第一章:灰色の世界
「淡墨さーん、淡墨 灰さーん。診察室にお越し下さーい」
声で呼ばれ、目を覚ます。周りを見渡し、状況確認。寝ぼけ眼を擦り、ここが見慣れた待合室であることを理解した。体を動かし始めた頃には、看護士がこちらを見て微笑んでいた。
「あぁ、すいません。今いきます」
そう言って診察室へ向かう。中では医師がカルテを携えて座っていた。
「おはよう、灰くん。早速始めようか」
茶化すように挨拶し、診察が始まった。今日はいつもの定期検診ではなく、今日から二週間ほど検査入院するらしくその説明という事で病院に呼ばれた。
「灰くんもすっかり大きくなったねぇ。十七歳だっけ?ついこの間まで小学生だったのに、よその子とゴーヤは育つのが早いね」
「は、はあ…」
唐突な世間話にも慣れたが、相変わらず返答の仕方がわからない。いつものパターンでいけばこの後急に本題に入る。
「まぁそんなことはどうでもいいか。ええと、今日この病院に読んだ理由は知ってるよね?」
「検査入院…ですよね?」
「そうそのとうり。なんだけど、一つ隠していたことがある。」
意味深な言い方が気になる。
「単刀直入に言うが………手術を受けてみないか?」
「しゅ………じゅつ?」
予期していないかった単語に、さすがに困惑を隠せなかった。
「そう、手術だ。君の目、まだ色が見えていないだろう?君の体の成長も円熟期に入ったことだし、どうかな、と思って」
手術など、というか、治ることなど無いと思っていた。治すつもりもなかったが。
「いくつか注意点がある。まず、この手術というのは、簡単に言えば"神経の接合手術"だ。だから、という訳ではないが、手術が成功していても、神経がうまく馴染むまで数週間………あるいは数ヶ月の間目が見えなくなる。」
"成功していれば"という言葉に違和感を覚える。
「………失敗することもあるってことですか?」
「残念ながら………そのとおりだ。この手術の成功率は、高いとは言えない。失敗すれば、きっと失明ということになるだろうね」
失明。灰だけではない、どんな人間でもそれを想像すればきっと恐怖心を抱くだろう。灰は無意識に膝の上の手を強く握っていた。医師にも灰の恐怖が伝わったようであった。
「………きっと怖いだろう。でも、灰くんには新しい世界を知ってもらいたいんだ。どう………かな?」
「俺は………」
好奇心はあるが、すぐに恐怖心に押し潰される。リスクが大きすぎるのだ、仕方がない。医師は答えがすぐに出せないのを知っていたかのように、急かすことなく冷静に対応してくれた。
「まあ、すぐに応えなくてもいい。せっかくの検査入院なんだ、ゆっくりと考えてくれればいいよ。もし手術を受けたいと思ったら、私の所へ来てくれ。それじゃあまたあとで」
「わかりました、ありがとうございました」
簡素に応えて退出する。
「検査の時間になりましたら、またお呼びしますので、待合室でお待ちください」
「はい」
次の患者と思われる人の前を通りすぎ、さっき寝ていた椅子に再び腰を下ろす。
「次の方………朝比奈さん、朝比奈 菜乃花さーん。診察室へお越し下さーい」
「わかりました~」
名前を呼ばれた少女の母親と思われる女性が応えて立ち上がるも、その少女━━菜乃花は通りすぎていった何かが気になるようにずっと後方を向いたままであった。
「菜乃花?どうしたの?」
「え?あ、ううん、なんでもない。先生、よろしくお願いします」
菜乃花は室内の医師に丁寧に挨拶をして座った。
「はい、菜乃花ちゃんいらっしゃい。また一段と大人びたね。早速検査の結果だけど━━」
どうもしりこんです。文化祭の演劇で書いたプロットをBAD ENDにしたらということで考え始めたらインスピレーションがすごいすごい。続きも不定期で上げていく予定です。