表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/119

ースキラの遺産ー


「レイ、お前。エリシアさんと婚約しろ」


 唐突にロキの口から提案されたぶっ飛んだプランに、俺は若干の眩暈を覚えてしまう。当然だ。俺とエリシアは正式に恋人として関係を持ってまだ一週間も経っていないし、未だにキスを交わしただけの関係だと言うのに、婚約とは……。


「……えーっと、どこからツッコもうかな。いや、ちょっと一つ一つやるべき事をと言うべき事を整理していった方がいいよな、うん。──まずはそう、入籍おめでとう、二人とも。二人の結婚は、俺たちの念願である全種族平等国家への大きな足掛かりであり、二人の幸せを心から願ってきた俺の思いがついに成就するんだな。なんだか感慨深いぜ。


 だがお前らふたりはそんな俺に、しれっと入籍報告を済ませ、俺に婚約しろとか、とんでもない提案をぶつけて来やがってこの野郎」


 寝不足やらストレスやら困惑やらで、ついにこめかみに痛みを覚え始めた俺は、椅子に深く腰掛け、額に手を当てて天井を仰ぐ。そんな俺に、ふたりはさらに追撃を加えてくる。


「だがなぁレイ。これ、かなり名案だと思うぞ? アルデバランがオーディアを占拠する大義名分は、『統治者不在による代理統治』であり、そこにエリシアさんが我が国と同盟を組み帰還を果たせば、アルデバランはオーディアを占拠する大義名分は崩れ去り、退去せざるを得なくなる。もちろんアルデバランは次に、標的をレオニードとオーディアにして攻撃を仕掛けてくるだろうが、正義はこちらにある。他の同盟諸国も協力せざるを得ないはずだ。


 我が国が経済的支援を諸国にしてきたのはこういう時のためでもある。存分に役に立ってもらわないとな」


「──もちろん、エリシアちゃんにとって今の生活がとても満ち足りていて、大切なのは重々承知よ。けれど、アルデバランは交渉の余地なく、こうしている今も、オーディアの国民を蹂躙し続けている。せめてあの残虐な行為だけでも、今すぐやめさせなければならないわ。多少強引ではあるけれど、とても有効な一手だと私は考えています。これによって、アルデバランはさらなる強行手段に出るだろうけれど、それを防ぐためにも同盟国の協力は必須。そしてこの計画は『皇女エリシア=バレンタイン』の存在なしには成立しないの」


「まぁ、言いたいことはわかったよ。けれどそれに、婚約が必須とは思えないけど?」


「いいえ、必須よ。理由はいくつかあるけど、大きな理由は二つ。一つは、オーディアの人々が、我々レオニードをどう思っているかよ。


先王ルキフィス王は、オーディアの優れた技術力欲しさに侵略し、いくつもの集落や村を焼き払い、住人たちを人質に降伏を迫った。ラルフ皇は交渉の末、その技術や交易の優遇処置と引き換えに、レオニードと同盟を結ぶ事に成功した。


 けれど、大陸統一も束の間、半旗を翻した同盟国軍の司令官は、弟のラジール皇だった。もちろん、同盟国軍を秘密裏に一つにまとめあげたのは、ラルフ皇の手腕あってのもの。


 つまりね、オーディアにはいまだに、レオニードを恨む人々がたくさんいるの。エリシアちゃん、オーディアの人たちは、レオニードとアルデバランの人々をどんな風に罵るか知ってる?」


 すると、エリシアはどこか申し訳なさそうに明後日の方向を向きながらぼそっと呟いた。


「え、えと『のみだらけの図体のでかい野良猫』と『盛りついた腐ったドブ蛇』……です」


 うわぁ。エリシアの口から出ちゃいけない単語だなぁ……。


「どっちにつくかと言われて『どっちも最悪!』っていうのが、オーディアの人々の本音だったんでしょう。でね、これを解決するために、あなた達の婚約が重要なのよ。何より、エリシアちゃんを助け出したのが、レイちゃん本人っていうことがめちゃくちゃ大きいわ! で、そんな二人が恋に落ちた! そしてそんなエリシアちゃんが、レイちゃんに支えられ、失われたオーディア皇国を取り戻す! っていうシナリオよ♡」


 あ、ダメだこりゃ。なんかおかしいって思ったら、幸せすぎて若干熱暴走起こしてるわ。筋も通るし、それで最悪行けなくもないけど、それによる弊害もあるって気づいてない。


「あ、あのー。マスター、それじゃあ困ることがひとつあるんです。こ、個人的な事になってしまうかもしれないんですけど、カトレアは絶対その案反対すると思います」


 そう、カトレアだ。結んだばかりの『姉妹同盟』がいきなり破棄されてしまう。それだけじゃない、各国には当然王子たちがいて、そのほとんどがエリシアに求婚した連中なのだ。むしろ、心優しく美しいプリンセスオブプリンセス、エリシア皇女に嫁に来てほしいと願った王や妃がどれだけ居たと思ってるんだ? しかもそれを俺に指摘してきたのはロキ、お前だろうに。


「カトレアちゃん? あ、そういえばそもそも、どうしてカトレアちゃんはバレンタイン大霊廟なんかに居たの?  バレンタイン家以外の人間は立ち入ることができない聖域に逃げ込んだのよね? 結界のエラーか何かだったの?」


 そういえばなんて、グレンたちもざわめき始め、エリシアは本当に困惑した様子で、これまた小さい声でぼそっとカミングアウトする。


「詳細はあとで報告書を纏めて提出するつもりだったんですけれど、簡単に説明するとですね、私とカトレアは、そのぉ、母親の違う姉妹でした……」


「「「「「「「は?」」」」」」」


 その場にいる俺とエリシア以外の全員と、城で画面を見ていた二人までもが、一斉に口をぽかんと開けて、間抜けな声を出した。




 みんなが思考停止してしまっているので、俺は続いてこれまでの経緯を簡単に口頭で説明した。



「な、なんてこと! 完璧なLOVE&PEACE計画だったのに!」


「穴だらけだっつーの。ちょっと頭冷やせよ馬鹿姉」


「馬鹿姉!?」


 俺は傍にマスターが居ないことをいい事に、人の人生を勝手に決めようとしてくれた仕返しに、軽口を叩いてやる。


「ま、とにかくだ。二人の結婚に乗じて婚約発表なんてしたって、エリシアに惚れてた王子連中の殺意は俺に集中し、協力どころの話じゃなくなるのは目に見えてるし、せっかく停戦中のカトレアを再び敵に回しかねない。史上最大の血みどろの姉妹喧嘩を勃発させたくないだろ? 悪い案じゃないけれど、時期尚早だとおもうぞ」


「ぐぬぬ……。そういう事情なら流石に無理があるわね。こんな事案がカトレアちゃんの耳に入ったりしたら、あの子は本気でどちらかを暗殺しにかかる。どっちかというと、レイちゃんを暗殺するほうが、カトレアちゃんにとっては、お姉ちゃんを殺さずに恋人を自分だけの物にすることができるし、なんなら二人とも殺しちゃってゾンビにして自分だけの物にするなんて方法を思い付くわね……」


 ああ、カトレアならそれ全然やるわ。むしろ今それを思い付いたら実行しそうで超怖え。


「でも、アンタたちそれどうするの? つまり現状、交際においては黙認してるけれど、それ以上のステップに進もう物なら、実力行使に出られるってことよね?」


 オリビアの問いかけに、エリシアは苦笑いを浮かべながら答える。


「うん、だから少なくとも、私がカトレアに簡単に殺さないような実力を手に入れなきゃいけないってことかな。あとはもう、本人と根気強く向き合っていくしかないと思ってる」


 しかし、俺は一つだけ確信してる。それは、時間さえかければきっと、二人は必ず和解できるはずなんだということ。


そもそもカトレアという女は、どうしょうもなく寂しがり屋で、甘えん坊なだけなんだ。そしてそんなカトレアが、しっかり者でお節介だけど、同じくどうしょうもないくらい甘えん坊のエリシアと和解できたなら、二人はめちゃくちゃ仲の良い姉妹になれるはずだ。


「な、何よ、レイ。なんでそんな、ニタニタ笑ってるのよ。昨日からななんか、その顔してるわよね?」


「べーつに? いい姉妹だなぁと思って」


「な、なんでよ!? まだ私たち喧嘩ばかりよ? さっきだって結局カトレアについ辛く当たっちゃったし……。うぅ、今ごろ怒り心頭で私の事殺す計画とか練り上げてそうだわ」


「そんなん、カトレアのライフワークみたいなもんだ。諦めるんだな。それに、兄弟、姉妹なんてそんなもんだぞ。マスターなんて俺に辛く当たるなんてもう当然の事だし、最悪攻撃魔法が飛んでくる。だからって俺はマスターに対して悪態をつくことを諦めたことなんてないし、やめるつもりもさらさらない。これから妃になるならなおさら、マスターがアホな事したらどんどんツッコまなきゃならん 。市民から『恐怖の女帝』と呼ばせる訳にはいかないからな」


 そんな俺に、ジークが即座にツッコミを入れはじめる。


「いや、それお前とグレンくらいだからな? 素行の悪さを注意されてそれでも止めないからマスターが実力行使に出るしかなくなってるんだからな?」


「僕もジークも、マスターから二人みたいなきっついお仕置き受けたことないから。ブラック企業とか二人で愚痴ってるの時々聞くけど、それは君ら二人がたびたび市民からのクレームを量産しまくってるからだからね? ジークならどう? 元竜騎士団団長からみて、あんな素行の悪い部下居たら最悪じゃない?」


「決まってるでしょ。クビどころの話じゃないよ。東洋のサムライでいうところの切腹だよ切腹」


「それね! あはははははは!」


「──言っとくけど、私がマスター代理になる以上、あんた達二人とも市民から酷いクレームが来たりしたら、減報どころの話じゃないからね。1ヶ月の社会奉仕活動に加えて半年の減俸。最悪の場合は除名もありえるわよ。私、マスターほど優しくないからね?」


「ちょっ!? オリビア!? ソレは流石にあんまりなんじゃねぇの!?」


 グレンはすかさず、オリビアに異議を申し立てるが、当の本人はフンとそっぽを向いて、更に続けた。


「ま、ギルドの今後の方針は、大した変化は今の所ないわね。私に対処しきれない案件が起これば、マスターがリモートで指示くれるし、今までマスターがこなしてきた事務作業なんかも、エリシアにサポートお願いすると思うけど、レイのサポートと自分の魔法の修行等の両立できる? なんなら、レイのサポートは外れていいわよ。その間レイの事が心配なら、レイを謹慎処分にしちゃえばいいだけだから」


「おいふざけんな。お前が頑張れよ。マスター代理だろうが」


「お、オリビアさん! エリシアさんがレイさんのサポートに入ってるからこそ、レイさんに対するクレームの件数が激減し、ギルドの収益と評判が上がってるんですよ!? ここでエリシアさんをレイさんから外すくらいなら、私が事務覚えますから! お願いだからもう私に『お叱りのお電話の対応』させないでください! ストレス性胃潰瘍を自分のヒーリングで治さなきゃならないあの疲労感はこりごりですぅ!」


 一体どんな抗議の仕方をしてるんだ、いっちゃんは。っていうか、そのクレーム対応も事務の一環に含まれちゃってるんだけどな。


まぁ、事実エリシアが細かく的確な指示を提示してくれるからこそ、周りへの被害が最小限に押さえられたり、スケジュールの調整なんかもうまく行ってるから、俺もエリシアのサポートが無くなるというのは、ちょっと勘弁願いたい所ではあるな。


「──あ、エリシアの魔法の修行で思い出した。エリシア宛に大量の荷物届いてるわよ。フローラ様の屋敷から届いた物だから、エリシアが手配したレイのママの研究資料とか実験資材でしょ? どう頑張ってもエリシアの部屋には到底入りきらない量だったから、レイの家の庭に纏めて封印しておいたわよ。レイのママの持ち物なんだから、レイの家で保管するべきよ。それも厳重にね。何かの拍子に盗難にでもあったら、大変な事になる代物ばっかりでドン引きしたわ」


「ありがとうオリビア! すごく助かるわ!」


「いやいやまてまて、なんで俺んちの庭に勝手に封印してんだよ」


「いいじゃない別に。あんたたち正式に付き合ってるし、今までだってちょいちょいエリシアもアンタの家に出入りしてるじゃない。別に問題ないわよね? それに部屋だって余ってるんでしょ? なんなら、武器屋かってくらい家中に飾ってる剣を少し処分したら? 今後、マスターの子供が遊びに来たりして、その子供が間違って触ったりしたら大怪我するわよね。実戦用の武器にしたって、レンタルスペースの倉庫借りて保管して置きなさいよ。別に大した料金取られる訳でも無いじゃない。色々無駄なのよ、あんたの私生活」


 くっ。実に痛い所を突かれてしまった。まぁ確かに、使い潰すような武器は別の場所で保管するべきかもしれないな。確かに、エリシアと過ごす時間が増えたとして、家中に武器が設置してあったら、エリシアは落ち着かないだろう。


「あとね、エリシア。大切な事をもう一つ伝えておくわね? 忘れてるかもしれないけれど、ウチの女子寮なんだけど……」


 オリビアの細い指先が、椅子に座っているエリシアの膝元。いつの間にかまた姿を現して、彼女の膝の上で丸くなって寝息を立てるシェリルへと向けられた。


「ウチは、ペットおよび使い魔は禁止なの。覚えてるかしら?」

「あ……」





―自宅―


「はぁ。妙な事になったな……」


 結局、スキラの研究資料の保管場所、ならびにシェリルの寝床は俺の家と言う事になった。


 致し方ない結果とは言え、俺とシェリルの関係性はそこまで良好とは言えない気がする。初対面に俺が色々とやらかしてしまったというのもあるが、シェリル自身がプライドが高く、やや高圧的なのだ。子供扱いされてると言ってもいい。


「ごめんね、レイ。私ももっと計画的に荷物の配達をお願いするべきだったと思ってるわ。でも、スキラさんの研究資料はどれもこれも貴重なものばかりで、何一つ置いてこれる物じゃ無かったのよ。だめね、私ったら」


「お前にしちゃめずらしいくらいの無計画性だな。買物だって衝動買いとか滅多にしないのに、研究に没頭すると他の事考えられなくなるタイプなのかもしれないな」


「そ、そう言う訳じゃないの! ただ、その……。資料纏めてる時、レイ、ハグしてくれでしょ? それがその、レイが思ってる以上にあの時ドキドキしてたっていうか、恥ずかしかったっていうか、頭ぐるぐるしちゃって、思わず逃げ出しちゃって。その後もなんていうか、抱き締められた事とか、キスしたり、自分からキスしちゃったりって色々思い出しちゃって……」


 エリシアは耳まで赤くして、そんな爆弾みたいなカミングアウトを唐突にかましてくる。そんなものを真正面からぶつけられた俺ももちろん、なんだかこっ恥ずかしくなってしまい、視線を逸らしてしまう。


「な、なんだよ。ハグくらい前も何回かしたじゃんか。それにアレだ。き、キスだって別に、これから何度もしていくだろうから、そのうち慣れるんじゃないか?」


「れ、レイはどうかしらないし、あまり知りたくも無いけれど、私はまたたったの2回しかキスなんて経験して無いのよ!? 恥ずかしくなったって仕方ないじゃない」


「このど天然! お前がそう言う事口にするからこっちまで恥ずかしくなるわい! 別にキスくらい、いつでもしてやるっての。お前がして欲しいって思ったのなら、言ってくれれば俺はいつだってしてやるさ!」


 照れ隠しに、ぶっきらぼうに言い放った俺を、エリシアは真っ赤な顔のまま、潤んだ瞳でこちらを上目遣い気味に睨みながら、彼女は小さく呟いた。


「──言わなきゃ、してくれないの?」


 その言葉にギクリ、というよりドキッとしてしまった。何て返せばいいんだろう。その表情と、エリシアのその瞳を前に、俺は言葉を失ってしまう。巡っているようで完全に停滞してしまった脳内で生成され、絞り出すように声になった言葉は、後から思えば、実に不恰好で、何故そんな言葉が出てしまったのかもわからない。


「──じゃあ、その。今、していいか?」


 その言葉に、エリシアの体は一瞬びくりと跳ね上がり、視線を逸らしながら、再び小さく呟いた。


「い、いちいち確認するのやめよ? わ、私もしたい時に勝手にするから、レイもその……。したかったらしてくれていいよ」


 一度声に出してしまった言葉をひっこめることなんて出来ない。何故そんな事を口にしたか? 多分単純に、エリシアにキスしたいと思ったからだ。


 俺は彼女の高揚した頬に触れ、瞳を閉じた彼女の顔に、自分の顔をそっと近づけ、ゆっくりと唇を重ねた。


 柔らかい唇の官能的な感触に、どうにかなりそうだった。長距離を運手してきたはずの疲労も、激しい戦闘からの徹夜を乗り越え、先ほどまで俺を襲っていた眠気も、視界の隅にちらりと見える白い影も、全て吹き飛ぶような甘い甘い感触に、俺は全身が痺れていた。


 そして互いの唇が名残惜しげに離れると、エリシアは切なそうに、まるで「もっとして欲しい」と強請るような視線を向けてくる。その瞳はまさに魔眼そのものだった。男を魅了し、意のままに操るような、そんな魅了の力を秘めたその眼差しに急かされ、そして先ほどより強く繋がろうと彼女を抱き寄せた。


 いや、ちょっと待て。白い影ってなんだ?


「あ……」

「え?」


 俺とエリシアがその白い影を、口に荷物の紐を咥えて運び入れながら、やや呆れた顔で眺める大型犬サイズのシェリルだと認識するのに、ほんの少しの時間を要してしまう。そしてシェリルは、まるで「どうぞお構いなく続けてください」と言わんばかりに、リビングに荷物を置いてコソコソと庭へと出て行き、再び荷物を持って現れた。


「シェリルいつからそこに!? 気にするな? 無茶いわないでよ! は!? まだ作らないわよ! やめてよシェリル! もー!」


 俺にはシェリルが何を言ってるのかはわからない。が、エリシアのその反応を見るに、どんな事を言われてるのかは容易に想像できる。ていうか、使い魔の分際で主をからかうとは、流石上位精霊だ。俺も我に返ったかのように、庭に積み重ねてある荷物を室内へと運び込む。


 全てを運び終わった頃、時刻は既に正午にさしかかろうとしていて、疲労と眠気に加えて、空腹感が俺を襲っていた。


「レイ、お昼ご飯どうする? 食べないで寝ちゃうの?」


 エリシアの質問に、俺はソファーにぐでーっと座りながら、目を瞑り思案する。


「なんかもうギルドに食いに行くのもめんどくせーし、自分で作るのなんてもってのほかだから、たまには出前でも取ろうかな」


「そんな事言って、どうせあとで『やっぱおやっさんのピザのほうが100倍美味いな』とか言い出すんでしょう? しょうがないから、パパさまにピザ焼いて貰って、私がこっちに持ってきてあげるわ」


「なるほど。そりゃ名案だわ。こう言う時、ギルドが隣っていいよな」


「そういうのであれば、ギルドに戻るくらいの労力をめんどくさがらないで欲しいわ」


「自宅と職場が近い人間と、自宅と職場が同じ人間とでは、気持ち的なものが微妙に違うのだよ。自宅に戻ってから職場へ戻るというのは、気持ち的に億劫になるものなのさ」


 エリシアはハイハイと呆れながらギルドへと戻り、俺は天井を仰ぎながらゆっくりと目を閉じた。まだ眠るつもりはないのだが、睡魔は俺の意識をゆっくりと絡めとり、眠りへと俺を沈めていく。



「──本当に良い子ね、エリシアさん。流石は、レイが選ぶだけの事はあるわ。私も、あの子になら、レイを任せられるし、私の研究資料を受け継いでもらって構わないけれど、扱いには十分注意して貰ってね。レイじゃ到底扱えない魔法も、今の彼女なら行使できちゃうだけの力を、あの子はもっているわ。あなたも、すごい子に好かれちゃったわね、レイ。とーっても仲良しみたいだしね」


 なんだよ、見てたのかよ。息子が彼女とイチャついてたところをいじるなよ。


「ふふふ、ならばもう少し、人目だけじゃなくて狼の目も気にする事ね。でもよかったの? 婚約、私は良いアイデアだと思うわよ? エリシアさんだって、まんざらでも無かったと思うし、レイは気づいて無いみたいだけど、婚約しないってあなたが明言した時、彼女少しがっかりしてたわよ。だめじゃない、女の子を不安にさせちゃ。そういう事も、ちゃんと教えてあげられなかったのが本当に悔やまれるわ。あとでちゃんと、フォローしてあげなさい? いいわね、レイ」


 あーはいはい。久々に人の夢に出て来たかと思ったら、随分と耳が痛いことを言ってくれる。ほんと一言多いよ、スキラさん。ていうか、一体リリィに何したのさ。えらい逆恨み喰らって大変なんだけど?


「まったく、彼女にも困ったものね。アレで懲りないなんて、ある意味すごい根性だわ。でも、レイとエリシアさんなら大丈夫。私の魔術の前に、彼女は手も足も出なかったのだから、エリシアさんが私の魔術を習得すれば、リリィなんて敵じゃないわよ」


 マジで言ってるの? あのリリィが手も足も出ないって、想像つかないんだけど。なぁ、今更なんだけど、スキラってホント何者なんだ?


「私は私よ。でもそうね、あえて言うなら、『レオニードの民の天敵』の末裔でしょうね。さてと、どうやらエリシアさんがお昼ご飯を持って来てくれるみたいだから、そろそろ起きなさい。それじゃあ、頑張ってね。私はいつも、ちょっと離れた所で見守ってるわ」


 ああ、わかってるよ。ありがとう、スキラ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ