8.セールスマン相手にインターフォンに出るのは自殺行為
松田がプリン・プルルン公爵との交渉を成功させた頃、俺は魔王城の前にいた。
この城にいる魔王ザザール・パインは勇者によって倒された魔王ではない。その跡継ぎだ。
魔王に就任して間もないため特に悪事もしておらずまだ討伐対象になっていないのだ。
そびえ立つ巨大な門にはインターフォンが。
なんで魔王城にインターフォンがあるんだ?
とりあえず押してみる。
ピンポーン
「すいませーん。あの、山崎ですけどそちらに魔王さんはいますか?」
しばらく待つ。
≪ガチャッ!すいません、ウチはセールスお断りなんで。ガチャッ≫
俺はもう一度トライ。
ピンポーン
「すいませーん。セールスじゃなくて山崎なんですけど、魔王さん出してくれませんか?」
≪ガチャッ! ほんとマジ迷惑なんで。あれでしょ? セールスじゃないとかいいつついろいろ買わせるんでしょ? 騙されないから。ガチャ≫
何度だってトライ。
ピンポーン
「すいませーん。絶対セールスじゃないんで、魂賭けてもいいんで魔王さんに会わせてください。」
≪ガチャッ!昔「魔王城には絶対必要!」
とかいわれて消火器100個ぐらい買っちゃった事があってね。それ以来セールスマンはちょっとしたトラウマなんだよ。帰れ!ガチャ≫
話すら聞いてくれない。
うーん、困ったな。
三顧の礼という話もあるが短期間に三回訪ねても迷惑なだけかもな。なんて思ってた俺だが一つ大事なことを思い出す。
そういえば異世界モノのタイトルは一目で内容がわかるように、が鉄則だ。
今の時代下手に凝ったタイトルよりも表紙である程度内容がわかる方がいいのだ。
俺は俺はこれをタイトルフィッシングと呼んでいる。
今回も一緒だ。要件だけを伝えよう。
4回目のトライ。
ピンポーン
「一緒に異世界人倒しませんかぁぁぁ?」
ギギギギギギ……
返答はない。しかしゆっくりと巨大な門が開かれる。
タイトルフィッシングは魔王にも通用したようだ。
魔王城に一歩踏み込んだ瞬間周りの景色が変わった。
どうやら城の中にワープさせられたようだ。
なんだか薄暗い。
天井が見えないくらい高い。
目の前には長いテーブル。
そしてテーブルの上座には恐ろしい姿をした魔王が……なんて事はなく可愛い小さな女の子がいた。
「やっと会えたな。お前が魔王か。」
「貴様、魔王であるこの儂に向かってお前とはなんじゃ。頭が固いぞ。」
おお、これ。これだよ。
王ってのはこうじゃないと。
俺は感心する、が、今日は家来になりに来た訳じゃない。対等な立場での交渉をしに来たんだ。
そんなわけで俺は早速言葉の先制ジャブを放つ。
「頭が"固い"じゃなくて"高い"な。お子様は無理に難しい言葉使わない方がいいぞ。」
「べ、別にいい間違えたわけじゃないわい!た、ただ貴様の頭は固そうだなー、と思って。それに私は子供じゃない!もう立派な大人だ!」
分かりやすい動揺は置いといて子供じゃないだと?
まさかこの魔王、ライトノベルでお馴染みの合法ロリなのか?
「儂はもう13歳なのだ。わかったか!」
俺を深い絶望感が襲う。
「チックショォォァォォォォァ! 期待させといて結局違法ロリかこのヤロォォ!」
「貴様頭おかしいのか?もう良い、早く本題に入れ馬鹿者。」
俺の絶叫を見かねた魔王が話を切り出す。俺もその言葉で少し落ち着く。
そうだ、異世界はここだけじゃないんだ。この世界を救った後はあのジーさんに合法ロリの世界に連れて行ってもらおう。
エロとは偉大だ。俺の異世界嫌いの気持ちをちょっとだけ緩和してしまった。
それにしても流石は魔王、ディベート部エースの俺を言葉だけで絶望させるとは。
冷静になった俺は魔王に計画を話す。
「……って計画だ。協力してくれるか?」
「貴様、人間にしてはなかなか面白いことを考えるじゃないか。」
「協力してくれるか?」
「いいだろう。儂の父上を倒した勇者の罪は重い。仕返しする事が出来るなら協力してやろう。」
あっさりオーケーが出る。
「保証しよう。絶対に仕返し出来るとな。」
復讐と言わず仕返しと言うあたりが子供っぽいな。違法かぁ……。
ちょっとだけ残念だったが城に戻れば俺の携帯にダウンロードされた沢山の夢で自分を慰めよう。
こうして魔王ザザール・パインが三人目の仲間になったのだ。
ちなみに魔王城の門にインターフォンがあったのは門番の人件費を節約するためだった。