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Aerial Wing -ある暗殺者の物語-  作者: ちゃーりー
オーディア紛争地域
42/119

―遠き家路と再会Ⅰ―

 消毒液臭い病室、そしてその真っ白な天井を、俺は点滴を受けながらボーっと眺めていた。

医師からは、最低でも3日間は入院しろとのお達しが出ていたが、勿論そんなつもりは無い。ある程度体の自由が利く様になったら、さっさと退院してコルトへ帰ろう。それにしても……。


「暇だなぁ……」


 この野戦病院とも言える村営の病院には、各個室にテレビなんて設置されていなくて、俺はただただ、一滴一滴滴る点滴を、ボーっと眺めるしかなかった。

 そんな時だ、俺の病室の扉が軽くノックされ、誰かが入ってきた。


「入るよー、レイ。お、生きてた生きてた。また鬼夜叉丸とやりあったんだって? あーあー、いい男が台無しだね。ま、良く生きて帰ってきたって褒めてあげるよ♪」

「……ゼクス隊長」


 やってきたのは、まさかのゼクス隊長本人だった。ゼクス隊長は俺のベッドの横にパイプ椅子を広げ、そこに足を組んで座った。


「カルロス、ニーゲル、ユキカゼのことはカトレアから聞いたよ。特にユキカゼを失ったのは大きい。本当に惜しい奴を亡くした。あの二人も、本当に余計な事をしてくれるよ。ユキカゼにはとんだ貧乏くじを引かせてしまった。俺が死んで、アイツに地獄で会ったら、謝らないとなぁ」


 隊長はそんな事をため息交じりに口にしたが、この人が誰かによって討たれるなんてことはきっと無い。あるとするなら、死に至る不治の病か、もしくは老衰だろう。どちらにせよ、俺は死後の世界なんて信じちゃ居ないが、在るとするなら、ゼクス隊長がユキカゼ班長と再会するのは、ずっと後のことだろう。



「あいつに、とどめを刺せませんでした。すみません」

「ああ、大丈夫。最初からそんな期待はしてなかった。交戦報告を受けてすぐに、カトレアに君の救出を命じたんだ。まぁ死んでたら仕方ないけどって話だけどね。今のレイのレベルじゃ、鬼夜叉丸にはちょっと敵わないかな。でも、聞けばあとほんの少しがんばれたら、あいつにとどめを刺せてたらしいじゃないか。よかったねぇ、相手が戦闘狂で。俺なら自分の脅威となる相手を、わざわざ生かして置いたりしない。あいつはきっと、君が今以上に強くなり、もっと刺激的な戦いができると期待してるみたいだね。きっと今以上に鬼夜叉丸も修練し、力を蓄えるだろうね。またハードルがあがったよ、レイ」


 全く持ってその通りだ。今、俺が生きているのは、アイツの気まぐれによるところが大きい。情けない事に、完全に遊ばれてしまっている形だ。


「今以上……か。もうそれ隊長に匹敵するんじゃないですか?」

「ハハハ、まさか。確かに強いけど、俺が本気だしたらコンマ1秒で首を跳ね飛ばしてるよ♪」


 ゼクス隊長はへらへらと笑いながら、りんごを懐から取り出し、食べるか? なんて一瞬で皮を綺麗に剝き、8等分にして皿にのせた。実に1秒以内の出来事だった。


「その一見果物ナイフにしか見えない代物はなんですか」

「果物ナイフだよ。俺のご用達の刀鍛冶が作ったヤツだ。すごい切れ味だろ?」

「……随分スペックの高い果物ナイフですね。そして暗殺技術の無駄遣いを垣間見ました。いただきます」


 俺はりんごを一つ取り、口に運んだ。


「ところでレイ。ラジールを発見した際、彼はすでに死亡していたという報告があがってきているけど、これについて何か言うことはあるかい?」


 不適な笑みを浮かべつつ、隊長は俺に問いかけた。さて、どうしたものか。俺は少し考え、口を開いた。


「隊長。完全に無駄足でした。わかったのは、ラジール王はエリシアの実の父親じゃない可能性が高いことくらいです」



「ふぅん?」


 隊長はこんな嘘は簡単に見透かしているんだろう。なんというか、ニタニタと嫌な微笑を浮かべて、俺をじろじろと見つめた。


「ま、君は任務開始早々相手の新兵器を仕留め、我々に大変有利な情報を提供してくれた。その働きにより、いくつかの部隊は命拾いしただろう。ま、他の人間でもできたことではあるが、なにより初見被害が発生しなかったことが大きい。だけど、その程度じゃまだまだアサシンには戻せないかな。もう少しエアリアルウィングで経験をつむといいよ。ま、ソレは自分でも納得してるだろ?」

「了解しました」

「よろしい。見るに今回、君にとっての一番の成果は、この精霊剣二振りのとの共鳴だったみたいだね。剣を見ればわかる」

「共鳴?」


 隊長は、壁に立てかけてあった二本の精霊剣、その片方であるシルフィードを引き抜き、その刃をマジマジと眺めた。


「俺はそう呼んでる。まぁつまり、君の心と、剣に宿る精霊の心が通じて、精霊剣の秘められた力を解放したってことさ。ただし一つ忠告しておくよ。共鳴することによって、精霊剣の封印は少しずつ解れていき、精霊剣は強力になる。それは封印されている精霊の力が表に出てきているということ。つまり」


「共鳴すればするほど強くなるが、やがて精霊剣に封じられた精霊が表に出てくる。という事ですか?」

「そういうことだね。まぁ、封印が解けた精霊がどんな行動に出るのかは、それは当事者じゃないとわからないことだ。封印が解けた事をいい事に、剣の持ち主を殺しにかかるなんて事も、過去にあったらしい。この先も共鳴をするつもりなら、覚悟はしておくこと。で? 君の事だから、今すぐにでも帰らせてくれって言い出すんじゃないか? どうやら点滴も終わったようだし?」

「そうですね。まずはギルドに戻って傷を癒さないと……」


 鬼夜叉丸の強すぎる妖力のせいだろうか。医師たちが施した回復魔法がほとんど効いていない。

いや、俺がカトレアの治療を受けた際に、カトレアは間違いなくいくつか劇薬を使ったはずだ。その影響かもしれないが、とにかく帰ってマスターの治療を受ける必要がある。どさくさに紛れて、カトレアがとんでもない呪いをかけてるとも限らないしな。


「そうだ、これは伝えておかないと。レイ、帰ったらセイラさんにちゃんとお礼を言うんだよ?」

「はい?」

「医師から預かった。君の服の中にあったものらしい」


 ゼクス隊長が差し出したのは、エリシアの作ったお守りだった。


「何の変哲も無いように見えるこのお守り、実はとんでもない守護の力が籠められてたみたいだよ。魔除けとかラッキーアイテムっていうレベルのものじゃないよコレは。ほとんど身代わりアイテムだ。もう効力は一切無いけど、コレは捨てちゃいけない。君の命を守ってくれた大切なアイテムとして保管しておくといい。絶対に粗末に扱うなよ」


 ちょっと待て。中に入っていたルーンは消失し、ヘマタイトも聖銀も土くれになるまで腐敗してる!

こんな現象って起るもんなのか!?


「隊長、ほんとにコレが俺の命を……? こんなちんちくりんなお守りが?」

「その袋の中身、おそらくヘマタイトあたりの鉱石だったんじゃないか? ソレが腐敗して土に変わるなんて現象、負の魔力を極限まで吸収しないとそうはならない。ああ、それとそのお守りの件は俺と君とセイラさんしか知らないこととする。絶対にロキウス王には話すな」

「え? なぜロキに話しちゃいけないんです?」

「アホか君は。そんな強力な守護はねぇ、『愛するものを守れ』という強いイメージがないと作れない。それもちょっとやちょっとじゃないぞ。とんでもない集中力と、相手への強い『愛』が必要だ。それがロキウス王に知られてみろ。とんでもなくスキャンダラスな話になっちゃうでしょうが!……って聞いてる? レイ。顔が見たことないくらい真っ赤だけど。まぁ相手がセイラさんだから仕方ないか? あ、カトレアにも内緒にしといてあげるから安心していいよ。これは流石に事が大きくなりすぎる」


 いやいやいやいや!!!!!! コレ作ったのエリシアなんですけど!!!!!! ちょっと待て、じゃあ何か? エリシアは大して強力じゃないルーンにそれ以上の力を発揮させるほどの魔力と念力(愛)を籠めてたとでも言うのか!?


 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや





 まじで?


「あ、そうだ。面白いことを思い出したよ♪」

「へ?」

「やっぱり依頼した身としては、ギルドへの状況報告はしないといけないわけさ。それで、『ゼクス隊のチームのひとつが鬼夜叉丸と遭遇。死者数名を出し、その後レイ=ブレイズと交戦。鬼夜叉丸を退けるも、現在意識不明の重体』という情報をそのまま受付の女の子に書面で知らせたんだ。なんかその場でへたり込んじゃって泣き始めちゃって大変だったよ。あの子新人? しきりに君の名前を口にしてたけど、君も中々隅に置けないねぇ♪」


 な……な……なっ!?


「で、仕方ないから意識不明の重態継続っていう情報はセイラさんに直接伝えてたんだけど、生還の情報はさっき知ったからまだしてないんだ。まぁ君がさっさと戻れば良い話だからしなくていいよね」

「なんてことしてやがるんだアンタは!!! わざとか!? わざとなのかオイ!!!」

「うぉ? レイが見たことないキレ方してる。何、実はカトレアやセイラさんだけでなくあの受付の女の子まで含めた……え、何角形になるの? 四角?」

「エリシアはそんなんじゃない!!!」

「え!? エリシア皇女だったの!?」

「そーだよ! エリシアだよ! ついでにこのお守り作ったのもエリシアだよ! マスターにはこれっぽっちも恋愛感情なんか沸くもんか! あのドS女王に熱を上げるのはドM王のロキ以外に居るもんか!!!」


 完全にパニックに陥った俺は、隊長の襟首を掴んでゆっさゆっさと激しく揺さぶった。


「どうどう……。まぁ色々状況がわかってきたよ。とりあえず落ち着いたら?」


 帰らなくては!!! 一刻も早く!!! こんな消毒液臭い所にこれ以上いられない!!!


「毎度毎度、セイラさんの魔術には驚かされるよ。この俺ですら見分けが付かないまでのジャミング魔法か。カトレアが魔女と呼ぶのも頷けるね。しかし、エリシア皇女も魔法の才能に関しては中々の逸材と見た。守護の魔法が得意なあたりを踏まえると、属性は光か。どれだけ魔法を学んで来たのかは判らないが、あんな物が作れるなんて、才能だけならカトレア以上だな」


 未だパニックの真っ只中に居る俺を他所に、冷静な分析をしている隊長に、俺は再び食って掛かる。


「隊長、今すぐ俺をコルトタウンに帰らせてください!」

「え。まぁ帰りたければどうぞって感じなんだけど、どうやって帰る? ここからコルトまで千k近くあるし、今貸せる車は無いから、早くても明日の朝到着する輸送部隊の帰路に便乗するのがベストだけど」

「あぁちくしょう」


 俺は思わず頭を抱えた。今すぐにエリシアと連絡を……あ、そうだ! ここならギリギリ、ケータイの圏内に入っているかもしれない!


「エネルギーまだ残ってるかな。一応、電池で充電してから切ったままだったけど……」


 俺はケータイを起動してみた。


「お、エネルギーちょっと残ってた。3%か……ギリギリだな。電波も、一本か」

「へぇ。ケータイねぇ。便利なもの持ってるじゃないか」


『ぴりりりりりり』


 起動した途端に、ケータイがけたたましく音を上げる。


「ん? 通話がかかってきたのかい?」

「いや、メールとか言う機能です」

「ほほう。電報みたいなものか。しかしなんだね、俺たちもそろそろこういう俗物を使いこなさないとジジイ扱いされちゃうかもね」

「失敬な。俺は使えてますよ、多分」


 ケータイの音が鳴り止んだところでメールを確認してみると、未読メッセージが500件、不在着信200件、そして450件の留守番電話のメッセージが届いていた。


「……なんだこれ」


 思わず戦慄してしまう。メールの差出人は大体エリシア。着信も大体エリシア。もちろん留守番電話もエリシア。あとはちょいちょいその他のメンバー。

「レイってさ、わりとストーカーみたいな女の子に好かれるよね」

「エリシアはそうじゃないと思いたいですね。カトレアはストーカーみたいじゃありませんストーカーです。エリシアは、この任務の許可印を押したのがエリシアで、その責任を感じてるだけですよ、きっと。……だめだ、通話は届かない。ならメールで。えっと、『俺は無事だ。今から帰るから大人しく待ってろ』っと。送信……」


 と送信ボタンを押そうとしたとたん


『バッテリー切れのため電源を落とします』


 という文字が画面に浮かんだ。


「ちょっ!? お前そりゃないだろ!?」

「あっはっはっはっはっはっはっは!!!」

「おい! 戻って来い! まだ死ぬな! 一通だけでいいから送らせてくれ!」

「あほやってないでとっととエネルギー補充したら?アハハハハハハハハ!」

「隊長、ここ『電気』通ってますか!? もしくは電池ないっすか!?」

「おいおい、ここはオーディア辺境の地だぞ? レオニードだって首都圏にしか科学エネルギーは浸透してないんだ。こんな所にそんなもの通ってるわけないじゃないか。よくて魔力源の魔水晶、魔法石だね。そもそもそういうのって、魔法エネルギーを電気エネルギーに変換する装置も、普通は持ち歩くものじゃないの?」

「ぐっ、あるみたいですね、そう言うの……」

「持ってないのかよ……。使えてないじゃないか。ま、諦めて明日帰ったら?」

「くっそー! せめて飛竜の一騎でも借りれたらすぐに帰れるのに!」


 ケラケラと笑っていたゼクス隊長だったが、俺の一言に何かを思いつき、ニタリと笑った。


「あそーだ。さっき軍の技術開発課の所長が『アサシン専用』の高速移動手段を発明したとかなんとかいって、『試作機』を持ち込んだんだった。レイ、ちょっとモニターになってれよ うまくすれば、今日中にレオニードに帰ることができるかもしれない」

「え?」


 俺は隊長に連れられ、駐屯地の中央にある倉庫テントの前まで来た。そこにはマッドサイエンティストと名高い『フランケン=スタナー博士』という爺さんが杖を付きながらあれやこれやと、若い科学者に指示していた。


「博士、『フェンリア・プロトタイプ』のテストライダーになれるアサシンをつれてきたよ」

「ぬ? おいおいゼクス。この若造ぼろぼろじゃないか。せめて神速が使える状態になってからじゃないと意味がないんだがな」

「いやいや、侮るなかれ。こいつはね、今アサシンの中で最も俺の早さに近しい男だ。超神速の次元を経験してる。並みのアサシンの神速程度じゃこいつのいつものスピードにだって追いつけないよ」


おいおい、ソレは流石に盛りすぎだろ隊長。って言う言葉をとりあえず飲み込んで堂々としておこう。……っていうかなんだ? フェンリア・プロトタイプって。


「でだ、彼が速攻で1000km先のコルトタウンまで帰るというんだ。明日にはレオニードの研究所に届けさせれば、博士の欲しがってる情報が手に入ると思うんだけどなぁ?」

「ふむ。命の保障はせんぞ? なんてったって、こりゃ今までにない試みじゃからな」


 博士が手をパンパンと叩くと、助手たちがなにやら大きな木箱をこちらに運んできて、ソレを開き、中から出てきたもののシートを取り払った。


「紹介しよう、『アサシン専用大型魔道二輪試作機フェンリア・プロトタイプ』じゃ」

「ば……バイク?」



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