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Aerial Wing -ある暗殺者の物語-  作者: ちゃーりー
バレンタイン家の聖域
104/119

―姉妹Ⅰ―



 戦いは、すぐに始まった。即座にデスサイズを構えて突進してくるカトレアと、問答無用と判断し、すぐに抜刀した俺。刃を数回交えただけで、カトレアは自分の優位であろうミドルレンジへと距離を取り、怒りに身を任せデスサイズに滾らせた魔力を刃に変え、無造作に解き放つ。


デスサイズをカトレアが振り回すたびに、無数の刃が迸り、こちらの四肢を断ち切らんと迫り来る。


 カトレアが繰り出す凶悪な斬撃は、鋭さの上限を知らない。放たれた斬撃は徹底的に歴史的建造物を切り刻んでゆく。


 俺は飛んでくる魔力の刃を叩き落し、エリシアは悲鳴を上げながら絶対聖域アブソリュートサンクチュアリを展開し、防御に徹している。


 驚いた事に、あの防壁には傷一つついた様子も無く、完全に刃を防ぎきっているようだ。


 ──すげーな、俺もあそこ入れて貰えば安全なんじゃないか?


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「くっ!」


 いつの間に距離を詰められたのだろう。振り下ろされるデスサイズ。


 俺は両手の剣をクロスさせ、挟み込むようにその刃を受け止めた。


 途端、カトレアの影が針のように飛び出し、俺の内臓を抉らんと迫り、俺は半身を逸らし避け、カトレアの顎めがけて蹴りを繰り出す。カトレアは間一髪直撃を避けたが、つま先がカトレアの頬を掠った。


 カトレアの目がさらに鋭くなり、瞳孔が完全に開く。俺の胴体を真っ二つにしようと迫り、体勢を整えてきれていない俺はぎりぎり剣を盾に何とか受け止めるが、そのまま壁へと吹き飛ばされてしまう。


 だが俺は吹き飛ばされた先で壁に張り付き、剣を構え、魔力を滾らせる。そして壁を蹴り跳躍し、カトレアに斬りかかる。左のイフリートで真横に一閃し、間髪入れずに真上からシルフィードを振り下ろした。その交差する剣撃が、ガードの上からカトレアを押し戻す。


 さらにシルフィードに魔力を滾らせ鋭く『突き』を繰り出せば、人間を軽く吹き飛ばすレベルの突風が捲き起こり、カトレアを壁まで吹き飛ばした。


 だが、カトレアはデスサイズの柄を石畳に突き刺し体を魔力のバリアで包み、突風を容易く凌いで見せた。そんな彼女の表情はまさに、般若そのものだ。


「チッ! ……ああもう! 大人しく殺されなさいよ!!! 逃げ回る上に、あたしの顔に蹴りまで入れて、尚且つ反撃してくるとか!!! 弱虫のくせに! あたしより弱いくせに! 浮気虫のくせに! 裏切り者のくせに!!!!!! どうして裏切ったの!? あたしはアナタを本気で愛してた!!! あたしの気持ちを踏みにじって!!! あたしをこんなに悲しませて!!! あたしをこんなに怒らせて!!!


 どうしてその女なの!? どうして寄りにも寄ってアンタ(エリシア)なの!? どうしてあたしに姉が居るのよ!? どうしてそれがアンタなの!? どうして!? どうしてよ!!! なんで彼なのよ!!! どうしてみんなあたしを裏切るのよ!!! みんな、みんな死ねば良いのよ!!! 醜くグロテスクに死体を曝して、蛆虫の苗床になって死ねば良い!!! アナタ(レイ)も!!! アンタ(エリシア)も!!! あのリリィも!!! あたしを裏切る奴はみんなみんな死んじゃえばいいのよ!!! 殺してやる!!! 皆殺しにしてやる!!! どいつもこいつも皆殺しにしてやるんだからぁぁぁ!!!!!!」


 この霊廟内に溢れていた聖なる魔力を、漆黒の闇で塗り替えるほどのカトレアの凶悪な魔力が、カトレアの体から衝撃波となって開放される。


「醜くはらわたを散らして死になさい!!! レイ=ブレイズ!!!!!!」


 その圧迫感はそう、直径10mほどの鉄球に押しつぶされるようなイメージに近い。直撃すれば間違い無く、壁と衝撃波に挟まれ、圧死するレベルだ。


 だが、そうそう簡単に死んでやれるほど、俺の命は安くない。


「お陰様で高騰しちまったんだよ!!! お前みたいな馬鹿が多くてな!!! おちおち死んでもいられねーんだよ!!! 殺せるもんなら殺して見やがれ!!! この馬鹿女ぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 あちらが魔力で圧殺しようとするならば、こちらはもっと物理的な力で押し返してやれば良い。


 風と炎が作りだす急激な空気の膨張。そう、爆炎によって!!!

 

「消し飛べクソビッチ!!!!!!」


 眼前に収束する炎と風の魔力。そしてその力が臨界に達した途端、それは爆ぜた。膨れ上がる炎の球体。それはまさに小さな太陽だ。


 狭い室内で繰り出される高出力の魔力のぶつかり合いの前に、先に音をあげたのは遺跡の天井だ。


 鼓膜が破れるんじゃないかってほどの爆音と共に、上層ごと天井は吹き飛び、炎と闇の魔力が混ざり合った火柱が天高く聳え立った。


 辺りを覆う粉塵や煙を、シルフィードの風と、カトレアの魔力の奔流が吹き飛ばし、互いの視線が交差する。


「……どんな冗談よ。私の魔力を弾き返すほどの高出力魔法なんて、アナタに使える筈がない! 術式の組み立てはもちろん、そもそも魔力の出力が釣り合ってない!!! 何をしたのよ!!!」

「──クックック。恐れ入ったか馬鹿女。ちょっと考えれば分る事だと思うぜ? まぁ、これはお前の領分っていうより、ばーさんやマスター。オリビアの得意分野だからな。お前が一瞬混乱するのも無理はないよ。相当頭に血が上ってるみたいだしな」


 俺の言葉に、怒りに顔を歪めていたカトレアの表情が、ほんの少しだけ弛緩する。そして冷静に思考を巡らせたカトレアは、その真実へとあっけなく辿りつく。


「──なるほど。精霊魔法ね。そりゃあそうよね。アナタのそれは、伝説の武具。SSSランクの精霊剣。そこらの魔法剣とはレベルが違う。正真正銘本物の精霊を宿した名刀中の名刀。


 その精霊と共鳴すること。つまり契約以上の信頼関係を築く事で、精霊の力を存分に引き出す事が出来るってわけね。ついでに言うと左右の剣の相性も抜群。炎を風で撒き上げて威力を倍増させる。


──ふぅん? 随分と自分のスタイルから逸脱してるじゃない。静かに無駄なく息の根を止めるのが、アナタの美徳じゃなかったの? 随分と派手に暴れるようになったじゃない」

「お前に勝つ為だ。相手は大陸中の男が恐れる相手、死神嬢だぜ? 形振なりふり構ってられねーよ。格上のお前をぶちのめすタメなら、どんな手でも使ってやるよ。てめーにやれる命じゃねえからな!!!」


 俺の言葉を耳にしたカトレアは、再び顔を歪めながら奥歯を嚙み締め、ギリリと鈍い音を立てた。


「何を勘違いして居るのかしら、雑魚の分際で。元々アナタの命は私の物。アナタは私の為に生き、私の為に死ぬ。アナタは私の所有物なのよ? なんで勝手に私の意思に反して生きようとするのかしら? おかしいじゃない。なんでそんな口を利くの? なんでそんな口が利けるの? ありえないでしょう?


 誰かに盗られるくらいなら、私がそいつを壊してあげる。他の女に触られるくらいなら、私がその女の腕を引き千切ってあげる。他の女の物になるのならば、その女諸共地獄を見せるしかないじゃない。


 ねぇ、どんな地獄がいい? どんな地獄なら絶望しながら死んでくれる? 目の前で腸にまみれたグロテスクなゾンビ達にあの女が輪姦まわされながら死んだら絶望してくれる?


 それともアナタを意識だけ残した操り人形にして、その炎の精霊剣であの女を醜く焼き殺させたら絶望してくれる?


 ただじゃ死なせない。アナタを絶望させて、心の底から後悔させてやる。私を呪いながら地獄に堕ちればいい。私はその呪いを一心に浴びて悦楽に浸ってあげる。あなたの内臓一つ一つをこの手で掻き出して、最後に心臓を握り潰してあげる。クスクスクス。あはっ♡ やっぱりイイ♡ アナタとセックスする妄想なんかより、アナタを殺す妄想のほうがよっぽどキクわ♡ 背筋がぞくぞくぅってするの♡ ねぇ、わかる?」


 全身を震わせながら恍惚とした表情をするカトレアに、俺の背筋に悪寒が走る。


「──へっ。糞ビッチが。確かにゾクゾクっとしちまったよ。マジでドン引きどころの話じゃねーよ気色悪ぃ。お前のそう言う所が、昔ッから大っ嫌いなんだよ!!! お前のその歪みまくった性癖は死んでも直りそうにねーな!!! 精神科医だって匙を全力投球するだろうよ!!! お前から漂う腐臭は死体からこびりついた臭いじゃねぇよ! お前の腐りきった脳味噌と魂からしてる腐臭だよ!!! いくら高級な香水使ったって隠しようが無いから諦めるんだな!!!」


 言ってやった! ついに言ってやった!!! ついに言っちまった!!! ついつい言い過ぎちまった!!!!!!!


 カトレアの表情なんてそりゃーもう、メデューサみたいな恐ろしい表情……。


 ……って、あれ?


「──ひっくっ。ぐすっ。そ、そんな酷いこと。ぐすっ。言わなくたって……! ひどい。あんまりだよぉ! 私だって、女の子なのに! 気にしてるのに! 気にしてる事知ってるクセに! ふぇぇぇぇぇぇ……」

「え。え、嘘だろ? おいカトレア? ちょ、マジ泣き!? あ、わかった! 嘘泣きだな!? あっぶねー騙されるとこだったわ!」


 俺の背中からどっと変な汗が流れ始める。ふと助けを求めるかのようにエリシアに視線を向けて見ると……。


「……………………」


 エリシアまでもが非難の眼差しを俺に向けて居る!? いや、なんで!? カトレアだよ!? あのカトレアだよ!?


「……もうやだぁ! 死んじゃえ! もう死んでよぉ! 今すぐ死んでよぉ!!!」


 デスサイズを振り上げ、無造作に飛び掛ってくるカトレア。だがその斬撃は駄々を捏ねる小娘のような可愛げはこれっぽっちも感じない。空間ごと切り裂いてるんじゃないかと錯覚するほどの一閃が、音速を越えて繰り出されるのだ。それも何度も何度も。


 俺は必死に切り結ぶが、一度刃を交える度に、その威力に押され、少しずつ壁へ向かって後退させられる。


「なんで!? あたしの方が愛してるのに! あたしの方が先に出会ったのに! どうして隊長は私からアナタを引き離したの!? どうしてあんな女なの!? どうしてアンタなのよ!!! 誰からも必要とされてるじゃない……! 誰からも愛されて、誰もがアンタの愛を欲してる! なんでよりによってこの人なのよ! どうしてあたしの物を盗るのよ! 他にいくらでも居るじゃない! あたしの物なの! この人はあたしの物!!! アナタは、あたしの物なのよ!!!!!」


 壁に追い詰められ、振り下ろされる一撃。


「神速!!!」


 俺は紙一重でその刃を横に避け、振り下ろされたデスサイズは床に深々と突き刺さり、俺は両手の剣でその柄を挟み込み、そのまま床へ突き刺し、デスサイズを封じた。


「聞け!!! カトレア!!! 俺はお前を愛してないって何度も言って来た!!! お前の気持ちは嬉しいけれど、愛してやれないって優しく言った事もあった!!! お前なんか大っ嫌いだと厳しい言葉をぶつけた事も何度もあった!!! 俺はお前の物じゃないし、お前は俺の物でもない!!! そもそもそこがずれてんだよ!!! 相手を『者』としてでは無く、『物』として扱ってる以上、俺はそんな奴を愛したりしない!!! 愛されたくもない!!! そんな物が愛だと思わない!!!」

「うるさいうるさいうるさい!!!!!! 耳元で叫ばないでよDV男!!!!!!」

「お前にだけは言われたくねぇ!!!!!!!」

「「フンッ!!!!!!」」


 額に強烈な衝撃と、鈍いゴツッと響く衝撃音。互いに両手を塞がれたカトレアが繰り出す頭突きに、俺も反射的に頭突きで応戦する。


 ──このクソアマ。なんつー石アタマしてやがる。頭蓋骨ヒビ入ったかも。脳がガクブルで吐きそうなんですけど。


「痛ったぁぁぁぁぁぁ! 女の子の額になんてことするのよぉ!!! ほんと最低ッ!!!」

「自分もやっておいて……! あからさまに俺のほうがダメージ受けてるんですが!? てめぇの頭蓋骨は鋼鉄製かよ!?」


 やべぇ、足元がふらつく。膝ついちまいそうだ……。


 刹那、眼前に迫る刃。いつの間にかカトレアは魔力で作り出したであろう刀を閃かせ、俺の首を跳ね飛ばそうとする。俺は慌てて神速を再発動。その刃を躱し、バックステップでカトレアと距離を取る。


 即座に互いに神速を発動し、距離をゼロに詰める。


 交わる刃。飛び散る火花。命を削りあうような攻防を繰り返す俺とカトレア。繰り出される斬撃を紙一重で躱し、繰り出す右のシルフィードの斬撃。その刃を柄で受け止め、さらに振り下ろされる刃をイフリートで受け流し、体をひねり繰り出す斬撃を、カトレアは足元から刃を生やし、俺の剣を弾き、さらに俺のはらわたを抉るように飛び出す刃を、俺はぎりぎりで躱す。


 そしてバックステップで距離を取るが、俺を追尾するように伸びる刃。その尽くをイフリートとシルフィードに魔力を滾らせ、斬撃を飛ばして叩き落す。だがその粉塵の中か飛び出すカトレア。俺の喉笛を搔っ切るように繰り出される斬撃に、俺はバク転で回避し、その後足元から続々と伸びる刃を、バク転を繰り返し続ける事で避け続け、さらに跳躍し、懐から投げナイフを8本。両手に構え全力で投げつける。


 だがカトレアはその全てを難なく弾き、カトレアは腰の辺りにデスサイズを構えつつ、俺を睨み付けた。



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