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Aerial Wing -ある暗殺者の物語-  作者: ちゃーりー
滅び行く国と皇女エリシア
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ーオーディア脱出Ⅰー


「──驚いたね。僕の矢を叩き落すだなんて。あんな芸当はじめてみたよ」


 宮殿の屋根から飛び降りてきたアーチャーが、穴の向こうに吹き飛ばされ、砂煙の向こうで倒れているであろう鬼夜叉丸を睨みながら冷や汗をかく。


「あれが筋弛緩薬で弱った動きかよ。普通の人間なら致死量とも言える量のはず。毒に体制でもあるのかよ。マジでバケモンだぜ」


「どの口で言ってんだおめぇ。とにかくズラかるぞ! あいつがあの程度でくたばるとは思えねぇ!」


「すぐに撤収するわよ、みんな! ジーク君、私といっちゃんが乗ってる車に無重力魔法をかけたわ! 車ごと回収して! 他の皆はすぐに脱出できるように一箇所に纏まってて! 車が到着したら全員車に乗り込んで、そのまま離脱するわよ!」


「イエス、マイロード。もうちょっとだティア。がんばろう!」


『ギャウン!』


「そっちはよろしく、ジーク。私はレイと奥方さまの怪我の具合を見てみるわ」


 オリビアがアーチャーと同じように飛び降りると、ティアマトは塀の外の橋へと向かって羽ばたき、俺達はすぐさま撤収の準備に掛る。だが、騒ぎを聞きつけたクーデター軍が、宮殿の中からこちらに向かって集まってくる。


「僕が引き受ける! グレン、レイ。奥方さまと姫さまの護衛を!」


 アーチャーはクーデター軍の連中に向かって、連続で矢を放ち続ける。200mは離れいるであろう兵士に、百発百中で矢を命中させ、命中した兵士達は片っ端から矢の放つ電流で気絶して行く。


「命は取らないけれど、姫さま達は貰っていくよ。君ら、碌な目に遭わせなさそうだからね!」


「おいグレン、反対側からも新手だ! ぶっ飛ばしてこい!」


「テメェが行け……るわけねぇか。しゃあねぇなぁ。もう一暴れしてやんぜ! おらぁ! 馬鹿共が! ぶっ飛ばされたい奴から掛ってきやがれ!」


 グレンは肩をぐるんぐるんと回し、武器を構えて突進して来た兵士達に遠慮無しにその怪力を発揮し始めた。その隙に、俺は隠れていたエリシア皇女とアリシア皇后の傍へと駆け寄る。


「ご無事ですか、お二人とも」


「それはこっちのセリフです! 貴方こそ大丈夫なのですか!? 血だらけじゃないでか! ああどうしよう、まずは血を止めないと!」


 急にエリシア皇女は俺へと声を荒げ、取り出したハンカチを俺の額に当ててくる。一瞬何でそんな事をしているのか理解が追いつかない俺は、完全にフリーズしてしまう。そして、すぐさま今自分はめちゃくちゃ恐れ多いことをされてると理解した。


「ちょちょっ!? 大丈夫ですこれくらい! とにかく、もうすぐ飛竜が車を運んできます。乗り込んだらすぐさまこの国を脱出します。アリシアさま、俺に掴まって……」


『バシャアアアアアア!!!』


 不意に、バケツをひっくり返したような大量の水が、頭の上から降り注いだ。


「──なにすんだこのアバズレ乳牛女!」


 振り向けば、オリビアが杖から水魔法を放ち、俺をびしょ濡れにしていた。


「あんたこそ、エリシア姫のハンカチをあんたの汚い血で汚してるんじゃないわよ。それにそんな姿でアリシア様に触れるんじゃない。即乾性の水魔法よ、有り難く思いなさい。──お初にお目に掛ります、アリシア皇后陛下、エリシア皇女殿下。エアリアルウィングが魔導士、オリビア=クリムゾンにございます。このたびは当ギルドのレイ=ブレイズが大変な失礼を働いた事を、心よりお詫び申し上げます。これより、あなた方お二人を、我がレオニードへとご案内させていただきます」


 ウィザードハットを脱ぎ、深々と礼儀正しく頭を垂れるオリビアに、エリシア皇女は顔を真っ赤にしてフリーズする。


 当然だ。オリビアは出度の高い服と、腰の辺りまでぱっくりとスリットの入ったスカートを身に纏っている。しかも、そんな服でお辞儀でもしようものなら、その100cmオーバーのたわわな胸が、重力に逆らえずに零れ落ちそうになる。


 俺に無礼だのなんだの言う前に、この女は自分が痴女のような破廉恥な格好と体をしていると理解したほうがいい。


「ご、ごていねいにどうも……」


「ふふふ、セイラ様の立ち上げたギルドは、みんな頼もしい一流の冒険者というだけでなく、個性的な方々なのですね。とても素敵だわ」


 俺はアリシア皇后に手を差し伸べ、彼女を抱えようとしたその時だった。鋭い殺気を感じ取ったのは。


 その不吉な殺意をオリビアも感じ取り、宮殿の壁に開いた大穴に向かって氷の魔法障壁を分厚く展開したその次の瞬間。紫色の銃弾のようなエネルギーの塊りが、その障壁を貫き、俺へと迫った。そして、即座に頭が理解した。


 ──ああ、これはまずい。避けられねぇ。


「危ない!」


「──え?」


 避けられる筈もなかった。だって俺は、皇后様を抱き上げようとかがんで、既に彼女を抱き上げてしまっていた。そして神速を発動する魔力も残ってない。でも、そんな俺を力いっぱい突き飛ばした人が居た。俺が抱えて居たはずのアリシア皇后が、俺を女性の力とは思えないほどの強い力で突き飛ばしていたのだ。


──そして、紫色の閃光が、皇后の腹部を無慈悲に貫いていた。


「かはっ!」


 口から血を吐き出し、その場にゆっくりと崩れ落ちる皇后を、俺は飛び込むように抱き止めた。

「アリシア様!」


「嘘……。お母……様? いや……。いや! イヤァァァァァァ! お母様ぁ!!!」


「そんな……! 私の障壁が! ──くっ!!! 許さない!!! 絶対に許さないわよ、この鬼畜外道が!!!」


 怒りで腰まである長い髪が左右に大きく広がるオリビア。膨大な魔力を杖の先に集中し、全ての物質を氷漬けにするほどの氷の精霊魔法を詠唱しはじめる。


「やめるんだオリビア! 何かがおかしい! 君の精霊魔法で作られた障壁が破られるなんてただ事じゃない! 下がって奥方さまの治療をすぐにするんだ!」


「止めないでアーチャー!!! 私のせいだ、私が。私が取り戻さないで誰が取り戻すって言うのよ!!!」


「ダメよオリちゃん!!! 今は冷静になって!!! アリシア様の治療を最優先にして!!!」


「この場で回復魔法使えるのはお前だけだろうが!!! 頼む、オリビア!!!」


 グレンとアーチャーが俺たちの前に立ち塞がり、グレンは闘気を両手に集中させ、防御の構えをとり、アーチャーは雷の魔力を複数の矢に宿し、弓を引き絞った。


 ギリリと音が聞こえて来るくらい奥歯を嚙み締め、オリビアはアリシア皇后に回復魔法をかけはじめる。


「ハイヒーリング!!!」


 だが、その傷口にはなんの変化も現れず、俺は傷口を押さえ続けるしかなかった。これは一体どうなってるんだ? 


「──どこまで性根が腐ってるのよ! あの鬼! さっきの魔弾に無効化魔法アンチスペルを組み込んで打ち出したわね!? 私が障壁を展開し、被弾した場合は回復魔法を使う事を全部想定して!!!」


 オリビアは憎しみを込めて、魔弾が放たれた宮殿の奥を睨み付けた。


「ぴんぽーん、正解ッス。クックック、無効化魔法を闘気と融合させて、『妖気の弾丸』にして放つ。」


 瓦礫の中から、左腕が骨を砕かれブランと垂れ下げ、体中傷だらけで着物も黒こげになった鬼夜叉丸が姿を現した。


 すぐさまアーチャーが矢を放つが、鬼夜叉丸はおっと危ない、なんて笑いながらそれを瞬間移動をしたかのようなスピードで避け、宮殿の屋根へと飛び退いてみせ、破けた着物を引き千切り、腕に生じた大きな裂傷の上から布を縛りつけ、止血を施した。


「──どうやら、もう毒の効果なんてとっくに切れてしまったみたいだね。参ったね、グレン。まだやれるかい?」


「やるしかねぇだろバカ野郎。次は顔面にぶち込んでやらぁ!!!」


「同感だ!」


 グレンが闘気を高め、アーチャーが矢に魔力を込めると、鬼夜叉丸はケラケラと笑いながらこちらを見下ろした。


「おお怖っ! ってか、俺も流石にあんたら全員を相手にするのは無理ッスよ。見てこれ、腕完全に逝っちまってる。流石に退かせてもらいますって。みんなで寄ってたかって袋叩きとか、酷くないッスか? だからって、このままやられっぱなしで撤退とかかっこ悪いじゃないッスか。なので、通行料くらいは貰っておこうと思って、ママさんの御命、頂戴したッス♡」


「何だと!? お前、俺を狙ったんじゃないのか!?」


「お兄さんは最初から狙ってないッスよ。あんたとは、また殺陣たいと思ってるんで! それに、ママさん俺の事嫌ってた見たいなんでぇ、ちょっと邪魔かなーって。だって死んでも認めないでしょ? 俺とエリシアちゃんの結婚。あははははははは!」


「──この、腐れ外道が!」


「クククク。そう、その顔ッスよ。その心底悔しそうな顔が見たかったッス。袋叩きなんかにしてくれちゃったから、あんたらにはそういう顔をしてもらわなきゃ、割に合わないんッスよ。ま、お兄さん。今度会った時はお互い本気で殺陣ましょ! お兄さんほどの実力者だ。そんな目立たないだけが取り柄みたいな鈍らが本命の獲物じゃないっしょ?」


 全く持ってあいつの言うとおりだ。現に、あの刀と刃をまともに交えて良い剣じゃない。もうこの双剣の修復は不可能だ。


「それじゃ、俺はこの辺で失礼するッス。アデュー!」


 そう一方的に告げると、鬼夜叉丸は宮殿の屋根を跳躍し、どこかへと姿を消してしまった。


「──あの、糞餓鬼がぁあああああああああ!!!」


 グレンは怒りと共に、拳に宿した闘気を地面に叩きつけた。その衝撃は周囲を震撼させ、地面に大きくひびを入れた。その怒りは、俺達エアリアルウィングの怒りを代弁する怒りだった。


 だが、屋根の上を走って逃げ続ける鬼夜叉丸を、上空から睨んでいた男が居た。


 白銀色に輝くフルプレートに、紅のマントを羽織った短髪の男、ジーク=ハインド。我がエアリアルウィングの竜騎士にして、レオニードに吸収された亡国の若き竜騎士団団長だった男だ。そしてその愛竜であるティアマトが、ジークの意思を汲み取り、口腔内に魔力を集めはじめる。


「──こちらジーク。南方へ逃げる鬼夜叉丸を視認できています。今ならまだティアマトのブレスの有効範囲ですが、どうしますか、マスター」


「だめよ。今は一分一秒が惜しいわ。それにティアちゃんをこれ以上消耗させたら、この国から脱出できない。ティアちゃんはここからが大変なんだから、悔しいけれど今は引きましょう」


「──イエス、マイ・ロード」


 耳に届く通信からは、ジークが奥歯を噛み締める鈍い音が伝わってきた。



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