7.ガッツ < 正当性
山崎と松田がスラム街を訪れた翌日の朝。
山崎との約束どうり最強のソロ冒険者、シュランを仲間にした将軍タイガーは山崎にそのことを報告すべく城を訪れていた。
あらかじめ山崎が門番に話を通しており、門番も前城将軍のことは記憶に新しいためすんなり入城許可も降りた。
「山崎殿、こちらが昨日俺が仲間にすると言っていた人物だ。」
「お前が山崎か。俺はシュランだ。タイガーから話は聞いてる。能力無しで勇者を倒したんだって? 」
「まあな、よろしくなシュラン。仲間になってくれてありがとう。」
「能力無しで勇者に戦いを挑むなんざ自殺行為だ。だが俺はそんな馬鹿も嫌いじゃねぇ。よろしくな。」
なんだろう……。
こいつからは強そうなオーラが漂ってこない。いや顔には傷があったり、大柄で筋肉もあるのだか……。
なんかカッコつけた喋り方は自信が無いことの裏返しに聞こえる。
例えるならかませ犬キャラって感じだ。
「将軍、こいつの実力は確かなんだな?」
「ああ、それは俺が保証しよう。こいつはこの世界で最強のソロ冒険者だ。戦闘においては勇者にすら引けを取らないと思う。」
「そんな凄い奴なのか⁈」
俺はイメージと違い最強クラスの実力を持つシュランに驚く。
「よくそんな奴をこんな短時間で仲間にできたな。」
「大したことじゃない。こいつは俺が頼み事をすると飲み比べで勝ったら協力してやるって言うんだよ。それで勝っただけだ。」
「そうだったのか。シュランもけっこう酒強そうなのにな、将軍けっこう飲める方なのか?」
「まあ弱くはないがな、しかしそれは関係ない。こいつが酒弱すぎるんだよ。」
「そ、そんな事は無い!昨日はたまたま……。そ、そうだお前が酒場に来る前から俺は飲んでたしな。」
「飲んでたって、全部ただのお茶だったじゃねーか。一杯で潰れたお前の分俺が立て替えたんだからな?」
将軍とシュランはギャーギャー騒いでいる。まあ、シュランの言い訳を将軍があしらってるって感じだが。
シュランがカッコつけてたのもこの為だろうな。おそらくお酒に弱い自分に自信が無いんだろう。世界最強のソロ冒険者なんだからそんくらい可愛い欠点だ、って感じもするのだが本人には本人にしか分からない悩みもあるのだ。
しかしたった一杯で潰れるって……、流石に弱すぎだろう。なんで飲み比べなんかしたんだ?
俺がそんなことを考えていると
「そういえば山崎殿、松田殿はどこにいるのだ?姿が見えないが。」
「ああ、松田なら貴族を仲間に引き入れる為の交渉に向かった。隣町に拠点を置いている、この国で二番目の貴族、プリン家代表、プリン・プルルン公爵に会う予定だ。」
「ほう、あの異世界人嫌いで有名なプリン公爵に。しかし松田殿一人で大丈夫ですかな? プリン公爵は計算高い事でも有名、生半可な交渉では協力は望めない。」
「大丈夫だ。将軍、松田はやり遂げるよ。」
あれは、松田が出発する直前のこと。
注意、回想です。
「松田、交渉頑張ってこいよ。吉報を待ってる。」
「そんなこと言わないでくださいよ。吉報なんて言われたら緊張しちゃうじゃないですか。」
俺は先輩としてアドバイスする。
「おい松田、出発前に一つ、今日の交渉で一番大事なことを教えてやる。それはガッ……」
「大丈夫ですよ、先輩。今日一番大事なのは正当性です。相手はかなり計算高いらしいですからね。そんな貴族を動かすには正当な理由が必要です。先輩もそう言おうとしたんでしょう?」
俺はそっと「ガッツ」と言いかけた事を胸のかなり深い所に収める。
「あ、うん、そうね。正当性だよ、正当性。これホント大事だから。じゃ頑張ってね!」
「はい、じゃあ。今日の夜までには戻ってくるので。頑張ってきます!」
回想終了。
そういうわけで松田は俺より交渉が上手いだろうということが判明したのだ。
多分やり遂げてくれるだろう。
「よし、それじゃ俺も動くか。仲間を増やしに行ってくる。
「しかし山崎殿、山崎殿の言う仲間になってくれそうな強力な者とは一体誰だ?」
将軍は首をかしげる。当然の疑問だな。
「まだ俺も会ったことは無いんだけどな、その二人ってのは魔王ザザールと竜王ドラグニール・ノヴァだ。」
「はあ⁈魔王に竜王だと?お主馬鹿なのか⁈」
「しょうがねえだろ?相手は異世界チーターなんだ。目には目を、歯には歯を、チートにはチートを、だ。」
異世界からきたチート能力持ちを追い出そうってんだ。この世界のチート達も仲間にするくらいいいじゃないか。
俺が嫌いなのは異世界チートであって別の世界のチート能力者では無いのだ。
俺は一人、城を出発する。最初に目指すは魔王城だ‼︎
一方その頃、松田はプリン家の屋敷に到着していた。
「松田様ですね?話は伺っております。どうぞ中へ」
執事らしき人に案内され応接間に通される。
出されたお茶と菓子に手を付けていいか悩みながらしばらく待っていると
「やあ、待たせてすまなかったね。私がプリン家代表のプリン・プルルンだ。何か頼みごとがあるとのことらしいね。」
松田はまだお茶も飲んで無いのに吹き出しそうになる。
プリン・プルルン公爵は若く、まるで月9に出てくる俳優のようだった。
なのにプリン・プルルンなどと名乗るものだから笑ってしまいそうになったのだ。
「ど、どうも。初めまして松田です。今回は私たちに協力してもらおうと思い参りました。」
松田は今回の[異世界人追い出すぞ!計画]の説明をする。
プリン公爵もかなり興味をしめす。
しかし、
「ふーん? なかなか面白い事を考えるね。しかし僕を動かすには不確定要素が多すぎないか?」
やはり松田の睨んだとうり簡単には動かない。もし協力して計画が失敗した場合プリン家の地位は悪くなる。それを案じているのだ。
松田はプリン家を動かすために動き出す。
「プリン公爵、あなたは今この国で二番目の貴族ですね?」
プリン公爵は少しムッとした表情で答える。
「まあ、そうだろうな」
実はプリン家は異世界人の勇者が現れる前はこの国で一番の貴族だったのだ。計画高いプリン家の代々の当主はリスクを避けるため一切の賄賂、暗殺、策謀をせず地道に実績を積み重ねてこの国で不動の地位を築きあげていた。
しかしある時、貴族の中では別段大したこともなかったスクラップ家の娘、スクラップ・プレーンが勇者の一人に嫁いだ。それからスクラップ家の地位は勇者が手柄を上げるたび上がっていった。
そしてとうとう勇者が魔王を倒した時、スクラップ家は貴族の頂点に立っていた。
長年コツコツと実績を積み重ねてきたプリン家が面白く思はないのは当然の話だろう。
松田はそれを知った上で交渉を進める。
「もし異世界人を追い出したらプリン家は再び頂点に立つでしょう。プリン公爵にとっても悪い話では無いはずです。」
「しかし……。」
「公爵は僕たちが異世界チートの勇者達と戦うための流れを作ってくれさえすれば良いんです。公爵が戦う必要はありません。」
「しかしだな……、戦う為の流れといってもある程度正当な理由が必要だ。そうでなければ動けない。」
松田は、計画通り、と言った顔をする。
「これを見て下さい。この世界で異世界人が起こした、犯罪それに異世界人への苦情がまとめられてます。これなら異世界人を追い出す理由になります。」
渡された資料を見てプリン公爵は納得する。そこには正当な理由となり得る事が沢山書かれてあったのだ。
松田は交渉を決める為の最後の切り札を切る。
「そう言えば手土産を渡すのを忘れてました。こちらをどうぞ。」
そう言ってプリンの詰め合わせセットを渡す。
そしてプリンの底には松田の先輩である山崎の携帯が……。
「これは! くっくっく、お主も悪よのう、松田。」
「いえいえ、公爵様こそ。ひっひっひ。」
こうして松田は山崎への仕返しと交渉、両方をやってのけたのだった。
誤字がありました。
指摘してくれた方々ありがとうございます。
気をつけても気をつけても無くならないのが誤字脱字。
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