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―ゼクス隊長の依頼Ⅱ―


 その言葉に俺は一瞬戸惑った。その俺の揺らぎを目視しただろうが、隊長は構わず続けた。


「この間のエリシア皇女救出作戦、間近で君らの事を見させてもらったけど、実に良いメンバーだよね。アサシン隊にもそんな班が欲しいくらいだ。そして改めて、あのギルドを客観的に評価した結果、正直、君抜きでもあのギルドはやっていけると評価した。それに、君が抜けることで、新たにメンバーを10人は募集できるだろう。それくらい、ギルド連盟は君を高く評価してる。そして、新たに加わるであろう10人のうち何人かは、セイラさんの元で働けば、間違いなく一流に育つ。それは、我が国としても実に有益だ。君もギルドに飛ばされたこと、不服に思ってたよね? なら、丁度良いんじゃないか?」


 ゼクス隊長の話に、カトレアもノリノリで俺に意見してくる。


「そうだよレイレイ! 帰って来なよ! レイレイをこれ以上セイラみたいな魔女のそばに置いとけ無いんだから!」


 お前がマスターを魔女呼ばわり? お前のほうがよっぽど魔女らしいじゃないか。


 しかし、ふと考えてみる。俺にとって悪い話ではないだろう。なぜならアサシンに戻ったほうが、確実に俺の給与はあがるし、アサシンの装備はいつだって最新鋭。それがタダで支給される。そしてなにより、なろうと思ってなれる物でもないので、やはり戦士としての誇りというものも存在する。だが、そもそも俺は、ロキウス王の命であのギルドにいるはずだ。この事をロキウス王は知ってるのか?



「隊長、俺は一応ロキウス王からの指名であそこに居るんですよね? なら俺というよりロキウス王に進言するべきなんじゃないですか?」

「うん、そうなんだけど。先ずは君の意思を知りたくてね」


 俺の意思……。俺は、どっちなんだろう? エアリアルウィングでの生活は、正直悪くない。どちらかといえば気に入ってる。けれど、アサシン隊としてのプライドだってある。アサシン隊を外されたのは、正直かなり不服だった。でも……。やっぱりまだ帰れない。ディムルット爺さんと、アリシア皇后の最期の姿、そして、エリシアのあの泣き顔が、頭にどうしてもフラッシュバックする。


「隊長、俺にはまだ、あそこでやり残した事が有ります。」

「ちょ!? レイレイ!?」

「ふぅん? やっぱりエリシア皇女がらみ? それならアサシンの新人を何人かつけても良いんだよ?」


 俺は静かに首を横に振った。


「アリシア様を死なせてしまったのは、俺の未熟さゆえのミスです。それを挽回するには、あなたが言うように鬼夜叉丸を斬り、アルデバランの脅威が無くなるまで、エリシアを守ることが、挽回だと考えています。それを遂行しない限り、俺はアサシンに戻ることは出来ないんです」


 だが、ゼクス隊長は別に驚いた様子も無く。


「あ、そう。わかった。じゃあこの話はしばらく保留ということで!」


 なんてあっさりと引き下がった。


「えー!? 隊長ー。 どうしてそうなっちゃうわけぇ?」

「簡単な話さ。正式なオファーでも無い限り、レイが鬼夜叉丸をアサシンのメンバーとして倒しても、アサシン部隊には一銭も入ってこない上に、もしレイがやられちゃったりしたら報酬どころか、レイの家族に莫大な保険金を払わないといけない。まぁレイの場合、預かってる書類上の受取人はー……。へぇ? セイラさんなんだね。まぁレイは他に家族といえる人はあの『ばーさん』くらいだからねー」


 あー、昔確かそんなサインをマスターにしてもらったっけ。すっごくイヤそうだったなぁ。


「レイレイ! レイレイの遺産なんて欲しくないけど、妻を蔑ろにするってどー言うこと!?」

「カトレアうるさい」


 もうツッコミを入れる気力も残ってない俺は、死んだ魚のような目をしてポツリとつぶやく。


「隊長! その書類に、『遺体の引き取り手はカトレア=ブレイズ』って書き加えて置いてくださいね!」

「えーっと。とりあえずそれには婚姻届と戸籍謄本が必要なんだけど、まぁそんなのどうでもいいか。書いちゃおーっと」

「やめろぉぉぉぉ!!!」


 思わず体が動いていた。何の躊躇も無く羽ペンを手に取った隊長の腕に、全速力で飛びついて静止する。


「あはははははは! 冗談だよレイ。 俺としても可愛い愛弟子をゾンビに変えたくないさ。あはははは」


 いや、あんた今絶対本気だった!!!


「さて、レイ。エアリアルウィング冒険者の君に、依頼をしたい。ぜひとも引き受けて欲しいんだよね。アサシンに戻ってくれるなら指令として出そうと思ってた任務なんだけど、エアリアルウィングに残る限りはこういった形でお願いするしかない。もちろん、拒否権もあるし、セイラさんのハンコも必要になるんだけどね」


そういって、隊長は机の上に一枚の紙をみせた。それは通常ギルド連盟を通して発行してもらうクエストとは別に、ギルド指定、時間指定、個人指名、極秘依頼としてギルドに直接送られ、そのギルドのマスターによって直接依頼書が作成される『特別依頼原本』だった。


「内容は、『オーディア紛争地域における諜報活動と情報収集、およびラジール王の所在生存確認』をしてもらいたい」


ゼクス隊長は資料を取り出し、俺に渡した。俺はその資料をぱらぱらとめくっていく。


「……ラジール王の所在と生存を確認してどうするんですか?」

「そうだな。聞きだせる情報を聞き出せるだけ聞き出して欲しい。状況によっては、亡命を手助けしてもいいし、アルデバランに明け渡しても良いし、必要とあれば殺して構わない。アサシン部隊からサポートもつけよう。そうだな、サポートには……」

「ハイハイハイハイ! 私いきたーい! レイレイをサポートしたいでーす♪」

「一人で良いです隊長。こいつ来るくらいなら、ギルドの誰かを連れて行きます」

「面白そうだから付いていってあげなさい」

「やたー♪」

「ひっでー……。その面白そうだって所が特にひでー……ってちょっと待ってください隊長」


 俺はある疑問を抱いた。


「今更一体、何をラジール王から聞き出せば良いんです? そもそも今のオーディアで諜報活動して、一体何の意味があるんですか?」


 ゼクス隊長は不敵な笑みを浮かべながら話し始める。


「レイ、君は疑問に思わなかったかい? ラジールはエリシア皇女を外交のネタに使いながらも、アルデバランとの政略結婚を拒んだ。そこに一体、彼にどんなメリットがある? ラジールはアルデバランと仲が悪かったとはいえ、真っ向から対立する可能性だってあるのに、なぜエリシア皇女を結婚させなかったんだろうね。結果、今オーディア王国は消え、オーディア紛争地域なんて名前が付いてしまっている。全てを失ってでも、エリシア皇女を渡さなかった意味なんて、あるのかなって思わない?」


 確かに言われてみればそうだ。


「アルデバランにしたってそうさ。もうオーディアは手に入れたも同然。もうラジールをこれ以上追い詰める必要も無ければ、エリシア皇女が必要だと思わない。変な話、オーディアを手に入れるためだけならば、エリシア皇女なんて生きていないほうが都合が良い」


 エリシアが例え女王として返り咲いたとして、あいつの妃になるなんてありえないと、本人だってわかってるはずだ。逆にロキウスと同盟を組み、反撃に出ると考えたほうがいいだろう。だとしたら二度手間なんて話じゃない。


「それに、今まで支配してきた国や、同盟を組んだ国の皇女を数多く娶り、夜の相手には全く不自由してないどころか、相手にしきれてないでもてあましてるような人間だよ? それがアルデバランという人間だと一言で言ってしまえば終わりかもしれないが、エリシア皇女一人に対して、我が国と戦争に発展しておかしくないような真似をする必要がどこにある? 俺はこの矛盾の理由が知りたい。エリシア皇女には、本人も知らない何かがある。そんな気がしてならない。それを君に突き止めて欲しいんだ」


 その秘密を探りに、またあの戦場へ向かうのか。まだあの鬼も、あそこにいるのかな。


「レオニードからオーディアへのアクセスは禁止されている。よってブロッケンからアルデバラン経由で現地入りしてもらうことになるんだけど、そちらの手配はこっちでするよ。大陸循環鉄道の二人部屋1stクラスを取ってあげるから、ちょっとした旅行気分で行って来ると良い。でもその代わり、部屋は一つしか取れないからね」

「きゃー♪まるで新婚旅行だね☆レイレイ!どーしよぉ、今すぐお買い物行かなきゃ!」

「エコノミーでお願いします!!!」


俺は思わず土下座をして頼み込んでいた。


「非常に面白いものを見せてもらって大満足なんだけどさ、エコノミーあいてないのが現実なんだよ。あとは1stを自腹だねー」

「・・・自腹切ります」

「えー! なんでぇ!?」


 なんでも糞もあるか! お前と密室空間で24時間以上過ごしたくなんて無いわ!

なんてことを口にしたら大変なことになりそうなので黙秘。


「じゃあレイ。君は承諾済みということで、これをセイラさんに渡すけど、問題ないね」

「ええ。依頼を引き受けます。でもカトレアは勘弁してください」


 思わず言ってしまった一言に、背後からついに殺意を感じた。


「……レイレイ、ちょっと油断した私も悪かったけど、一本取ったくらいでいい気になってない?」

「え? レイ。カトレアから一本とったの? ってそれどころじゃなさそうだね」

「ちょっ!? 何デスサイズ構えて後ろに怖いゾンビの兄ちゃん達沢山並べてるんだよ!? 落ち着けって!」


 考えろ、考えるんだ! カトレアを納得させて、あの恐ろしい得物をしまわせる方法を! 今の魔力じゃ到底カトレアには敵わない!


「カトレア、俺はあの戦場で鬼夜叉丸に遭遇して、本当に死ぬ目にあった。お前をあんな目に遭わせたくないんだ」

「れ……レイレイ。私をそこまで大切に思ってくれてたのね」


 カトレアの目から嘘みたいな綺麗な涙が一筋流れる。


「でもやっぱり一緒に行くよ、レイレイ。あなた一人を危険な目に遭わせられないし、私たちならどんな敵だって怖くない! それに、もしレイレイが死んじゃっても、レイレイの身体は私がどんな遺体よりも綺麗に保存して、ずっと私がそばに居てあげるからね」

「いや、ホントお前のそれが無ければ心から安心できるのになぁ」

「あはは、最近君、妙に女の人の扱いに慣れてきてないか? 追い詰められた時の言い訳上手になったよ」


 強いて言うならお前がネクロマンサーじゃなくてその性格が無ければ、お前の気持ちに応えてやってもいいんだが。



 なんてことを口にしても直さないだろうなぁコイツ。


「まぁレイ。他のメンバーだときっと、自分が危なくなったら平気で君を見捨てるかも知れないけど、カトレアなら安心だろ? きっとカトレアなら君が生きてようが死んでようが、必ず帰還させてくれると思うよ」

「いや、死んだらぶっちゃけその場に捨て置いてくれて構いません。カトレアのコレクションは勘弁してください」

「コレクションじゃないもん! レイレイが手に入ったら他のお人形さんなんて全部廃棄処分しちゃうんだから! 萌えないごみで!」


 カトレアの後ろに構えていたゾンビたちが、その事実を知らされショックを受けたような表情をしたのは気のせいだろうか……。


「えーっと、まぁよろしく頼むよ二人とも。あ、それとレイ? 今ヘアピンの画像見たけど、この技、実戦じゃ絶対に使うなよ? 無事帰って来たらまた修行付けてあげるよ。もし現地で鬼夜叉丸と遭遇するようなことがあっても、絶対に戦闘は避けること。カトレアのサポートに期待してるよ? カトレア」

「大丈夫ですよ、隊長。私がそばに居る限り、誰一人としてレイレイに触れさせないんだから。そう……何人たりとも!」


 何かを思い出して殺気を高めるカトレア。エリシアの事をまだ根に持ってるようだ。

 

 ごめんエリシア、また厄介な奴がお前の敵になった。

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