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Aerial Wing -ある暗殺者の物語-  作者: ちゃーりー
バレンタイン家の聖域
105/119

―姉妹Ⅱー

「チッ。……今、絶対殺ったと思った。反射的に神速の法で逃げたみたいだけど、私も神速の法を発動してたのに、その速度に反応して避けてきた。それだけじゃない。これまであれだけラッシュを繰り出してるのに、アナタの肌に傷一つ付けられてない。


 私が弱ってるのもあるかも知れないけれど、それだけアナタがレベルを上げたって事よね。──そう。大口を叩くだけのレベルは身に着けて来たのね。本気で、私と敵対するつもりなんだね? ……ねぇ、そんなに私が嫌いなの? そんなに私は、あなたにとって醜い女なの?」


 カトレアの表情は、先ほどの激情とは打って変わって、とても静かなものだった。


「……そういうんじゃない。お前の強さには今でも憧れる。尊敬もしてる。仲間として信頼してる。どうしょうもない友達の一人だと思ってる。けど、一人の女としてお前を愛してやれない。お前なりの愛には答えてやれない。愛の形が違い過ぎると思う。これで納得してくれないか?」

「嫌。むかつくから死んで」

「……あそう」


 話がやっと通じたかと思えばこれかよ。まぁそうだよな。


「ほんっとにお前はぶれないよな。普通、好きな相手に『無理』って言われたら改善しようとしない?」

「はぁ? 相手が私に合わせるべきでしょう? 何を寝ぼけてるの?」


 あーあ。やっぱりだめだった。コイツとは、ちゃんと決着付けないとダメらしい。俺は全身の魔力を滾らせ、脳をフル回転させる。


「クスッ。そろそろお互い本気を出すべきよね。褒めてあげるわ、レイ=ブレイズ。よく私の所まで登り詰めたわね。えらいえらい。私ね、ずっとずっと思ってたの。アナタの才能は、私に匹敵するって。


 だって、同じ臭いがしたんだもの。全てを憎む心と、誰かを愛する心が、薄氷の上を歩くような際どさでバランスを保ち、今にも壊れそうな状態で正気を保ってる。


 自分でも理解してるでしょう? 私とアナタは同じ穴の狢。むせ返る様な血の匂いに興奮し、奪う側の快楽が骨の髄まで染み付いてる。相手を殺める事で生を勝ち取るその快感が、脳髄を蕩けさせる。


 ねぇ、知ってた? 普通の人は、私達を見て狂ってるって思うんだってさ。理解されないんだよ? 忌み嫌われて、恐れられ、なのに利用するくせに、あっと言う間に裏切るの。


 おかしな話だよね? 自分達が今平和を享受してるのは、私達みたいな人間が積み上げた死体の上に成り立つ平穏だよ? その死体の山の上でしか暮らしていけないくせに、地域限定の平和が当たり前になりすぎて、私達みたいな人間はおかしいって指を刺すの。


 ねぇ、おかしいと思わないの? だから私はセイラが嫌い。散々利用してきたくせに、今更罪悪感を覚えるあの『自称お優しい女』が嫌い。ねぇ、アナタはこちら側の人間でしょう? なんでそっちに行きたいの?」


 ああ、その通りだ。俺とカトレアは同じ人種だ。俺の体は、闇と血にまみれてる。否定のしようがない。それでも……!


「──あの日、あの夜。スキラが殺されたあの忌まわしい日だ。全てに復讐してやると誓った日から、俺は闇に堕ちたんだろう。祖父をこの手で殺め、救ってくれたはずの手を振り払ってアサシンになり、この身は犠牲者の返り血で赤黒く染まったよ。


 そんな俺を、それでも助け出そうとみんなが手を伸ばしてくれた。元居た日の光が差し込む場所へ戻そうと、俺を引っ張りあげようとしてくれた。


 余計なお世話だって振り払っても、あいつらはお節介だから、どんなに嫌がっても無理矢理連れ出したよ。その極め付けがエリシアだ。


 あいつ自身が馬鹿みたいに明るい奴だから、隣に座られると堪ったもんじゃない。嫌でも照らされる。でも照らされちまったら最後、その温もりと光の前に、カビみたいな俺はあっと言う間に漂白されていくのがわかったよ。


 困るんだよ。今更あいつを不安で陰らせられると、俺は困るんだ。俺は、笑ってるあいつの隣に居たいんだ。


 ──だからごめん、カトレア。お前の隣には居てやれない」


 俺は滾らせた魔力を全て開放し、カトレアと対峙する。


 そしてカトレアはため息を付きながら、殺気と魔力をその身から溢れさせる。


「そう。残念だわ。精々全力で来る事ね。私はもう、何も遠慮しない。アナタを油断無く躊躇なく、遊ばずに殺してあげる。さようなら。アナタの事、本当に愛してたわ」


 カトレアは最後に冷たく告げると、着ていたドレスローブを投げ捨て、その下に着込んでいたコンバットスーツと、美しい体のラインが露になる。


 そして長く美しい髪をアップに結わき、刃のように冷たい眼差しを向け、デスサイズを指先でぐるんぐるんと弄びながら、必殺の一撃を繰り出すべく構えを取った。


「──葬送演舞、月下美刃!!!」

「神速奥義・超神速!!!」


 俺が一歩踏み出すと同時に、カトレアを中心に美しく咲き誇る漆黒の刃の花弁。


 そのことごとくが俺を貫かんと迫る中、俺は音を追い越す速度でその花弁の中心へと飛び込んでゆく。



 ように見せかけた。



「……え?」


 俺の体を貫いた手ごたえも無く、俺に攻撃をされた形跡も無い事に、カトレアは混乱を禁じ得ない。


 だがその一瞬の戸惑いが命取りだ。その一瞬の隙を突き、俺は『神隠しの法』で姿を隠し、カトレアは完璧に俺を見失う。


 すぐさまカトレアはその刃で全身を包み、全身を魔力のバリアで囲い、守備へと徹する。流石カトレアだ。あんな強力なバリアは俺の力じゃ外部破壊なんて到底不可能だ。


 だがな、カトレア。テメェはもう俺の術中なんだよ。お前は闇の力に頼り過ぎた。


 確かに闇の魔力は攻撃に特化した強力な力だよ。しかしその力を極めれば極めるほど、その使い勝手の良さから過信してしまうんだ。だから基本的な事を忘れちまう。


 聖なる光の魔力の前では、あまりにも脆弱な力だって事をな!!!


「捕まえたぜ、カトレア」

「え?」


 いつもの余裕綽々なカトレアだったら、こんな小細工は通用しなかった。


 あいつは今、精神的にも肉体的にも弱ってるからこそ、気が付けなかった。


 反射的に、俺の姿を捕らえる事だけに、意識を集中してしまった。普段のカトレアなら、すぐに気が付いたはずだ。あの一瞬でカトレアを中心に張り巡らされた、『極細のワイヤー』に。


「この技はさ、一つだけユキカゼ班長が俺に教えてくれた技でな。実用性で言うなら殆ど皆無と言っていい。何故そんな技を俺に教えるのかと問いただすと、班長はこう言った。『自分の手の内を知る相手ほど、普段とは違う攻撃が生きてくる。選択肢は多いほうがいい』ってな。全くその通りだよ! さぁ、大人しくお縄を頂戴しな!」


 俺は技の起点となる導線をぐっと引くと、張り巡らされたワイヤーが瞬時にしてカトレアめがけて収束していく。


「くっ! こんなワイヤーが何よ!」


 カトレアは魔力で作った刃でそれらを迎撃するが、ワイヤーは切断されるどころか、逆に刃を切り裂く。


「嘘っ!? もしかしてこのワイヤー、聖銀を練り込んだの!? くっ! 小癪な真似を!」


 ワイヤーはカトレアの体を捕縛し、そのまま宙へと吊るし上げる。


「うぐっ!」

「雪風流剛線捕縛術。『殺執あやとり』」


 吊るしあげたカトレアは、さながら蜘蛛の巣に囚われた哀れなエモノだ。身動きも取れず、空中へと磔にされている。


 この技の恐ろしいところは、ただ捕縛するだけじゃないことだ。張り巡らされたワイヤー。その手元に終結して居るうちの一本を引くと、たちまちワイヤーが対象の首を締め上げ、力加減によってはワイヤーで切断する事が出来るという技だ。対象者が脱出しようと下手な動きをすれば、ワイヤーに振動が伝わる。


 術者はワイヤーを操り首を締めるなり刎ね飛ばすなり好きにすればいい。一度捕まえてしまえば、術者の勝利が確定する、まさに必殺技だ。


 だが、手間の割には一人しか捕縛出来ないし、使い勝手も悪い。初見殺しもいいところだ。だが、相手を拘束し自由を奪う目的は完遂された。今はそれで十分だ。


「おっと、動くなよカトレア。さっきのお前が作り出した刃を見て分ると思うけど、このワイヤーには聖銀を含ませてある特注品だ。強度はやや落ちるが、お前の肌を切り裂くくらいわけないぜ。当然、その服だってビリビリに引き裂いちまう。アレルギー反応で荒れまくった体を晒したくなかったら、大人しく降参するんだな」

「……くっ。ふざけんじゃないわよ!!! こんな屈辱を受けておめおめと生き恥を曝すくらいならいっそ……!」


 ふと、カトレアが完全に脱力し、彼女の手からデスサイズが零れ落ち、広い地下空間にガシャンと耳障りな音を立てた。


 変だ。俺がしたことはただ拘束しただけのはずだ。なぜ気を失う?


「おい、カトレア? おい!」


 ぐったりと反応のないカトレア。その表情はまさに顔面蒼白。そして気が付く。ワイヤーを伝い、カトレアの真っ赤な鮮血が、俺の手元へと流れてきた。


「こ……この馬鹿女が!!!」


 やっぱり無理をしてたんだ! カトレアは負傷したまま戦っていたんだ! それも、かなり重篤な傷を負って居るはず。あの表情、間違い無くチアノーゼを起こしてる。くっそ、なんて無茶しやがる!


 俺は技を解除し、ワイヤーから解き放たれ落下するカトレアを抱き止める。


「おい、カトレア! しっかりしろよおい!」


 頬を数回叩いてみる。するとカトレアはうっすらと目を開け、恨み言を口にした。


「……殺しなさいよ、馬鹿。けほっけほっ! あんたにとって別に困らないでしょ? あたしが死ねばその女と気兼ね無くよろしくやれるじゃない……。よかったわね、せいぜい醜く交じり合ってなさいよ」

「お前、なに言って……」


 カトレアの言葉を否定しきれない情け無い俺を他所に、大声を上げた奴がいた。


「ふざけた事言わないで! 困るわよ! 大いに困るわ! 大迷惑よ! レイ、カトレアさんをそこに横にしてあげて。治療するわ」


 エリシアだ。エリシアは俺達に駆け寄り、言われるがままカトレアを横たえると、エリシアはすぐさまカトレアの体を調べ始める。カトレアは顔をしかめながら、エリシアを恨めしそうに睨めつけた。


「余計な事しないでよ、この売女……。あんたなんかに情けをかけられるくらいなら……」

「死んだほうがマシとでも? 甘えないで! 私だって複雑なんだから! それにあなたにはまだ仕事が残ってるんでしょう!? ……傷を見せてもらうから、服を脱がせるわね? レイ、あっち向いてて!」

「え、お、おう……」

「──って、カトレアさん! あなたこんな傷で戦ってたの!? この傷、間違い無く内臓を傷つけてるじゃない! 何を考えてるのよ! ああもう! レイ、回復薬ありったけ出して! 今すぐに! なんなのよこの滅茶苦茶な縫合は! 自分で縫ったの!? あなた回復魔法は!?」


 エリシアには他所を向けと言われたが、思わずその声に反応してカトレアの体を見てしまう。カトレアは顔面蒼白でばつが悪そうに胸を手で隠して居るが、その脇腹にはどう見ても重傷としか思えない刀傷が残されていて、出鱈目な縫合が施されている。傷口からは、今も血が流れ出していて、エリシアが白いタオルを押し当て止血を施しているが、そのタオルもじわじわと紅く染まっていく。


「……うるさい。耳元で喚かないでよ。……モルヒネ使いまくって痺れた手で縫ってるんだから仕方ないでしょ? 回復魔法苦手なのよ。使え無くも無いけど、薬で意識飛びそうだったんだから仕方ないじゃ無い」

「じゃあ動かないでじっとしていなさい! あんな大暴れして! あなたもう少し常識って物を身につけるべきだわ!」

「はぁ? 常識ぃ? 他人の矮小な物差しで私が計り知れる訳もないし、世間一般の人間と同じような小さな箱に収まるつもりも無いわ」

「そう言う所がレイや他の男性達にドン引きされるってどうして分らないの? 大して面識のない私でも理解できるわ! 他人を『あなたの都合』で押し潰しておいて、誰からも愛されないって駄々を捏ねて! まるっきり子供じゃない! 誰かに愛して欲しいなら、自分が愛される努力をしなさいよ!」


 いやなんとご尤もなご意見。ってかそんな事してる場合なのかよお前ら……。


「偉そうに説教しないでよ! あんたにあたしの何が分るのよ! 何? 血が繋がってる事が分った途端にもう姉気取り? ふざけんじゃないわよ! ぶっ殺すわよ!?」

「死にかけてる体の割にはとっても元気なのね。少し安心したわ。この回復薬、かなり強力な劇薬なの。沁みるなんてレベルじゃないから、ショック死しないでね? 冗談抜きでそう言う薬よ。今のあなたにこれ以上麻酔を使うほうが危険だから、無しで行くわよ。……カトレアさん、覚悟は良いわね?」


 エリシアが俺の鞄から取り出したマスター特性の緊急回復薬の試験管。その試験管を見るだけで、俺は前回、エリシアと出会う以前にモルヒネ無しで使った時の痛みを思い出し、体が思わず強張ってしまい、カトレアは俺のその表情を見逃さなかった。俺のその表情に、カトレアの顔がすぐさま凍りつく。


「……うそ。嘘嘘嘘嘘嘘嘘!? 嫌っ! なんかそれ絶対嫌っ! ちょっレイレイ止めさせて! あんな得体の知れ無い薬使わせないで! 回復薬の色じゃない! 何よその汚い緑色! 藻が茂った沼の水みたいな色してるじゃない!」

「カトレアさん、今はアドレナリンと薬で痛みを忘れてるみたいだけどね、あなたこのままじゃ本当に死ぬの。わかったら歯を食いしばりなさい。レイ、カトレアさんの手を握ってあげて。はい、カトレアさん。私のハンカチでよかったら咥えてて。……いくわよ?」


 エリシアが差し出したハンカチを、カトレアは恨めしそうにエリシアを睨みながら、ハンカチを咥えるというより、噛付いた。


カトレアの覚悟が決まった所で、エリシアが試験管のコルクを抜く。アンモニアに似た強烈な刺激臭が、俺達の鼻の奥を貫く。


その匂いにエリシアも若干涙目で、カトレアなんてもう、俺の手を握り締めながらガクガクブルブル震えだした。


 そしてエリシアは試験管の中身をカトレアの傷口へと、何の躊躇いも無くぶっ掛けた。


「ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!! ンぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


 じゅううううという水分が沸騰する音が響く。熱々の鉄板の上に水をぶっ掛けたかのように、薬品は蒸気を上げながらカトレアの傷口を急速に修復していく。


 カトレアは痛みに顔を歪め、俺の手を握り潰すんじゃ無いかってくらい握り締める。


 痛みのあまり、カトレアは意識が飛びそうになっているようだ。脱力と痙攣を交互に繰り返してる。


「──っ! がんばって、カトレアさん! すぐ痛みは治まるわ! 大丈夫、ゆっくり呼吸を整えて! そう、そうよ。痛みが引いたら、ヒーリング治療を行うから、それまでの辛抱よ」


 やがて薬品は完全に蒸発し、カトレアの美しい肌にグロテスクに刻まれた傷口はふさがり、代わりにやや重度の火傷の様な痕が残っていて、エリシアはそこからゆっくりと回復魔法をかけはじめる。


「……殺そうとした。あんた今絶対あたしを殺そうとしたでしょ!? 生まれて初めて本気で死ぬかと思ったわよ!!! よくもやってくれたわね!?」

「そんなわけないでしょう!? 今だって必死に助けようとしてるわ! あなたも分ってるでしょう!? しかもあなた、いっそ殺せとか口走ってたじゃ無い! 本当に滅茶苦茶ね! ええ! この際だからハッキリ言うけれど、正直あなたを助けるメリットを探すほうが難しいわよ! 元気になったらレイと私の命を狙う事なんて、火を見るよりも明らか! 命を狙ってくる相手を治療するなんて、具の骨頂!


 でもね! 恋のライバルにこんな形で退場されて納得できるもんですか! このまま死なれて、レイの心に妙な形で居座られてもすごく迷惑だわ!


 ──それにね、私はあなたをすごい人だと思ってる。あなたを初めて見た時から、あなたがずっと羨ましかった。……私なんかより、ずっと自立して、物怖じせずに、堂々と好きな人に愛してるって人前で口に出来る。レイも、あなたを仲間として信頼し、レイに『憧れた』と言わしめるその姿は、私にはとても眩しく見えて、……すごく嫉妬したわ。


 そんなあなたが、母は違えど、血を分けた姉妹だったのよ? 私だって困惑してるわ! 突然、あなたが妹だと知って、私はどういうリアクションを取ったらいいの? 妹が居たと喜べばいい? 私の本当の父親は、お母様以外の女性を愛したのかと怒ればいい? 私の妹はよりにもよってカトレアさんだったと哀しめばいい? ……たった一人だけ、肉親が残っていたと、安心してもいいの? 折角、姉妹だと分っても、理解し合え無い悲しい定めだと、諦めるべきなの? ──ねぇ、カトレアさん。あなたはどう思う?」


 エリシアの目からは、涙が零れ落ちていた。そんな彼女の表情を目にしたカトレアは、ばつが悪そうにそっぽを向いて、ぶっきらぼうに告げた。


「──知らないわよ、ど天然。お願いだから、私にライトヒーリングなんてふざけた魔法使わないでよね。レイレイ程度ならともかく、私みたいな黒魔術師にはダメージ効果を与えるんだから、マジで気をつけなさいよ。それと……。『カトレア』でいいわ。でも勘違いしないでよね。あなたが私を妹だと思ったとしても、私、あなたの事を姉だなんて思わないし、ムカついたからレイレイもまだ諦めないから。油断してると本当に殺すつもりで居るし、ちょっとでも仲が拗れたら掻っ攫ってやるんだから覚悟して置きなさいよ、……え、エリシア」


 俺はカトレアの意外な態度に、開いた口が塞がらなかった。あのカトレアが。あの凶悪という文字を体現したようなカトレアがこんな態度を見せるのか!?


「──ええ、望む所よ。私も油断せず、慢心せず、全力を出させて貰うわ。本当に長い戦いになりそうね、カトレア」

「ちょ、何よその顔! なんでそんな嬉しそうなのよ! あんた筋金入りの天然ね!」

「ええ、よく言われるわ。ただし、これで三人目。一人目は親友のメロディア。二人目はレイ。そして、あなたが三人目よ、カトレア」


 見れば、エリシアは心底嬉しそうに笑っていて、カトレアはめずらしく頬を赤らめながら狼狽している。事情を知らずに、ただ『姉妹だ』と伝えられた人間が見たら、そうとしか見えないのだろう。


 まさに、仲睦まじい姉妹がそこに居た。


「今は、一時休戦ね」

「……そうね。こんな体じゃどうしょうもないしね。レイレイ、膝枕して」

「え。やだ」

「あら、カトレア。私の膝で良ければ貸すわよ?」

「だから姉ぶらないでよ! 気色悪いってば!」


 そして今更ながら気が付いてしまい、ため息が出てしまう。


「『レイレイ』はもう暫く卒業できないのか……」


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