第三章:赤の友人
簡素な、よくある感じの病室。灰の疾患の研究も兼ねているため、個室を用意してくれたはいいが、やることがない。TVを見る気にもなれず空を見つめる。昔もよく、こうやって空を眺めていた気がする。
ツキン
小さな頭痛が起こる。小学生のとき、菜乃花との記憶を探ろうとする。しかし、思い出せない。菜乃花の反応からするに、人違いでもなさそうだし。
ズキッ
頭痛がだんだん痛みを増していく。昔のことを思い出そうとするといつもそうだ。なぜか頭が痛くなる。何かを拒むかのように。
ガラガラッっと戸が開けられる。見覚えのある人物が室内に入ってきた。
「よっす、灰。生きてるか?」
「あぁ、全くもって人体に影響はない」
彼は灰の中学からの友人、河内 湊だ。
「あーっ!ったく疲れたよ、なんでエレベーター止まってるかね?」
そういえばなんか故障中だとか立て札があったな。
「お前、歩いてきたのか?」
ここは4階だから、そこそこ辛かろう。
「そうだよ………あっそうだ。今日はお前にお見舞い持ってきてやったんだぜ?ほら」
といってエナメルバッグから何か袋を取り出した。袋にはでかでかと『からふるキャンディ』と描かれている。
「お前これさぁ………」
「アッソウカー、カイハイロガワカラナインダッタナー」
地味にムカつく顔で湊が言う。
「わざとやってるだろお前」
「あたぼうよ」
とお見舞いを持ってきた奴が袋を開けながら言った。それに関してはもう何も言わん。湊は袋から黒っぽいそれを取り出し、口の中へ放り込んだ。
「なぁ、湊。いま口に入れた飴って、普通の人たちは何色って呼ぶんだ?」
「今のか?これは………青色かな。言い様によっては水色だが」
はっきりしないのか。湊のアバウトさには呆れる。そこが長所でもあるのだが。
「じゃあさ、その"青色"ってどんな色なんだ?」
「珍しいな、お前がそんな事聞くなんて。あーでもなぁ、改めて考えてみるとわかんねぇもんだな」
「はぁ?なんでだよ?」
「だって青は青だろ?そうとしか言い様がねぇよ」
なぜか誇らしげに言い放つ湊。それ以上ツッコむ気にも言及する気にもならなかった。
「………そうかい」
「それにしても今までそんな事聞いてこなかったくせに、どういう風の吹き回しだ?」
「それがな━━」
俺は手術をすること、リスク等々を端的に話した。
「ふぅん、まぁお前の後悔しない選択をすればいいんじゃね?あんまりくよくよしてても見えるもんは見えるし、見えないもんは見えないぜ?ほれ、俺の好きな色だ、これ食って元気出せよ」
そういって差し出された飴玉を受け取り口に放り込んだ。
「目で見えなければ、心で見ればいい。お前に足りないのは心の温もりかもな」
と笑って湊は言った。確かにそうかもしれない、と心の中で思う。
「じゃあ俺はこの辺で。部活行ってくるわ」
「おう、頑張ってな」
ガラララ、退出する湊を横目に手元の飴玉の包装紙に目を向ける。そこには皮肉にも『心温まる赤いリンゴ味』と書いてあった。
湊が部活に急ぐ途中、看護士に支えられ廊下を歩く少女を目にした。大変な人もいるんだな、と心の中で同情しつつ、再び自分の目的へと足を進める。この少女が灰の元へと向かっていることなど湊が知るよしもない。
綺麗な青空だな…
「!! 親方、空から展開が!」
文字列「(わさわさわさわさわさわさわさわさわさ)」
なろう「王蟲()じゃ………王蟲()が怒っておる」
数少ない読者さん「ユ○さま!」
サーバー「お客様とて許せぬ!」
らん、らんらら、らんらんらん