5.牙と爪
「師匠、アニキ、おはようございます。」
俺と松田が城のバルコニーで朝ごはんを食べているところへタケルが挨拶に来る
タケルは松田のことを俺の一番弟子と思っているため松田をアニキと呼ぶ。
「おう、おはよう。朝からどうした?」
「はい、今日の修行の内容を聞きに参りました。今日の修行はなんですか?」
「修行ねぇ、うーん。取り敢えず今日も雑巾がけな。しっかりやっとけよ。」
今日はスラム街に行くつもりだ。
タケルと絡んでる暇はないので適当にあしらう。
「分かりました、頑張ります!あと師匠……一つお願いがありまして。僕以外の三人の異世界の出身者も師匠に弟子入りしたいと言っているのです。よろしいでしょうか?」
なんと、とんでもない話が出てきたもんだ。
俺に他の異世界人も弟子入り?
一瞬面倒くさいと思ったがよく考えてみれば俺はどうせ雑巾がけを指示するだけなのでちょっと人数が増えても問題はない。
迷わず了解する。
「ありがとうございます!お前ら、弟子入りが認められたぞ、挨拶しろ!」
タケルがそういうとさらに三人がバルコニーに入って来た。
三人は右から順番に自己紹介を始める。
「うっす、俺はナオト・スズキっす。能力は空間転移と超速再生です。よろしくお願いします。」
初めに名乗ったナオトは俺と真逆、ゴリゴリの体育会系って感じだ。しっかり直角のお辞儀をする。
ナオトの次は真ん中の奴だ。
「どうも、私はアラタ・ヤマダと申します。能力は空想現実化です。この度は私たちの師匠になっていただき誠に有難うございます。何卒ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。。」
二番目に名乗ったナオトは、まるで上司に挨拶するような口調で自己紹介をする。もしかしたら前世はサラリーマンとかだったのかもな。
そして最後の麦わら帽を被った左目の下に傷のある男が名乗る。
「よぉ、オレはマンキー・D・ルーシー。ゴムゴムのコーンポタージュを飲んでゴム人間になった。これからよろしくな、師匠。」
ルーシーはなんか既視感が凄かったが多分気のせいだろう。
全員の自己紹介が終わった後は俺と松田も名乗る。新しく弟子になった三人にも雑巾がけを命じる。
弟子達がいなくなってから俺たちは予定通りスラム街に行くために城を出る。
城から出て街の大通りから脇道を進み歩くこと三時間。
目的のスラム街に到着する。
このスラムの場所は昨日街で情報収集をしている時に一度来ているので把握していた。
松田はスラム街を生で見るのは初めてのようで緊張している。
「先輩、本当に大丈夫なんですか?スラム街って治安も悪いって聞きますし、もし襲われたら僕らそれで終わりですよ。」
「大丈夫だからビクビクすんな。ここじゃビビってる奴ほど強盗やスリに狙われる。堂々としろ。」
「分かりました。頑張ります。」
松田はまだ緊張してはいたが少し胸を張り背筋を伸ばし堂々としようとする。
しばらく歩いていると、二人にガラの悪い集団が絡んできた。
「おう、お前ら、見ない顔だな。新入りか? このスラムカイザー・ウルフ様のナワバリでよくも堂々と歩けたもんだな。ちょっとツラ貸せや。」
「あ、あのですね? 僕たちちょっと用事があるんで後ででいいですか?」
「ああ⁈ 舐めてんのか?いいからこっち来いや‼︎」
完全に堂々としていたのが裏目に出た。
集団に囲まれて逃げることもできずにズルズルとスラム街の奥へ連れて行かれる。
(先輩! 先輩のいうとうりにしたらとんでもないことになったじゃないすか! どうすんですか⁈)
(うるさいうるさい!俺は強盗やスリに会いにくいって言ったんだ!チンピラに絡まれないとは言ってねぇ!)
二人が言争ってるあいだに開けた場所に到着する。
「ぐへへへへ。今からお前らにこのスラムの厳しさを教えてやる。この場所かお前らの墓場になると思え。」
くっ、俺はここまでか!もうダメだ。今から集団リンチされるんだ。
そう思った時、
「先輩、どうにか僕とスラムカイザー・ウルフとかいう奴、あのチンピラのボスっぽい奴とのタイマンに持ち込んでください。僕なら一対一なら勝てるかもしれません。」
松田はそういうがウルフとかいう奴は大柄でかなりケンカが強そうだ。一対一でも松田が勝てるか分からない。でももう他に選択肢はない。
「松田……。分かったお前に全てを任せる。」
松田の案になることにした俺はタイマンに持ち込むべくウルフに話しかける。
「おいおい、お前達はたった二人の新人相手にそれだけの人数でないとケンカもできないのか?もしかして怖いのか?
「なんだと⁈ 」
「怖いわけねーだろ!」
「 調子のんな!」
俺の挑発に対しチンピラどもが騒ぐ。
しかし
「お前ら、全員黙れ‼︎」
ウルフの一言でチンピラどもは一斉に黙る。ウルフは手下に手を出すなといい俺に話かける。
「おい、新入り。ずいぶんと死にたいらしいな。こいよ、一対一でぶっ殺してやる!」
相手は俺の挑発に乗ってくれたようだ。
あとは松田と戦うように誘導する。
「ふんっ、お前程度じゃ俺の足元にも及ばねーよ。行ってこい松田。おいウルフ、もし松田に勝てたら相手してやるよ。」
「はっはっは、どこまでもバカにしやがって、この青二才が! もう絶対許さねぇ。」
ウルフはいい感じにムキになってくれているようだ。
「じゃあ、あとは任せたぞ。」
「はい、任せといて下さい先輩!」
俺は松田に全てを託し後ろに下がる。
松田対ウルフの戦いが始まった。
ウルフは怒りに身を任せ力任せに松田を殴ろうとする。
ちなみにこれはネットで聞いた話だが松田の習っていた武術、ムエタイは強力な蹴り技が多数ある。かなり強力なな武術らしい。
昔、他の武術の達人とムエタイの達人が対戦した時には試合開始から僅か数秒で決着が着いたとか。
俺はそれは話が誇張されて伝わったものだと思っていたが違った。
目の前では最初のパンチを交わされて、カウンターで顔面に強烈な蹴りをくらった敵のボス、ウルフが倒れていた。
敵のチンピラは信じられない!といった顔をしている。
「松田、お前もしかしてかなり強いんじゃないのか⁈」
「いや、そんなことないですよ。作戦勝ちです。僕は初めから最初の一撃で一番強い蹴り技を使ってあいつを倒すつもりだったんです。上手い人ならこの技を使ったあとも体制を崩さず連戦出来るんですけど、僕じゃできないんで。もし乱戦になってたら絶対に負けてました。」
なるほどな、だからタイマンに持ち込んだのか。
しかしそんな大胆な作戦を立て、実行する度胸、成功させる実力。もしかしたら俺が思ってた以上に凄い奴かもしれないな。
俺たちは一旦危機を乗り切ったと思い安堵していた。しかし危機はまだ去っていなかった。
新しくチンピラの一人が走ってきた。
後ろには一人の男がいる。
「スラム|将軍≪ジェネラル≫・タイガー様、こいつです!こいつらがウルフ様を!」
「こいつらが……。おい新入り、俺の手下によくも手ェ出してくれたな。落とし前はきっちりつけでもらうぜ。」
チンピラが連れてきたのはこのスラム街全体のボス、スラム|将軍≪ジェネラル≫・タイガーだった。
しかし、スラムカイザーの上がスラム|将軍≪ジェネラル≫ってのはどうなんだ?
普通カイザーの方が偉くないか?
なんて俺の疑問はどうでもいい、実は今日はこのタイガーに会うためにスラム街に来たのだ。
松田がタイガーを警戒して構えていたが俺はそれを制止し前に出て話しかける。
「おい、あんたスラム|将軍≪ジェネラル≫・タイガーって言ったな。今日俺はあんたに会いにきた。話を聞いて欲しい」
「話?どういうことだ。」
「あんた、昔、城将軍・タイガーって呼ばれてたよな。そんなアンタに言いたいことがあってな。」
城将軍とは、この国で王城の守護を任された将軍のことだ。そして付け加えるなら異世界人の勇者が城の警備に就いたことで消滅した役職だ。
「若造、口の利き方には気をつけろ。その名では呼ぶな。言いたいことがあるなら言ってみろ。」
「アンタは異世界人に自分の仕事を奪われた。そのせいで異動になったあとすぐに将軍を辞職したな。なんでだ?」
「その話はやめろ。」
「もしかしてぽっとでの異世界人に叩き上げのアンタの、王を守る誇り高い役割を奪われたのが気に食わなかったんじゃないか?」
「やめろと言ってるだろう。」
「アンタ、悔しくないのか?」
「やめろ‼︎‼︎ 俺よりも強い奴が現れた!だからそいつが王を守る!それだけだ‼︎」
声を震わせタイガーが叫ぶ。
だが俺はやめない。
「タイガー将軍、もし俺たちがある異世界人の勇者をこの世界から追い出す、と言ったら強力するか?」
その言葉にタイガーは一瞬だけ驚いた表情を見せる。
「するわけがない。奴らは化け物だ。あんな力を持った奴らを追い出すなどできっこない。」
「なぜ出来ないって決めつける。」
「それは……、奴らは異世界人だからだ。」
「それがなんだ、それが勝てない理由か?」
「奴らは常人離れした能力も持っている。」
「だからなんだ、それが負ける理由か?」
「ああ……、そうだな。それが勝てない、負けてしまう理由だ。」
「違う‼︎‼︎‼︎」
俺は叫ぶ。
「お前らが勝てない理由を教えてやる。それはお前らが戦う前から勝ちを諦めてるからだ‼︎」
「何言ってんだ、そんなの精神論だ!」
タイガーは反論する。
「違う、いいがよく聞け。俺は能力も無いし、ケンカも弱い。でも勇者タケルに勝ったぞ!弱者である俺たちでも知恵を絞り、工夫し、団結すれば勇者を倒せるんだ!」
「なっ!勇者を倒しただと?」
「能力なしで?」
俺の言葉にタイガーも周りのチンピラも驚く。
俺は言葉を続ける。
「お前達が弱いのは能力がないからでも無ければ異世界人でないからでもない!立ち向かう勇気を、何をしてでも勝ちをもぎ取るという強い意思を、戦う為の牙と爪を失ってるからだ!」
「牙と爪…」
「ああ、そうだ!牙も爪もない虎なんか怖くねぇ!だからお前らは異世界人にいいように、仕事も、女も、王からの信頼も全て奪われるんだ!」
バキッ!
「黙れ‼︎」
俺は突如殴られる、タイガーは顔を真っ赤にして、怒りをたぎらせ叫ぶ。
「黙れ!お前に何がわかる。知ったような口を利きやがって。俺だってあの異世界人を追い出せるならそうしてる。無理なんだよ。あいつらを倒すなんて。」
俺はその言葉を聞いて安心する。
「よかった、牙と爪を抜かれた上に相手に怯えてるようじゃダメだと思ったが。まだ追い出したい、倒したいって気持ちはあるんだな。」
「ああ、あるに決まってる!」
「なら俺たちがお前達に勝ち方を、教えてやる。もう一度聞くぞ、俺たちは勇者を追い出す。協力しろ。」
「勝ち方?そんなものがあるのか?」
「ああ、ある。協力するってんなら教えてやる。あとは踏み出す勇気だけだ。どうする?」
「……わかった。協力しよう。俺に勝ち方を教えろ。」
「協力感謝する。一つ聞いておくがお前達の中には牙も爪も残ってるな?」
「ああ、勿論だ。」
「わかった。じゃあ作戦を話すぞ。」
こうして俺達は作戦立案の為に欠かせない人物の協力を得ることができたのだった。
打倒、異世界チーターに向けこの世界が動き出す。