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Aerial Wing -ある暗殺者の物語-  作者: ちゃーりー
皇女の居る日常
21/119

―エアリアルウィングの宴Ⅰ―

「なぁレイ?」


「なんだよジーク……」


「この荷物、一体あの婦女子ご一行様はいくら財産をつぎ込んだのでしょうか?」


「ざっと250万」


「嘘だろおい」


 コルトモール、IKEYOを梯子した彼女たちは意気揚々として、ティアマトに乗ってはいるが、ティアマトはコレまでにないほど辛そうに飛んでいた。その大きな身体全身に、買い物袋と、組み立て式の家具を身体に括り付けられているのだ。


「ティアマトごめんなー、俺マスター達を止められなかったよ」


「ギャウ……」


 ティアマトの身体を少しだけ撫でると、ティアマトは小さく声を上げ応えていた。ティアマトは竜の中でも上位の飛竜で、人間の言葉を理解するとジークは言っていた。故に、卵の状態から育てない限り、人間に従うことは殆ど無いという。


「まぁ買い物自体はお前も楽しめたんじゃないか? レイ」


「ああ、あそこの本屋『世界の名刀ベスト100』という結構珍しい武器集を置いていた。これはいいぞ、俺のシルフィードとイフリートも記載されていた。この編集者、なかなかいい目を持ってるぜ」


「ああ、うん。なんていうかお前って本当に残念な奴だよね」


 何が残念だって言うんだ。俺にはさっぱりだ。



―エアリアルウィング―


 俺はまず、エアリアルウィングのギルド内の様子にあっけを取られる。何故か、扉を開けると、マスターの結界魔法が張ってあり、その結界の中は見えなくなっていたのだ。……まぁ中で何が行われているかなんてすぐに想像はつくが、ここまでするか? 普通。


「はーい、ここは立ち入り禁止でーす☆ジーク君とレイちゃんは、家具をエリシアちゃんの部屋に搬入して、すぐに組立作業に取り掛かってください。ちなみに部屋の間取りはこういう風にセッティングしてね☆」


「「休憩無しかよ!!!」」


 俺とジークはハモってツッコミを入れるが軽くスルーされ、マスターは次々に指示を出していく。エリシアに今日買ったであろう服のワンセットを渡し、着替えるよう指示し、いっちゃんたちには立ち入り禁止区域内に招き入れられ、何か作業をしているようだった。


 グレンたちはどうやら、おやっさんの怒号が飛び交う厨房で地獄を見ているらしい。仕方ないので、俺とジークは次々と荷物を搬入する。


「ほい、レイ! 投げるぞ!」


「おう」


 エリシアの部屋は二階だ。エアリアルウィングは一階のリビングフロアが吹き抜けになっていて、そのすぐ上に、女子寮として使っている居室が並んでいる。そのため、ジークが下から搬入する家具を担ぎ、それを投げ、俺が受け止め部屋へ入れる事にした。


※大変危険ですので絶対真似しないでください。


「ちょっと! 大事な家具をなんて扱いするんですか!」


「急いでるんでしょ? ちょっとくらい無茶しないと間に合いませんよ」


「大体、マスターがこんなに買い物長引かせるからいけないんでしょうが! レイ、ほらこれも! うぉら!!!」


「これタンスのパーツ?」


「いや、それベッドな。次のパーツ行くぞー? そーらよっと!」


「ほい来た。よっこいせっと……」

 


 空中に放られた家具をキャッチし、そのまま引きずりいれる。そろそろ此処もいっぱいか……。


「ジークちょっとタンマ。コレちょっと奥おいてくる」


「レイ、次のでとりあえず最後だから、組み立てに入ろうか」


「あ、そうなの? 了解」


 そんな会話を交わしながら、土木作業員よろしく、俺たちは良い汗を流していた。


「あのタンスのパーツ、軽く20kgはあるんだけど」


「頭の中まで筋肉で出来てる連中ですから……」



 オリビアとマスターがそんな事をつぶやいていたが、無視することにした。俺たちはダンボールから家具を出し、急いで取り付け作業に取り掛かった。


「ところでさぁレイ。今俺たちが組み立ててるベッドに、エリシアちゃん寝るんだよな?」


「まぁそうなるな? 寝具は、ああアレだ。けっこう良い羽毛布団だよな」


「……その布団に、エリシアちゃんが包まれるのか」


「え、まぁそうなるな? ってなに頬をピンク色にして不気味な笑みを浮かべてるんだ。気持ち悪いぞ。

グレンみたいだぞ」


「ハッ! いかんいかん、騎士足る者そのような事は! いやしかし」


「仕事しろ」


 とりあえずベッドを組み立て、その寝具を取り付ける。出来上がった純白の新品のベッドは、いかにも彼女らしい清潔感溢れるチョイスだった。


「ベッドはこんなもんか」


「お姫様にしては、随分と質素なものになってるけどね」


「……なぁジーク、お姫様のベッドってどんなだよ」


「え? そうだな、天蓋がついてて、やっぱレースのカーテンとか垂れ下がっているダブルじゃないかなぁ」


 ああ、なるほど。よくよく思い出してみると、城に置いてあったエリシアのベッドもそんな感じだったな。確かに天蓋がついていて、レースのカーテンが垂れ下がっていた。


「うむ! もちろん天蓋カーテンの色は紫! 照明はショッキングピンクである!」



 そう。紫色のレースのカーテン、ショッキングピンクの照明……。ん!?



「っておい! 絶対なんか違うぞ!?」

「うほぉ! なんかすごいの想像したぁ!」


 思わず、どぎついピンクな部屋を想像させられた。そんな事をさせるのはそう、グレンである。


「ヌハハハハハ! 加勢しに来たぞ! っていうかあまりにも使えないとか言われて追い出されちったよぅ……。さぁジーク、レイ! 今すぐこの部屋をあだるてぃな色に染めようではないか!」


「オウよ!」


「アホか! お前らマスターにぶっ殺されるぞ! 戻って来いジーク! その色ボケ生臭坊主の甘言に惑わされるな!!!」


『カシャカシャカシャカシャ!!!!』


「っておい! 何振ってるんだよ! 何で紫のスプレー振ってるんだよ馬鹿グレン! 少しでも噴射したら殺すからな! 下らない暴走ばっかりしやがって!」


 とりあえず二人を拳骨で現実世界に呼び戻し、まともに仕事をさせる。それがどれだけの労力を必要としたか、ご理解いただけるだろうか?主に原因は、グレンであることは言うまでも無いだろう。


「レイ! こ、ここにもしかして、エリシアちゃんのし……下着が入っちゃったりするわけ!? ぶっブラとかパッパパパッパンティとか!」


「もういい。死ねグレン」

「わー! こら冗談だって! 真顔で抜刀するの止めぇ!」


 そんなゴタゴタがあった後、時間ギリギリでエリシアの部屋のレイアウトが終了した。


 俺は想像以上に、バテバテになっていたのだった。


「うわぁ素敵ー! 私、昔からこんなかわいいお部屋に住みたかったの!」


 着替えが済んだエリシアは、確かに普通の女の子のような格好をしていたが、それでもまるで、人気ファッション雑誌のモデルのような、コーディネートに身を包んでいた。


 流石、オリビアとマスターが選ぶだけのことはあるな。あの二人は暇さえあればファッション雑誌を開いてるし……。


「妙な事を言うのな、エリシアって。俺、君を救出する時、申し訳ないけど君の部屋に入ったんだ。そりゃもう豪華な装飾品に包まれていかにも皇女の部屋だったな。それに比べたら随分と質素になったなぁなんて思ったけど?」


「……悪趣味って思わなかった? いろんなところに金の装飾が施されてるし、花瓶から何まで高級品で、可愛げなんて一切無かったと思うけど。暮らしてる私が、いつも息が詰まりそうって思ってたくらいなんだから!」


 ふむ。確かに気品だけで出来た部屋といった感じではあったが、そうだな。強いて言うなら……。


「枕元のクマちゃんはチャーミングだったぞ」


「ちょっ!? 何でそんな細かい所見てるの!?」


「あんなところにぽつーんとクマのぬいぐるみなんか置いてあったら、逆に目立つだろうに……」


「そ、そうだよね。アハハ……」


 とにかく俺たちは、すべて本当に仕舞えるのか不安を残しつつも、エリシアの荷物をすべて部屋に入れた。まぁ後は明日にでも収納すればいい話だ。そんなことより……。


「マスター、こっち片付きましたよ。そろそろその得体の知れない結界、解いちゃってもらえます?」


 俺の声かけに、マスターは辺りを一度見回してから応えた。


「そうね、みんなご苦労様。良くやってくれました。先日の救出作戦や、昨日の葬儀、そして今日の買い物大作戦。本当に慌しい3日間だったと思います。お疲れ様でした」


 ほんとだよ。ゼクス隊長といいマスターといい、ロキウス王といい。俺の上司は人使いの荒い人間ばっかりだ……。


「では、改めまして、エリシアちゃんの歓迎会を始めたいと思います!」


「「「「おーーーーーー!」」」」


「え!? え!? え!!!???」


「なんだ、エリシア気がついてなかったのか? あんな結界の中身、バレバレじゃねーかって思ってたんだが」


 マスターが指をパチンと鳴らすと、その結果いは消え去り、覆われていた部分からは、ご馳走の山と、大量の酒やジュース、そしてケーキまでもが姿を現した。


「すごい! コレみんなアランさんとグレンさん達が作ったの?」


「……アランさん? ああ、おやっさんか。まぁそうなんだけど、おやっさんは本名で呼ぶより、パパとか親父って呼んだほうが喜ぶぞ」


「あ、それでみんなパパとかおやっさんって呼ぶんだね」


「ていうか、エリシア主賓なんだから、早くみんなの所行って来いよ。それに、早くしないと料理なんて一瞬でなくなっちまうぜ?」


 俺は一足先に、今いる二階廊下から、吹き抜けになっている下のフロアへ飛び降りる。


「あ! レイずるいよ! ていうか危ないよ!」


「この程度で怪我なんてしたらアサシン失格だよ」


 エリシアは階段を下り、皆が待つテーブルへと向かってくる。


 俺たちはすでにグラスを手に取り、それぞれ酒やジュースを注ぎあっていた。


「いっちゃんはオレンジジュースでいいか?」


「はい! ありがとうございます!」


 俺はいっちゃんにオレンジジュースを注いでやる。


「レイ、レイは何飲むの? 赤ワイン?」


「え。あ、いや俺は……」


「くっくっく、エリシアちゃん、こいつはコーラだよ」


 グレンがニタニタと笑いながら、俺の飲み物を指定する。…まぁ間違ってないけど。


「え? コーラ? コーラってこの、炭酸飲料でいいんですよね? お酒飲まないの?」


 すると、すかさずジークが俺のフォローをしてくれる。


「いや、レイは飲まないというより、飲めない。いや、飲んじゃいけないんだ……」


「前に、冗談半分で無理やり飲ませた時、そりゃもう大惨事で、宴どころじゃなくなっちゃってさ……。それ以来レイには酒を飲ませちゃいけないっていう結論に至ったんだ。第一、本人が絶対に飲みたがらないしね」


「えー? 嘘ー。なんかすごく意外」


 エリシアは俺のグラスにトクトクとコーラを注いでくれた。


 グレン達は自分たちで面白がって飲ませたくせに、本当に勝手なことを言う。俺は最初から酒が好きじゃないとも伝えた。どんな毒薬も俺には効かないが、アルコールだけは別だとも伝えた。なのにあいつらは面白がって俺に無理やり飲ませたんだ。


 それでおいて、どうして俺がこのように酒癖が悪いみたいな言われ方をしなきゃいけないんだ……。実に遺憾である。


「エリシアは? 赤か?」


「んー、じゃあ白ワインで♪」


「ん」

 

 エリシアのワイングラスに白ワインを注いでやる。


 ってこれ、かなりいいワインじゃないか? マスターのコレクションのひとつか。酒の味などはわからないが、調理に使う程度に味見はしたことはある。舐めるだけでクラっときてしまうが……。


「みんな、飲み物は行き渡ったわね?ではまず、アリシア様と、ディムルット様のために黙祷を捧げましょう。では、黙祷」


 みんなが目を閉じ、しばらくの間祈りを捧げた。


「それでは、エリシアちゃんの新しい人生と、エアリアルウィングのメンバーとしての門出を祝って」


「「「「「「「かんぱーい!!!!!!」」」」」」」


 ギルド中にグラス同士が軽く触れるような音が響き渡る。


「ぐびっぐびっぐびっぐびっ! ぷっはあああああああああああ! 労働の後の『生』は身体に染みるぜぇぇぇぇ!」


「うめぇ! やっぱこれだよなぁグレン! なんでレイにこの気持ちがわからないかなぁ」


「まぁ、僕としてはあの醜態を晒すくらいだったら、この味を覚えないで正解だと思うけどね」


「うるせーなぁもう」


 あまりにもしつこい三人の弄り行為に、俺のイライラゲージは急上昇していく。一発ずつでもいいからぶん殴ってやろうかな……。



「レイ、酔っ払ったら一体何をするの?」


「覚えてないから問題なんだ」


 そう、俺が気がついた時は大概、トイレにしがみ付いたまま眠っていたのだ……。部屋は特殊部隊が突入したかのような惨状だったって言うのも、特徴のひとつだろうか……。


「おいしい! 私がお城で食べてた料理より遥かにおいしいですアランさん」


「いやぁ、そういってもらえると嬉しいんだが、なんだ、名前で呼ばれるの慣れてないもんでなぁ、ワッハッハ」


「えっと、じゃあ『パパさま』って呼んでもいいですか?」


「「「「「「「さまぁ!?」」」」」」」


 今飲み物を飲んでいる皆が、エリシアのスーパー天然コメントに噴出した。


「あはははははは! パパさま! いいなぁパパさま! 俺も呼ばれてー! あはははははは!!!」


「こら、エリシアさんに失礼だぞジーク、ぷっ! アハハハハハ!!! だめだ我慢できない! あははっあははははっ!」


 酔っ払い始めたジークとアーチャーがげらげらと笑い転げる。


「わひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! うへっ! うへへへへへへへ! いひひひひひひ!」


「パパさまか。斬新だな……。つか、うるせーよグレン。どんだけ笑ってんだよ。パパさま……ぷっ」


 流石の俺も失笑してしまった。


「も、もー! 皆でそんなに笑うことないじゃないですか」


 エリシアは真っ赤になり、ちょっと頬を膨らませてかわいらしく怒っていた。


「と、特にレイ! レイがなんか一番傷つく笑い方してるんだけど!? なんか、やだその笑い方! 皆と違って、こう、あざ笑ってる感じがする!」


「そうなことねぇよ、クックック」


 なぜか俺だけに強く抗議するエリシアに、余計に笑ってしまった。そんな俺たちを見ながら、おやっさんは優しく笑う。


「フッ、まぁ好きなように呼べばいいさね」


 おやっさんはつくずく、このギルドの父親的存在なんだなと思う。俺は父親を知らないが、きっと父親とはそう言う存在なのだろう……。


「いやほら様っていうのはさぁ、もっと威厳があるようなイメージがあって、アルデバランとどっこいな頭をしてるとっつぁんにはちょっと、なぁ? あははははは!」


 あ、グレン今一番余計な事言った。おやっさんのグレンにも負けないであろう、ぶっとい腕がくりだす戦槌のような拳骨が、ドゴンという重たい音を立ててグレンの脳天を叩いた。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! いでええええええええええええ! 目玉飛び出たぞ今!!!」


「今のはグレンが悪い」


「あははははは! グレンかっこわるーい!」


 オリビアがグラスを使うのが面倒になったのか、酒瓶をラッパ飲みしながらケラケラと笑っていた。この姿を見れば、世の中の男だって目を覚ますと思うんだけどなぁ。


「やだ、このパスタすごくおいしい! ほらみんな、早く食べないと伸びちゃうわよ!」


 マスターの一言で、皆がパスタに手を伸ばす。なるほど、これはアサリのパスタだな。実に旨い。アサリの味がしっかり利いてて、それでいて臭みが無い。

流石はおやっさんだ。今度俺も作り方を教わろう。これは真似したくなる味だ。


「いやー、このギルドに居て一番のメリットは、この食事だよね」


 アーチャーは、テーブルに並べられた数々の料理の中から、ピザを一切れ皿に乗せながらそんな事を口にした。


「戦場の飯は本当に胃袋に入れるだけだもんな。行軍中のチーズとか匂い最低だぞ」


「それもそうだが、チーズは臭くて何ぼ。山篭り中の獣肉の臭さといったらもう……」


 あの食欲も失せるような匂いを思い出して、グレンとジークは表情を濁した。そこで、俺はあるアドバイスをする事にした。


「カレー粉がいいぜ? 一度煮て灰汁を取ってから使うと、獣の肉の臭みをけっこう取ってくれる。蛇もこれでかなりましになる。今度試したらどうだ?」


「ほう、そうなのか。必需品かもしれんな」


「もう僕は戦場なんていかなーい。二度とあんな食事をしてたまるもんか」


「「「それだ」」」


 アーチャーの根本的な解決策の前に、俺達3人はアーチャーを指差して同意する。 


「この料理を前にしてどんな会話してるのよ、この脳筋あほ集団」


 宴の序盤は、そんな会話が横行しながらも、平和な時間が続いていたんだ。そう最初はな……。



レイの酒癖


 暴れる。とにかく暴れる。日ごろ溜め込んだ不平不満をぶちまけながら、めちゃくちゃ暴れる。神速で女性の下着を奪い取り、高々と掲げた後、道端に放り投げるなどの暴挙に出る。止めようとした人間の顔面に容赦なくリバースする。この時ばかりは、ゼクスと互角にやりあうなんていうわけの解らない戦闘力を発揮するが、長持ちしない。所構わずリバースして、最終的に気絶する。そしてその記憶を全て失っていると言う性質の悪さから、『レイに酒を飲ませてはいけない』というルールが、アサシンとエアリアルウィングの規約事項に明記されている。

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