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Aerial Wing -ある暗殺者の物語-  作者: ちゃーりー
皇女の居る日常
15/119

―エリシアと言う一人の女性Ⅱー

 

―ギルド会議室 円卓の間―



「──それではこれより、エアリアルウィング臨時会議を開きたいと思います。そうね、まずは現状を整理してみましょうか。確かに、エリシア皇女様はこの国に亡命することにより、皇族の席から抹消され、皇位継承権は剥奪されると思われますが、状況が状況です。


 正式に亡命したことを諸国に告知するわけにもいかないので、しばらくは行方不明扱いとなります。よって、現状は事実上の破棄という形で、エリシア皇女様は我が国の一般市民として、今後この国で生活していくことになります。というのが、今の現状ね。


 では本題には入ります。これまでの皆、良く頑張ってくれました。緊急招集であり、しかも不完全なオペレーション内容。そして、決して最高の結果とは言いがたい作戦ではありましたが、メンバーの無事。そして、結果はどうあれ、ご依頼者様であるアリシア様のご希望に沿えたことを、今は喜びましょう。特に、レイちゃん。あなた一人に掛った負担やプレッシャーは、相当なものだった筈。本当に良くやってくれたわ。……まぁ、あなたには後で色々と言いたい事も出来たけれど、今は良しとします」


 マスターの若干据わり気味の視線に、俺は思わず目を逸らす。


「で、まずは皆が一番気になってる、エリシア皇女様の今後についてです。まずは、本人の強い希望もあって、以後、彼女を一般人として扱う事とします。と、いうわけで、私も誰かさんにならって、エリシア皇女ではなく、エリシアちゃんって呼ばせてもらうわね。さて、折角だし、まずは皆に自己紹介してもらおうかしら。できそう? エリシアちゃん」


「あ、はい。もちろんです」


 マスターに促され、エリシアは席から立ち上がり自己紹介をはじめる。


「えっと、エリシア=バレンタインです。今年で二十歳になりました。みなさん、私の命を救っていただき、ありがとうございます。一般的な自己紹介だと、やっぱり趣味とかですよね。えっと、趣味は読書とチェス。あと動物と触れ合うことが大好きです。苦手な事は、運動かしら……。簡単で申し訳ないですけれど、よろしくお願いしますね」


 ぺこりと頭を下げたエリシアに、メンバー達は拍手を送る。本当に簡単で、サクッと終わってしまう自己紹介ではあるが、彼女はこの大陸に生きる人々なら誰もが知る、エリシア皇女なので問題は無いだろう。そもそも、彼女についての自己紹介なんて本当に必要だったのかさえ疑問に思えて来る。


「ありがとう、エリシアちゃん。さて、今のところ、こちらに亡命したことはロキウス王にも伝えてありますが、飽くまで極秘。ですので、国際法廷の場で正式に皇位継承権の放棄をできるはずもないので、『事実上の放棄』という形になります。いつまでも隠し通せるものではないし、現状から推察して見ても、ここからオーディアが巻き返すなんてことは、正直ありえないと見ています。


 首謀者がアルデバランである以上、オーディアは解体され、アルデバラン領として支配されていく事になるでしょうね。それと、レイちゃんの手に入れた情報や、今までの経緯をみても、あの色狂いの王、アルデバランの目的が、エリシアちゃんであることは明白です。そして同じくして、あの鬼夜叉丸も、エリシアちゃんに強い執着を見せている事から、今後も彼女の警護は継続していく必要があると見ていいでしょう」


 性質の悪いストーカーが二人か。全く、難儀な話だ。


「さて、問題はこれから我が国で、彼女がどう暮らしていくかです。今回の作戦で、亡きアリシア様から報酬として、膨大な資金が振り込まれていましたが、今回の作戦。アリシア様が望む結果を残せたとはいえ、決して作戦成功とは言えません。


 よって、今回の経費、そしてあなた達に当てる報酬をそこから引き、残りはエリシアちゃんに返還することを提案しました。ちなみに、そのお金があれば、今後とんでもない使い方をしない限り、彼女は裕福に暮らせる。それほどの額です。しかし彼女は──」


 少し気まずそうに、マスターはエリシアへと目を向けた。すると彼女は、少し顔を上げ、静かに語った。


「──今回、この国に難民として避難した我が国民への資金援助と、ロキウス王様への謝礼として、そのお金を使うことにしました」


 エリシアは神妙な面持ちで打ち明ける。なんとまぁ、彼女らしい選択なんだろう。噂に違わぬ心優しいお姫様なんだろう。余りにも人が良すぎて鼻で笑いそうだ。


「あー、そのことに関してなんだけど、ロキウス王にその旨を伝えたら、『私のことは気にしなくていいから、市民の資金援助に役立ててください』との事よ。あの人は決めたことは曲げない人だから、きっと押し付けても受け取らないわ。だから結局、エリシアちゃんにはこれからしばらく暮らす為の最低限のお金を受け取ってもらって、残りは難民の資金援助に回す事になりました。と、これが今の彼女の現状です。つまり、彼女は本当に私たちと同じ、一般人になってしまったわけなんです」


 一般人だなんて単語を聞いて、俺は思わずため息混じりに頬杖をつく。


 同じねぇ? 俺は金の使い道が、ほぼ武器の収集に当ててしまうから、荒い方だからアレだけど、他の連中はいっちゃんをのぞいて一般人よりは遥かに溜め込んでるんだがなぁ。その筆頭はマスター、あなただろうに。──おっと、オリビアの浪費癖を忘れていた。


「つまり現段階では、エリシア皇女……じゃなかった、エリシアさんは、『多少の生活資金を持った住所不定の無職』なわけですか?」


 アーチャーがそんな、もっとも皇女という身分から掛け離れた身分を口にした。


 金を持ったホームレスの元皇女……。なんだろう、想像したら、目も当てられないくらいエリシアが不憫に見える。


「す、少なくともウチにいる限り衣食住は保障するわよ! 今後もエリシアちゃんの警護を継続するって言ったでしょ? ギルドの2階の女子寮、最後の空き部屋に住んでもらう事にしたわ。けど、この国で生活する以上、収入はやっぱり必要になって来るでしょう? 彼女の今後が今回、一番困っていることなのよねぇ……。エリシアちゃんには当初、ギルドの受付嬢とかパパさんの助手をしてもらおうかなって思って提案したんだけど、彼女はその……。冒険者として働くことを望んでいます」


「「「「「「「ええええええええええええええ!?」」」」」」」


 俺を含め、ギルドの全員が驚きを隠せず、絶叫する。


「いや、いくらなんでもキツ過ぎるだろ? 全然楽じゃないぞ? 変な話、戦いに明け暮れるような毎日だぜ!?」


 グレンが慌ててエリシアを諭そうとする。


「生傷だって絶えないし、大怪我の可能性もあれば、最悪死に至るケースだってある。エリシアさん。貴女のような女性がそのような危険を冒す必要は無いかと存じます」


 アーチャーも、こめかみに指を当てながらうーんと唸りながら意見する。


「アーチャーとグレンの言うとおりです。それに我々は冒険者になる以前。幼少のころより厳しい修業を重ねての今があるのです。考え直してください。貴方に何かあっては、応接間で眠るお二人に、我々はどう顔向けをしたらいいのですか!」


「ジーク、ちょっと言いすぎよ。──まぁ、私もちょーっと賛成できないかなぁ。


 だって、エリシアさんは働くことはおろか、自分の力だけで生活すること自体初めてでしょ? その訓練も兼ねたマスターの提案だと思うんだけどな。


 実際、事務関連を受け持ってくれるのは、私たちにとってはとても助かる事柄よ?


 見てごらんなさいな。この男連中と来たら、アーチャーならまだしも、そろいも揃って脳味噌まで筋肉で出来てる連中なのよ? 事務作業で手間取って、クエストの効率が悪いったらありゃしない。


 このアホどものマネジメントしてもらうだけで、このギルドの収益がどれだけ上がるかって話になるわ」


 ジークに続き、オリビアの意見も真っ当で、反論の余地がない。つーか誰が脳筋だこら。


 その後に続いたグレンとアーチャーの意見もNOだった。当然だ。俺だってぶっちゃけNOだ。だが俺は……。


「──まぁ待てよ、お前ら。そう頭ごなしに否定するもんじゃねーだろ? エリシアだって、何か考えあっての事なんじゃないか? 先ずは話くらい聞いてやるのがスジってモンだろ。相手はあのエリシア皇女なんだぜ? 世間知らずの箱入り娘が何の考えも無しにぶっ飛んだ望みを口にしてるわけじゃないだろ」


 目の前で、みんなに否定されてしゅんと小さくなり、また泣き出してしまいそうなエリシアを、放っておけなかった。


 止せばいいのに、俺もめんどくせぇ事をしてしまったと後悔しながら、エリシアの言葉に耳を傾けた。


「──私は、もう皇女ではなくなります。本来なら、あなた方に護衛をしていただくような立場ではありません。それでもセイラ様は、此処で私を匿って頂けると申し出てくださいました。ですが、最低限。自分で生活出来るような術と、自分の身は自分で守れるような術を持ち合わせたいのです。いつか此処を離れても、自立していけるように。それに、皆様が必死に、傷だらけになってでも戦う姿を見て、私の無力さを痛感いたしました。せめて、私にあなた方のお手伝いが出来ないかと思ったのです……」


 なるほどな、事情はわかった。それでもやっぱりNO……って言いたいんだが、どうして俺を見る! そんな助けを請うような目で見ないでくれ、エリシア。そんな目で見られても俺は反対だぞ!


「むぅぅぅ……!」


「ん……?」


 隣に座っていたいっちゃんまでもが俺の袖口をくいっくいっと引っ張り……。


『レイさん。なんとかしてあげてください!』


 だなんて目をして訴えてくる。そして、正面に座っていたおやっさんまでもが……。


『レイ、漢の魅せ所だ。一発ガツンとやったれ! お前なら出来ると父ちゃん信じているぞ!』


 なんて熱い視線を送ってくる。ええいお前らこんなところで結託しおってからに!!! ああもぉめんどくせぇなちくしょぉぉぉぉぉぉ!!!


「……いいじゃんか。なれば良いんじゃねえか? 冒険者に」


「「「「はぁ!!!???」」」」




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