンの体が、元の人間の姿へと戻っていく。
「……な、何が起こった!? 僕はなんで生きてるんだ!? レイ、クリスは死んだのか!? なんだこの封印魔法は!? くっ! 抜けない!? くっそ! 一体どうなっているんだ!?」
「残念だったわね、イーサン=ハモンド。貴方の企みは失敗よ。あなたは時間をかけすぎた。レイを無駄にいたぶり過ぎたの。まぁ、そのおかげで、私たちはレイを救出することが出来たのだけれどね。感謝するわ、その愚かさに」
「……そんな、そんな馬鹿な! お前は、黒薔薇の魔女なのか!? 嘘だ! 死んだはずだ! あの日、あの断頭台でお前は死んだはずなんだ! 正義はなされたんだ!」
エリシアの目つきが変わった。 眉をひそめ、不快感を隠そうとしない。
「私は、エリシア=バレンタインよ。この姿、この力は、この森の守り神と崇められる狼の精霊、ダイアウルフの力を借りている姿。つまり、精霊と同化した姿ね。
この姿をスキラさんと間違えてしまうのは無理もないかもしれないけれど、その怯えよう……。よっぽど怖いのね、スキラさんが。
ああ、もしかしたら、私の正体を隠すジャミング魔法が、スキラさんの姿に見せているのかもしれないわね。
困ったわね、イーサン。貴方にとってはきっと、スキラさんが復讐しに来た様に映るのでしょうね。
きっと足が震えるくらい怖がってるわよね。ちょっとスキラさんに申し訳無いわ。女性として、大の大人の男性に怖がられるなんて、きっと心外でしょうからね」
エリシアの挑発的な態度に、イーサンもまた不快感を露わにして、髪の毛をかきむしり始めた。そしてその瞳孔が開ききった血眼で、彼女の姿を見据えた。
「は、ははは。これはこれはエリシア皇女。お会いできて幸栄ですってね。こうやって二人並べてみると、ほんと、なんて醜悪なカップルなんだろうね。
片や呪いと不幸をまき散らす、異種族贔屓の殺人鬼。
片やその美貌から暴君に見初められ、奴の子を孕みたくない一心で、幾万の人間の犠牲を払い国を捨てた元皇女。
なぁレイぃ? お前がこの女をこの国に連れてこなかったら、アルデバランの禿野郎がヴァンパイアブラッドなんて使うことなかったんじゃないの? そこんとこどうなんです? エリシア皇女。
あんたが黙ってあのアルデバランの女になってれば、あんたの所の国民の何人が死なずに済みましたよね? メアリーはあんな醜悪な化け物にならずに済んだんじゃないんですかぁ? お腹の子は? 僕の子供は、ちゃんと生まれることができたんじゃないんですかぁ?
ねぇ、そうだろう? そもそもそんな悪い話じゃないと思うけどねぇ?
アイツ、何人女を囲ってるよ? ええ? 週に一回とか、最悪月とか年に一回だけ相手にする女だって居るって聞くよ? 国の安全は保障されて、下手な政治ではあるが、命は守られる。最低限度の生活は保証される。
そもそも王族の端くれとして、最後の責任を全うせずに国を投げ出し、一介の冒険者との恋に溺れるだなんて、犠牲になった国民が見たら何を思うだろうねぇ!? アハハハハハハハハハハハ!!!」
エリシアの心を抉るような言葉に、怒りを露にするエリシアが反論しようとするが、俺はエリシアを後ろから抱きしめ、その口を手でふさいでやり、耳元で囁く。
「エリシア、ダメだ。お前はアイツと口を聞くな。あの馬鹿の声に耳を傾けるな。
アレは汚物だ。塵芥だ。俺の声だけ聞いてろ。
お前は何も間違っちゃ居ない。お前はずっと、祖国を思ってる。お前が真っ先に自分から犠牲になろうとしたのを、俺が救い出した。そしてそれは、アリシア様がそうして欲しいと願い、その願いを、命を賭してディムルット爺さんが俺達に伝えたからだ。そしてお前を守った騎士達も、きっとそれを望んだ。
国は必ず、ロキが、俺の親友が絶対に取り戻してくれる。俺も必要ならば尽力する。お前は悪くないよ。お前は、心配になるくらいお人好しだ。誰がどう思おうと、皆は知ってる。俺が知ってる。ずっと見ている。証明してやったって良い。それで十分だろ?」
俺の声が届いたのか、エリシアは抱きしめる俺の腕に手を添えて、口を塞いだ手を握った。
「……うん、ありがとうレイ。大丈夫だよ、でも、もう少し支えててね。ごめんね、助けに来たのに、助けられちゃった。でも、もう大丈夫だから。私が、貴方を守って見せるから! 」
エリシアはイリスを握り締め、顔の前で剣に祈りを捧げるように、ゆっくりと詠唱を始めた。
「何の魔法だか知らないけどさぁ、簡単に魔法なんて唱えさせるわけ無いだろう!? こんな封印術、」
無防備のエリシアに襲い掛かろうとするイーサン。俺はエリシアの前に立ち、彼女を守ろうと剣を構える。が、その時だった。森の四方から狼達が飛び出してきて、イーサンに一斉に襲い掛かった。イーサンは驚き、剣を振り回すが、体の割には素早い狼達に翻弄され、所々噛まれたり、その体躯で体当たりを食らわされて、地面に膝を着いてしまう。
ソウルブレイカーの力を失ったイーサンには、この森に住まうバーバリィウルフの獰猛さと狡猾さは、まさに脅威だったようだ。そして、エリシアには大魔法を発動するだけの時間を稼ぐ事が出来た。
「悪しき者よ、退きなさい! 我が結界は悪しき者を許さず、穢れを拒む! 我、ここに聖なる守り手とならん! 絶対聖域結界!」
エリシアの詠唱と共に、足元に真っ白な光り輝く魔方陣が展開され、俺とエリシアをキューブ状の結界が包み込んだ。
「ありがとう、私の可愛い眷属達よ。助かったわ。……さて、イーサン。準備は整ったわ。これで私の勝利は確定事項となったわ。もうあなたは、私達に危害を加えるどころか、指一本触れることが出来なくなったわ。あとは終らせるだけよ。ねぇ、気付いている? 貴方の正気は取り戻してあげたけれど、貴方の肉体はもう、既に死亡しているわ。今、あなたは魂が辛うじて定着しているゾンビに他ならない」
エリシアの、感情のない声で放つ冷たい宣告を受けても、イーサンは顔色一つ変えることなく、ゆらりと立ち上がり、ソウルブレイカーに魔力、いいや、自らの怨念を注ぎ込み、再び右腕から剣に食われていく。
「だからなんだよ? あ? こんな命はもう既に捨てた命だよ。何度でも捨ててやるよぉ! クリス、お前を道連れに出来るならなぁ!!! うああああああああああああああああ!!!!!!!!」
剣を振り上げ、俺に切りかかろうとするイーサンを結界が拒絶する。バチバチと電流のような火花を散らし、イーサンを領域内へ侵入させぬように阻み続ける。それでも無理矢理侵入しようとするイーサンの体は、徐々にその結界に焼かれ、煙を上げながら消滅していく。だが、そんな状態だと言うのに、自分が消滅していると言うのに、イーサンはその狂気に満ちた目で、俺達を睨みつけ続けた。
「……哀れね、イーサン。確かに貴方には同情する余地はあったわ。
けれど、あなたは諦めてしまった。何から何までレイのせいにして、悲しみを乗り越え、生きることを放棄してしまった。
人が皆、強い魂を持って生まれてくるわけじゃない。死を選んでしまう、死に救いを求めてしまう人を、否定する事はできないけれど、その結論に至る事は、本当に寂しい事だと思うわ。
……わたしも、レイに会えなかったら、選んでいたかもしれない。レイが居なくなっちゃったら、選んでしまうかもしれない。
……だから、ごめんなさいね。貴方にレイは渡せない。光よ、母なる光よ。彷徨える魂に、聖なる導きを。『ライトニングエクソシズム』」
エリシアが呪文を詠唱すると、エリシアの手のひらが黄金色の光を発し、その光の波動をイーサンに向けた途端。イーサンの体が、ボロボロと灰に変わり、瓦解していく。
「……ひ、ひひひひっ。消えるのか、僕は。残念だよ、クリス。この手でお前を道連れに出来ないのが非常に残念だ。先に地獄で待ってるよ、クリス。はやくお前も来てくれよな? どうせ二人仲良く堕ちて来るんだろう? 精々、人々の命を踏み固めて歩むその人生を謳歌するがいい。その行き着く先は、僕と同じ場所……。ひひひ、また会おう。憎き旧友……よ」
最後の最後、頭だけになっても俺を呪いながら灰になったイーサンを、吹雪が雪と共に彼方へと運んでいく。俺とエリシアの心にも、灰の煮汁を口に含ませられたような、最悪の後味を残して、イーサン=ハモンドは消滅した。
そして、淡い光に包まれ、エリシアは元の姿へと戻り、シェリルは手のひらサイズまで小さくなり、エリシアの手のひらの上でくてっと脱力してしまっている。
「お疲れ様、シェリル。ごめんね、殆ど貴女に頑張らせちゃったね。ありがとうシェリル。でも、……ほんっと、良い性格してるわね! 最後の最後まで負け惜しみのオンパレード! なんて迷惑な奴なのかしら。何が旧友よ! 自分だってレイの事を友達だなんて思ってないくせに! レイが貴方みたいな人間性の捻じ曲がった下郎と友達な訳が無いじゃない! 本当に、本当に不愉快だわ! やっぱり一発直接ひっぱたいてやるべきだった!」
イーサンの灰を吹雪が運んでいく中。アギトル教のクロスが模られた、壊れたロケットペンダントが雪の上に残され、イーサンの血で汚れてしまった女性の写真が、顔を覗かせていた。
俺はそのペンダントを拾い上げ、こびり付いた血と、雪を払いのける。
この写真の女性が、恐らくメアリーなのだろう。
……ああ、思い出した。確かにメアリーだ。
いつも、小麦粉で手を真っ白に染めていたメアリーだ。
……唯一、薔薇の被害者とは無関係だったおかげか、俺を魔女の息子と罵る事がなかった女の子だ。メアリーは、こんな俺にも親切にしてくれた。周りの子供達が、やめなよと止めても、彼女は俺にも平等に接してくれた。
だが、俺は……。そんな彼女に、人間なんて皆一緒だと、何も悪くない彼女に、冷たく接していた。彼女が焼いたパンを食べても、美味いだとか、ありがとうとか、言わなきゃいけない当然の言葉も言わなかった。……やっと感謝を口にしたときも、いい子のフリをするための演技だった。
それでも、彼女は嬉しそうに笑っていた。
そうして、そんな彼女を。新しい命をその身に宿した彼女を。助からない命とわかっていても、俺は……。『魔物』として認識し、ただただ、斬り捨てたのだろう。
感染者となってしまった彼女の顔を、今なら鮮明に思い出せるが、どうやって倒したのか、思い出すことが出来ない。
お前の言うとおりだよ、イーサン。俺は、自分で自分が許せない。自分に吐き気がするほど、自分が嫌いだよ。そんな俺は、幸せになりたいだなんて口にするどころか、思う事すらおこがましいのかも知れない。人を愛する資格がないのかもしれない。誰かを守るだなんて、口にするべきじゃないのかもしれない。それでも、約束しちまったんだ。
『こちらジーク。屋敷の周りに敵性反応なし。そしてどうやら、今更正規軍のご到着だ。戦闘不能にした敵は全て屋敷の前に縛って、応急処置は施してあるから、あとは突き出すだけだ。皆、お疲れ様。レイ、グレン、オリビア、遅くなってすまなかったな。レイ、ちゃんと生きてる?』
『ああそうだ! おいレイ! グレンだ! お前なに無茶してんだよ! あれほど、殺すくらいなら何人かこっちに流せつったじゃあねぇか! このグレン様があの程度の輩に遅れを取るとでも思ったのか!? まんまと罠に嵌りやがって! テメー少しは仲間を信頼しやがれ!』
『グレンうるさーい。全体じゃなくて個人的にやってくれるぅ? そもそも別にぃ、あんた達脳筋戦隊馬鹿レンジャーが暴れなくたって、この天才魔道士オリビア様が本気出せば、こんな奴ら3秒で終るわよ。何度あんた達ごと氷付けにしてやろうかと思ったかわかったもんじゃないわ? ねぇ聞いてるのレイ。……無事なんでしょう? 返事くらいしなさいよ』
『全くだよ。やれやれ、相変わらず『汚れ仕事は俺の仕事だ』だなんて息巻いて、自分を見失うくらい暴れまくったんだろうけどさ、もうそういうのやめにしなよ、レイ。君はもう、一人じゃないんだよ? 何より、それを望まない人が君の傍に居るんだろう? 後でみんなでお説教だね』
『こちら、イリーナです! レイさんレイさん、おいしそうなアップルパイが焼けてますよ! 紅茶も淹れました! 早く帰って来てくださいね。あと、治療の準備もばっちりです! 今回ばかりは、エリシアさんもお疲れですから、私が担当しますからね!?』
『こーら、レイちゃん! 皆心配してるわよ? 返事しなさーい。あと、ありがとう。お疲れ様』
「……ほら、皆呼んでるよ? 皆待ってるよ? 帰ろっ! レイ!」
ああ、そうだ。それでも俺は、生きなきゃいけないんだ。どんなに後ろめたくとも。どんなに血に塗れても。その先を信じたいって思えたから……。スキラと、約束したんだ。生きるって。誰かを照らす光になると。そしてこの誓いを、絶対に違えないと。
「……こちらレイ=ブレイズ。これより、帰還する」
だから今はまだ、死んでやれないんだ。せめて君の眠りが、安らかであらんことを。旧友よ……。
えー。大分更新が遅れてしまいました。楽しみにしてくださった皆様、本当に申し訳ありません。いつもありがとうございます。さて、次回は再び番外編を掲載して行きたいと思います。さるお方からのリクエストにより作成したエピソードなのですが、一部ファンの方々には優先的に掲載していた物になります。え、贔屓? ファンサービスと言っていただきたい(`・ω・´)キリッ ありがとうございました!




