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Aerial Wing -ある暗殺者の物語-  作者: ちゃーりー
皇女の居る日常
25/119

ーレイの受難Ⅲー

「どうした? まさかアサシンとあろう者が、武器を携帯していないだなんて冗談言わないでくれよ?」


 まさに冗談抜きでその通りなんだよなぁ……。いや、投げナイフがあと2本残ってたな。


 しかしあいつの得物は曲刀、ファルシオン。あの剣は重量があり、名刀になると甲冑ごと叩き切るほどの攻撃力を持つ。あんなのとまともにこんなナイフを交えようものなら、間違いなく武器は破壊され、そのまま真っ二つだ。


「フッ。どうやら、亡き主の仇を討つ千載一隅のチャンスが巡って来たようだ。死んで我が主に詫びよ! アサシン!!!」


 振り下ろされる凶悪な斬撃。俺は右へとステップを踏み、間一髪で躱し、続けざまに繰り出された真横へと薙ぎ払われる斬撃を、バックステップで躱す。


「どうした! その程度かアサシン! 武器がないと何も出来ずに逃げ回るばかりか!」


 くっそ、良い太刀筋してやがる。普段の俺ならなんら問題は無いが、この状態は非常に良くない。こんな奴に構ってる暇はない。俺の最優先事項はエリシアの奪還だ。今すぐあいつを取り戻さないと!


「てめぇと遊んでる暇なんかない! さっさとそこをどきやがれ!」


 俺は投げナイフを逆手に握り、奴の斬撃を掻い潜りながら下から真上へと切上げる。


 だが……。思うように体が動かない。うまく懐に飛び込んだつもりでいたが、動きが鈍いせいか、相手の体に突き刺さる直前、ナイフは奴の剣に防がれてしまった。


 金属と金属がぶつかる甲高い音に混じり、片方が割れる音がして、俺のナイフはばらばらに砕け散った。やつはファルシオンの広い刃幅を盾のように扱い、俺のナイフはそこまで頑丈に作られていない為、耐え切れずに折れてしまったのだ。当然と言えば当然だ。


「チッ!」


「勝負を焦ったか? アサシン!」


 再び振り下ろされる斬撃。間一髪避けるが、腕に掠り、浅く肌が裂ける。


 だめだ、体が重い。だからってこれ以上時間をかけるわけには行かない。エリシアを見失う前に決着をつけるんだ!


「神速!」


 神速を発動し、奴の懐へと飛び込むべく姿勢を低く低く落とし、真っ直ぐと標的を見据え、俺はその一歩を踏みしめた。


「甘い! 重力魔法、グラビティセル、発動!」


「なに!?」


グラビティセル!? トラップ型の重力魔法だと!? 


「うっ!」


 足元には予め書き込まれたであろう魔法陣が姿を現し、強力な魔力を発しながら、俺をまるで磁石のように吸い寄せた。体はさらに重くなり、神速が普段どうりのスピードにしかならない! こいつ、俺の神速の法の最大の弱点を突いて来やがった。もしもこのまま神速の活動限界を向かえてしまったら、俺は身動きすら取れなくなる! くっそ迂闊だった! エリシアの救出を最優先するばっかりに、文字どうり足元を掬われた!


「終わりだぁ!」


 再び振り下ろされるファルシオン。今からちょうど1秒後、俺は真っ二つにされるだろう。


 ───だが、奴が俺を真っ二つしにたであろうその0.2秒前、ジャストタイミングで俺は、奴の斬撃を両掌を合わせ受け止めていた。


「何!? 受け止めただと!?」


 その瞬間、俺のフラストレーションゲージの針は、完全に振り切っていた。


 つまり、度重なるストレスのおかげで、俺は遂にブチギレモードへと移行したのだ。


「……ああ、どいつもこいつも! どうしてこうも俺をイラつかせるんだよ。


 今日は朝から最低なことばっかりだ! お前に判るか!? ああ!? 夢見は悪いし、良かれと思ってやってる事が全部裏目に出た上に、ビンタされて重力魔法まで喰らってるんだぞ! 俺がそんなに悪い事したのかよ! あんなの演技だってすぐに気がつけってんだ!!!


 あーイライラする! 判るか!? 武道の達人が3人も寄って集って俺をタコ殴りにするんだぞ!? 死んでしまうわあの矮小単細胞生物共め!!!


 オマエも何なんだよ、過去の事をぐだぐだぐだぐだ!!! そんなんだから落ちぶれるって判らない? ねぇ、判らない!? あ、判らないか! だから何時までたっても復讐とか言って、性懲りも無く挑んできたり邪魔したりしてんだもんな!?


 ほんっと脳みそも実力も全然足らないな!!! つーか重力魔法で反射神経まで鈍ると思うのか!? 俺は例えグラビティセルの中に居たって、神速状態で居る限り、てめぇなんかより数倍速いんだよ!!!」


 俺はファルシオンの刃をそのまま地面に突き刺すと、身体を捻りぐるりと回転し……。


「いっぺん死んで出なおして来やがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 遠心力を伴った渾身のバックナックルを顔面に見舞った。


「ぶべらぁぁぁっ!」


 相手の頬骨が砕ける不快な感触の直後、やつはキリモミしながら地面へと吹き飛ばされ、グラビティセルが解除される。


「運が悪かったな。今日は虫の居所が最っ高に悪いんだ。ついつい本気でぶん殴っちまった。腹いせに今すぐ殺してやりたいところだが、おかげでそんな時間もねーから、代わりにこいつはもらってくぞ」


 聞こえてるかどうかは知らないが、ファルシオンを地面から引き抜き、口から泡を吹いてる男を放置し、エリシアの後を追う。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


 息が切れる。酸素が足りない。内臓が痛む。筋肉が痛む。


「重力魔法なんて……大っ嫌いだ」


 ちくしょう、こんなところでエリシアを見失うわけには行かない。格なる上は、アレを使うしかないだろう……。


「あーあ、今日もこんなことで一日潰れる上に、これ使うと明日もきっと動けないんだろうなぁ……」


 俺はアイテムポーチからある一つの丸薬を取り出す。


 アサシンたちが持つ秘薬のひとつ、『狂走丸』これを一粒飲み込めば、瞬時に体の痛みや疲れを忘れる。しかしこれ、忘れるだけであって、回復はしない。よって、明日は筋肉痛やら、ひどくて昏睡に見舞われるという恐ろしい薬品だ。


「はぁ、これで報酬無しとか、割りに合わないよなぁ。いただきまーす……」


 俺は狂走丸を飲み込んだ。その即効性も特徴のひとつで、すぐに体の痛み、疲れが分からなくなった。


 魔力もあまり残ってないが、10秒の神速ならなんとかなるだろう。人を一人背負った状態だ。まだそう遠くへは行ってない。問題は方角だ。


 まず、俺が犯人ならどうする? 時間は日中、なるべく人目を避け、雑木林を抜けるだろう。そのあとの逃走ルートは、車を使う。雑木林があり、車を隠せ、すぐに大通りに出られる方角、それは……。


「南だな。神速!!!」


 地面を蹴り、飛ぶように広い公園を駆ける。雑木林の木々の枝を飛び移り、すぐに大通りへと抜けた。


 すると黒い車が急発進し、慌てて大通りを疾走し始めるのが目に入り、中にはエリシアがつかまって居るのを確認した。


「エリシア!」



 あと5秒。


 俺は再び地面を蹴り、車との距離を詰める。


 あと4秒。


 車は俺に気がつき、信号を無視して交差点を左折する。


 あと3秒。


 交差点では次々と衝突事故が起き、俺も衝突に巻き込まれそうになるのを間一髪ですり抜ける。


 あと2秒。


 建物の壁を走り、車と同じ距離まで追いつく。


 あと1秒。


 背中にぶら下げていたファルシオンを構え、壁を蹴り跳躍する。


 0秒。


 ファルシオンを深々と、奴の車の運転席の天井に突き刺す!



 天井を突き破り、『ズボン!!!』という大きな音を立てて、奴の眼前にファルシオンが現れた。


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!???」


 ファルシオンはやつの股の間に深々と突き刺さったが、奴の身体を裂くことは無かった。しかし、奴は思い切りブレーキを踏み、その衝撃で俺はファルシオンごと前方へと投げ出された。


 そして俺は吹っ飛びながらもファルシオンを車のエンジン部に投げつけた。ファルシオンは深々と車のフロントに突き刺さり、その衝撃でエアバックが作動し、男の顔面はエアバックにより追撃を喰らって運よく気を失ってくれた。


「ぐへっ!」


 俺はと言えば、見事に吹き飛ばされ、それなりに受身を取る事ができたが、危うくアスファルトに頭をぶつけるところだった。運が悪ければ車に轢かれていたかもしれない。通行人やドライバーたちは、何事かとこちらの様子を伺っている。


「レイ!」


 エリシアの声が聞こえた。どうやら無事らしい。だが俺はといえば、薬の反動やら神速の反動やら、今の衝撃その他もろもろで、立ち上がることすら出来ずに、アスファルトに大の字で寝そべっていた。


「レイ! しっかりして! レイってば!」


「おぅ、無事か? エリシア」


「うん、私は大丈夫、でもレイが……」


「あー、ちょっと柄にもなく、やんちゃしすぎたわ。ちょっとギルドに連絡して助け寄越してもらえるか?」


「うん、わかった」


 エリシアは俺の渡したケータイを使い、マスターに連絡をした。


「あと5分でジークさんが来てくれるって! ……レイ。大丈夫?」


「大丈夫に見えるか? これが」


「ごめんね、レイ。私のせいで……」


 またエリシアの目が潤んでくる。こいつほんと泣き虫だよなぁ……。


「なんて面してんだよ、あー駄目だ眠い。あと5分ならもう寝ても大丈夫そうだな。でもお前、とりあえずこれ被ってろ。それと、あとでお説教だかんな」


「わぷ!?」


 俺は朝のように、シルフィードマントを頭からかぶせる。


「そのシルフィードマントはさ、頭からすっぽり被ってれば、姿を隠すまでとは行かないけど、正体を分からなくするジャミング効果があるんだ。それ被ってれば、とりあえずお前は他人から見たらエリシアだって分からない。それと、俺のことはいいから、もう泣くな」


『レイに、私がどう写ってるのか、正直に答えたら……許してあげる』


 そんな戯言を、今更思い出した……。


「せっかくの可愛い顔が台無しだぞ」

「へ?」


 俺は目を瞑り、そのまま眠りにつく。


「……ばーか。そんなんじゃ、許してあげないもん」


 意識がゆっくりと闇に落ちていく中


「……ありがと、レイ」


 そんなエリシアの言葉が最後に聞こえた。

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