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Aerial Wing -ある暗殺者の物語-  作者: ちゃーりー
狙われたエアリアルウィング
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―怨念Ⅱー



「うああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

「あはははははははははは! 見える、見えるよレイ。お前の体から、幻の炎が燃え盛り、お前を焼いている姿が、僕の目にも見えるよ! そうだよ、わかるだろう? お前が殺した人間の記憶だよ。お前がお前のエゴで苦しめて殺した人間の、最期の瞬間の記憶だよぉ! なぁ? どんな気分? 生きたまま焼かれるってどんな気分? ねぇ、止めて欲しい? 助けて欲しい? なぁなぁ、何か言ってくれよぉ? 友達だろぉ? レイぃぃぃ。アハハハハハハハハ!!! 最高だ、最高だよその惨めな姿!!!」


 熱い。……熱い熱い熱い!!! これも幻だって言うのかよ! 剣で執拗に穿り回されている肩の痛みを忘れるほど、気が狂うほどの炎。くっそ、これで死ねないだなんて、よっぽど地獄じゃないか……。


「熱いだろう? 苦しいだろう? お前が殺した人間はその倍は苦しんで死んだんだろうねぇ。そうやって、お前が殺してきた人間の苦しみを味わいながら死ねば良いさ。悪魔に相応しい死に方だよ。ほら、懺悔しなよ。死ぬ前に、殺して来た連中に泣いて詫びろよ。ごめんなさい、俺が悪かったですって言えよ。言ってくれよ。なぁ? 謝れよ、謝れって、言ってるだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「うああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 全身を耐え難い衝撃と、熱が襲い、四肢が吹き飛ぶような痛みに、俺はその場に崩れ落ち、全身がガクガクと震えだす。これは、先ほど爆弾で吹き飛ばした奴らの、死の記憶だろうか。意識を保っているのが不思議なくらいだ。


「あははははは、本当に無様だなぁレイぃ。大丈夫? 失禁なんてしてない? あ、寧ろちゃんと生きてるぅ? 少しは悪いって思った? お前が殺してきた人間に対して、申し訳ないって思えてきた? 思ってくれなきゃ困るなぁ? わざわざ、殺さない程度の幻に抑えて、お前の罪を一つ一つ理解できるように調節してあげてるんだぜ? 理解してくれないと、僕の苦労が水の泡じゃないか。そう思うだろう? なぁ、詫びろよ。ごめんなさいって言えよ、命乞いをしてみせてくれよ。もう許してください、助けてください、いっそ殺してくださいって言ってみろよ! なぁ!? アハハハハハ……は?」


俺は、イーサンの脳天にシルフィードを突き刺し、イフリートでその腹を貫いていた。


「……詫びるだぁ? 寝言は死んで言え。ハァハァ……。これからだって何人もぶっ殺してやるよ。


ロキを、俺の親友を嗤う奴、貶める奴は許さない。ぶっ殺す。


マスターを、姉さんを殺そうとする奴は許さない。ぶっ殺す。


生まれてくる子供、二人の子供、この国の未来の希望、俺の新しい家族を奪う奴は許さない。ぶっ殺す。


ついでにエアリアルウィングの仲間達に手を出そうとする奴もぶっ殺してやるよ。


だがなぁ、絶対に許せないのは、エリシアを、俺の誰よりも、自分の命なんかよりも大切なあいつに、危害を加えようとする奴だ!!!


俺からあいつを奪おうとする奴。あいつを泣かす奴は、絶対に許さない。


あいつに危害を加えようとした事、俺を敵に回したこと、生まれて来た事、全てを後悔させて、ぶっ殺してやる!!!


俺は悪魔で構わない。ゼェゼェ……。後悔しろ、テメェが相手にしてるのは、正真正銘、本物のイカレたバケモノだよ。ああ、ちゃんと自覚してるし、理解してるよ。自分の壊れっぷりはなぁ!!!」


俺は左右の剣に魔力を注ぎ、風と炎を纏わせながら、型や流派なんてもの関係無しに、ただ只管ひたすらに、滅茶苦茶に剣を振るう。


そして襲ってくる、四肢を切られたような、鋭い痛み。そして、一瞬の間をおいて、体の中から破裂するような、感じたことも無い衝撃と痛み。流石に意識が飛びそうになるが、怒りが俺の意識を飛ばさず、踏み止めさせる。


 「ぬああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


痛かろうが、熱かろうが、苦しかろうが、死なないと言うのなら、それで構わない! 俺が死ぬ前にコイツを殺すまでだ!!!


乱舞ならぬ狂舞の前に、イーサンはぼろ雑巾のような姿へと変わり、純白の雪を黒く染め上げた血だまりへと崩れ落ちた。


「はぁはぁ、ぜぇはぁ、げっほ、げほげほ。はぁはぁ、おぇ……」


 俺は無様に四つんばいになりながら、胃の中のものを全て吐き出してしまう。魔力も、体力も、精神力も現界だ。


だが、この程度じゃイーサンを殺せない。ソウルブレイカー。あれを破壊しないと、イーサンは復活してしまう。しかし、こんな状態で、あの剣に触れたら、今度こそ死ぬかもしれない。


「ふひっ。ふひひひひひひひあははははははははは! ヒャハハハハハハハハハハ!!! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ! わっかんないかなぁ? 幾らこの身を切り裂いたところで、僕はもう死ねないんだよ? あア、でも僕ノりせーモ限界らしぃナァ。ブヒッヒー。れい、一緒ニじごくいこーね♪ 嗚呼キモチィ。アハハハきもちぃよぉ? なんかすごくふわふわするんだぁ♡ ウヘヘヘヘ……ああ、だめだ。このままじゃお前を殺せないかもしれない。だから最期に、確実にお前を殺せるようにならないと。ソウルブレイカーよ、レイ=ブレイズを殺せ。我が魂を喰らうがいい。レイ=ブレイズに死と呪いあれ!!! 『狂い裂きジャンク・ザ道化師・リッパー』!!!!!!」


 イーサンがその言葉を唱えた瞬間だった。奴のボロボロになった鎧が、内側から何かに貫かれ、破裂するように飛散した。貫いたのは、刃だった。イーサンの体から、鈍く光る大小さまざまな刃が、無数に生えているのだ。その姿はまるで……。


「血吸いの……黒薔薇っ!」


 ヤマアラシのように、体中から刃を棘のように生やし、一歩歩くたびに、耳障りな金属音をガシャガシャと鳴らしながら、瘴気をばら撒き、こちらへと近づいてくるイーサンだったモノ。


「ギャハハハハハハ!!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺すぅぅぅぅぅぅ!!! ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」



 それは、まさに黒薔薇に侵され、理性を失い、犠牲者を増やし続ける黒薔薇の感染者そのものだった。


「……なんて、皮肉な姿になりやがる。はぁはぁ、なぁイーサン。自分の姿、どうなってるかわかるかよ? なぁ。あまりにも哀れで、ざまぁみろだなんて残酷な事を言えないくらいひでぇ姿になっちまってるぞ、イーサン!!!」


 イーサンは赤く光る目を見開き、こちらへと飛び掛ってくる。俺は鉛のように重くなった体に鞭を打ち、何とか転がりながら攻撃を回避するが、イーサンの全身から邪気が迸り、四方八方へと拡散する。俺は迫る邪気をシルフィードで振り払うが、今のでシルフィードに塗った聖水の効力は失われてしまっただろう。


「ギヒヒヒヒヒヒヒヒ、フヒャハハハハハハハハハ!!!」

「くっそ。あの刃全部がソウルブレイカーなのかよ……」


 奴が再び、俺目掛けて突進してくる。周辺の木々を切断し、気持ちの悪い笑い声を上げながら、俺だけに真っ直ぐ突っ込んできやがる。


いよいよ追い詰められている俺は、残りの聖水をダメモトですべて顔面にぶちまけてやった。途端に、ジュゥゥゥゥゥという水分が沸騰する音と共に、イーサンは顔面を両手で覆い、刃で傷つけながら絶叫した。


「ギュアアアアアアアアアアアアアアアア!?」


 酷く耳障りな悲鳴を上げなら、もがき苦しむイーサン。その隙に、俺は何とか木にすがり付きながら立ち上がり、肩で息をした。


「……はぁはぁ。手詰まりかよクソが。魔力も空、剣を交える事もできない上に、殺し方もあんな状態じゃわからない。例え頭からアイツを真っ二つに切り裂けたとして、本当にそれであいつが死ぬのか? やべぇな、意識だってとびかけだっつーのに……はぁはぁ」


 意識だけじゃない。体が何か見えないものに押しつぶされそうだ。いっそ楽になっちまいたい。くっそ、違うだろ。この程度で死んでられないだろう? 何か、何か手は無いのか……。


「ぐるるるるるるるるぅぅぅぅぅぅ!!!」


 焼け爛れた顔を歪ませ、イーサンだったモノが俺への敵意を再び露にする。俺は歯を食いしばり、剣を構え、意識を集中する。もう、覚悟を決めて戦うしかない。やつのあの刃と刃の隙間を縫うように、シルフィードで首を切り落とし、右腕をイフリートで切り落とし、ソウルブレイカーを体から切り離すしかない。それで倒せるかわからないが、何もしないまま、ここで死ぬわけにもいかないだろう。


「ぬぐぃィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!」


 殆ど獣のような動きで俺に飛び掛ってくるイーサンだったモノ。俺は剣を振るうべく、腕に力を篭める。


が、急に胸を貫かれたような痛みが襲い、俺はその場へと崩れ落ちた。


何時放たれたのだろう。俺の背後を死霊が貫き、俺が背中からナイフを突き刺し、命を奪った男の幻覚を見せたのだ。


「ヒャハハハハハハハハ!!!!!!」


 ……ああ、だめだ。これは流石に死んだ。まともに立ち上がれもしない。


『ザシュッ……』


 体に、刃が深く深く突き刺さる、不快な音。





「だからさぁ……。囀るなって、言ってんだよ。ごほっ……」


 俺は、投げていた。シルフィードを投げたのだ。自分の往生際の悪さに、思わず笑みがこぼれてしまう。


シルフィードはイーサンの体を貫き、イーサンはそのまま倒れ、地面へと磔にされたのだ。だが俺も、その場に倒れ、指一本動かせなくなる。


途端に、吹雪が辺りに吹き荒れ始め、俺のなけなしの体温を奪っていく。


寒い。あれだけ熱かったのに、今度はこれかよ……。泣きっ面に蜂ってのはこういうことか? やべぇ、ホントに死ぬ……。


「ぐぎ、ぐぎぎぎぎぎぎぎ……」

「っ!? ……イーサン!」


 シルフィードを、無理矢理引き抜いたのだろう。その体の中心から、黒い粘着質の血液のようなものを垂れ流し、俺を見下ろし、剣を振り上げるイーサンが目に入る。


このまま放って置かれても死ぬだろうに。そんな姿になってまで、本当にご苦労なこった。


「へ……へへへ。そうまでして俺を殺したいか。生憎だったな、俺にはもう一本、イフリートが残ってるんだよ。次は頭をぶち抜いてやる。ごほごほっ……。死んでもテメェにだけは殺されてやらねぇよ、雑魚モブ野郎」

「キシャアアアアアアアアアアア!!!」


 イーサンが断末魔のような叫び声を上げ、剣を振り下ろそうと迫り、俺がイフリートを奴の顔面へと投擲しようとした、その瞬間だった。


夜空がカッと青白く光り、雷鳴を轟かせ、一筋の光がイーサンへと真っ直ぐと落ちてきたのだ。


「ギィエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!???」

「落……雷? いや、これはまさか……」


『こちらアーチャー。結界の解除を完了。ターゲットと思しき……なんだろう? 体中から剣を生やしたバケモノをついでに狙撃したよ。……近くに、レイが倒れてる。生きてはいるみたいだけど、バイタルサインも非常に危険な状態だ。なんなんだよこれ、見た感じ殆ど外傷は無いのに、メチャメチャ衰弱してる。あいつは一体何をしたんだ!? すぐにレイを救出したほうがいい! ジーク、すぐに着陸して、レイを回収しよう! このままじゃレイ、本当に死んじゃうよ!』

『了解です、アーチャーさん。ですが、グレンさんの援護をよろしくお願いします。レイのほうは、私が何とかします。現在、敵の主力と思われる部隊が、グレンさんへと集中しています。ジークさん、アーチャーさん、直ちにグレンさんに合流し、敵を殲滅してください』

『ちょ、マジで言ってる!? 本当に大丈夫なのか!? エリシアちゃん! 俺が見ても、あのバケモノも、レイの状態も相当やばいよ? ティアマトの全力のブレスなら跡形もなく吹き飛ばせそうな気もするけど、何よりやばいのはレイだ! あんな衰弱しきってるレイ見たこと無いよ! あれをあのバケモノがやったとしたら、相当危険だぞ! っておいおい、何の冗談だよ。嘘だろ? エリシアちゃん、なにやってんだよ! そこで一体何をしてるんだ!?』


 アーチャー、ジーク……。そうか、吹雪が吹いてるのは、結界が消えたからか……。でも、何、言ってるんだ? エリシアは。 エリシアの言っていることが、よくわからない……。ジークが慌てている理由も、理解できない。一体何が起こってるって言うんだ?


「……大丈夫です。今、レイを見つけました。……それに、この魔物は、私自身、どうしても許せないんです。マスター風に言うなれば、この大馬鹿者には特大級のお灸を据えてあげないと、気が済まないんです。この、私自身の手で!!!」


 目を疑った。


 だって、目の前に、のこのこと俺の前にやってきたんだぜ?


 本来、絶対に前に出てはいけない立場のアイツが。


 絶対に俺より前に立たせてはいけないアイツが。


 俺の前に、アイツは仁王立ちしやがったんだ。


「……よくも、よくも私のレイにこんなヒドイ事をしてくれたわね。……絶対に許さない。イーサン=ハモンド、あなたは私が、このエリシア=バレンタインが私自らの手で裁きます! その腐りきった性根、私が叩き直して上げるわ!!!」




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