表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Aerial Wing -ある暗殺者の物語-  作者: ちゃーりー
リリィ=ノアール
112/119

―絶望を喰らう者Ⅱ―

「──ああ。イイ♡」

「やめろぉぉぉぉ! やめてくれぇぇぇぇぇ! ミザリー! ミザリー! うあぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 オークゾンビは王女を大理石の床に押し付けながら、肉片と蛆とどす黒い体液を振りまき腰を振り続ける。王女は絶叫し、その絶望に染まりきった瞳で私と無能な父を見つめ続ける。先ほどまで父に向かって助けを求め伸ばされた手は、今は激痛を耐える為に握り締める事しか出来なくなっていた。


「ほーら♡ 見てごらんなさい? ゾンビに成り果て、腐った肉片をばら撒きながらあんな必死に王女を求めて♡ よっぽどあなたの娘の具合がいいのね♡ でもざんねーん。いくら性欲の強いオークでも、あそこまで肉体が劣化したら、当然生殖細胞なんて死滅してしまって、子を宿すなんてまず無理な話。私の理想は、王女さまがオークゾンビの子を孕み、その子宮をオークゾンビの子供が食い破って出てくるっていうシナリオが一番好みなのよねぇ。ま、今後も改良の余地はありそうだけれどね。あーでもだめかぁ。オークはオークでも、ゾンビですもの……」

 

 オークゾンビの動きは更に加速し、王女はもう泣き叫ぶ事しか出来ないのだろう。響き渡る絶叫が、空しく玉座の間に響き続ける。


 そんな王女の小さな口に、オークゾンビは強引にグロテスクなナメクジのような舌を捻じ込む。王女はたまらず頭を左右に振り、そのおぞましい行為から逃れようとするが、面白がっているのか、オークゾンビは彼女の頭を押さえつけ、異常なほど長いその舌を咽頭までねじ込む。


 四肢をばたつかせ、もがき苦しむ彼女がオークゾンビの体に拳を振り下ろすが、まるで汚泥のようにぐちゃぐちゃと肉片を撒き散らすばかりで、何の解決にもならない。もう呼吸すらままならない王女は、オークゾンビの顔面を叩くと、オークゾンビの目玉がぐちゃりと床に落ちた。だがその腔から、夥しい数のゴキブリが一斉に溢れ出す。


「ンンンンンンン!!! ンンンンンンン!!!」


 恐怖と苦痛にもがき続ける王女の華奢な体を押さえつけ、オークゾンビは腰を更に強く打ちつける。まともに酸素を取り込む事すらできなかったのだろう。やがて王女は意識を手放し、何の抵抗も出来なくなる。後はひたすら、半開きの虚ろな眼が私達を映し続けていた。その表情に、思わず私の体はその甘い快楽に熱を帯び始める。


「ふふふ、もう逝っちゃうの? 堪え性のないコね♡」


 オークゾンビの体がビクンビクンと痙攣し始め、彼女の華奢な体はその腐肉に包まれ、美しい顔をおぞましい虫が這いずり回る。


 ゾンビ化するにあたり、快楽神経のみをフレッシュな状態を保つのにどれだけ苦労したことか。しかし、その甲斐があったと言う物。オークゾンビは、見事、『絶頂』に至ったようだ。天井を仰ぎ、不気味なうめき声をあげながら、その腐り肉片が滴り落ちる顔を快楽に歪めた。


 ぐちゃりと、オークゾンビの撒き散らした汚物の中に倒れ込む王女。もはや糸の切れた操り人形のように虚ろで、時折電流が橋っているようにビクンビクンと痙攣していた。そんな王女をオークは両手で抱えあげ、にたりと笑うかのように、顔を王女へと近づけてゆく。


「ふふふ、目を背けちゃダメよ。これからがフィナーレなんだから。わかるでしょう? あれだけ激しく求めたんだもの。きっと満たされたに違いないわ。でもそれは性欲の話。彼の欲求はもう一つあるわ。そう、食欲よ♡」


 ああ、なんて残念なんだろう。あの子に意識が残っていたならば、きっとさっきよりもっと甘美な歌声を聞かせてくれただろうに。でも許してあげる♡ あなたにはとっても楽しませてもらったわ。そう、これは慈悲。このリリィ=ノアールの慈悲に他ならないの。さぁ、もうおやすみなさい、ミザリー=アイザック。あなたもそう思うでしょう? そんな醜いバケモノに処女を散らされただなんて、女としてもう生きていけないでしょう? だから眠りなさい。永遠に♡ 


「や、やめろっ! うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ミザリィィィィィィィィ!!!」


 オークゾンビはその醜い大口を開き、彼女の頭を丸ごと噛み砕いた。


「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 響き渡るオークゾンビの咀嚼音。私はその一音一音に最高の快感を感じながら、王の頭を鷲掴みにして、その涙と鼻水を垂れ流しぐしゃぐしゃになった王の顔を覗き込む。


「いい顔になったじゃない♡ イイ。最高にそそられるわ♡ そうよ、その顔が見たかったの。悲しいわよね? 辛いわよね? でもね、ぜーんぶ自業自得♡ ねぇ、誰だと思う? 誰がこの鉄壁の守りを誇ったはずの宮殿で、ゾンビ達で溢れさせる要因を作ったと思う? クスクスクスクス。ねぇ、何で気付いてあげなかったの? 子供を生んだら興味無くなっちゃった? きっとそうよね。だって、一度でも触れ合う事があれば気がつけてたはずだもの。毎晩宮殿に勤める女に相手をさせてるクセに、自分の伴侶たる奥様には指一本触れてあげないのね。……冷たい人。なーんて、本当に冷たいのは、あなたの奥さんの体だったわね♡」


 玉座の間の扉が再び開かれ、口元とドレスを血まみれにして泣き叫ぶ王妃がやってくる。


 その手には、腹部を食いちぎられ、はらわたを剥き出しにして苦悶の表情を浮かべたまま絶命したこの国の王子、クロード=アイザックが抱かれていた。


「ふふふ、お帰りなさい♡ 我が子を食い殺した気分はどう? 王妃様」

「ああ、そんな! 私の娘が……! ミザリー! あああああああっ! ミザリィィィィィィ! うわあああああああああああ! なぜ……こんな酷い事をっ! どうして、どうしてこんなっ! なぜ私がクロードにこんな惨いことをっ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 殺して! 誰か私を今すぐ殺して! だれでもいい、誰か私を殺してぇぇぇぇぇ!!!」


 王子を抱いたまま膝から崩れ落ち、天井を仰ぎ見ながら泣き叫ぶ王妃。私は王女と同じ銀色の髪をした王妃の顎を掴み、その絶望に染まった瞳を眺める。実にすばらしい表情を見せてくれる王妃。意識は生前の記憶と感覚を残したまま、体はゾンビ化し、私の意のままに動く事しか出来ない哀れなマリオネットと成り下がった。


 その傍らに横たわる7才の哀れな王子は、きっと必死に抵抗したのだろう。母の顔に爪を立て、自身の爪が剥がれるほど、もがき、苦しみ、それでも生きようとしたのだろう。絶対的に信頼していたはずの母親に、生きたまま喰い殺されるなんて貴重な体験をする子供が他に居るだろうか? ああ、なんて官能的なんだろう。全身を余す所無く愛撫されるようなその快楽に、私は腰が砕けそうになる。


「……哀れな女性ヒト。夫に愛されず寂しい思いを募らせ、ついイイ男の甘い誘惑に乗ってしまったが故に、自分が何ヶ月も前に殺された事を今の今まで忘れ、私のお人形と仮初の愛を育み続けてきた。


 結果、あなたは自分を守ってくれる筈の兵士達を次々と食い殺し、国を内部から崩し、結果自分の娘はオークゾンビに犯され喰われ、息子の腹を生きたまま食い千切る事になるなんて。


 でもしょうがないわよね? 一番酷いのは、アイザック王よね? 国が滅びるかもしれないと言うのに、毎晩毎晩メイドの小娘に相手をさせて、あなたには指一本触れようとしてくれなかった。きっと一度でも手を握ってくれていたなら、気付いて貰えた筈なのにね? あなたの体から命の熱が失われ、その心臓は脈打つ事をやめてしまった事に!


クスクス。ああ、そうそう。どうしてこんな事をするのか、だっけ? 決まってるじゃない? ──面白いからよ♡」


 私は玉座へと腰を下し、王妃を殺して仮初の愛を与え続けたお人形に、私の口へ苺を口移しさせ、絶望に打ちひしがれる王と王妃を眺める。私の口角は、あまりにも愉快な光景に釣りあがり、声を上げて笑い出しそうになる。


「さ、そろそろ仕上げといきましょうか♡」


 私は二振りの短剣を、王と王妃にそれぞれ放って渡す。二人はそれを拾い上げ、互いの顔を見合わせる。


「互いに裏切りあったのだから、もう愛なんて存在しないでしょう? さぁ、殺し合いなさい♡ 愛と憎しみのフィナーレよ! あはははははははははは!!!」


 短剣を握り締め、王へと突進していく王妃。


「もうやめてぇ! 殺させないでぇぇぇぇ! お願いあなたっ! 私を殺して! おねがいよぉぉぉ! もう嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 アイザック王にはもはや、何かを成すという気力すら湧いてこないのだろう。ただただ王妃の凶刃をその身に受け続け、王妃は余す所無く真紅に染まってゆく。


「すまない、ミッシェル。すまない、ミザリー。すまない、クロード。ごほっごほっ。愚かな私を許してくれ……。許して、もう許してくれ……」


 アイザック王は、その虚ろな眼で最愛だったはずの妻を見つめ、懺悔しながら絶命した。


「あぁ……クロムっ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 響き渡る王妃の絶叫。でも、きっとあなたならもっと出来る筈よ。


「もう一声行って見ましょうか♡」


 私は力無く横たわり絶命する王子に魔力を送り、仮初の命を吹き込む。すると王子は憎悪で顔を醜く歪め、近衛兵の持っていた剣を奪い、自分のはらわたを喰い散らかした母へとその切っ先を突き立てた。


「きゃあああああああっ!? く、クロード? そ、そんなっ!」

「黙れ売女っ! この不死のバケモノめ! 死ねっ! 死ねっ! 死ねぇ! 裏切り者っ! 死ねぇぇぇぇぇ!」


 死してなお、痛覚はその魂を通じて感じ続ける王妃に、幾度と無く子供の力とは思えない力で、剣が突き立てられる。やがて剣は折れ、簡単な術式で私が全てを操っていた王子のゾンビは、その脆さゆえに活動限界を向かえ、元の死体となってぐっちゃぐちゃになった肉片塗れの母の遺体へと倒れ込むのだった。


「──ふふふっ。ごめんなさいね、王妃、王女。あなた達がこんな綺麗な銀髪の髪をして居なかったら、もう少し普通の死に方を用意してあげられたかもしれない。許しを乞われて、全面降伏した時点で、終わらせてあげられたかもしれない。


私ね、ちょっと前に、あなた達と同じような髪の長い銀髪の女に、とても酷い事をされてしまったの。だからついつい八つ当たりしちゃった♡ そしてありがとう。あなた達の絶望は、私の糧となる」


 私は指を鳴らし、ゾンビ達を全員灰へと還す。そしてその灰で、私は巨大な魔法陣で玉座の間を埋め尽くした。


「この場に残る全ての怨念よ。我が手に集え。形を成せ。我が糧となれ」


 私の魔力に反応して魔法陣が紫色の光を放ち、この玉座の間に残る残留思念に形を与えて行く。その姿はまさに、先ほど壮絶な死を迎えたアイザック王家の人々。そしてその家臣達だった。


肉体に強力な魔力を持つ者は、その者が最期に抱いていた感情と共に魔力の塊りとなって現世に留まる事がある。これは所謂、ゴーストという現象であり、残留思念は、負の感情が強ければ強いほど、強力な魔力を宿し、生あるモノに害を成す怨霊イビルゴーストと呼ばれるようになる。


私はこの怨霊を生み出す為に、愚かな王達を絶望へと叩き落してやったのだ。結果、彼らの残留思念は見事に怨霊と呼べる物へと変化した。もちろん、周りのゾンビ達も例外ではない。どいつもこいつも、友人や家族。恋人を目の前で蹂躙され、圧倒的な力の前に成す術無く絶望し、逝った。


 そしてそれらの怨霊達は、私の手のひらの上へと集まり、濃縮され、飴玉程度の大きさの球体となった。


「──あまたの人間の絶望の結晶。ああ、なんて美しいの! 全ての光を拒み、闇夜すら黒く染めるほどの真の暗闇! これを取り込めば、私は更なる魔力を得る事ができる! あの女に匹敵するほどの、絶大な魔力が私の物となる! 覚悟しなさい! 後悔しなさい! 苦しめ! 悲しめ! 私に慈悲を求めなさい! そして絶望して死になさい、スキラ=ブレイズ!!!」


 その夜。有史以前より続いていたとされるアイザック王国の名が地図上から消され、レオニード帝国の領土がまた広がった。現在アイザック宮殿は廃墟と化し、誰一人として近づこうとはせず、モンスターの巣窟となっている。


 あとは簡単だ。私は兵士達に全てを許可した。殺し、強姦、強奪。徹底的にアイザック王国だった国を蹂躙させたのだ。国中に溢れ変える怨念を、私は結晶化し、取り込んでやった。そして、アイザック王国の魔法研究資料の全てを手に入れた。


 レオニード帝国への貢献、そして国一つを焼き払い手に入れた魔力により、私は『賢者』の一人に名を連ねる事となる。あの時のフローラババアの苦虫を噛み潰したような顔は傑作だった。私の業績を誰よりも喜んで居たのがルキフィス王だったからだ。フローラはエルフ族への迫害をさせぬ事を条件に、ルキフィス王に服従を誓っていた。だから私を賢者に加えるというルキフィス王の言葉に反対する事も出来ず、受け入れる事しか出来なかったのだろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ