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Aerial Wing -ある暗殺者の物語-  作者: ちゃーりー
滅び行く国と皇女エリシア
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ー鬼夜叉丸Ⅰー

針金のような銀色の髪の毛を頭の後ろで束ね、黄緑色の東洋の民族衣裳、『着物』をだらしなく崩して羽織り、腰には一振りの刀。赤い肌に、額には二本の角を生やし、全身を返り血で染めた、東洋の魔族『鬼』。


「──最悪のタイミングね。グレンちゃん、今すぐレイちゃんの援護へ!」


「了解! おい、まだ死ぬなよ!?」


 俺は二人を背中で庇い、両手に剣を握り、腰を低く落して構えを取る。


「──あれ? あれれれれれ? ちょっと強そうな奴の気配追っかけてきたら。これはこれは、探したじゃないッスか、俺のお嫁ちゃん♡ 生エリシアちゃんたまんねー♡ そそるわぁ。……あれ、母親もいっしょッスか? おっと、母親なんてだめだよな? 俺の義母ってことになるんだから、ママさんッスね! っちわーママさん! あんたの娘の旦那になる、鬼夜叉丸どぇーす☆」


「──なんて下劣な! お前のような不埒な輩に、私の大切な愛娘を渡せるものですか!」


「あっちゃー! きーびしぃー☆ でも、関係ないよねぇ? だって、エリシア皇女以外、死んでもらうつもりッスから。まぁでもぉ? エリシアちゃんが自分から俺の腕の中に飛び込んでくれれば、ママさんの命と、その真っ黒いお兄さんの命くらいは、見逃してあげてもいいけど、どうッスか? 悪いようにはしないッスよ? 俺ベッドの上でも女には優しくする派ッス♡ あんな薄ら禿げのアルデバランのガキ孕まされるよりはだいぶマシだと思わないッスか? それとも、そういうオッサンが好みッスか? それだったらドン引きなんスけどぉ! やめてくださいよ、幻滅するじゃないッスかぁ! あははははは!」


 ──参ったな。こういうチャラ臭い野郎は雑魚って相場が決まってるんだがな。こいつ、へらついてるくせに、何一つ隙がない! 刀の鍔には指が掛ったままだし、油断してると無闇に踏み込めば、あの血の臭いがこびりついた刀で一閃の元に切り伏せられる。俺の方なんて興味ないふりしておいて、チラリと俺を見るその目は、俺を品定めするような鋭い眼光で、例えるなら、エモノを前にした猛獣のそれだ。そうな言動の裏で、とんでもなく感覚の鋭い奴だ。裏の扉の奥にいるグレンの気配にも気付いてるし、グレンもそれに感づいたみたいだ。下手に飛び出せないでいる。


「──あと、数分で皆が到着するわ。持ちこたえてね、ふたりとも!」


 数分持ち堪えろ? その数分をどれだけ長く感じるだろうな。目の前の相手は、唯でさえ格上。そして武器も、こんな物じゃどれだけ持つか。せめて、せめてもっとマシな剣があれば……!


 不意に、俺の肩に誰かが触れた。振り返ると、不安と恐怖で顔面蒼白になってしまったエリシア皇女が、縋る様に俺の肩に震えながら触れていた。


 その姿を見て、俺は深く深く、深呼吸をする。そして心に津波のように押し寄せる恐怖を振り払い、眼前の敵をしっかりと見据えて、腹を括る。


「──大丈夫、心配ないさ。君をあんなチャラい奴に指一本触れさせない。君を絶対にこの地獄から救い出してやる。だから、安心して皇后さまと一緒にあの茂みに隠れていてくれ。すぐに仲間が回収に来てくれる。そしたらこの国から一緒におさらばしようぜ。大丈夫、あと少しだ。もう少し頑張れるだろ? 踏ん張り所だぜ、お姫さま。俺も、全力で君を守る。守って見せるさ」


「──はい!」


 エリシア皇女は少しだけ明るくなった表情を見せ、皇后さまを抱えて俺から離れる。


「あ、あの! ブレイズ様! どうか気をつけて! 絶対に死なないでください!」


 紺碧の美しい瞳が、俺を心配そうに見つめていた。コレが、世の中の男達を魅了して来た力なのだとしたら、今はそれを存分に利用させてもらおう。


「心配ご無用。こう見えて、俺わりと強いんで」


 あーあ。言っちまったよ。これであっさり死ねなくなったぞ、レイ=ブレイズ。


「──ふふ、皇女さまの前だからかっこつけちゃった? らしくないじゃない? レイちゃん」


「ああでも言わなきゃ、離れてくれそうに無かったし、俺だって己を鼓舞したくもなりますよ。これでみっともなくやられたら、ダサ過ぎでしょう?」


「そうね、ちょっと失礼な態度だったけど、大目に見てあげる。だから、絶対に死んじゃだめよ、レイちゃん ! 男の子でしょう!? かっこつけてきなさい!」


「イエス、マイ・ロード!」


 さて、敵は格上。相手のエモノは間違い無く超大業物。まともに刃を受けようものなら、即死間違い無し。剣で下手に防御した所で、刀ごとぶった切られてしまう可能性だってある。


 だからって勝機がないわけじゃない。こっちには、戦車の大砲レベルの破壊力を持つグレンがいる。そんな攻撃をまともに受けて、無事で居られる生物があってたまるか。ガードの上からだって重症を負わせる事だって可能だ。ようは、如何にして当てるか、だ。


「──へぇ? 実力の差を理解した上で、覚悟決めたって奴の目ぇしてるッスね。悪くないッス。じゃ、ちょっと殺陣たてちゃいます? いつでもどうぞ? それとも、動けないッスかね?」


「──んじゃ、遠慮なく。しょっぱなから、全力で行かせてもらうぜ!?」


 俺は神速を発動し、大地を蹴った。常人では捕らえる事すら出来ないそのスピードで距離を零に詰め、一瞬反応の遅れた鬼夜叉丸の眉間めがけ、右手の剣を振り下ろす。だが、流石の殺陣鬼と言った所だろうか。見事に俺の攻撃に合わせて抜刀し、それを受け止めて見せると、俺の左の剣が繰り出す斬撃を、最小限の動きで避けて見せ、刀を俺の刃を滑るように振るい、俺の胴を真っ二つにしようと横薙ぎの一閃を繰り出した。


 俺は剣に魔力を流してコーティングした上で、その刃を受け止め、両断される事は防いだつもりだった。だが、両足はそのあまりの衝撃に地を離れ、体が嵐に吹き飛ばされる木の葉の如く宙を舞い、体は地面に叩き付けられながら大きく吹き飛んだ。


「くっ!」


 俺は受身を取りながら、すぐに体勢を立て直し、両手の剣を奴に向かって投げつけた。そして懐からナイフを数本同じように連続で投げつける。


「──!」


 鬼夜叉丸は、俺の行動に一瞬戸惑いを覚えたはずだ。もう勝負を諦めてやけくそになったのかと。もちろんそんなはずはないと、一瞬思考する。その一瞬で十分だ。


 俺は神速のトップスピードで投げたナイフに追いつき、更にそこからナイフに拳を叩き込み衝撃を加え加速させる。そして最初に投げた剣に追いつき、両手に再び握って超高速で無数の斬撃を鬼夜叉丸に浴びせ、そして同時に鬼夜叉丸へ届くナイフにも剣で衝撃を与え、結果、数え切れないほどの無数の斬撃が、一斉に鬼夜叉丸へと集中する。


当然、いかに鬼夜叉丸といえど、全てを防ぎきることは不可能なはずだ。


 案の定、2本のナイフが鬼夜叉丸の両腕に突き刺さり、俺の刃は鬼夜叉丸の肌を裂いた。その結果に、俺は心底落胆する。これだけやってこの程度の傷しか与えられないのかと。


「やるぅ♪」


 反撃とばかりに繰り出される鬼夜叉丸の斬撃。一振り一振り全てが必殺であり、刃を交えて防ぐ事もままならぬ死神の一撃。俺はそれをギリギリでかわし、往なし、弾き、命からがら後方へ飛び退き、再び距離を詰める。


 左右の剣で交互に激しく斬りつけるが、その全てが鬼夜叉丸の命を奪うに値せず、逆に、鬼夜叉丸の繰り出す攻撃に押され、攻めて居たはずの俺が、徐々に防御に回されてしまう。


 そして頭上に振り下された刀を両の刃を交差して鋏のように受け止めたところで、神速は活動限界を迎えて解除されてしまう。だが、鬼夜叉丸の刀はぐぐぐと俺を押し潰すように重く圧し掛かり、バキリ、バキリと双剣の刃にひびが入って行く。


「くっ! うぉぉぉぉぉぉ!」


 全身の力を振り絞り、鬼夜叉丸の刃を押し戻す。だが、即座に腹に蹴りを入れられ、俺は後ろに大きく吹っ飛び、受身を取って立ちあがるが、その重い衝撃から、肺の中の空気が全て吐き出されてしまう。


「げほっ! はぁはぁはぁはぁ!」


 瞬き、いや、呼吸すら許されなかった。たった5秒足らずの攻防で、今俺は何回死にかけた? 思い出したくもなくなるトラウマ級の攻撃が、『本気の攻撃じゃない』だなんて!


「はぁはぁ、バケモノかよ!」


 最初からわかってはいたが、その絶望的な実力差に、俺は奥歯を嚙み締めた。こんな事なら、冒険者が味気無いだなんて腐ってないで、修行でもするべきだった、と。


「くっくっくっくっくっ! あっはっはっはっ! 痛って! マジ痛って! すっげマジか! 久しぶりに喰らったッスわ! ここ数年、俺に攻撃を入れた奴なんて居なかったッスよ! いいッスわぁ。これなら、ちょっとくらい本気だしても、すぐにぶっ壊れたりしないッスね!」


 にやりと不気味な笑みを浮かべる鬼夜叉丸。だがそれでいい。好都合だ。


「はぁはぁ。──グレン。わかってるよな?」


「……おうよ、おめぇの性格の悪さならよーくわかってらぃ。だが、あんま無茶すんじゃねぇぞ。そんな奴にやられておっんだりしねぇだろうな? 勝ち逃げがお前の信条だろ!」


「──ヘッ。わかってんじゃねぇか」


 刺さったナイフを投げ捨てると、鬼夜叉丸は不気味な笑みのまま腰を深く落し、刀を納めて構えを取る。


 居合い。納刀された刀に力を込め、抜刀と同時に解き放つ、神速の一撃必殺。達人が放つその一撃は、空間ごと断ち斬るが如し一閃。そしてあの奴の獲物が繰り出す一撃ともなればその一撃は──!


「!?」


 俺の背筋にゾワリと嫌な悪寒が走ったその刹那。俺は本能的に体を投げ出し、それを回避していた。


 十分な距離があった。おおよそ、刀の間合いの内側とは考えられない距離があったはずだ。しかも奴は一歩たりとも動いていない。なのにソレは俺を掠めただけで無く、さらに遠くの宮殿の壁に、大きく傷を刻んでいた。西の大広間を、一瞬にして地獄へと変えて見せたのは、今の一撃だったに違いない。交戦した様子が見られないはずだ。飛ぶ斬撃だなんて生ぬるい。空間の両断。


「あれ、避けた?」


「そりゃ避けるだろうよ。あんなふざけた一撃。初見だったら死んでただろうけどな」


 その一撃はまさに、アサシン隊隊長、ゼクス=アルビオンの繰り出す一撃に匹敵するということだ。


「ま、いいッスけど! こんなの、俺からしてみれば、ほんのちょっとだけ、先っぽ見たいなもんッス! なんでぇ、ちょーっとだけ、更に本気出しちゃうッスね」


 突如、鬼夜叉丸の体から魔力のような力が間欠泉のように溢れ出す。それは、魔力と言うには禍々しすぎた。闇の魔力と、グレンの扱う闘気のようなものが混ざり合った、非常に不吉なエネルギーの奔流。コレが、鬼特有の力、妖気と言う物なのだろうか。


 あっけに取られる間もなく、唐突に距離を詰めた鬼夜叉丸。俺の神速に匹敵するそのスピードに乗せて、脳天めがけて振り下ろされる一撃を、俺は間一髪かわし、堪らず後方に飛びのくが、更に繰り出される一撃は確実に俺の胴を両断するように迫ったため、神速を発動して体を捻り、ぐるりと奴の背後へと回り込む。そしてその首を断ち斬ろうと、遠心力に刃を乗せて横薙ぎの一閃を、その首めがけて繰り出した。だが──!


「がはっ!?」


 腹部に突き刺さる鈍い痛み。そして更にそこへ、体が宙を舞うほどの衝撃。


「うわっ!?」


 後方へみっともないくらいバウンドしながら吹き飛ばされ、体勢も立て直せないまま、地面に叩き付けられた俺は、痛みで身動きが取れなくなった。


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