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Aerial Wing -ある暗殺者の物語-  作者: ちゃーりー
滅び行く国と皇女エリシア
11/119

ー鬼夜叉丸Ⅱー


「くっそ、一体何が……!」


「レイちゃん!!! しっかりして!!! レイちゃん!!!」


 あの一瞬で視認できたのは、二度目の衝撃。奴の後ろ蹴りを、もろに喰らったから吹き飛ばされたのはわかる。じゃあ最初の一撃はなんだ?


「いやぁ、見事見事。俺にこんなものまで使わせるだなんて、思った以上にやるッスね」


 奴は、左手に持った鞘を指先でクルクルと弄びながら、再び帯に差した。つまり、あの鞘で俺の腹を突いたってのか? 尋常な衝撃じゃなかったはずだ。


「俺の剣、斬神丸っていうんですけどね? 神を斬ったとかいう逸話がある妖刀なんッスよ。でね、切れ味半端ないんッスよ。木製の鞘なんかに収まりきらないとかなんとかってことで、この鞘は魔鉄鋼で出来てるんですわ。俺達鬼が、金棒に使う重くて硬い特殊な鉄ッス。もちろん、この斬神丸も魔鉄鋼が使われてるッスよ。今の感触、あばら数本逝ったッスよね? このへんにしときません? いくらなんでも、お嫁ちゃんと初対面なのに、いきなり殺しとか、第一印象最悪じゃないッスかぁ? 今なら命乞いしたらちゃんと助けてあげるんでぇ、さっさと、あの扉の向こうのお友達と消えてくんないッスか? それに、お楽しみはまだ控えてるみたいなんでぇ、もうお兄さんの出番おわったっつーか。役不足?」


「げほっ! ごほっ! ──へっ。役不足、ねぇ。言ってくれるぜ。ま、何一つ否定できないけどな。はぁはぁ……。なぁ、雑談ついでに教えてくれよ。お喋り好きだろ? 糞餓鬼。お前がエリシア皇女を娶ってなんの得があるんだよ。いい女でいうなら、エリシア皇女じゃなくたっていいだろ。うぐっ! はぁはぁ! くっそ、いてぇ! はぁはぁ! そもそも、魔族系他種族はプライドが高くて、格下だと差別している人間の女と婚姻を結ぶだなんてありえないってのがあいつらの常識だと思ってたんだが、鬼はそうじゃないのか? それとも、お前そう言う特殊な趣味でもあんのかよ? は、はははは……はぁはぁ!」


 俺はアイテムポーチから麻酔を取り出し、殴られた腹に打ち込む。これでいくらかはマシになるはずだ。


「クックック。息も絶え絶えで、痛みにのた打ち回りながら糞餓鬼呼ばわりとかウケるんッスど! もうちょっとカッコつけましょうよ。麻酔が効くまでの時間稼ぎッスか? まぁいいッスけど。俺、お喋り好きだし、お兄さんのことそれなりに気に入ったから話してあげるッスよ。


 鬼にはそういう差別意識ってそんなないッスね。っていうか、鬼ってね、男しか生まれないんですわ。だから結局、他の種族の女攫って、孕ませて子孫を残すんですわ。だからそもそも、婚姻なんて文化がなかった種族だったんスけどね? なんかそれ、前時代的で今時じゃないじゃないッスか? 俺ぇ、ああいう古臭い奴ら嫌いなんッスよぉ。ま、だからって俺見たいな鬼みたら、女の子ガチ逃げじゃないッスかぁ。


 だったら、やっぱ攫っちゃってから、仲良くなるしかないかなーって。そしたらそんな時に、かの有名なエリシア皇女ちゃんがピンチってゆーじゃないッスかぁ。あんな禿に嫁ぐくらいなら、俺が攫って幸せにしてあげよーっていう、あれッスよ。ほら、なんつったっけ。ボランティア?」


 ああ、自分で聞いておいてなんだけど、聞かなきゃよかったぜ……。


 なんて思ったその時だった。耳に装着した通信機から、待ちわびていた報告が届いたのだ。


「──おまたせ、レイちゃん。良く頑張ったわね。今日ばかりは、貴方の口の悪さを褒めてあげる!」


 その報告に、俺は心底安堵し、大きくため息をついた。そして勝利を確信した俺は、笑いを堪えきれなくなってしまう。なんせ、やっとアレが効いている兆候が奴に現れているのだから!


「クックックックック。はぁはぁ、あはははは! なんだそりゃ、迷惑極まりないボランティアもあったもんだなぁおい! あまりにもくだらないジョークなもんだから、思わず笑っちまったよ。でもまぁ、おかげでいい時間稼ぎにはなったわ」


「そりゃーよかったッス。でもさ、麻酔が効いた所で、この実力差はどうしょうもなくないッスか? 降参しちゃったらどうッス……はれ? え、なんか急に力が……え?」


「──麻酔もまぁそうなんだけどな? そろそろお前にも効いてくる頃だとは思ってたぜ。お前に打ち込んだ、毒薬がな!」


「は?……あ、れ?」


 俺が告げると、鬼夜叉丸の足がガクガクと震え、ついに地面に片膝をついた。


「さっき、お前が無造作に引き抜いたあのナイフにはな、筋肉が弛緩する毒が仕込まれていた。普通、速攻で効くはずなんだが、流石は鬼ってとこだな。強靭すぎだろ、その体。流石にもうダメかと思ったぜ……。ああそうそう、役不足だっけ? 言ってくれるじゃん。糞餓鬼。確かに俺一人じゃ役不足だろうよ。何せ俺は前座だ。ここからが本番だぜ? 殺陣鬼。なんせ、やっと『役者』が揃ったんだからな! はじめるぞ、イッツ・ショータイム!!!」


 俺は右手を高く上げ、空に向かって指を鳴らした、まさにその瞬間だった。突如として、鬼夜叉丸めがけて巨大な氷塊が、いくつも空から降り注ぎはじめたのだ。だが、鬼夜叉丸は毒の回った体で、その氷塊を避け、難を逃れて見せた。


「おい、避けられたぞ。ちゃんと当ててくれよな、オリビア」


 俺は遙か上空を飛ぶ、蒼い飛竜、ティアマトの背にいる女を睨む。


「無茶いってんじゃないわよ! こちとら2キロも離れた場所に遠隔魔法陣書いてるのよ!? マスターの補助魔法がなかったらまず書く事すらできない文字通りの『離れ業』させといて何言ってるのよ!」


「いい訳かよ。こんな時くらい本気でやれよ、氷の女王様。その程度の女じゃねぇだろ?」


「言ったわね? 面白いじゃない。精々巻き添えを喰らって死なないようにしなさい? このオリビア=クリムゾンの本気、見せてやろうじゃないの!!! 降り注ぎなさい、氷の槍よ! アイス・グングニル!!!」


 先ほどのただの氷塊とは打って変り、一つ一つが強力な魔力と冷気を孕んだ槍が降り注ぎはじめる。だが、鬼夜叉丸はその類稀な動体視力で、その槍すらも避けはじめる。


「って冷たっ!? って言うか痛ぇ!? ちょ、なんスかこれ!?」


 鬼夜叉丸は知る由もないだろうが、オリビアの氷の槍は避けた位じゃ逃れられない。地面に到達したと同時に、周囲を一気に凍て付かせ、相手を足元から氷漬けにする。そこにさらに降り注ぐ氷の槍が、獲物を確実に仕留める必殺パターンだ。ま、そんなもので仕留められたら苦労しないよな。


「──そう、鬼夜叉丸。あなたは絶対に妖気による障壁を展開し、オリちゃんの槍を防いで見せるはず。流石のオリちゃんも、そんな高出力の魔法をいつまでも打ち続けられないし、私達にもあなたに裂いてる時間はない。今よ、レイちゃん! アーチャー君!」


「「イエス! マイ・ロード!!!」」


 もう俺自信は何一つ攻撃らしいことをできはしないが、道具を使う事くらいはできる。俺は最後のアイテムである、煙玉を鬼夜叉丸に向かって投げつけた。そして同時に、ティアマトの背中から一人の男が飛び降りた。


 如何にも弓手と言った風貌の、ツバの大きい羽の付いた三角帽を被り、左手には黄金に輝く大弓を携え、その男は宮殿の屋根へと降り立った。そしてその弓に矢を番え、その鋭い黄金の瞳で、煙の中にいる鬼夜叉丸の姿を正確に捕らえていた。


「──よりによって煙玉ぁ? 他になんかなかったのかい?」


「煙ごときで、お前の鷹の眼から逃れられるやつが居るのかよ、アーチャー。ちなみにその煙玉はさ、『小麦粉』が仕込んであるんだよ。さくっと殺っちまってくれ」


「小麦粉入りの煙玉だなんて聞いた事ないよ! まったく、とことん嫌がらせが好きだね君は! まぁ、面白そうだから乗ってあげるよ!」


 アーチャーは宮殿の屋根の上から、黄金に光る大弓の弦を引き絞る。すると、その矢はいかずちを帯びはじめ、バチバチと電流を放ちながら鋭さを増していく。


「吼えろ、魔弓ヘラクレス。雷神の破魔矢!!!」


 放たれた矢は大砲のような轟音と共に身動きの取れない鬼夜叉丸の眉間を貫くはずだった。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 唐突に響く鬼夜叉丸の雄たけび。奴は妖気を全開にして氷を砕き、その矢を刀で弾いて見せた。だが、無我夢中で行ったその防御は裏目に出る。雷を纏った矢は触れた途端に高圧電流が鬼夜叉丸を襲う。そして当然、その電流は煙玉に含まれる小麦粉に引火し、粉塵爆発を引き起こした。


「次よ! トドメをお願い、グレンちゃん!」


「待ちくたびれたぜ!!!」


 塔の扉を蹴破り、コレまでにないほどの力を右の拳に宿したグレンが突進する。


「喰らいやがれ糞餓鬼!!! 必殺! 阿修羅金剛拳!!!!!!」


 爆発により生じた砂煙の中でも、ハッキリと鬼夜叉丸の気配を捕らえていたグレンの拳は、間違い無く鬼夜叉丸を確実に捕らえていた。その衝撃たるや、爆発により舞っていた砂煙を吹き飛ばし、鬼夜叉丸を宮殿の壁に叩きつけて貫通させ、さらにその向こうの壁をも貫き、宮殿に大穴を開けて見せた。そしてその奥で、瓦礫に埋もれてピクリとも動かない鬼夜叉丸の腕を、俺は確かに確認する事が出来た。


「──目標の沈黙を確認。鬼退治完了だ」



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