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Aerial Wing -ある暗殺者の物語-  作者: ちゃーりー
皇女の居る日常
14/119

ーエリシアと言う一人の女性Ⅰー

俺の朝は遅いほうだ。


 なぜなら、俺の家はギルドの隣にあるからだ。元々はこの町の宿屋だったが、オーナーが強盗殺人に遇い、非業な死を遂げ、宿屋は閉業し、その跡地を買い取ったのが我らがギルド、エアリアルウィング。


 そして俺の家は、まさに殺されたオーナーの一家が住んでいた家。所謂、事故物件となってしまった家を、格安で購入することができたため、職場から徒歩1秒という最高の物件を手に入れたのだった。


 それこそギリギリまで寝てるし、朝食は適当。前日にパン屋などで朝食を買い、リビングのバスケットの中に放り込み、朝それを焼きもせずにかじる。そして牛乳をパックのまま飲み、冷蔵庫に戻す。なにもなければ、ギルドの厨房で、適当な食材を使って適当に作って適当に食べる。毎日そんな朝を繰り返している。


「とりあえず顔を洗うか」


 目が覚めると、ベッドから抜け出し、洗面所に行き顔を洗い、歯を磨き、服を着替えて、リビングに向かう。


 そしていつもの様にバスケットの中を確認し、あることに気がついた。


「あ、パンない」


 そりゃそーだ。昨日あのまま帰ってきて、また寝たんだった。


 仕方ない、確か冷蔵庫にリンゴが残ってたな。それをかじろう。


「牛乳も買って来ないとなぁ。もう空っぽになっちまうわ」


 俺は朝は独り言が多いと、確かオリビアは言っていた。どうやら俺は頭が冴えていないと、独り言を繰り返す癖があるらしい。


 ガリガリとリンゴをかじり終わると、芯の部分をゴミ箱に投げ捨て、家を出て玄関の鍵を閉める。そして隣のギルドの扉をくぐった。


「うーっす……」


「おはよう、レイ!」


 あまり聞き慣れない声に挨拶をされ、相手を思わずガン見してしまった。


 朝日に照らされ、キラキラと輝く黄金の髪。美しい海のような紺碧の瞳。そして、煌びやかなドレスを身に纏った美しい女性。


 他の誰でもない、エリシア皇女が俺の目の前に立っていた。いや、違うな。エリシア元皇女が俺の目の前に立っていた。


「お、おう。おはようエリシア。昨日は良く眠れたか?」


「ええ、お陰様で。きっと疲れていたのね。あの後すぐ眠ってしまって、すこし寝坊しちゃったわ」


 本当にちゃんと眠れて居たのだろうか? 彼女の目の下には少し隈ができているし、目尻も腫れたままだ。


「──別に、ゆっくり寝ていてもいいと思うぞ。ここはもう宮殿じゃないし、昼くらいまで眠ってたって誰も咎めたりしないんだぞ?」


「そうはいかないわ! やるべき事は山積しているもの! それに、いつまでもクヨクヨしていられるほど、私の置かれた状況は甘い物じゃない。そうでしょう? ならば、ちょっとくらい無理して頑張らないと! ね、レイ!」


 にっこりと微笑む彼女に、俺は少し呆れながらも、どこか安心する。


「──ああ、そうだな」


「あ、それとね? 昨日はどうもありがとう。あなたのおかげで、私は前向きに生きなきゃいけないんだって自覚できたわ。それに、エビピラフ、とってもおいしかったよ! また、作って欲しいな!」


「それはよかった。皇女の口に合うかわからなかったけど、喜んでもらえて何よりだよ。あんなんで良ければいくらでも作るし、リクエストがあれば、ある程度は作れるから、遠慮なく言ってくれていいぞ」


「ほんと!? 楽しみにしてるね!」


 俺とエリシアは、知りあったばかりの友人がするような、ごく当たり前な会話を交わした。それがどれだけの衝撃を他のメンバーに与えたかも知らずに。


「おいおい。根暗、コミュ症、自己中心、の三重苦の三流アサシンが、随分と楽しそうにしてるじゃねぇか? ん? レイくぅん?」


 唐突に背後からナイフを刺されたような殺気を感じた。気がつけば、ちょっと照れくさそうにしているエリシアに対し、他のメンバーは俺に対して殺意を露にしていた。


「──うん。俺、死ぬな。これ」


 即座に神速を発動しようとしたが、一瞬間に合わず、真っ先に飛び掛ってきたグレンに羽交い絞めされ、続いてアーチャーに脳天に拳骨をもらい、ジークに剣を突きつけられた。


「すみませーんエリシア皇女。ちょーっと待っててくださいね? こいつちょっと始末しますので」


 あははーなんて苦笑いを浮かべながら頭を下げるオリビア。もちろん手には出刃包丁。そんなオリビアや他の連中に困惑しっぱなしのエリシア。


 そりゃそーだ。こいつらは昨日のいきさつなんて全く知らないんだから。


「あ、あの……話を聞いてください。まずはレイを解放してあげて欲しいのですが……」


「一体どういうことか説明してもらおうか? んん~? なぁおい。なーにがおはようエリシアだ。ちげーだろ!!! おはようございます、エリシア皇女様だろうが!!! なーに誰よりもフランクにしれっとエリシア皇女様と打解けちゃってんだよ!!! 入隊したての俺と会話するのに、お前は一体何ヶ月掛った? ん? 言ってみろこのどチンピラがぁぁぁぁ!!!」


 羽交い絞めから、素早く技をキメ直し、見事なヘッドロックをがっちりと決めながら、耳元でわめくグレン。余りにも五月蝿くて、鼓膜が破れそうだ。しかも、グレンの馬鹿力のせいで、頭蓋骨が軋んで嫌な音を立てる。このままじゃ頭を砕かれてしまいそうだ。っていうかめっちゃ痛ぇ。


「まったくもぅ。寝ぼけてたんだろうけど、今のはまずいって。早く土下座しちゃいなよー。で、ちょっと聞きたいんだけど、エビピラフがどうしたって? ん? ちょっと僕詳しく話し聞きたいなー。ねーレイくぅん?」


 ぺっちんぺっちんと頭を笑いながらひっぱたくアーチャー。いや、土下座は別に構わないけど、動けないからね? ついでに言うと意識飛びかけてるんだけど……?


「お前みたいな日陰者がしれっと仲良くなっていい相手じゃないだろうが! 何考えてるんだよ! 今すぐ土下座して謝れ! 床を舐め回すように土下座して謝れェェェ!!!」


 無防備の脇腹にぐりぐりと拳骨をめり込ませて来るジーク。的確に内蔵を押し潰してきて、実に痛い。全く、何て奴らだ。二度と口を利きたくない。あとで一人一人息の根を止めてやろうかな?


「ですから先ほどからお願いしているように、私はもう皇女ではないのです! ひとりの人間として、対等に扱って欲しいとお願いしているではないですか! どうかレイを放してあげて下さい! 彼は私にとって掛け替えの無い人なのです! お願いだからレイを放して!」


 あ、それマジ逆効果。そんな事を耳にした日には、この脳筋の誤解は更に飛躍する。


「天誅ぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」


「うわっ!? 止せっ!」


 プロレスラーもビックリする素早い動きでグレンは俺の腰を後ろから抱え上げ、そのまま後方へブリッジをするように体を反らせた。当然、俺にあがらう術もなく、後頭部を激しく床に叩きつけられる。


「ぎゃっふん!?」


「決まったー。グレンの見事なバックドロップ。どうですか、解説のジークさん」


「いやー、アレは痛いですね。レイがぴくりとも動きません。これは完全にKOですね」


 決めた。後でこいつら絶対殺す。


 と心の中で誓った所で、俺の意識は完全に消失した。



「う……う〜ん」


 どれくらい気を失っていただろう。俺の額には、濡れたタオルが置いてあった。


「レイ! よかった。大丈夫?」


「なんとか生きているみたいだな……。あの筋肉達磨覚えてやがれ……。あいててて……」


 俺を介抱していたのは、恐れ多いことにその元凶のエリシア元皇女だった。もちろん俺は、男性陣から殺意の目で睨まれ続けている。武芸の達人3人が鬼のような形相で、こちらをギロリとにらみ続けている光景。普通だったら泣いて逃げ出す。俺は怖くないのかって? 馬鹿言っちゃいけない。怖いに決まってる。超怖い……。鬼夜叉丸も霞むくらい怖いよー……。


「わっはっはっは! 抜け駆けなんざするからだ、レイ。お前意外と手の早い男だったんだなぁ? お前はこういうのに関しては誰よりも奥手だと思ってたんだが、父ちゃん見直したぞ! わっはっはっはっは!」


 厨房の奥から、エプロン姿のおやっさんが姿を現し、俺の背中をバシバシと叩いて大声で笑った。


「ばーか、そんなんじゃねーよ」


 おやっさんの冷やかしに、俺はため息混じりに反論する。


「でもなぁ、レイ。本当に怖いのは、これからなんじゃないか?」


 おやっさんが指差した先には、物置でこめかみに血管を浮かせたマスターが、笑顔で手招きしていた。


「おぅふ」


 血の気が引いていく俺に対し、エリシアは疑問を投げかけた。


「あの、なぜセイラ様はあのようなところで手招きを? それとレイ、顔色がまるで死刑執行をされる直前の罪人のみたいだよ?」


「今まさに俺はその罪人なんだよ。全く事情を知らないみんなの前で君に思いっきりフランクに話しかけてしまったがゆえに!あれは物置というなのお仕置き部屋なんだ! 子供を叱る時に閉じ込めるなんていうレベルじゃないけどな!!!」


 ふむ、と顎に手を当て何かを考え込むエリシア。そして彼女が何か不吉な事を思いついたと、俺は直感した。


「なら、皆さんに昨日のことを知ってもらえばいいんだね?」


「いや、ちょっとそれは待って欲しい。というか君も思いのほか順応早いよね」


 もっとお嬢様口調が抜けないと思っていたら、もうすでに俺との会話は普通の女の子だった。


「大丈夫。きっと皆さんも、今なら私の話聞いてくれると思うし、レイに対する誤解も解いて見せるから」


「だから待ってくれって!」


 嫌な予感しかしない俺の心配をよそに、エリシアは大きな声で話し始めた。


「皆さん聞いてください。私エリシア=バレンタインは、この国に亡命させていただいたことにより、皇位継承権は破棄され、皇女ではなくなりました。母を失い、失意のどん底にある私を、レイは手を差し伸べ、とても優しく慰めてくれたのです……。彼は、私の恩人であり、エリシアという一人の女である私の大切な初めての……」


『ぷっちん☆』


『大切な初めて』なんて単語を聞いてしまったグレンの中で、何かが爆ぜた瞬間だった……。


「グレンスーパーキィィィック!!!」


 グレンはエリシアの話を最後まで聞かずに(我慢できずに)強力な飛び蹴りを仕掛け、俺はギリギリで避けた。


「だから言わんこっちゃ無い!!! てか言い方ぁ!!!」


「仲間……なのです」


 ギルドの床には大きな穴が空いた。まぁいつもの光景なので、マスターは「ちゃんと直しなさいよー」と力無く告げるだけだった。


「あの、レイ? 私はやっぱり余計な事をしたのかな」


「……いや、よくやってくれたよ。ぐっじょぶだ」


 お前天然だろ。という台詞を俺は一生懸命飲み込んだ。


 しかし、それ以上に上手く表現できるような言葉を彼女は持ち合わせていないだろうし、平たく言えば彼女の言っていることは真実なのだろう。まぁその供述をマスターや、他のメンバーに納得してもらうまではそれなりの時間を要したのは、言うまでも無いだろう。



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