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―召喚Ⅱ―


 屋敷の中に戻ってきた俺達は、ロビーのあたりでオリビアと鉢合わせた。


「おかえりー。お昼ご飯もう皆食べちゃったから、適当に食べたらフローラ様の書斎に来てってマスターが言ってたわよ。お昼ご飯はポトフよ」

「ん、了解ー」


 俺は適当にオリビアに返事をして、荷物を持ったまま食堂へと向かった。


「それにしても、この素材は一体何に使うのかしら」

「うーん、薬品関係には使わない素材ばっかりだな。どっちかというと儀式の素材が多い。下級精霊と契約でもさせられるんじゃないか? 契約さえ交せれば、精霊魔法の魔力コストはかなり下がるって言うし、ばーさんはその手の第一人者だからなぁ。それに精霊の巫女にも関係してくるんだろ? もしかしたら普通の魔術師より良い条件で契約できちゃうんだよーっていう実演による説明かもしれない」


 そんな事を呟きながら、食事を終えた俺達は、ばーさんの書斎へとやってきた。

そして扉を軽くノックして声をかけた。


「ばーさん、買って来たぞ」

「ご苦労様、入ってきてちょうだいな」


 俺は扉をあけ、中へと入りその異様な光景にぎょっとした。

床一面に巨大な儀式魔方陣が敷かれ、部屋中が何かの御香のような香りで満たされていたのだ。

そして部屋窓には暗幕が張られ、蝋燭の光だけで部屋は薄暗く照らされている。


「……悪魔でも召還するのか?」

「まさか。そろそろエリシアさんには精霊魔法を扱う段階に進んでもらいたいとセイラが言うので、精霊と契約してもらうのよ。それから精霊の巫女の説明をさせてもらうわね」

「ま、そんなことだろうとは思ってたけどさ」


 俺の予想はばっちりと当たり、なんだか拍子抜けしていたその時だ。


 おもむろにエリシアは魔方陣の前に立ち、腰に装備していたイリスを引き抜いたのだ。


「おい、エリシア?……っ!?」


 その異変に気がついた。


 エリシアの目はどこか焦点を見失っていた。だが、その雰囲気は神憑り的な何かを感じずには居られず、その場に居た人間が金縛りにあったように動けなくなった。


 そして異変はそれに留まらない。エリシアがイリスを使って、静かにゆっくりと、しかし、魅入ってしまうような美しい剣舞を舞い始めたのだ。すると、次々と魔方陣に描かれたルーンが書き換えられていくのだ。まるで間違えた場所を訂正していくように……。


「この魔方陣、まさか! どうしてエリシアちゃんがこんな高等魔方陣を!?」

「間違いありません。……これは、上位精霊召還魔方陣です!」

「おいおい、マジかよ! エリシア、ちょっと待て! そりゃまずいって!!!」


 俺が魔方陣に足を踏み入れ、エリシアを制止しようとした瞬間だった。足元の魔方陣が俺を拒絶するかのようにバチバチと電流のように爆ぜ、俺をはじき出した。


「痛てっ!?」


 そしてエリシアは魔方陣の中心にイリスの切っ先を立てると、イリスはふわりと空中に浮き上がったのだ。


「我は謳う。汝が為に謳い汝が為に踊らん。汝、我が眷族となりて我に仕えよ。汝、我が前にその姿を示せ、我は精霊の巫女なり」


 エリシアが呪文のようなものを唱えた瞬間。イリスは激しく耀き、魔方陣は結界のような魔力の膜に包まれ、エリシアの周りを閃光のような光の玉がいくつも出現し、エリシアの周りを旋回し始め、ついには光がエリシアを包み込んだ。


「マジでやばそうだぞ、なんとかならねーのかよ!」

「落ち着きなさい。邪悪な気配は何も感じないわ。いいえ、これはむしろ……」

「聖なる力を感じる。レイちゃん、落ち着いて。どっちにしたって、今はエリシアちゃんを信じるしかないわ!」


 落ち着けって? この状況で? そんなことは俺にはとても出来そうにない。


 目が眩むほど結界の中の光は頂点に達し、魔力の奔流がキーンと甲高い音を立てた。その場に居る全員が結界の臨界が近いことを悟った。


 そして次の瞬間、パンッっという風船の割れるような音がしたかと思ったら、光は消え、光の中からきょとんとしたエリシアが突っ立っていた。 「……ほぇ?」


 挙句の果てに、自分が何をしたのか判ってないような間抜けな声を上げてやがる。


「「…………」」


 あっけにとられてるのだろうか。マスターもばーさんも絶句してる。


「『ほぇ?』じゃねーよ! お前自分が何したかわかってるのか!?」

「え? レイ? 私なんかした?」

「……覚えてないのか? なんか精霊契約の魔方陣を勝手に書き換えて、上位精霊召還の魔方陣にしちまったんだよ。はぁ、やれやれ、なんか失敗したみたいである意味安心だよ」

「し、失敗ですって? レイちゃん。足元を見てみなさい! そんな事って有り得るの!?」

「は? 足元?」


 俺がエリシアの真後ろに立っていたからだろうか。正面からエリシアを見守っていたマスター達とは違って、エリシアの足元なんて見てなかった。

エリシアの足元で、なんだか、白くてモコっとしたものがもぞもぞしてる。


「……なんだこりゃ」


 つんつんと俺が恐る恐るつっついてみると、それはくすぐったがるように寝返りを打った。


「くぅん」

「あ゛?」


 犬だ。


「「「か……かわいい」」」


 女性陣が思わず感嘆の声を上げた。


 そう、真っ白で手のひらに収まるんじゃないかと思うくらい小さな子犬がそこにいた。


「うわぁ! 私がこの子を召還したの!? うわぁ、もこもこ。あったかーい♡」


 エリシアはすぐにその子犬を拾い上げ、手のひらに乗せながら頬摺りをする。


「か、完全に受肉してるわね。でもこの子、確かに精霊よ?」

「精霊自体が受肉することは決して珍しいことではないけれど、あんな召喚素材だけで受肉召還を成功させたというの? 精霊の巫女の力がこれほどとは……」


 すると、むくりと目を覚ました仔犬は、エリシアの顔をまじまじと見つめ。


「わん!」


 と可愛く吠えた。


「え? そうみたい。うん、私があなたを召還したの。私はエリシア、よろしくね? あなたは? え、私が決めるの? えー? んっとぉ、じゃあシェリル! どう? 気に入った?……そう、よかった。じゃあ貴女は今日からシェリルよ。よろしくね!」


「わんわん!」


 エリシアに抱きかかえられながら、嬉しそうに尻尾を振る仔犬の姿に、俺はあることに気がついた。


「おい、ちっこいの。おまえまさか」


 俺はぶんぶんと振られるその大きな尻尾をぱしっと掴み、みょーんとひっぱってみる。


「キャンッ! わんわん! ぐるるるるるるる!」

「ちょっとレイ。『女の子の尻尾をそんなぞんざいに扱わないで!』って怒ってるよ? ねぇ? ひどいよねーシェリルー? レイはほんとデリカシー無いんだから……」

「……」


 俺はエリシアとシェリルの抗議を無視して尻尾、そして手足、骨格、顔などを確認していく。そして口の中を確認したとき、かぷっと指を噛まれた。が、仔犬の歯じゃ痛くも無い。

 

 ……いや、一つ訂正しよう。


「エリシア、こいつ犬じゃねぇよ。

 まぁ精霊ですよって話に落ち着くんだろうけど、こいつは狼だ。

 ここらへんだと昔はダイアウルフとか神狼って呼ばれて神として崇められていた、白銀狼の精霊だよ。

 もし受肉した形で遭遇して戦闘になったら、ただじゃ済まないっていうSランクの幻獣扱いされてる奴だ。

 まぁ受肉した姿なんて滅多に目撃されてないから、伝説上の生き物とされてたし、俺もスキラに昔話で聞かされた話しなんだけどな。

 ダイアウルフの特徴は、狼の姿に純白の毛皮。澄んだ蒼い目。そして強い光の魔力を持っていること。つまるところ、お前はここらへん一帯の守り神の類を召還したことになるわけだな……」


 俺の話を聞いたエリシアは、驚いてシェリルを抱き上げながら、大きな声を出してしまう。


「ええ!? シェリル。あなたそんなすごい子なの?」

「ま、そんなちっちゃいんじゃ戦うことは無理だろ。なんかペットみたいで可愛いじゃないか。ははは」


 俺の言葉に、生意気にも気分を害したのか、シェリルは俺をじっと睨み、再びエリシアにわんわん言い出した。


「え?……ふむふむ。うん、いいよ? コホン『この姿は言わば省エネモード。巫女の体に負担をかけない姿がこの姿なのよ? 巫女の魔力の供給さえあれば』」


 俺は目の前で起きている現象に目を見張った。


 ムクムクと毛玉のようだったシェリルが急成長していくのだ。


「こ……『このように』」


 成長は止まらない。そしてついに俺の身長を追い越した……。


「い、『何時でも、彼女を守るために戦う事が出来るのよ? 理解できたかしら? 『巫女の守り手』のボウヤ』」

「ま、マジかよ……」


 次の瞬間、べしっと俺はその巨大な前足で弾かれ……。


「ぎゃっふん!?」


 壁へめり込むくらい叩きつけられた。


 そしてシェリルはぽふんっと可愛い音をたてて元のサイズにもどり……。


「ははは……『判ったらもっと『れでぃ』として丁重に扱うように!』だって。レイ、大丈夫……?」

「お……おっけぇ。りょうかいだ。あぅ……」


 俺は壁から剥がれ落ち、意識を失うのであった。 

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