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Aerial Wing -ある暗殺者の物語-  作者: ちゃーりー
オーディア紛争地域
41/119

―死闘の末に―






「レイ、レイ? ほら、起きなさい。いつまで寝ているの?」


 とても、懐かしい声が聞こえる。エリシアや、マスターとも違う、もっともっと懐かしい声。『あの人』の声だ。俺は、生きているのか? いや、これが夢じゃないのなら俺は……。


「私との約束を忘れてないでしょう? さぁ、早く起きなさい。貴方を必要としてる、貴方の大切な人が待っているんでしょう?」


 うん、覚えてるよ。忘れた事なんて無い。ああそうだ、帰らないと……。エリシアと約束したんだ。必ず帰るって……。


「……そう、それでいいのよ。行ってらっしゃい、レイ」





「う……ん。生き……てんのか? 俺一体……うっ!?」


 動かそうとした瞬間、体中に激痛が走り、声すら上げられない。

しかし、痛みを感じるという事は、どうやら俺は生きているらしい。


「あら、目が覚めたの? んー。意外と早かったわね。私の目測だと、あと2日は眠りっぱなしだと思ってたのに。おはよ、レイレイ。気分はどう?」


 カトレアの細く冷たい指先が、俺の頬を優しくなぞった。


「体が動かない……。カトレア、俺ゾンビになってないよな?」

「うん。まだ生身だよ。でも、そのボロボロの体だったら、まだゾンビの方がマシかも。あと2日は絶対安静って所かしらね。身体へのダメージが酷すぎて、体が回復魔法を受け付けてくれないみたい」


 辺りを見回す。どうやらどこかの小屋の中らしい。いや、この小屋には見覚えがある。ラジールが潜伏していた山小屋の中だった。


「あいつは?」

「鬼夜叉丸? 勿論、生きてるよ。『次会った時こそ、本気で殺し合いましょ』だってさー。すっかりお気に入りに追加されちゃったね。ウケルー♪」

「チッ」


 たった一度しかないであろう、最高のタイミングを、俺は逃したという事になる。もし次に合ったとき、今以上の力を手に入れていなければ俺は、確実に殺されるだろう。


「それよりぃ♪ ねぇレイレイ。私、大変だったんだよぉ? 瀕死のレイレイを、2日間かけて治療したのよ? ゾンビにするなら半日で事足りるのに。回復魔法なんて普段使わないから、すっごく大変だったなぁ」

「俺、どれくらい寝てた?」

「一週間くらいかな♪」

「まじか……」


 俺は一週間も意識を失い、生死の境をを彷徨っていたのか。


「むぅ」


カトレアの訴えをろくすっぽきいてなかった俺に、カトレアは拗ねたらしく、俺の右腕を力いっぱい抓りあげた。……それも傷口の上を。


「ぎゃああああ!? いでででで! 死ぬ! ほんとに死ぬ! 止めてくれカトレアぁぁぁぁ!!!!」

「先に言う事があるでしょーがこの朴念仁!」

「すいませんすいませんありがとうございましたカトレアさん! 許してください! 痛い痛い痛い痛い!!!」

「だーめ♪ 言葉じゃ足りないの☆ 行動で示してほしいなぁ?」


 カトレアはニタリと笑い、抓る指を少し弱めた。


「な、なんだよ。俺にどうしろと」


 またキスでもせがむんだろうか。どうやって切り抜けよう……。


「この書類にサインして。ハンコは母印でいいみたいだから」


 書類に目を通さずにサインする馬鹿がどこにいる。とりあえず俺はその内容を確認しようと、書類を受け取り


「婚姻届じゃねーか!!!」


 間髪入れずにツッコんだ。


「うん。書いてくれれば、私すぐにレオニードにもどってコルト市役所に出してくるよ。あ、ハネムーンはレイレイが決めてね」

「下手な悪魔の契約書より性質悪い」


 俺はその悪魔の契約書をぐしゃぐしゃに握りつぶして捨てた。


「ちょっとぉ! ならどう落とし前つけてくれるの?」

「あーもー、無事にレオニードに帰れたら遊びでも食事でもつれてくから勘弁してくれよ」

「デート4日分♪」

「……はい」


 あーあ。ろくでもない約束をしてしまった。4回もこいつとデートしないといけないのか。ほんっとにもう、コイツにもうちょっと倫理的な思考と、相手への思いやりがあればと常々思う。しかし、如何せん……。



「ふふふふふ、どこに行こうかしら? 何を着ていこうかなぁ? デスサイズ新調しちゃおうかなぁ? あ、ホルマリン買い足さなきゃ! きゃーどうしよう!」


 ……これである。デートするのになんでデスサイズとホルマリン薬が必要なんだよ。どうかしてるよ。


「あ。レイレイ、行き先はどこのリゾート地でもいいけど、ホテルは安っぽいラブホテルなんて嫌よ? 夜景の綺麗な高級ホテルの最上階、スイートルームね?」

「は!? 4日完全拘束!?」

「もちろん☆ ふふふ、楽しみでしょ? レイレイだって嬉しいでしょ? 四日間、私の事、好きにしていいよ♡ 日中夜問わず、ずーっと、お互いを貪る様に、快楽に溺れ続けるの♡ あ、やばっ。ぞくってしちゃった♡ どうしよ、スイッチ入っちゃうかも♡♡♡」

「ああ……楽しみすぎて歓喜に震えて涙してるよ。うぅ……」


 体が動くようになったらしばらく姿を隠さないといけないな。


 どうしてカトレアはこうもネジが外れてるんだ? 俺だって男だ。カトレアほどの美人が、真正面からこれほど求愛してくるのだ。本来ならば、うれしくないわけがない。だが、コイツはあまりにも危険すぎる。そしてどうしても、愛してやれないのだ。


「なぁ、とりあえず、現状を説明して欲しい。その、……ユキカゼ班長は」

「残念だけど、助からなかった。班長に感謝してね。レイレイと血液型が同じで、『自分は助からない。せめてブレイズだけでも助けてくれって、残りの血液であなたに輸血を」

「……班長!」


 悔しさでかみ締めた奥歯がぎりっと音を立てた。

 

 彼は模範的な班長で、いつだって仲間の命を優先しつつ、確実に任務を遂行してきた男だ。彼を失うことは、アサシンにとって大きな痛手といえる。


「ニーゲルとカルロスは見てのとおりだったよ。……馬鹿な奴ら。手柄を挙げようとして、鬼夜叉丸に奇襲をかけたそうよ? 一瞬で斬り殺されたみたいだけど。他のメンバーは散り散りに離脱したみたい。ユキカゼ班長が体を張ったおかげでね」

「……あの、バカ野郎どもが!」


 実力の差がわからない奴らじゃないだろうに。確かにアサシンは暗殺に特化し、倒せないはずの敵を倒すことが本来の仕事ではある。だが、今鬼夜叉丸の暗殺任務は発令されていないし、カルロスやニーゲルがいくら不意打ちをかけたとしても、間違いなく殺される。


「ところでね、レイレイ。さっきあと二日は絶対安静って言ったでしょ? 本当は一週間は絶対安静して欲しいんだけど、そうもいかないの」

「何?」

「状況がかなり悪化してる。このオーディアに私たちアサシンが潜入したことを、アルデバランはアヴェンジャーに漏らしたわ。『アサシンの首を差し出した者に、金と土地を与え、名誉騎士として迎え入れる準備がある』って唆したみたい」


 あの禿狸め。また余計なことをしてくれおってからに。


「アヴェンジャーたちも大喜びだな。あいつらは俺らアサシンのせいで主人を失い、路頭に迷った挙句がアレだからな」

「雑魚がいくら集まってきても、軽く返り討ち~♪ って言いたいところなんだけどね。ユキカゼ班長のおかげでなんとか逃げ延びたエリックたちからの報告によると、アヴェンジャーの中でもずば抜けて強力な部隊、『クルセイダーズ』が動き出してる。もう時間が無いことは理解できた?」

「クルセイダーズ!? 最悪だ。こんな状態で出くわしたら……」


 クルセイダーズ。それはかつて、レオニードに滅ぼされた国の軍に所属していた、師団長クラスの戦士たちが集い、結成された集団で、実力は全員がグレンやジーク、アーチャー達にも引けを取らない連中だ。そんな奴らに見つかったら、間違いなく死ぬ。


「そーゆーこと。はい、狂走丸。あさってには、少しまともに動けるようになるとは思うから、それ飲んでできる限り移動して身を隠すこと。健闘を祈るわ、レイレイ」


 そういうと、カトレアは立ち上がり、身支度を始めた。


「え? カトレア?」

「私は一足お先に行くわね♪」

「え!? ちょっ!? おま!?」

「ねぇレイレイ? 私は正直、レイレイが生きていても、ゾンビになっちゃっても、どっちでも構わないの。変な話ぃ、レイレイがまだ助かる状態だからこそ、意思を尊重して、こうやって治療してあげたの。しかも、身動き取れないレイレイに、なーんにも悪戯しないであげてるんだよ? 優しいでしょ?」


 カトレアは妖艶な笑みを浮かべながら、その細い指でゆっくりと、包帯の巻かれたおれの胸板を首筋まですっとなぞる。背筋にぞっとしたものが走った……。


「ふふふ、毎晩毎晩。貴方の隣で、貴方の鼓動を感じ、貴方の呼吸を感じ、貴方の消えそうな温もりを感じてた。……ねぇ、何度貴方を犯そうって思ったと思う? 何度、今すぐ貴方を殺して、私だけのモノにしようって思ったと思う? 答えはね、数え切れないほど、よ♡」



 そんな狂言を述べながら、カトレアは俺に跨り、柔らかく首を絞めて、ゆっくりと力を加えた。


「ちょ!? カトレア? すこし落ち着こう、な?」


 カトレアは恍惚とした表情を浮かべながら、俺に顔を近づけてくる。


「そう、落ち着くために、貴方から離れるの。このままじゃ私、レイレイから本当に全てを奪ってしまうの。貴方を犯したい、殺したい。殺したいほど愛してるのレイレイ♡ 大好きよ、レイレイ♡ ハァハァ。なんて狂おしいのかしら。どうにかなりそう♡」

「ぐ……! カトレア、苦しい! ……放せ! んっ!」


 カトレアの指にぐっと力が入り、気道が締め付けられ、息ができなくなる。酸欠で目の前が暗くなり、意識が遠くなる。視界が塞がれ、触覚がとらえた感触。俺の頬に、温かくて柔らかい、そしてすこし濡れた感触。


 俺の首を締め付けていた手が緩められ、酸素をと視界を取り戻した俺が目にしたのは、俺の顔に、カトレアの顔がくっつくほど接近していて……いや、実際くっついていた。カトレアは俺の頬に口付けをしていて、最後にぺろりと、メス猫の悪戯のように、舌先で舐め上げて離れた。


「ふふ、そんな怪我じゃ楽しめないだろうから、また今度。って言うのは言い訳で、実は生理来ちゃってるの。だから、ゴメンネ♡」

「げっほげほ……ほんと、おっかねー女」


 心の底から思い、吐き出した言葉だった。


「かわいい、の間違いでしょ? あ、そうそう。アルデバラン軍の暴挙が明らかになって、同盟諸国がオーディアの奪還に乗り出したみたい。各国で軍を挙げて、アルデバランをオーディアから追い出す動きが始まるんだって。私たちはそれに乗じて、4日後の脱出部隊に回収されるみたいよ。集合場所はレオニードとの国境の町、アベルよ。それじゃ、アベルで会いましょ、レイレイ♡ 精々死なないでね?」


 べーっとすこし舌を出し、微笑んでからカトレアは出て行った。

 

「ふひぃぃぃぃぃ。なんか余計にどっと疲れた……」


 カトレアの居なくなった安堵なのか、それとも寂しさなのか。体の力が全部抜けた。魔力、体力、そして気力までもが枯渇してる。とにかく人里にでて身を隠さないといけない。しかしこんな体じゃ動くこともままならない。今はとにかく眠るしかなさそうだ。しかし、カトレアの言っていた二日の絶対安静は長すぎる。少し無茶をしたとしても、なるべく早くここを移動したほうがいいことには変わりは無い。


「あー、そういやこの間クエストで珍しい薬手に入ったんだっけ……。えーっと……」


 俺はなんとかアイテムポーチに手を伸ばし、中から劇薬と称される『龍血精』を取り出す。注射式のそれは、丸一日ほど昏睡する代わりに、人体の回復能力を最大限にまで高める。だがちょっとでも量を間違えれば、二度と目覚めることはない。


 そのため、この注射器には付属のパーツが備え付けてあり、そこに血を一滴垂らす。すると、どれくらいが適量なのか、勝手に注射器が設定してくれるというアイテムだ。


「1,4。けっこう行くなー。当然か、それじゃ……おやすみなさいっと」


 首筋にちくりとその注射を刺し、液体が体の中に入るのを感じ、針を抜いた。途端に、抗いようのない眠気が俺を遅い、意識がそこで途絶える。





-翌朝-




「……うーん。朝か」


 俺は目を覚まし、ゆっくりと起き上がる。体に痛みは走るが、起き上がれないほどではないようだ。


「だるー。龍血精つかってこれかぁ。いや、使ったからこれなのか? どっちでもいいや」


 これ以上の劇薬は流石に命に関わる。とにかく今は栄養を取らないとまずそうだ。俺はとりあえず森の中に入り、すぐにでかいイノシシと遭遇した。それを仕留め丸焼きにして、それを食うだけ食って、俺は地面に大の字で寝そべった。


「食った食ったぁってね。あー、おやっさんの飯がくいてーなぁ」


 どうやら、体に残されたダメージ、疲労といったものはたっぷりと残っているようだ。体がほとんど言うことを聞いてくれない。指一本動かすだけで、ひどい筋肉痛のような痛みが走る。


「いっちゃんが居てくれたらなぁ」


 無いものねだりはよそう。今すべきことを最優先でするんだ。今、どんな状況なんだろう。情報が欲しい。っていうかいい加減に。


「帰りてーなぁ」


 いや、帰らなきゃいけないんだった。生きて帰って、エリシアに会わないといけないんだ。こんなとこでくたばれるかよ。今すぐにでも、この場から移動し、アベルにたどり着かなければならない。


 俺は立ち上がり、地面に地図を広げた。


「多分今はここで、アベルへは……最短で100km。うわぁ」


 今更ながら、やっぱり逃げておくべきだった。鬼夜叉丸に構ったせいで、とんでもなく面倒なことになった。俺は適当な木の棒を杖にして、重い体を引きずるように歩き出す。


 考えてもみると、良く俺は生きていたもんだ。


 いや、鬼夜叉丸相手に戦ったこと自体無謀ではあるが、本当に恐ろしいのはカトレアだ。

俺を手篭めならぬ手駒にするには最大のチャンスだったに違いない。しかも戦いを挑んだ理由に他の女が理由の一つだと知ったら、もう俺はゾンビ確定。俺がエリシアをどう思ってようが、俺はゾンビにされ、あいつのおもちゃとして、あいつが死ぬか俺に飽きるまでいいように使われてたはずだ。


「ま、生きてるんだから感謝しなきゃだな」


 俺はとにかく歩き続けた。二日間、休むことなく歩き続け、二日目の夕刻、集合場所のアベルにたどり着くことができた。


 そしてレオニードの兵士を見つけ、自分の身分証明書を提示した途端、衛生兵がすっ飛んできて、俺はそのまま病院へと搬送されてしまうのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございます。暁のほうに掲載しているものを、こちらに掲載する際に、細かい修正などを加えていますので、一挙に全てを転載できない事をご理解ください。また、続きを暁のほうに読みに来てくださる読者様もいらっしゃる様で、あちらの方のアクセス数が伸びているのを確認しました。このような拙い作品を読みに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

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