―エリシアと言う一人の女性Ⅲー
まぁそうなるよな。俺も同じ事思うもん。何言っちゃってるんだろうね、俺ってば。
「──へぇ、あのレイちゃんが賛成するなんてね。でも、レイちゃん。みんなを納得させるだけの、根拠を貴方は提示できるのかしら?」
マスターがちょっと含み笑いをしながら、何か面白い事を言うのでは? という期待の眼差しを俺に向けた。
ええい、あんたが一言『却下です』と強く言ってくれれば丸く収まったものを!!!
──いや、あの目は違うな。あのニマニマは、俺がエリシアからの期待の眼差しに屈し、俺らしからぬ事を成そうとしている俺を笑う目だ! くっそ、もうどうにでもなりやがれ!
「──はぁ。ただし条件はあると思いますよ? まず最低条件として、エリシアには冒険者としての知識を身につける為にも受付の仕事をしてもらうのはもちろん、日常生活の知識などを踏まえ、俺たちと同じように基本的な雑務を当番制でこなしてもらいます。これは今後のエリシアにとって必要だから絶対条件だからな?」
俺はエリシアにそう伝えると、彼女もこくりと頷いてくれた。よし、ここまではいい。
「次の条件は、エリシアの素質です。正直な話、幼少のころから修業を重ねていないと厳しい仕事だというのは、グレンたちと同じ意見です。ただし、俺たちのように戦闘員としての話であり、支援職となれば話は違ってくるかと思います」
「ああ、そりゃあそうか。いっちゃんも、入った時はちょっと魔力のある一般人だったしなぁ?」
「はい!」
おやっさんの言葉に、いっちゃんが元気良く返事をする。若干、演技っぽくなってるが、それはそれとして……。お前ら自分から言い出せよ。お前らがフォローしてやればいいじゃないか!
「もしかしたらいっちゃんのように、魔法の才能がエリシアにもあるとすれば、あとはこれからの修業次第で、一般の支援職程度に成長することは可能でしょう。
マスターのように知識と経験を積む事で、『戦場指揮官』を目指せる事だってありえる。寧ろ俺はそこに期待しています。
彼女は連合諸国のチェス大会で好成績を残している経歴もあるし、何より、あのラジールの娘ですよ? 皇室内で戦略的な知識を少なからず積んでいると思われます。
指揮官の重要性は、お前らも知ってるだろ? もし、マスターが不在の場合、誰が指揮を取れる? 誰も取れないだろ。お前ら好き勝手やりたい放題に動くだろ? 特にグレン。お前はマスターの命令だってまともに聞けやしねぇ。お前ら昨日の戦いで、マスター無しに作戦が成功できたと思うか? 俺は思わない。マスターが動けない不測の事態に陥ってしまった時、それを補う動きができるメンバーが、このギルドには必要なんだ。それを担える可能性があるのは、かつて連合軍総司令官を務めたラジール=バレンタインの一人娘である、彼女に他ならないと、俺は考えます。──以上」
一応エリシアの過去のプロフィールは作戦移動中に資料を手に入れ目を通し暗記はした。それを元にいろいろこじつけては見たが……。どうだ。俺は出来る限りの事はしたぞ? コレで駄目と言われれば諦めろエリシア!
「え。なんか完璧じゃね? 何、レイお前、朝から変な薬使ったんか? 気持ち悪いくらいキレッキレなんだが!?」
「すっげ。レイが持論展開だなんて! 明日はきっと嵐だぞ」
ふむふむ、だなんて聞いていたグレンが、ジークと顔を合わせながら驚く。
「なんかレイにしては随分と喋ったねぇ。いつも欠伸しながら『右に同じ』程度しか会議でコメントしないのに。あれかい? ついに男になる決意固めちゃった? お兄さんなんか嬉しいなぁ。でもあんま調子乗らないようにね? 可愛い女の子の前でかっこつける男ほど、周りは冷めた目で見てるもんさ。まぁいいや、僕もレイの意見に賛成かな」
やれやれだなんて両手でオーバーアクションをしながら、アーチャーが俺の意見に同意した。
「やだ、なんか今だけレイがちょっと良い男に見えるかも!? なんかレイ熱でもあるんじゃないの!? それとも私? 私風邪でも引いたかしら!?」
斜め前に座っていたオリビアが立ち上がり、俺の額と自分の額に手を当ててくる。ええい邪魔臭い。
「レイに論破される日が来るなんてね。いいよ、レイの意見に賛成しよう」
「いいじゃんか! 戦場指揮官! 見習いだから参謀って所か? がんばれよ、エリシアちゃん!」
ジークもグレンも、俺の意見に賛同し、これで殆どのメンバーがエリシアの希望を承認することとなる。
つーかちょいちょい俺へのディスりが混じってるのはどういうことなのでしょうかね?
「じゃあ決まりね! エリシアちゃんにはしばらく受付と料理人見習いをしてもらいながら、冒険者としての素質を見つけ、そこを伸ばす為の修業をする! ということで、今日の会議はこれで終わり。お昼からは、アリシア様とディムルット様の葬儀を、コルト南の『セント・テスタロッサ聖堂』で行います。
もう間もなく、ロキウス王が手配して下さった葬儀屋さんが到着しますので、皆さん。各自準備のほどをお願いします」
葬儀か。欠席……なんてできるはずも無いが、やはり教会は苦手だ。セント・テスタロッサ聖堂は他民族や異種族にも分け隔てなく接してくれる穏健派の教会ではあるが、『アギトル教』であることには変わりない。憂鬱なことこの上ない。
「あの、レイ。ちょっといいかしら?」
部屋に喪服を取りに帰ろうとすると、エリシアに呼び止められた。
「ん? どうしたエリシア」
「大した事じゃないの。また助けられちゃったね、ありがとう」
「ああ、いいさ。それに大した事じゃない。大変なのはこれからだから、がんばれよな。ま、俺も正直、事務仕事とか書類は苦手でな。マネジメントしてもらえるとかなり助かるのも事実なんだぜ? だから魔法の勉強と両立って事になるとは思うけど、何か俺に協力できる事があったら何でも言えよ? っつーて、俺は魔法はほとんどダメだけどな」
「うん、ありがとう。きっとまた、頼っちゃうと思う。いつか恩返しできるよう、がんばるね」
「ああ。期待してるよ」
「ところで、レイはチェスはするの?」
「いーや。ルールと駒の動かしかたくらいは覚えたけどな。いかんせん、相手は大体マスター。もしくはマスターの祖母が相手でな。毎度毎度あっという間にやられるから、速攻で飽きちまった。悪いが、連合諸国で優勝するような実力者の相手にはなってやれないよ。マスターなら相手に不足は無いと思うぜ?」
「ふふふ、そうね。セイラさまも、相当の実力だって聞き及んでいるから、いつかお相手願おうかしら」
「はは。本来なら世界戦の決勝で行われるような試合が、このギルドで日常的に行われるのか。世の中のチェス愛好家達が知ったら、ギルドに見物人が押し寄せそうだな」
そんな取りとめのない会話をしていると、ギルドに葬儀屋が到着した。エリシアは細かい打ち合わせなどをするために、二人の眠る応接室へと、葬儀屋と共に入室した。
「彼女、レイちゃんの前だとすこし明るくなるわね。世の中の王子さま達から嫉妬で暗殺者を放たれちゃうかもよ?」
「……盗み聞きは趣味が悪いですよ、マスター。俺には絶対させないくせに」
すっと物影から現れたマスターに、俺はため息を付く。
「それに、あんなの無理して明るく振舞ってるだけじゃないですか。母親と執事を救えなかった俺に気を使ってくれてるみたいで、ちょっと居心地が悪いです」
「それは、あなただけの責任じゃないわ。ギルド皆の責任よ。たまたま、あなたが深く関わってしまっただけ。それに、あなたはベスト以上の力を尽くしてくれたと、私は評価しているわよ。かなり無茶させちゃったわね。報酬も多めにしておいたわ。ご苦労様。
と・こ・ろ・でぇ? あの野暮天と名高いレイちゃんが随分と短期間でエリシアちゃんと打解けてるじゃなぁい? ねぇねぇ、もしかして、恋しちゃった? 流石のレイちゃんも、エリシア皇女の魅力にはノックアウトされちゃた? むふふふふふ♡」
「してませんって。そりゃ美人だとは思いますが、俺は彼女に負い目があるし、似たような境遇を経てますからね。家族を失い、見知らぬ土地へと連れてこられた彼女に、俺はきっと同情してるんですよ」
「ふぅん? 同情ぅ? あのレイちゃんが? やっさしぃ! その割りには、深夜に暖炉の前で二人で暖を取っちゃうなんて、随分ロマンチックなことしてなーい?」
「なっ!?」
「それにぃ、お姉ちゃん聞いちゃったぁ♡ なんかすっごくレイちゃんの割りには、おっきな声でしゃべってるなぁって思ったら、最後すっごいセリフ聞いちゃったのよぅ。んーっとねぇ、『今後何が起こったとしても、君を救い出せた事を俺は、誇りに思うよ♡』だっけ? やー、まったくもぅ! お姉ちゃん心臓ばっくばっくしてきゅんきゅーんってしちゃったわよぅ!」
「聞いてたのかよ。 ほんとに最低だな、自称姉。ってかイントネーション全然ちがうし! そもそも、アレだって、別に口説くとかそういうんじゃなくて、なんつーかその。そう、励ましてやりたくて、言葉を探した結果がああいうセリフになっちまっただけですよ」
「ふふ、そんな事はどうでもいいわ。それがなんにせよ、エリシアちゃんの壊れちゃいそうな心を繋ぎとめている。私としては、どうやって彼女を立ち直らせて上げられるだろうって悩んでいた所だったから、嬉しい誤算だわ。ありがとね、レイちゃん。あ、でも一応今は喪中だから、ある程度は自重してね?」
「だからちげーつってるだろ馬鹿姉」
俺はため息を付きながら、自称姉をジト目でにらみつける。
「ああそれと、明日は空けておいてね。特別任務を申し付けます」
「なんか悪い予感しかしないですね、その特別任務……」
ギルド腕章
メンバー全員に支給されているが、いっちゃん以外のメンバーは着けたり着けなかったりする代物。ただ、公の場や他のギルドとの合同クエストに参加する場合、着用が義務となっている。全員が常に持ち歩いては居るが、ファッションにあわせて着用を自由とした。これは、セイラ自身がおしゃれを楽しみたいという願望からだろう。ちなみに、レイの場合、いつもはアイテムポシェットの一番奥に詰め込まれて居たりする……。




