―買い物大作戦Ⅱ―
―エアリアルウィング―
「ごめん、グレン。本当にすまなかった」
「すまなかった。じゃねーよ!!! お前ふざけんな!? あれ抜き身だったら間違いなく俺死んでたよ!? しかも握ってた剣が精霊剣ってなんだよ! 殺す気満々じゃねーか!
抜き身だったら俺間違いなく顔面が二つに割れた上に首が跳ね飛ばされてたんだぞ! 想像しただけで小便ちびってまうわヴォケェ!!! マジありえねぇ!!!
エリシアちゃんの悲鳴が聞こえたから何かと思って凸ったらお前上半身裸だしよぉ! 何時ものノリで『何やっとんじゃボケェェェ!』ってやろうとしたら想像以上の迎撃してくるしさぁ!
なんなんだよお前。マジ絶交する! マジ大嫌いだお前! 二度と口きかねぇ!!!」
グレンは涙を流しながらマスターたちの治療を受けていた。
「おいおいグレンマジ泣きしてるぞ。どれだけ本気で叩き込んだんだ?」
「あの鉄よりも硬そうな筋肉の鎧を持つグレンを、抜刀しないまま切り伏せたんだろ? レイの限りなく全力に近い攻撃だよね。普通の人間なら即死、その辺の手練の冒険者でも、病院送りどころか集中治療室まで持って行かれるね。
……しかし、ほぼ反射で放った攻撃の内容が、顔面を真っ二つに叩き割り、その後間髪入れずに首を刎ねるとはね。
オーバーキルなんて生易しいものじゃないよ。アサシンってのはみんなそうなのかい?」
「レイってば精神病んでるんじゃない? いい精神科探してあげようか?」
オリビアが余計な心配をした。まぁそう思われてもおかしくないくらい、俺はグレンを痛めつけてしまった。
今回ばかりは俺も反省するしかない。とんでもないことをしてしまった……。
「いや、あのーあれだ……。昨日ちょっと鬼夜叉丸のデータを手に入れることが出来て、朝方まで目を通して、ちょっとハードな睡眠学習をな……」
「つまりアレか!? お前寝ぼけて俺に切りかかったのか!?」
「え、まぁそういうことになる……かな? いやだってお前いきなり突っ込んでくるからびっくりしてさ、あははは……」
俺の言い訳に流石に呆れたのか、ため息混じりにマスターが口を挟む。
「アハハーじゃないでしょー? 全く。あの後エリシアちゃんの悲鳴でお巡りさん来ちゃうし、グレン君は鼻の骨にヒビ入って、首は鞭打ちになっちゃってるし。まぁ回復魔法でどうにかなる程度ではあったけど、本当に危ないわよレイちゃん」
「面目ない」
何ともグレンには申し訳ないことをしてしまった。あいつとて本気で殴って来る訳ではないし、確かに痛いが、大怪我をするほどでもないのだ。
「悪かったよグレン。ごめんな?」
「うるさい! 大っ嫌いだお前!」
「そう拗ねるなって。今度飯奢るからさ……」
「『天々』だ! 高級焼肉店『天々』の焼肉を奢れ! じゃないと許さん!!!」
「うっ……。わかったよ、次の任務の報酬で奢るよ。奢らせてください」
「約束だぞお前! 絶対だかんな!」
て、天々かぁ。あそこ高いんだよなあ。それにコイツの食事量人の5倍は喰うんだよなぁ。
ああ、本当に高くついた。今度からグレンでも入ってこれないプロテクト考えなきゃだな……。
「エリシアも悪かったな。せっかく起こしてくれたのに、とんでもないことになっちまって」
とにかくエリシアにも謝っておこう。上半身裸の何がそんなに衝撃的だったのかは知らないが、あんな叫び声を上げるから、相当ショッキングな事だったのだろう。
途端に何かを思い出したのか、エリシアはボンッ! と赤くなった。
「えとあのその! わわわ私こそごめんね? あんな大きな声上げちゃって。えとその、初めてだったから、男の人の裸……見たの……」
ああ。そう言うことか。夏の海にでも行けば、大体みんなそんな格好だとは思うのだが。なるほど、エリシアのことだから、そんな経験もないのだろう。
「あー、それはアレだ。……死刑だね☆ ね? ジーク」
「ああ、勿論だアーチャー。私刑だ」
「だよな!? 俺間違ってないよな!?」
「そうね、グレンは正しいわ。悪いのは、レイ! あんたよ!!!」
ウンウンと満場一致の有罪判決が下される。そんなの解りきってることなのだが、全員がボキボキと指を鳴らし始める。
「いや、だから謝ってるじゃないか」
「「「「問答無用!!!」」」」
結局みんなから一発ずつ殴られた。
「……ふぅ。どうでしょうかグレンさん」
ずっとグレンの治療にあたっていたいっちゃんが額の汗をふき取っていた。
「おう! すごいないっちゃん。もう全く痛くないぜ! また腕が上がったんじゃないか?」
「えへへー、グレンさんに褒められちゃいましたー」
ピースなんてみんなに向けるいっちゃん。確かに最近の彼女の成長は目まぐるしい。俺以外の前衛の間でも、もう彼女無しの任務は考えられなくなって来ているくらいだ。
本当に成長した。……まぁたまーに失敗はするけどな。
「よし、グレン君の治療も済んだし、今日の予定を発表します。まず今日は特に新しい依頼を受注していません。実はちょっと皆にやってもらいたいことがあります。もういっちゃんとオリビアちゃんには伝えてありますが、まず二班に分かれます。まず、グレン君、ジーク君、アーチャー君は、パパさんと市場に買出しです。その後パパさんの助手をしていただきます」
「え? そこはレイじゃね?」
グレンが真っ先に疑問の声を上げた。確かにそうだ。あいつらにおやっさんの助手って務まるのか?
「あなた達、レイちゃんばかりが料理のスキル上がってもしょうがないのよ? こういう雑務はみんなでやらなきゃ」
なるほど、一理ある。……それを言ったらオリビアも。いや、あいつは冷凍食品を製造するだけだな。
「そして、私といっちゃん、オリビアちゃん、エリシアちゃんはコルトモールにお買い物でーす♪ レイちゃんは荷物持ちでーす☆」
「「でーす☆」」
「あ、えと……よろしくね、レイ」
出た、昨日のあの悪い予感はコレだった。確かに昨日マスターは何か付き合えとかなんとか言ってた気がする……ああ、これかぁ。すっげーめんどくせぇ。
「グレン代わらないか?」
「あー……いや、女の買い物はなんか長そうだし、いいや」
くそう、完全に貧乏くじじゃないか。しかも完全に逃げ道なんてないと来た。今日は厄日と言うやつか? 今日の俺の運勢は、どうやら最下位に位置しているらしい。
「そもそも、コルトモールに何を買いに?」
「それはもちろん、エリシアちゃんの服から日用雑貨、あとはしっかりとした家具もね! だからコルト
モールのあとは『IKEYO』かしら?」
大型ショッピングモールであるコルトモールの次は大型家具専門店のIKEYOだと!? こいつら丸一日買い物するつもりだ! もうやだ、今すぐベッドに戻りたい。今日という日をもう無かったことにして、明日の朝までタイムジャンプしたい。
「「「レイ、どんまい!」」」
「……はぁ」
俺は重い重い鉛のようなため息を吐き出した。
―コルトモール―
「わぁ! すごい、お店がいっぱい! まるで雑貨市祭みたい! わっ! 映画館まである! え!? ペットショップまで!? フードコートにもこんなに! こんなの一日じゃ回りきれないわ……」
エリシアは3階建ての巨大ショッピングモールを、輝いた目で見つめていた。
今、彼女は、一番体型が近いマスターの服を借り、ここに来ていた。白のワンピースに青いGジャンっぽいものを羽織っている。ここに来たとき、彼女は皇女の服装のままだった。しかも何の手荷物も持たずに来てしまったからな。まぁ持ってきたとしても、貴族の服じゃ到底一般市民に紛れることは出来ないだろう。このご時勢に、煌びやかなドレスのような貴族の服を身に纏っているなんて、オーディア皇室の仕来りは筋金入りだな。
「コルトタウン一のショッピング施設よ。王都のショッピングモールはさらに大きいけれど、ここでも十分良いものは揃うわよ。私行きつけのブランドショップも入ってるくらいなんだから」
オリビアがエリシアに、簡単に施設の説明をはじめた。俺もここへはあまり来たことが無いので、マップを確認してみる。……なんと、行きたくなるような施設は一つも見つからず、絶対に俺が近づいてはいけなさそうな、婦人下着売り場が3件も入っている。ここに近づき、少しでも目線を向けてみろ。オリビアとマスターの執拗なセクハラを受けるに決まっている。
「オリビアちゃん行きつけのお店は却下ね。胸開きすぎの服ばっかり置いてるんだもん。この間なんて胸元の空いた白いタートルネック何て買ってきて、グレン君が大暴走して大変だったのよ?」
ああ、アレは大変だった。わざと見せびらかして、グレンが目の前に赤い布をチラつかされた闘牛みたいに、目が充血してフンスフンスと鼻を鳴らしていた。
あらかた挑発したの後、オリビアは風のように去った。よって、グレンがムラムライライラして色々暴れた挙句、処理しきれない性欲にのた打ち回ったのだ。
しかし、エリシアやいっちゃんにあんな服を着せたらどうなるんだろう? 俺も男なのでやはり想像してしまった。
エリシアは、うん、ちょっと似合うかもしれないが、……絶対直視できないだろう。俺もグレンほどではないが、流石に、うん。……無理。
いっちゃんのようなぺったん……。おっと失礼、スレンダーな女性には似合わない、いや着れないな。いろんな意味で……。
「む! レイさん! なんですかその目は! 目が何かを訴えかけてますよ!? なぜ哀れみに似た視線を向けてくるんですか!?」
「いや、別になんでもないよ」
ぷくーっとほっぺたをかわいく膨らませ抗議するいっちゃん。そんなかわいく睨んだって怖くないですよーだ。
「とりあえず先ずは服ね。そうねー、お値段もリーズナブルでかわいいと評判のお店、『ハートファッション』から見て回りましょうか!」
その後、アレもかわいいコレもかわいいと女子達は楽しそうに服を選び始め、俺はといえば、通路のベンチに腰掛け、コーヒーを飲みながらまだかなーなんて思いつつ、その光景を眺めていた。
そしてエリシアは試着室に入り、選んだ服を着てみせたりするファッションショー的なものをやらされていた。
流石皇女と言うべきか、何を着ても似合うその容姿は、確かに世の男を狂わせるものがある。
「きゃーーーかわいーーー♪」
「次コレ! コレ着てみましょう!」
「ほら、これもいいじゃない! ちょっとセクシーで」
「はい!」
エリシアもなんか楽しそうだな。アレは作り笑いじゃなさそうだ。本当に楽しんでるんだろう。それにしても……。
「ひまだなー……」
俺は買いたいモノも無いし、このモールには武器屋がひとつも入ってないし、アイテムショップは何処にでも置いてあるような物ばかり。強いて言うなら靴屋か? 俺にとっての実用的な店はそれくらいだ。あー、せめて魔法道具店とか、魔法薬系のドラッグストアとか入って無いかなぁ?
「やだー、いっちゃんもかわいいー♪ これとか最高に似合うじゃない」
「あ、コレ! この色とこの色で……どう!?」
「素敵です! さすがオリビアさんですね!」
「もー、だからオリビアでいいってばー! 私もエリシアって呼ぶからさー。エリシアはレイばっかりヒイキするんだから! まぁレイはエリシアの王子様になっちゃったみたいだから、仕方ないかなー?」
「ぶっ!!!」
オリビアのふざけた戯言が聞こえてきて、俺は思わずコーヒーを噴出す。
「もーちがうよぉ! そんなんじゃないよぉ! レイに聞こえたらどうするのよぉ!」
ああ聞こえてないし本気にしてませんよー。ちょっとびっくりしただけだよー。つかあいつら自分達の服まで選んでるじゃねーか。こりゃ3時間コースかなぁ。
あれからどれだけ時間がたっただろうか? 結局、一階から三階、雑貨屋からブティックなどの全ての店を回り、もう両腕に収まりきらなくなった荷物を、俺はショッピングカートを使い、みんなの後ろをついて回っていた。
「……こりゃジークに飛竜回して貰うレベルになってきたな」
というより、会計のほうは大丈夫なのだろうか……。すでにエリシアの会計だけでも十万は使っている気がしてきた。
「あの、マスター。盛大に楽しんでいただいてるところアレなんですけど、お金大丈夫なんですか? マスターの心配はしてないんですが、エリシアの金銭問題は昨日の会議で……」
「愚問よレイちゃん。いい? 女性にとって美を磨くというのは、権利であり、義務です。それもエリシアちゃんのような美しい女性なら尚の事! 私の傍にいる限り、彼女にみすぼらしい格好はさせられません! 今回のこの買い物大作戦における費用、私、セイラ=リーゼリットがすべて持ちましょう! さぁ! 次のお店に行くわよー!」
「「「おおー!!!」」」
ぱちぱちと女性組みが拍手し、マスターを称える。駄目だ、ノリノリだこの人。もうどうにもならん。
俺は最近みんなに支給された(料金は自分もち)『ケータイ』という物を使い、ジークに連絡する……。
「あ、ジーク? 俺、レイ。あのさ、悪いんだけどそっち一通り片付いたらでいいんだ。ティアマトで迎えお願いできる? マスターのタガが外れた……」
すると、電話越しにジークの怒声が聞こえてくる。
『はぁ!? それ防ぐのもお前の仕事だろ!』
「うん、ごめん……」
ジークに怒られ、謝り続ける俺。その俺を他所に、彼女たちの買い物はまだまだ終わらない。
セレブ女の買い物、恐るべし……。
ケータイ
レイの持っているのは二つ折りのシンプルな、現実世界で言うガラケー。ちなみに、レオニードではスタンダードなタイプ。スマホなんて未来の技術はまだまだ先の話。……と思いきや、スマホで出来るような簡単なアプリ程度なら、魔法道具で事足りるという複雑な事情がある。魔法道具を製作する会社は、魔法道具のコンパクト化とコストの大幅削減を目標としている所が多い。




