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Aerial Wing -ある暗殺者の物語-  作者: ちゃーりー
リリィ=ノアール
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―黒百合の魔女Ⅲ―


「昔々と言うほどじゃないわね、たった二十年くらい前の事。レオニード帝国に、それはそれは美しい魔法使いの少女が居ました。彼女はとても才能に溢れ、ルキフィス王の目に止まり、賢者の位を与えられました。もちろん、女性に目が無いルキフィス王に求婚までされましたが、正直少女の趣味じゃないので、軽くあしらって断りましたとさ。


 そんなある時、少女は出会うのです。


その方は、隣の国の王様でした。若くてとってもイケメンで、大陸の殆どを手にしようとしていたルキフィス王にも物怖じせず、名君と謳われるほどの立派な王様でした。


 少女は一目で、彼に恋をしてしまったのです。


 しかし、運命とはとても皮肉なもの。当事は同盟国であったにもかかわらず、他国の侵略になかなか手を貸そうとしない隣国の王様に業を煮やし、ルキフィス王は少女に冷たく命令します。『ラルフ皇を殺せ』と。


 少女は悩みました。この手でどうして愛するラルフ様を殺さなければならないのか。絶対に嫌っ! そんな命令に従うくらいなら、ルキフィスをいっそ殺してしまおう!


 と考えていたその矢先の事でした。


 次の日のニュースが伝えたのは、ラルフ皇が醜悪なプリーストの一般女性と結婚するという衝撃的な内容でした。


 少女は泣き暮れます。


どうしてこんなに愛しているのに気づいてくれないの?


どうして私が世界一あなたを愛しているのに裏切るの?


 どうしてあなたを守ってあげるのにその女を選んだの?


 許せない。裏切るあなたを許せない。けれど心から愛してしまっている。


 誰にも渡したく無い。誰にも邪魔をされない繋がりが欲しい。


 そして悩む少女に名案が浮かびます。


『そうだわ! 他の女のモノになるくらいなら殺してしまえば良いのよ! 殺してしまえば、ずっと彼は私のモノ! そして生殖細胞だけ採取して、彼の子供をこの身に宿すの! 私にはそれが出来る! だって私は、誰よりも優れた魔法使いなのだから!』


 そうして、少女はラルフ皇を殺し、彼を少女だけの存在に変えました。やがて、計画通り、少女は一人の女の子を授かりました。女の子の名前は、カトレア=ノアール。母親になった少女そっくりの、とても美しい女の子でした。めでたしめでたし♡」


どこがめでたいんだか。最悪のストーリーじゃないか。


なるほど、エリシアはその短い結婚生活のなかで出来た子供であり、ラジール皇は犯人がわからない以上、アリシア様が懐妊されてるとわかれば、命を狙われる危険もあったはず。


おそらくラジール皇もまた、アリシア様に思いを寄せていたんだろう。兄殺しの疑いをかけられるとわかっていても、亡き兄の花嫁を奪ったと後ろ指を指されてでも、アリシア様を守りたかったんだろう。


 参ったな。世界三大暴君の一人とか言われてるし、エリシアの事を全然大切にしてないから嫌いなタイプだったのにな。


ちょっとかっこいいとか思っちまったじゃねぇか、義父オヤジ殿。


「──何よ、その目。ゴキブリ風情が私の美しい体を視界に入れないでくださる? 虫唾が走るわ」

「人の彼氏を虫呼ばわりは止して下さる? おば様。私の本当の父親が大変お世話になったようね。こんなに人を憎らしいと思ったのは、あなたで3人目よ!」


 エリシアがイリスを引き抜き、俺達の足元に一瞬にして魔法陣を展開する。この魔法陣は、どうやら防御系と強化系の魔法陣のようだ。エリシアが発動すれば、俺とカトレアの身体能力が格段に向上するだろう。なかなか高度な支援魔法を、こうも簡単に展開するなんて、エリシアもかなり腕を上げてるのだと認識してしまった。


「──フン、ジャミング魔法で顔を隠しても、私には何の意味も成さないわよ、エリシア皇女。私には見えるわ、あなたの素顔が。


その顔、その声、その髪。憎たらしいくらいに母親そっくりね。


彼氏って言った? なぁに? カトレアちゃん。あなたそれで良いの? まぁ、私は反対する理由なんてこれっぽっちもないけれどね! あはは! なんて醜悪なカップルなのかしら! 実にお似合いじゃない!


 ねぇカトレアちゃんもそう思わない? 良かったのよこれで! あーよかったぁ……。もし私のカトレアちゃんから、あんな虫との子供が沸いてくるなんて想像したら、どんなパニックホラー映画より恐ろしいと常々思ってたのよぉ! でもねぇ、やっぱり二人とも目障りだわ。あなた達二人が生んで良いのは、蛆虫だけよ。その体を幾千幾万という蛆の苗床にしてあげるわ。さぁ、まずはその腸をぶちまけなさい!」


 唐突に始まるリリィの攻撃。


 リリィの影がまるで鋭い針のように伸び、瓦礫等の影を経由してこちらへと屈折しながら伸びてくる。あの魔法は自分の影とあの影が繋がった時、避け様が無いほど足元から串刺しにして来る魔法だ。そんな危険な魔法が俺達の足元へと高速で迫ろうとしていた矢先に、カトレアは素早く魔力結界を展開し、リリィの攻撃を受け止める。


「エリシア、光よ!」

「わかってる! シャイン!」


 エリシアの放つ光の魔法が、影の侵食を掻き消し、更にエリシアは次の一手を放つ。


「シャイニングソード、展開!」


 以前、イーサンを拘束した光の剣が、瓦礫や地面のあちこちに飛散し、突き刺さり、辺りを明るく照らし出し、影の行き場を封じ込めた。


「ふん。やるじゃないエリシア。でも正直、それやられると私も手数減るんだけど」

「あなたには神速と体術があるじゃない! なんのためにブーストかけたと思ってるのよ! レイのサポートに回って! あなたならレイの動きを私以上に把握できてるでしょ!? 私には実際レイがどんな風に動いてるかなんて見えないんだから! あまりにも早すぎて!」

「……ふぅん? その程度? その程度で相棒ぅ? まだまだね、エリシア」

「うるさいなぁ! 追いつくもん! そのうちちゃんと見えるようになんとかするわよ! とにかく、二人とも油断してやられたりしないでよね!」


 ──あまりにも自然に、さも当然のように協力する二人に、俺は驚きを隠せないが、俺は思わずどこか微笑ましくなってしまう。


「お前らほんと、仲の良い姉妹だよな」

「姉妹じゃない! 仲よくもない! 気持ち悪い事言わないでよ! 鳥肌たっちゃったじゃない!」「な、何言ってるのよレイ! 今はそれどころじゃないでしょ!? 集中してよ!」


 二人同時にわーわーと俺に騒ぎ立てるが、正直何を言ってるかぜーんぜんわからない。


「……カトレアちゃぁん。虫遊びなんてやめなさいよぉ。変な汁とかばい菌で病気になっちゃうわよ?」

「うるさいヤリマン! いい年こいて男漁りやめられないセックス依存症のクソビッチが! 私の人生最大の失敗は、アンタみたいなカビだらけの腐敗した子宮から生れ落ちた事よ! アンタ以上にばい菌にまみれた女がどこにいるのよ!」

「親に向かって何て口を利くの!? いつまでその反抗期が続くのよ! ママ悲しい!!!」


 スビシッと指を指し、聞くに耐えない罵詈雑言を実の母親に向けて罵るカトレア。そしてエリシアは、何故か俺にじとっとした視線を向けてぽつりと呟いた。


「……あれ、レイのせいだって言われても何も反論出来ないわ、私。絶対レイの影響だと思う」

「お、俺あんな酷くないと思うぞ!? あんな強烈なワード、ばーさんにもスキラにもぶつけられねーもん!」

「でもいつもあんな感じよ? もしあんなワードをフローラ様やスキラさんに向けてたら、本気で嫌いになるわ」


 リリィは、ギリリと離れたこちらにまで響くほど奥歯を鳴らし、不快感を露にし、持っていた日傘を畳んでそのままへし折った。


「どいつもこいつも……! 私のカトレアちゃんをどんどん悪い子にするゴミ虫ばかり! ゴミ! ゴミ! ゴミ! ゴミぃ!!! 消えなさい! 私の前から消えなさい! 私のカトレアちゃんに近づくんじゃないわよ!!!」


 突如としてリリィの隣に現れる黒い空間。カトレアがデスサイズを召還するように、リリィもその黒い空間へと腕を差し込み、ゆっくりとそのエモノを引き抜く。カトレアよりやや小柄で華奢なその姿からは想像出来ないようなソレは、禍々しいデザインが施され、見た者に死を容易に連想させた。どんなに強靭に作られた鎧をも貫くであろう槍。どんな盾で防ごうとも、盾ごと相手を両断するであろう戦斧。その二つが合わさった、万能武器……。


「──ハルバード!?」


 俺はリリィが武器を手にする所を見た事が無かった。だからこそ、彼女がどんな武器を使うのか知らなかったし、そもそも武器を扱える事を想像したことがなかった。


ゼクス隊長は、どうやら以前にもあのハルバードを目にしたのだろう。リリィを睨みながら刀を構えた。


「もちろん、ただのハルバートじゃないよ。あれは全ての工程を魔術で作った魔術武装だ。ただし、そこらの魔法剣なんかとはレベルが違う。リリィ! ソレを抜いたって事は、本気で俺達アサシンを敵に回すと言う事だぞ! この国に敵対するつもりか?」


ゼクス隊長の問いに、リリィは悪びれもせずに即答した。


「ええそうよ! あの混血の小娘がロキウス王の子を孕んだ。理由はソレだけで十分よ。嫌いな一族の女がこの国の最高権力者となるのよ? するでしょ? 敵対くらい。さぁゼクス、そしてその他大勢。私を殺して見せなさいな。できるものならね? あなた達の相手は、このお人形さんで十分よ」


 そう言って、リリィはハルバードを哀れなプリーストに握らせた。その次の瞬間だった。


「イヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 痛いッ!!! 痛い痛い痛い痛い!!! 痛いよぉぉぉぉぉぉ!!!」


 突如として泣き叫ぶマリオネット。そして彼女の掌からハルバートは彼女を侵食し、彼女の皮膚をガントレットのように闇魔法金属へと変貌させてゆく。


「な、何? リリィは一体何をしたの?」


 狼狽するエリシア。だが、俺には見覚えがある。


「ソウルブレイカー……!」

「心外ね。あんな出来損ないの武器と一緒にしないでくれる? 私のはもっと崇高で完璧よ。私ね、見ての通り華奢な体してるでしょう? 運動って苦手なの♡ だって汗はかくし、疲れちゃうでしょ? その上、私の肌に傷なんてついたらもう大変! だ・か・らぁ、私の為に一生懸命働いてね、かわいいお人形さん♡」


 俺達の前に、完全に甲冑を身に纏ったようなマリオネットが、おおよそプリーストとは思えない身のこなしでハルバートを振り回して構えた。


「こ・コロ……してぇ♡ もっと、もっと殺させてぇ♡ いっぱい、いっぱい♡」

「うんうん♡ いっぱい殺させてあげる♡ いっぱい気持ちよくなってね♡ さぁ、開幕よ!魅せてあげるわ、最高の殺戮劇を! 踊り狂いなさい! 『ジャンク・ザ・リッパー』」


 彼女の言葉が合図となり、ハルバードを低く構え、おおよそ常人とは程遠いスピードで突進してくるマリオネット。俺は両手の剣に魔力を滾らせ、それを迎え撃つ。


 その刹那だった。


 辺りに飛散し突き刺さっていた光の剣が、一斉にマリオネットを串刺しにし、その場に磔にしたのだ。


「──開幕? 何を言っているのかしら、このピエロは。こんな趣味の悪い演劇は一度見れば十分よ。そんなもの、この私には通用しない。カーテンコールよ、リリィ=ノアール。……そしてあなたも、もう苦しむ必要はない。これ以上、あなたの眠りをだれも犯せない。どうか安らかに……。光よ、母なる光よ。彷徨える魂に、聖なる導きを。『ライトニングエクソシズム』」


 優しく眩い光の魔力。その光に包まれ、哀れなマリオネットは指先から、ハルバードごと霧散して行く。おそらくハルバード自体も、死霊魔法(ネクロマンス)で精製されていたのだろう。


「──え? 何よ、何の冗談よ。エリシア、さっきの狼どこいったのよ? その姿は一体何!?」

「ああそうか、カトレアはまだ見て無かったよな。エリシアだけの特殊な魔法だよ。さっきの狼はシェリルって言って、正真正銘受肉した精霊だよ。そしてエリシアは、そのシェリルを身に宿し、シェリルの魔法知識と魔力を共有しちまうっていうビックリチートスキルだよ」

「精霊と融合ですって!? 何の冗談よ。つまりそれって、エリシアが精霊そのものになるって事じゃない! エリシアを守る? 寝言言ってるの? レイレイ。あなたより、よっぽどエリシアのほうが化け物じみてるわよ! あの姿に敵う魔術師なんて存在しない。対抗できるとすれば、賢者しかありえない!」


 銀色の髪、狼の耳と、美しい尻尾。息を呑むほど美しいその姿を前に、リリィは唖然とし、そして彼女が口にしたその名に、俺は耳を疑った……。


「──スキラ?」 


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