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Aerial Wing -ある暗殺者の物語-  作者: ちゃーりー
狙われたエアリアルウィング
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―交戦Ⅲ―


『……こちらアルファ1、アルファ2、3、4の殉職を確認。……なお、現時点を持って自爆装置を無効化する。……ただし、あの薄汚いゼクスの飼い犬だけは絶対に殺せ!!!』


 雪に埋もれている通信機から、そんなくだらない命令が聞こえてきて、俺はその通信機を拾い上げた。


「あーあーあー。こちら薄汚いゼクスの飼い犬。能無し暗部のクズ共に告ぐ。今ならまだ許してやる。帰って胃袋に入れたままの爆弾ゲロって寝ろよ。ああそれと、ペテルの爺は既に死んだ。嘘だと思うなら確認してみろよ。これ以上やろうってんなら、テメェら全員皆殺しにしてやるよ。幸い、許可は下りてるからな。殺し放題とは、ゼクス隊長も気前が良いと思わないか? しかもどんな手段を使ってもいいと来たもんだ。だが、うちのマスターは流血を望んでいない。念の為にもう一度言ってやる。最後のチャンスだ。退け、これ以上は無意味だ」


 俺の降伏勧告に反応したのは、恐らく隊長格だろう。


『……なるほど。よく分かったよ、レイ=ブレイズ。お前が一切、我々の事を理解していないという事がな!!!


 いいか? 良く聞け。そもそも我々は、ペテルギース殿に賛同して集まった者達だ。


王族の血を尊び、太古より王家を影から支えてきた。それが我ら暗部。ペテル殿はその纏め役だった。


ロキウス王が、前王ルキフィス王を謀殺してからと言うもの、この国は狂ってしまった。それもこれも、全て穢れた混血の売女の入れ知恵のせいだ。


何が異種族との共存だ。我々の先祖が異種族にどれだけ苦しめられたことか!


 我等が先祖の幾千幾万という犠牲が、今日に至るまでのレオニードの繁栄を守って来た! 我らレオニード国民は、他の異種族や異民から一線を画されて然るべきなのだ!


 それをあの暗君は、簡単に領土を明け渡し、あまつさえあの混血の売女まで孕ませた! 誇り高きレオニード王家の血に穢れた血を混ぜるなど言語道断である!


 しかし、あんな暗君でも王は王。レオニードの血を絶やすわけには行かん。ならば、売女に消えてもらう他にないだろう?


 ……しかし、こちらも交渉に応じないわけではない。お前たちエアリアルウィングは、エリシア皇女を匿っているな。アレももはや廃れた一族とはいえ皇族の血を引く女だ。母体としては申し分ない。なぁに、悪い話じゃないだろう?


 アルデバランに引き渡すくらいなら、あの暗君に形だけの婚姻を結ばせ、跡継ぎを産ませればいい。


 その後はお前らの好きにするがいいさ。スワッピングでも何でも好きなようにやれ。


 但し、今セイラ=リーゼリットの腹の中の子供には死んでもらう。どうだ? 互いの利益は守られるだろう?』


 なんだその吐き気すら覚える提案は。つまりこいつらは、ロキもマスターもエリシアも、人として見ちゃいない。ああ、良かった。本当に良かった。この通信をあの3人が聞いていなくて良かった。だから俺も、思う存分思いの丈を述べる事が出来る。


「……その声、聞き覚えがある。暗部総隊長様直々のお出ましとは恐れ入ったよ。


 お前の要求はよく分かったが、その1ヶ月熟成した人糞みたいな提案を紙面で送ってくれ。後日、ウチの武道家のズリセンの後処理で使って返してやるよ。


 喜べ。お前らは皆殺し決定だ。一人足りとも許さない。俺の思いつく最悪の殺し方で、一人ひとり、確実に苦しめて殺してやる。


 特にテメェだよ、無能隊長。ロキウス王、マスター、そしてエリシアまで侮辱しやがったな。


 お前は特別だ。拷問並みに苦しめてからテメェの首を跳ね飛ばし、雌豚の小便を満遍なくぶっかけて、豚のオ●ホールにしてやる。その死すら屈辱にまみれた物にしてやる。


 ああそうだ。それを動画にしてペテルのクソ爺に賛同した貴族連中全員に送りつけてみるのも悪くない。


 おいどうした? お前のクソッタレなブラックジョークに付き合って返してやってるんだよ。何とか言えよ?


 あ、言えないか。そりゃそーだよな。俺の背後で息を殺して、俺を殺そうとナイフを振り上げてるんだもんな!!!」


 俺は背後に姿を魔法で消して迫る影に、拳を思い切り貫くレベルで捻じ込んでやった。


「ごはっ!!!!!!???????」


 怒りでリミッターが外れていたのだろうか。拳を叩き込んだ胸板の骨が砕ける感触が伝わり、俺の顔には暗部の隊長が吐き出した血がかかった。


「この下手糞が! ゼクス隊長やカトレアに比べたら、あまりにも雑なんだよ。殺気を全然隠せてねぇし、手口もクソ単純。暗部連中はこの程度かよ。ほんと、心底がっかりだぜ!!!」


 俺は暗部隊長の顎を真下から蹴り上げ、ローリングソバットを全力でみぞおちに入れ、背後の大木へと蹴り飛ばし、その両掌に向かって深々とダガーを投げつけ磔にしてやった。


「ぎゃあああああああああああ!!!!!!」

「さて、テメェは苦しめて殺すと宣言してやったな。先ずは下処理。邪魔なアーマーを切り外し、両手両足の健を断ち切るっと……」

「や、やめっ! うがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 俺の精霊剣の切れ味の前では、人の肉なんて物はバターに等しかった。まるで鶏肉でもさばく様に、手早く俺は獲物の下処理を完遂する。


「ククク。本当に部下に良い教育をしたなぁ? 隊長がこんなにも苦しめられてるって言うのに、誰一人として助けに来やしない。誰一人として俺を討ち取ろうとしない。


 決死の覚悟じゃなかったのか? え? わざわざ爆弾まで飲み込んで挑んでるんだろ? びびってんじゃねぇよ、クズ共。纏めて相手してやるから、全員かかって来いよ。


 それとも何か? お前の育ててきた部下達は、一人残らずチキンなわけ? 何、暗部って養鶏場の名前だったの?


 ハッ。なんか哀れになって来たわ。おい、『許してくだちゃいレイ様。ぼく達があほでちた。命だけはたちゅけてー♡』って可愛く言ってみろよ。助けてやるよ。ほれほれ、どうした? 言えよ? 言ってみろよ? 助けて欲しくないの? なぁ? なんで黙ってるかなぁ?」


 ああ、やべーな。もう完全に悪い癖出ちまってるよ。殺しをするといつもこうだ。安い挑発には乗っちまうし、俺自身がくだらない挑発を繰り返しちまう。だというのに、こんなにも感覚が鋭くなってしまって……。背後に迫る、魔法で目に見えないはずの複数の敵を感じ取ってしまう。


「……ははは」

「なっ!?」


 同時に襲い来る刃の数々を体を捻り回避し、そのまま空中へ飛び、剣を振り回しながら弄び、サブレッサー付きの銃から放たれた弾丸の嵐を弾き、躱し、俺に姿を隠して斬りかかった相手に向かって、イフリートを深々と突き刺して、そのまま肉の盾にしてやった。そして切っ先を貫通させ、魔力を注ぐ。


「吼えろ、イフリート!」


 イフリートが真っ赤に発光し、鋼鉄をも溶かすほどの地獄の業火が、あたり一面を火の海に変えた。その炎に巻かれた暗部たちは、全身を炎で包まれ、絶叫しながらもがき苦しむ。


「楽には死なせねぇよ。お前たちは俺の大切な者達の命を脅かし、侮蔑した。俺の命を狙ったり、侮蔑するのは良い。だが、ロキの理想を哂い、セイラさんの命を狙い、エリシアを侮蔑したテメェらは、死後の魂の安らぎすら許さない。地獄の業火に焼かれて死ね」


 シェリルは言っていた。イフリートは、俺の殺意や怒りが特に大好物だと。


 なるほど、俺は今、過去最高にブチギレているんだろう。これまでに無いほど、その炎は高温となっているようだ。あたり一面の雪は消滅し、吹き始めていた吹雪すらも蒸発してしまっている。


 辺り一体の酸素が燃え尽きてもおかしくないこの炎。まるで、スキラと逃げ惑ったあの夜のようだ。

 

 あの光景は、スキラが処刑されてしまう光景の次にトラウマだというのに、その光景を自分で再現しているのだから世話無いぜ。


 いや、……ああ、なるほどな。イフリート、お前は本当に魔剣やら狂炎剣と呼ぶべきかもしれないな。見せたかったんだろう? この光景を。俺の憎悪を掻き立てる為に。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「ば、バケモノ! 殺される、殺されちまう! 嫌だ、あんな死に方はいやだぁぁぁぁぁ!」

「おいおい、一般のごろつきや兵士ならともかく、暗部がそのざまかよ。仕方ない、苦しめずに殺してやるよ」


 俺がシルフィードを構え、その首を跳ね飛ばそうと構えた時だった。俺の目の前に、炎の球体が4つ、ふわりと俺の元へとやってきて、目の前で制止した。


「あ? なんだこりゃ」


 その球体に目を凝らすと、炎は消えて、シャボン玉のよう魔力の膜に包まれた、自爆装置と見られるものが現れ、俺は慌ててそれを手に取った。


「やっべ、忘れてたよ。イフリート、お前がやったのか?……ああ、なるほどな。お前、呆れるほど捻じ曲がってるな。まぁお前の言う事を理解してしまう俺も大概けどさ……。ああ、分かってるじゃないかイフリート。そう言うのは、嫌いじゃない!」


 俺は一目散に逃げ出す暗部達に向かって、その爆弾を投げつけてやる。


「追跡させろ、シルフィード!」


 シルフィードからは魔力が風となって吹き荒れるが、いつもより少し出力が落ちているのが分かる。なるほど、シルフィードは優しい性格の精霊だったからな。


「なんだよ、拗ねてるのかシルフィード。終ったらピッカピカに磨いてやるから、気合いれろっての!」


 シルフィードの風は森の木々をすり抜け、爆弾を暗部たちの背中にピタリと押し付けた。


「やれ、イフリート」


 俺の合図と共に、イフリートが遠隔操作で爆弾を爆破した。辺りに業音と爆風が吹き荒れ、火柱が上がった。


 今ので俺を取り囲んだ暗部たちは全滅しただろう。残るは、暗部隊長ただ一人……。


「ク……ククククク。めでたいなぁ? レイ=ブレイズぅ。これでお前ら待望の雑種の王族が誕生できるって訳だ。ああ、めでたいなぁめでたいよなぁ? ほら、めでたいだろう? でもなぁ、めでたいのはテメェの頭だよレイ=ブレイズぅ! お前、勝ったつもりで居るのか? あ? ぶぁーか! ここからが本命なんだよ。アハハハハハ! お前の失敗はなぁ、普段から仲間から距離を取りすぎていた事だ。仲間のはずなのに、お前は殆どの人間を信頼せず、孤高のアサシンしすぎてたんだよ。だから気付けなかった。だから今も気付いていない。本ッ当におめでたい奴だよなぁ!? レイ=ブレイズぅぅぅ!!!」

「お前、一体何を言ってるんだ?」


 こいつの言葉に、俺は嫌な不気味さを感じずには居られなかった。正体不明の焦燥が、俺を襲っている。



「クックック。傍受した無線を聞かせてやりたいぜ。この声はエリシア皇女か? 必死にお前の名前を呼んでるよぉ。『レイ! レイ返事して! これは罠よ、敵の狙いはマスターじゃない、あなたよ!』ってなぁ!!!」

「なっ!?」



 ちょっとまて。どういうことだ!? 何時から俺はエリシアの声が聞こえなくなっていた? 何故そんな事に気がつけなかった! いや、そもそも何故、何故俺を狙う!?


「ククククク。封印は完了し、舞台は整った。……さぁ、あとは好きにやるが良い。ククク、ルキフィス王陛下万歳ッッッ!!!!!!」


『ピピピピピピピピピピピピピピピピ!!!』


「くっそ!」


 俺は再びシルフィードの魔力で風の結界を張り、爆風と衝撃に備えた。







 暗部隊長の自爆により、精霊の森の一角に施された結界から、空高く火柱が上がるのを、雪原から見届ける影があった。


「……リリィ様。準備が整ったようなので、行って参ります」

『……うふふふふふ。流石は暗部ね。やるべき仕事はちゃんとやってくれたわね。


フローラの年増とセイラの小娘を殺したいから協力してくれだなんて、何の冗談かと思ったけど、やっぱり成功しなかったわね。まぁ、最初から分かりきった無謀な作戦だったけどさ♪


 やぁねぇ無能って。まぁ、手を貸す代わりに、成功の見込みが無くなった時点で、『レイ=ブレイズの隔離』を完遂させるというこちらの目的を、最低条件として提示したかいがあったわね。やるだけの事をやって死んでくれたみたいだし、最後まで存分に利用させてもらいなさい。ずっとこの時のために生きてきたのでしょう? あなたの目的を果たせるよう祈ってるわ』

「……リリィ様。あなたには本当に感謝しています。こんな僕を拾ってくださり、ありがとうございました」

「……気にしないで、ただの利害の一致よ。でも、あなたが居なくなるのは少々寂しいわね。


 最後にもう一度聞くわよ? その剣を抜いたら最後、あなたの魂は闇に落ちるわ。例えレイの小僧を殺した所で、あなたの魂が救われる事はないし、避け様の無い死が訪れるわよ。後悔は無いのね?」

「ええ。ありません。例えこの身が地獄に落ちようと、あの悪鬼を生かしては置けない。あれは、生きて居ちゃ行けない存在なんだ! 殺さなきゃいけない存在なんだ!!! 誰も殺さないのなら、殺せないのなら、僕がこの手で殺してやる!!! 裁きを与えてやる!!!」

「……そう。やっぱり決意は変わらないのね、残念だわ。あなたと過ごした日々は、それなりに楽しかったわよ、イーサン。さようなら、私の忠実なる僕よ。さぁ、お行きなさい」

「……イエス、マイ・ロード」


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