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Aerial Wing -ある暗殺者の物語-  作者: ちゃーりー
リリィ=ノアール
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―黒百合の魔女Ⅱ―


森の中を進む俺達だったが、拠点の手前で強烈な闇の魔力を感じ、思わず身がすくんで足が止まる。


 居る。拠点のど真ん中に、あの女が居る!


「何今さらびびってんのよ。隊長も居るのよ? そう簡単にあの女だって襲って来たりしないんじゃない? ……多分」

「保障はないし根拠が薄いんだよなぁ。隊長の前でも殺しにかかって来そうだぞアイツ」

「レイレイってホントあの女に嫌われてるよね。あの女も、『あいつはダメ! アイツだけはダメ! 他の男なら別に誰でも良いけれど、あの駄犬だけはだめよ!』って言ってたわね。ねぇレイレイ、あんたあの女と寝たりしてないでしょうね?」

「は? んなわけねーだろ。やめろよきもちわりぃ」

「だよね。いくらなんでもそれはないよね。じゃあなんでだろ。あの女があからさまに拒否反応を起こした男って、レイレイかゼクス隊長くらいなんだよね。娘の彼氏を掻っ攫うような女なんだから、顔さえソコソコ良ければ誰にでも股を開く女だと思ってたのに」

「ん? お前が原因じゃないのか? 俺が襲われるのは。あんな母親でも、自分の娘の寵愛を拒む男は許せないとか、そう言う話なんじゃないの?」

「レイレイ以外にも、最初から他の女の子が好きだから、カトレアとは付き合え無いよって言った男は何人かいたわよ。そりゃその時は凹んだけど、最初から私にはそんなに脈もないなってわかってたし、本気で欲しい男でもなかったから諦めもついたけどさ、じゃあそこからあの女が動いたかって言ったら、動いてないのよ。どうなってるのかしらね、あいつの行動原理って」


 なんだそりゃ。親子揃って気まぐれで男を殺したり生かしたりしてるのか。ほんとにどうしょうもねぇな……。


「……他の男は良くて、レイはダメ。殆ど面識と言えるほどの接点が無いに等しいのに、殺す事を何も躊躇わずに攻撃するほど、強い憎しみを抱いている。──そう、元老院ペテルギースの私兵をすべて陽動に回し、犠牲にした上でレイを罠に嵌め、レイに怨みを持つイーサンを、自分の腹心であったはずなのに、そんな存在を使い捨てにしてでも殺したかったほどに。──どうして? ううん、問題はそこだけじゃない。──いつから?」


 俺達の話を聞いて、エリシアはぶつぶつと呟きながら、思慮に耽っている。だがその表情は、どこか戦慄しているようにも見える。

 

「──なるほどね。やっぱり頭良いわね、エリシア。私もなんとなくそんな気がしてきたわ。つまりこれは、『超大掛かりな八つ当たり』なわけね……」

「──多分、そう言う事になると思う。でも、じゃあ誰なの? 誰への当て付けだったの?」

「そんなの本人に聞いたほうが早いんじゃない? ま。どうせゼクス隊長とか、フローラババアってところなんじゃないの?」


 エリシアとカトレアが二人で何やら推理をしているようだったが、当事者の俺が言うのも変なのだが、正直俺はそれ所ではないと思ってた。


 なぜなら、リリィが居るであろう拠点の中心付近からは、喧騒と只ならぬ気配。そして、血の匂いが漂ってくるからだ。俺はすぐさま抜刀し、二人に警戒するよう促す。


 カトレアもデスサイズを闇の空間から引っ張り出して構え、エリシアの前にシェリルが戦闘モードで現れ、低く唸り声をあげる。


「え、ちょっと待って? 何その狼。どっから沸いて出たの?」

「あ、ああこの子? シェリルっていうの。私の使い魔みたいなものかな」

「使い魔ぁ!? そんな可愛らしいモノじゃないわよね!? こいつの内包魔力量おかしいでしょ!? 桁違いよ!?」

「話は後だ! いくぞ二人とも!」


俺達は走り出し、同時に森を抜け、拠点の広場へと辿りつく。


「──ほら、噂をすれば帰ってきたじゃないか。お帰り、三人とも。なんだ、カトレア。治療までして貰っちゃったのかい? 早速で悪いんだけどさ、君のママに『趣味の悪いお人形遊びは他所でやってくれ』ってお願いしてくれない?」


 俺達を待ち構えて居たのは、まさに地獄絵図とも言える光景だった。


 先ず真っ先に目に入ったのは、カトレアと殆ど同じ顔の、ゴスロリ調の漆黒のドレスと日傘をさしたリリィ=ノアール。


 そして傍らに、着衣がぼろぼろに乱れ、あからさまに性的暴行を加えられた形跡を残し、その両手に6人分の人間の頭部をぶら下げた女性のプリースト。であったであろう生ける屍。体中に武器が刺さり、頭部は半分吹き飛び、その心臓はとうに鼓動を止めた筈なのに……。彼女は、泣いていた。


「ころ……してぇ。誰か、私を殺してぇ……。お願い、殺してよぉ!」


 エリシアはその光景に、口を手で押さえながら、膝から崩れ落ちる。俺は反射的にエリシアの体を支えるが、目線はリリィから一ミリも逸らさない。その瞬間、あいつは俺を殺しにかかってもおかしく無いからだ。


「あーあ。またやってる。レイレイ、私も時々同じ事やってやるって言っちゃあ居るけど、私にとってそれが思いつく最悪の殺し方だって認識してるからであって、元ネタはあれよ。酷い光景でしょ? あの哀れな人形が手にしてる首。あれ全部、人形も含めて私を追い詰めた奴らよ。きっとあのプリーストの仲間を操り、精力剤と覚醒剤でも打ち込んで輪姦まわさせてから、あのプリーストをああいう人形にしたのよ。


あれはね、ただのゾンビとはちょっとレベルがちがうの。あれはリリィにしか作れない。肉体と魂を一度無傷で切り離し、肉体をゾンビ化させたところで魂を定着させる。結果、対象者は意思と記憶を維持し、リリィの意のままに動く『意思のあるマリオネット』にされるのよ。


あれの厄介な所はね、首を刎ねても、頭を潰しても、リリィの魔力がリンクし続けるかぎり動き続けるし、魂は定着し続けることよ。例え目玉だけにされても、その目玉にリリィの魔力が供給されたら、そこには意識と記憶が定着するかもしれないわ」

「──ったく、大した戦闘力もなさそうなゾンビに、一体どれだけ手間かけてんだよ」


 俺はエリシアを完全に背後へと隠し、魔力を高めて警戒する。そして俺の横には、シェリルがぴたりと寄り添い、毛を逆立ててリリィを威嚇する。シェリルはどうやら、エリシアだけで無く俺の事も守ってくれるようだ。


「手間だなんて思わないんでしょうね。楽しんでるのよ、心底ね」


 カトレアの冷めた視線を浴びても、リリィは一切動じるどころか、口角を耳元まで吊り上げるように、不気味な笑みを浮かべて見せる。


「カトレアちゃぁん♡ ママ心配したのよぉ? 大丈夫? 怪我はない? 安心して? カトレアちゃんをいぢめる悪い子はみーんな地獄に堕ちたから♡ ねぇ見てぇ? あなたの玩具をめちゃくちゃにした悪い子に、玩具になって貰ったの♡ ほら、これを好きにして良いわよ? ちょっと乱暴に扱ったくらいじゃ壊れないわ♡ ほぉら、こんな風に♡」


 リリィは、哀れな人形となりさがった女性の腹部に突き刺さった剣の柄を握り、そのままグリグリと内臓を掻き混ぜる。


「ぎゃああああああああああ!!! 痛い!!! 痛いよぉ!!! もう嫌ぁ!!! 許してぇぇぇぇ!!! 殺してよぉぉぉぉ!!!」


エリシアは思わず耳と目を塞ぎ、その場から一歩も動けなくなる。


「そろそろやめようか、リリィ。それ以上死者を辱めるな。もう開放してやれ」

「あーら。随分優しいのね、ゼクス。死者を辱めるな? 笑わせないで? 他人の決める倫理とルールに、どうしてこの私が縛られなきゃならないの?」

「良い加減不愉快だよ。面白がってるのは君だけだ、リリィ。そのプリーストの魂を開放しろ」

「そんなに言うなら、あなたがどうにかしてみたら? あなたに斬れないものなんて無いのでしょう? あなたなら、この哀れなプリースト風情の魂も斬れるんじゃなくて? どうなの? ゼクス=アルビオン」

「──うっざ。このど腐れ糞売女が。そんなに臓物をぶちまけたいんだったらぶちまけさせてあげるよ。久しぶりに本気で誰かをぶった斬りたいと思っていたんだ。君なら胴体から斬られたって死にはしないだろ? 君の体でオリジナルの部分はどこだい? 顔と子宮くらいか? おっと、顔も崩れないように弄ってるか。じゃあ全体のバランスを取って、その子宮をズタズタに引き裂いてあげるよ」

「あら怖い♡ 弟子の口の悪さは間違い無く師匠譲りね。私の大事なカトレアちゃんにまで、その悪い癖が移らないといいのだけれど……」

「黙れ糞ビッチ。下痢便垂らして死ね」

「か……カトレア? 出来ればもう少し俺から離れてやってくれる?」


 気が付けばカトレアまでもが俺を盾にして、俺の影から酷く下品な罵詈雑言を口にして居る。


「なによヘタレ。エリシアは守るくせに私は守ってくれない訳? エリシアもいつまでもへたり込んでんじゃないわよ。いい? あの糞年増ビッチは私達の共通の敵よ? 敵を前にしてビビッてんじゃ無いわよ!」

「それお願いだから、せめて俺の隣で言ってくれる!? なんで俺より後ろで言うかな!?」

「しょうがないでしょう!? 私もう手持ちのゾンビ居ないんだってば!」


 刹那、俺達の緩みかけた俺達の緊張感が一気に張り詰める。


リリィの指先から、魔力の弾丸が俺の額を打ち抜くコースで放たれ、俺は剣でそれを弾いた。後一瞬、反応が遅れてたらと思うとぞっとする。


「──あら? 無傷ね。やだわぁ、ゴキブリがしぶとくなってるじゃない。脳をぶちまけて死ぬように撃ち込んだはずなのだけど。殺せない時は、ゼクスに庇われるケースくらいだと思ったのに。なによ、微動だにしないなんて、随分あのゴキブリキッズを信頼してるのね、ゼクス」

「そりゃーね。俺の自慢の弟子だよ? その程度の魔弾で殺せる訳無いだろ? あんま調子こいて舐めてると、その醜く若作りしてる顔がぐちゃぐちゃにされるよ?」


 ゼクス隊長の言葉など耳に入っていないのか、リリィは俺の事を睨み続け、その表情は時間と共に醜く歪んでゆく。


「……ああもう! ゴキブリの分際で私のカトレアちゃんに近づくなとアレほど言ったのにまだわからないのかしらこの虫けらめぇ! 四肢を引きちぎって発火寸前の油を口に注ぎこんで殺してやりたいわ!」


 俺も人の事言えないけど、あいつほんとにやべー奴だな。やられでもしたら本当にアレを実行されるぞ俺……。吐きそうなんだけど……。


「ところでさぁ、そろそろ説明してくれない? ううん。正直わかってるんだけどさ、一応裏とりたいのよね。私の父親の事。父親を殺したのは誰なのか。なぜ、私とエリシアの父親が同じなのか。ハッキリさせて欲しいのだけど? アンタにはその責任があるわよね。一応腐っても私の母親なのだから!」


 カトレアの言葉を聞くと、リリィは静かに語り始めた。



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