―希望の光Ⅱ―
全てを語り終え、俺は冷めてしまったココアを、全て飲み干した。
「……これで、この話は終わりだ。
その後、どうして俺がアサシンになったかは、またの機会に話すとしよう。
……そうそう、スキラの隠し工房には、膨大な量の魔法研究資料が保管されていたよ。それはスキラが生まれる前から少しずつ蓄えられていった、ブレイズ家の遺産とも呼べる代物だった。
しかし残念なことに、その資料すべてが狼人族の文字で書かれ、俺は読めはするけど、魔術師としてのセンスがなくてさ。何度読み返してもさっぱりでさ、大人になっても全然理解できないし、正直宝の持ち腐れでな。
俺にとって一番の宝物で、形見となった物は、スキラの日記だったよ。俺を拾った日から付け始めた日記でさ、もう途中から日記というより、俺の成長日誌というか、母子手帳みたいになってた。
あの悪夢が起きる前日まで、一日たりとも欠かすことなく付けられてたよ。今、スキラの研究資料はばーさんの屋敷に用意された俺専用の離れに置いて来たけど、日記だけは俺の部屋にしまってあるんだ。
ま、とにかく無駄に長くなっちまったけど、俺の宗教嫌いはこういう理由なんだ。本当に暗い話を聞かせて悪かったな。聞いてくれてありがとう、エリシア」
俺はココアを飲み干してから、空になったカップを、意味もなく眺めていたが、そこで初めて、語りかけていたエリシアに注目した。
「…………うぅ」
「ん? どうした?」
エリシアはずっと俯きながら話を聞き、涙を流していたが、俺の事をじっと見て、なんだか震え出したのだ。そして、体調でも悪くなったのかと心配した次の瞬間だった。
「レイっ!」
唐突に、エリシアが急接近した。驚いてる俺の体を、エリシアの細い腕がしっかりとホールドし、体が密着してしまう。
一瞬何が起こったのか、頭が理解しなかったが、すぐにエリシアに抱擁されていることを自覚する。
「ちょっ!? エリシア!?」
俺は持っていたマグカップをコロンと床に落としてしまい、体は石の様に硬直した。
心臓はバックンバックン言い始めるし、視界がぐらぐらと、震度6強の地震が来たかのようにブレまくっていた。
混乱を極める俺の脳に直接囁くように、俺の右耳から、エリシアの優しく、そしてちょっと拗ねたような声が響く。
「レイの嘘つき。覚えてる? 初めてここであなたに慰めてもらったとき、あなたは両親に愛された覚えなんてないって言っていたけれど、ちゃんと愛されていたじゃない」
ああ、確かに俺は、両親の記憶なんか無いと言ってしまった。故に愛されていないと……。今思えばなんでそんな事を言ってしまったのか、必死に言い訳を探してみる。
「あ、あー。あれは、本当の両親は顔も知らなくて、名前だけしかって意味であって……」
「薄っぺらい言い訳だなぁ……。スキラさんが可哀想だわ」
卑怯だ。
こんなものは反則だ。
今俺はエリシアに密着され、混乱を極めているというのに、ここへ来てスキラの名前をはっきりと出されてしまった。
恥ずかしさとバツの悪さに、俺は正直に白状してしまう。
「うぅ……。スキラを忘れてたわけじゃないんだよ。ただその、俺の身の上話をするよりも、あの時はどうやったら、お前の涙を止められるのかって事だけしか、考えてなかったんだ……」
その言葉を聞くと、エリシアは更に俺を強く抱き締め、俺の胸元へと顔を埋めるように密着する。
「……うん、ありがとうレイ。ごめんね、ちょっと意地悪したくなっちゃっただけなの。
でも、本当に謝らせて欲しい事はここからなの。
ごめんなさい、レイ。私は、アギトル教を強く恨んでいるあなたに、聖夜祭を押し付けてしまった。
……最低だよね。浮かれちゃってて、レイの事、ちゃんと考えてあげられてなかった。本当にごめんなさい。
でも、でもね! 私、レイと一緒に聖夜祭を過ごせた事は、本当に嬉しかった。レイのおかげで、メロディアにも再会できて、レイが頑張ってくれたから、私とっても幸せだったよ。
レイ、ホントに、本当にありがとう……!
ああもう、謝れば良いのか、感謝すれば良いのか判らなくなっちゃった……。でもやっぱり謝らせて! ごめんなさいレイ!」
涙目で俺の胸に埋もれてくる彼女を、俺はそっと抱きしめた。そして彼女の美しい髪を指先で撫でながら、本当にしょうがない奴だ、なんて思ってしまった。俺は、そんなエリシアに、そっと囁いてやった。
「……楽しかったよ」
「え?」
「心配しなくてもすげー楽しかったよ、エリシア。こんなに楽しいって思えたのは本当に久しぶりだった。こんな聖夜祭なら、来年も楽しみにできる。お前のおかげだよ、エリシア。それに、お前に話せて、なんだかすごく楽になった気がする。もっと早く話すべきだった。ありがとう、エリシア」
俺の言葉を聞いたエリシアは、まるで子供のように目を耀かせ、俺の顔をマジマジと見つめながら聞き返してきた。
「ほんと? 本当に楽しかった? ……じゃあ約束してくれる? 来年も、一緒に聖夜祭を一緒に過ごすの。そして今日より素敵な聖夜祭にするの! ……レイ、約束してくれる?」
そう言って、エリシアは俺に手のひらを見せた。こんな約束の仕方をされては、俺は断る事も破る事もできない。
「ああ、勿論だ」
俺が手のひらを重ねると、エリシアは心底嬉しそうに微笑み、重ねた手のひらを指を絡めて握った。
俺も、彼女の小さな手を包むように、優しく握り返す。それを確認すると、エリシアは仔犬のように、ぽふんと小さな音を立てて、再び俺の胸へと舞い戻る。
「ふへへぇ、どうしよ。なんか幸せすぎて死んじゃいそう♡」
俺はその言葉を聞いて、頭の中で冷静に『……俺たちって、付き合って無いんだよな?』なんて思って、苦笑いを浮かべてしまう。
「……絶対、冷静になったら恥ずかしすぎて死んじゃうとか言い出すんだろうなぁお前は」
「あはは、言っちゃうかも。だって今自分でも思っちゃったし。……でも、今はこうしていたい。今は、レイを抱きしめてあげていたいの。レイのお話を聞いてね、小さい頃のレイをこうしてあげたいって思ったの。大丈夫だよ、もう泣かないでって、言ってあげたかった。レイ、私強くなるね。レイに守られてばかりじゃなくて、レイを守ってあげられるように、私頑張るからね……」
俺は、俺に抱きついているエリシアの頭を、愛おしさを篭めて撫でてやり、ぎゅっと抱きしめた。
「……ああ。その時はよろしくな」
「……レイ」
俺の右肩に、甘えるように頭を乗せ、抱擁に身を任せたエリシアが、俺の名前を口にした。その声は、信じられないくらい官能的で、熱を帯びていた。俺の耳の鼓膜をくすぐり、脳みそを痺れさせ、電流のような快楽的な何かが、俺の全身を駆け巡る。
……やばい。
これは本当にやばい。
こんなものは耐えられない。
身体が熱い。指が震えるほど、心臓がドクンドクンと強く脈打ち、五感がありえないほどに研ぎ澄まされていく。
エリシアの髪から花のような甘い香りがして、俺の鼻腔をくすぐる。
エリシアの温もり、肌の柔らかさ、伝わる心音、首筋にかすかに感じる吐息、俺のために流した涙で濡れた頬。
エリシアの全てが狂おしいほど、愛おしい。
「えへへ、レイの腕の中、すごく温かくて安心する。……ずっとこうしていたいよ。レイ、もっとぎゅってして……」
エリシアの言葉は、まるで魔法だ。理性とか思考がどろどろと溶けていく。ただ言われるがまま、エリシアの身体を抱きしめ、エリシアの香りを胸いっぱいに吸い込む。
興奮と、安らぎが、ぐるぐると混ざり合って、頭がおかしくなる。
エリシアの全てを守りたいと思いつつ、エリシアの全てを奪ってしまいたいと思う。
この均衡は、もうこれ以上保たれないような気がする。
エリシアを欲望のままに、全てを奪いたい。他の女性に、こんな感情を抱いた事なんて一度も無い。
もっとエリシアに触れたい。もっとエリシアを見ていたい。もっとエリシアと繋がりたい。もっとエリシアを感じたい。
エリシアの少し深い吐息が喉元に当たり、強く抱きしめすぎてしまったのかと一瞬我に返って、力を弱めると、今度は、逃がさないと言わんばかりに、エリシアが俺を強く抱きしめる。
頭がおかしくなりそうだった。飲めない酒を飲まされたように、思考がまともに動いていない。
エリシアが欲しい。もっと繋がりたい。口付けを交し、それ以上を求め合いたいと思ってしまった。
これが、異性として愛するということなのだろうか。なんて皮肉だ。目の前のエリシアに狂おしいほど欲情してる俺は、今なら少しだけ、あの馬鹿があんな訳の判らない言動を口にする理由を、理解できる気がした。そのおかげで、少しだけ、理性を取り戻した(取り戻してしまった)
エリシアは、今どんな気持ちなんだろう。
そうだ、伝えなきゃ。俺の気持ちを……。
「エリシア、俺……」
「……うん、なぁに? レイ」
エリシアの赤く染まった頬、潤んだ瞳。
その恍惚としているような表情で微笑む彼女を直視した瞬間、言葉なんて物が、今は如何に薄っぺらい物なのかを痛感させられた。
俺の手がエリシアの頬に触れた。するとエリシアは、目を細め、嬉しそうに頬を摺り寄せ、俺の触れる手の甲に、自分の手を重ね、ゆっくりと目を瞑った。
『……いいよ、言葉にしなくても。十分伝わってるよ』
不思議と、エリシアの声が聞こえた気がした。もちろん、エリシアが口にした訳でもなければ、テレパシーなんてものを使ったわけでもない。ただ、伝わってきたんだ。
だったら、すべき事なんて、決まってる……。
触れ合う、互いの額と鼻先。
互いの身体を抱き寄せ、瞳を閉じた。
少し荒くなってる吐息を交換しながら、呼吸をしているかのようなその距離が、さらに縮まろうとしていた。
俺達は、互いの気持ちを再確認するように、今、俺達は互いの唇を
『ジリリリリリリリン! ジリリリリリリリン!♪』
「うわっ!?」「ひぅ!?」
突如として俺のケータイがけたたましく音を鳴らす。いやいや、深夜2時過ぎだぞ? 一体誰だよこんな時に!!! エリシアなんてビックリしすぎて、俺から飛び退いてしまっていた。
「……あー。くっそ」
何時までも鳴らしておくわけにも行かないので、ケータイをポケットから取り出すと、画面には『ロキ』と書かれていた……。
「……あンにゃろう!」
俺は怒りを篭めて通話ボタンをプッシュする。
「おいロキ! テメェマジぶっ殺してやろうか!?」
『イェーイ聖夜祭おめっとー! ついにレイも男になった!? なっちゃった!? なっちゃうよねぇ! ヒック! イェーイ! リアルプリンセスに手を出した犯罪者ケッテー! ひゅーひゅー!』
やっべ。今コイツを本気で殺したいって思った。
「……ロキ、首を洗って待ってろ」
『あ、ごめーん最中だった? アッハッハッハッハ!』
「やっぱり全身洗って待ってろ。切り刻んでやる」
『……ん? あれ? お前まさか……』
「…………あーもう。死んでくれお前」
今まさに、お前のせいでキスがお預けになったところだよ。
『え。マジで!? 馬鹿! なんでお前! 9時にはレストラン出るはずだから俺はてっきり……えー? 馬鹿なんじゃねーの!? さっさとキメとけよぉ! ほんと馬鹿!』
「おめーに言われたくねーよ馬鹿殿! 明日楽しみに待ってろこの色ボケ王! じゃーな!!!」
俺はケータイの通話を切り、電源を落とした。そして、重いため息を吐き出し、自分達が今しようとしていた事を思い出し、冷静になってしまった。そして、これ以上無いくらい恥ずかしくなってしまうのだった。
「えと、あの……うぅ。やだもぉ!」
「あの、ゴメン……」
この気まずい雰囲気。マジ堪んない……無理。そして今更あれをやり直すわけにも行かなくて……。
「もう私寝る! オヤスミ! レイのばか!」
「……あー。ごめん、ほんとゴメン」
パタパタと足早にエリシアは部屋に戻ってしまうのだった。俺は悔しさで歯を食いしばりながら、仮眠室から毛布を引っ張り出し、ソファーに横になった。
「あーあ、二度と電源なんて入れるもんか。なんだこの超不便な機械。いっそ暖炉にくべてやろうかな」
まぁそんなことは現実に望めるわけもないが。
エリシアが部屋に戻ってどれくらい経っただろうか。未だに俺は、暖炉の光に照らされたギルドの天井を眺め続けていた。そして、スキラの事を思い出していた。
「……なぁスキラ、俺はスキラの言うような大人になれたのかな……」
スキラが最後に見せてくれた顔を思い出しながら、あの時のように、自分の作り出した幻にむかって手を伸ばす。
あれから随分時間がたった。
ロキやセイラさんと出会い、二人の理想の世界を作るため、二人を守るために俺はアサシンになった。
そのせいで、アサシンになることを反対したばーさんの家を、家出同然で飛び出してきてしまった。
俺の手は大きくなった。
きっとスキラも手のひらよりも大きくなった。
そして血に染まっていった……。
大人になって理解したことがひとつある。
スキラは賢者になりうる魔術師だった。
戦いとなれば、オリビアよりも、もしかしたら強いかもしれない。そんなスキラが、なんの抵抗もなく処刑されたのは、俺を本物の魔女の子供にしたくなかったからだ。
あの時、スキラが人間達と戦っていたら、スキラは間違いなく魔女と恐れられ、俺は人間として生きる道を閉ざされていた。
俺としては一向に構わなかっただろうが、スキラにとってそれは、選んではいけない選択肢だったのだろう。
アサシンという道を選んだ俺を、スキラは責めるかな。人を殺すために俺を育てたわけではない。そんな事をする為にお前を生かしたのではないと。
「……いや、怒って当然だよな、スキラ」
俺は自分でも最低な人間になったと思ってる。それでもさ、こんな俺にも、命をかけて守りたい相手が出来たよ。
ロキやセイラさん。ついでにギルドの仲間達。でも、誰よりも。俺は、エリシアを守りたい。もし、今の俺の命に意味があるとするならば、エリシアを守ることだと思ってる。
スキラが繋いでくれたこの命を、絶対に無駄にしない。そしてもう一度約束するよ。スキラとの約束、絶対守って見せるよ。
「……約束だよ、母さん」
久しぶりに、優しい夢を見た。温かくて、懐かしい気配を感じる。……ああ、スキラだ。
スキラがソファーで眠る俺を、頬杖を付きながら優しく見下ろしている。
「残念だったわね、レイ。もうちょっとだったのに……。
次こそは、邪魔が入らないといいわね。
ねぇレイ? 私はいつまでも、貴方の味方だからね。だから頑張りなさい。精一杯生きなさい。
そして必ず幸せになるのよ? ううん、幸せにしてあげなさい。彼女を、優しく照らし続けなさい。
あなたは、希望の光なのだから……。
ああそうそう。レイも随分と大人になったみたいだし、今度からは少し離れた所で見守るようにするわ♡
ふふふ♪ それじゃ、またね、私の愛しい自慢の息子……」
「う……ん、うるさいなぁ。一言多いよ、母さん……グー……グー……」
ソファーで眠り、寝言で母の名を口にするレイを、早朝からギルドにやってきたグレンとジークが凝視していた。
「……おい聞いたかグレン。こいつ、聖夜祭明けの夢がかーちゃんの夢見てるぞ」
「うわー。朝からこいつ、なんか残念すぎる……しかもなんだこの間抜けな寝顔は。アサシンらしからぬガチの寝顔だぜ? おっかさんの夢見ながら、こんな安らかに眠りやがって。こいつマザコンか? うひひひ、起してからかってやろうぜ!」
「グレン、お前ってなんて酷い奴なんだ。その悪巧み乗った!!!」
あまりにも幼稚で大人気ない悪戯をしようとする彼らを、自室から降りてきたエリシアが制止した。
「あの、起さないであげてください」
「ん? エリシアちゃん?」
「グレンさん、ジークさん。お願いです、聞かなかった事にしてあげてください。あと、からかうのも禁止です」
エリシアの表情は、まさに真顔だった。真剣そのものの彼女の言葉に、グレンとジークは、バツが悪そうにお互いの顔を見合わせ、エリシアの顔を一切見ようとしなかった。
「え……。まぁ、エリシアちゃんがそう言うなら……」
「ってグレン! そろそろ今日のクエストの集合時間じゃん!」
「うわっやっべ! いくぞジーク」
彼らは逃げ出すように、ギルドを飛び出し、エリシアは彼らを手を振って見送った。そして、のん気に幸せそうな寝顔を浮かべるレイに、思わず頬が緩んでしまった。
「……ほんと、私は昨日眠れなかったって言うのに、レイってば幸せそうに寝てるなぁ……。ねぇ、レイ。良い夢見てる? なんか、悔しいから、私は悪戯しちゃお♪」
彼女は、セイラに返却するつもりだったカメラのファインダーを覗き込み、レイの寝顔にピントを合わせ、シャッターを切った。
『パシャッ』
そして、出来上がった画像を確認し、満足そうに微笑んだ。
「……うん、良い写真♪ 題して、『レイの寝顔』永久保存版ね! これは家宝その2に決定だわ」
―精霊の森・リーゼリット邸―
その頃、エアリアルウィングから遠く離れた精霊の森にあるリーゼリット邸では、魔法水晶に映し出される写真を眺める、フローラ=リーゼリットが居た。そして、その魔法水晶には、今まさに、新しい写真が転送され、フローラはその写真を開示し、思わずふふふと、笑みを零してしまうのだった。
「……レイったら。アサシンが聞いて呆れるわね」
フローラは、迷わずその写真を『お気に入り』として保存した。そして先ほどまで眺めていた写真で、フローラが一番気に入った写真を再び表示した時、彼女の屋敷の電話が鳴り響き、フローラは電話の液晶画面に表示された『セイラ』の名前を確認し受話器を取った。
「おはようセイラ。いい朝ね」
『もしもし? おばあ様? 聖夜祭の贈り物はちゃんと届きました?』
「ええ、しっかりと。でもセイラ、隠し撮りだなんて褒められた趣味じゃありませんよ?」
『いいえ。ちゃんとエリシアちゃんにはお願いしていましたよ? レイちゃんに会えなくて、ずっとレイちゃんの事を心配しているおばあ様のために、写真をいっぱい取って欲しいって』
「ならセイラ、あなたこのカメラに収められたデータが、私の屋敷に直接送られる事を彼女に言わなかったわね?」
『あ! 忘れてました! え? どんな写真が送られてきたんですか? 私まだ確認してないんです。ま、まさかレイちゃん、エリシアちゃんのあられもない姿を!? あの子ったらぁぁぁぁぁぁ!!!』
フローラは、セイラの盛大な勘違いに、目を丸くして驚き、そして大きな声を上げて笑い出した。
「アハハハッ! セイラったら、もしそうなっていたら大事件ですよ?
安心なさい。そんなスキャンダラスな写真は一枚も無かったわ。
……そうね、とってもいい写真よ。傍から見れば仲睦まじいカップルにしか見えないわ。
……本当に素敵な写真ばかりよ。
あんな小さくて暗い子だったレイが、こんなにも逞しく成長して、そしてなにより幸せそうだわ。ふふ、ロキウス王と一緒の時とは、全然違う笑い方をするのね。
レイは気付いているのかしら。自分がこんなに、優しい眼差しで彼女を見つめている事に。
……あらやだ、年を取ったせいかしら。最近涙腺が緩んじゃって緩んじゃって……クスン。
本当に、本当に素敵な女性ね、エリシア皇女は。レイには勿体無いんじゃないかしら……おばあちゃん心配だわ」
『ふふふ、それはお姉ちゃんも同感です。近々里帰りしますわ。必ず、エリシアちゃんとレイちゃんも連れて行きますね♡』
「ええ。楽しみにしているわ」
『それではおばあさま。それまで体に気をつけて。失礼します』
電話が切れ、フローラは受話器を戻し、ため息をつきながら、再びお気に入りの写真を眺めて微笑んだ。
「ふぅ、セイラってば本当にしょうがない子。ふふっ『自撮りツーショット』って言うのよね、こういうの。貴方にしては、中々やるじゃない。ねぇ、レイ?」
魔法水晶の中には、メリーゴーランドの中で、エリシアの肩をレイがぐっと抱き寄せ、ぎこちない表情を浮かべた二人の写真が映し出されていた。




