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Aerial Wing -ある暗殺者の物語-  作者: ちゃーりー
バレンタイン家の聖域
103/119

―バレンタイン大霊廟Ⅱ―


「で? 本当にこの遺跡の中にカトレアが居るとして、あいつはどこに居ると思う?」


 薄暗い遺跡内部を見渡してみると、まさにダンジョンや迷宮と言った所だろうか。いくつもの部屋と、枝分れしている通路が確認できる。そして最奥には地下へと続く階段も視認した。どうやら内部は、相当入り組んだ構造となっている様だ。


「それは私にも分からないよ。むしろ、レイのほうがカトレアさんを知っているでしょう? 彼女ならどうするかは、私以上に推測できるんじゃないかしら」


 なるほど。確かにその通りだ。さて、俺がカトレアならどうするか。


 まずカトレアは、自分だけが結界内に進入できてしまった事に戸惑いを覚えたに違いない。とにかく追っ手を振り切る為に奥へと逃げ込み、安全な場所に姿を隠し、傷の治療を行うはず。カトレアは手負いだ。しっかし、流石つーかなんつーか。手負いだってのに血の一滴も床に残さず逃げた上に、塵や埃などで足跡が残りやすい状況の中、足跡を残さずに逃げたようだ。まぁアサシンの基本技能ではあるのだが、切羽詰った状況でも追跡を困難にする技巧を確実にこなせるアサシンはそうはいない。


「……ダメね。生体レーダーには小動物程度の反応しか確認出来ない」


 エリシアが持ってきたマジックアイテムである生体レーダー魔水晶さえ、カトレアの痕跡を捕らえられていない。


「ま。カトレアだしな。……となると。あ、そうだ。シェリル、お前の力を貸してくれないか?」


 俺の呼びかけに、シェリルはポフンっと煙と小さな音を立てて、俺の頭の上へと姿を現した。


「えと、シェリルは、『カトレアっていう人の匂いは知らないし、確かに誰かの匂いは残って居るけれど、何か薬品のような臭いの方が強くて追いきれないかも』って言ってるよ?」

「ああ、問題ない。その臭いを追ってくれ。それがカトレアだ。あいつは普段からゾンビ兵の防腐処理の為に何十種類もの薬品を扱うから、体に染み付いちまっててな。本人も気にしてるから、香水やら魔法やらで誤魔化すんだけど、騙せるのは人間くらいだ。犬やら狼の鼻は誤魔化せない。だから追跡に犬を使われると、あいつはアンモニアをばら撒いて逃げるか、犬を殺してから逃げる。俺は犬を殺させたくないから、俺の指笛で犬達にカトレアを追わせないように指示したこともあったな」

「人間も犬も殺しちゃダメでしょ。でも、レイは指笛1つで犬も操れちゃうのね」

「まーな。ほかにも、狐と狸もちょっとだけ操れたりするらしい……」

「ふむふむ。シェリルが『狐も狸も犬も、狼の親戚だから狼の加護を持つあなたの指笛に反応してしまうのは当然よ』だってさ。本当に便利な力だね」

「お前ほどじゃねーよ」


 シェリルは床に降り立ち、くんくんと鼻を鳴らしながら、床を念入りに嗅ぎまわり、遺跡の奥へと進んで行く。


シェリルに導かれるままに階段を降り、薄暗い廊下を進むと、大きな扉が俺達の前に現れた。カトレアの事だ。致死性のトラップなんか仕掛けてるかもしれないと、警戒しながら調べて見たが、杞憂に終わる。


 俺達は扉を開けて室内へ侵入すると、大きな石碑が目に止まった。そしてその石碑の裏には、幾つもの通路が再び枝分かれしている。


「くぅん……」


 シェリルが顔をしかめ、くしゅんと小さなくしゃみをした。


「……ここから先は、さらに他の薬品を使ったみたい。臭いがきつくて探せないって」

「そうか。ありがとな、シェリル。とりあえずこの先からは、しらみ潰しで当たっていくしかなさそうだな。一応辺りを調べてみよう」

「ええ、そうね」


 と、するならば。やはりまず第一に調べなくてはならないのは、この目の前にある巨大な石碑だろう。


「……これは、『墓誌』ね。ここに眠るバレンタイン王族の名前が刻まれてあるわ。……本来なら、私の両親も、ここに名前が刻まれる筈だったのね……」

「エリシア……」

「でもいいの! お母様はこんな薄暗い場所より、日の当たる大聖堂のお墓のほうが気に入ると思うし、お父様はお母様の傍じゃないと、イライラして眠れないだろうからね」


 そう寂しそうに微笑みながら、エリシアの指が墓誌に触れた時だった。


 墓誌に刻まれたいくつかの名前が光を放ち、まるで導くかのように、枝分れした通路に一筋の光を射した。どうやら、触れた者の血筋を表し、家族の眠る場所へと誘う装置のようだ。


そしてその名を目にして、エリシアの表情はさらに曇る。


「……『ラオル=バレンタイン』『エリザベス=バレンタイン』『ラルフ=バレンタイン』。ラオルはお祖父様。エリザベスはお祖母様……。幼くして亡くなったラジフ叔父様の名前が光らないと言う事は……。そう、やっぱり私は……。私の父は、ラルフ王だったのね」


 エリシアは、暫く俯いていたが、顔をあげ、暫く石碑を見つめながら、ポツリと語り始めた。


「……レイ、少しだけ聞いてくれる? 私にはね、生まれて来れなかった弟が居たの。きっと、お父様にとっては待望の跡継ぎになる子だった。──けれど、その子はお母様のお腹の中で死んでしまった。そしてお母様にも、命の危険が迫ったの。幸い、一命を取り止める事はできたのだけれど、お母様は、二度と子供を授かる事ができない体になってしまった。


いつも笑顔だったお母様が、初めて私とお父様に涙を見せたわ。ごめんなさい。ごめんなさい。って何度もお父様に謝ってた。


──けれどね、お父様は、怒鳴りもせず、本当に悲しそうに、黙ってお母様を抱き締めるだけだった。私には一言だけ、『アリシアの傍に居てやれ』とだけ告げたわ。


 あの頃の私は、お父様の事を何て冷たい人なんだろうって思ってた。でもね、今なら分るんだよね。お父様、口下手だし、何て言ってあげればいいか判らなかったんだと思う。自分もすごくすごく悲しかっただろうしね。大人になって、あなたを好きになって判ったの。お父様は、お母様を愛していたからこそ、離婚して他の女性と子供を設ける事もしなかったし、私に嫉妬して辛く当たったりしてたのよ。あなたと同じで、本当に不器用な人だったもん。


今でも、お父様の事はハッキリ言って嫌い。けれど、私のお母様を、誰よりも愛してくれた事。私をアルデバランに渡すまいと戦って下さった事に、心から感謝しているわ。だから、私の父親は、やっぱりラジール=バレンタインだと思うの。ねぇレイ? あなたは嫌? 世界三大暴君。ルキフィス、アルデバランに並ぶ、ラジール=バレンタインの娘はお気に召さないかしら」


 そんな下らない質問を投げかけられ、俺は思わず鼻で笑ってしまう。だからこそ言ってやろうじゃないか。ここぞとばかりにシレっとな。


「はぁ? 俺の親友はその暴君の一人の息子にして親殺しだぞ? それに、お前はお前だろ? 俺は皇女を好きになったんじゃない。エリシア=バレンタインを愛してるんだ。なんの問題もな──」


 その刹那。通路から貫くような殺気を感じ、全身の毛がゾワリと弥立つ。反射的に俺はエリシアを抱き寄せ、大きく後方へと跳躍していた。


 そしてそのコンマ一秒も待たずして、俺達の居た場所に、背筋が凍りつくような一撃が振り下ろされていた。その一撃は石畳の床に真っ直ぐ、そして深く、刻み込まれ、5メートルはある天井にすら届くほどだ。


 ああ、あったよ問題。とんでもない障害が、俺達の目の前に存在していたんだった。


「な、何? 何が起こったの!?」


 狼狽するエリシアに対し、俺は重くため息を吐き出した。


「見りゃ判るだろ。殺されかけたんだよ、二人ともな」


 薄暗い地下空間の中でも、奴の三日月のような獲物はギラリと輝いた。その鋭さは、彼女の怒りを代弁している。だが、当然。彼女の怒りは代弁できるほど生易しいものではない。


砂埃をその狂気的な魔力で吹き飛ばし、呪詛を振りまきながら歩く亡者のような、ゆっくりと左右に揺れて歩く不気味な動きをしながら、彼女はこちらへと迫ってくる。


「……ふふふ、ふふふふふふふふ。何て最悪な一日なのかしら。クソめんどくさいプリーストとエクソシストの追っ手には手駒を殆ど壊滅させられた上に、怪我まで負わされた上に、こんな肥溜みたいな場所に追い込まれちゃってさー? 知りたくもない自分の父親が誰かなんて事を、母親の口から聞かされるならまだしも、偶然知っちゃうとかありえなくない?


 しかもしかも? 私には『腹違いの姉が居た』だなんてね。で、その姉が人の彼氏を盗るとんでもない性悪の泥棒猫で、ついに彼氏までそいつを愛してるだなんて口走る。


 あーあ、気分最悪。吐きそう。もう嫌。っていうか、もういいや。殺そう。殺さないと気が済まないや。そう思わない? 思うよね? だから死んでよ。泣きながら許しを乞い、腸を撒き散らしながら死んでよ。いいえ、殺してあげる。これ以上ないってくらい苦しめて殺してやる! 殺す殺す殺す殺す殺す!!! あんたなんか要らない!!! 許さない!!! もうレイレイだなんて呼ばない!!! 呼んであげない!!! 死になさい!!! レイ=ブレイズ!!!」


 開放される魔力はまさに怨念その物。全てを呪い、目に入る全ての命を否定するような、不吉なオーラ。まさに、死神の化身。


──おかしいな。手負いって聞いたから助けに来た筈なのに、すっげーピンピンしてんじゃん。これのどこが要救助者なんだよ。やっぱ来なきゃ良かった。


「ったく、半分願ったり叶ったりだ。思ってた以上に全然元気そうでがっかりだよ、カトレア!」


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