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第7話 仲間募集


 「二人じゃだめだなって。そうは思わないかな」


 冒険者になって一か月が経過しこの街に馴染んだ俺たちだったが、馴染んだ分だけ不満が出てくる。それを解消するために食事をとりながら今後の方針について会議を行っている。今回のテーマは、仲間を増やすことの是非についてであった。


 電気羊の討伐が安定した着た俺たちだが、それと同時に一人での討伐に限界も感じつつあった。討伐に参加しているのが実質俺一人というのが効率の悪さを際立たせている。いや、一人でも問題はないのだが、獲物の探索等の雑務も含めて行おうとすると、一人では手が足りず、時間を無駄にかけてしまう。


 「電気羊に切り替えてから、順調に討伐してきていると思ったがけど、どうやっても1日25頭ぐらいしか狩ることが出来ていない。ミストが手伝ってくれれば、もっと数がこなせそうだけど、収入的に大赤字になるからな。収入を上げるには仲間を増やして、効率を上げるしかないと思うんだよ」


 と、黒麦のパンを頬張りながら冷めた目で見つめてくるミストに言った。


 「食事中に堅苦しい仕事の話をするのは止めてくれますか?いやだなぁ、仕事人間って余裕がなくて。モノを食べるときは、誰にも邪魔されず自由であるのが信条なんですが」


 ……いや、ここ冒険者ギルドの酒場だよ。仕事場で飯食っているのに仕事の話をするなって、ここの人たちを否定するなよ。でも、言いたいことはわかる気がする。もといた世界では、仕事場の人間やお客さんと食事や飲み会に行くと仕事の話しかない場合がたまにある。せっかくオフ時間なのに、なんで仕事の延長戦みたいなことしているのだろうと悲しい気持ちになっていたことを思い出したのだ。


 しかし、ここは現代日本ではなく異世界だ。冒険者ギルドの酒場は夜にもなるとその日の仕事を終えた冒険者たちが一斉に押しかけてくる。そんな冒険者たちが仕事の苦労を酒の肴に楽しく語らうというのが一般的な常識である。


 命を懸けて仕事をしている人間同士が、無事に生きて仕事を終わらせられたことに感謝し、今朝の別れから再開できたことを祝うために集まって騒ぐというのが何よりも楽しいとのことらしい。


 その言葉を聞いたとき、なるほどと俺は思ったが、ミストが『馬鹿じゃないですか?そんな理由で騒いで、お金をためないから、金欠の万年底辺冒険者なんてやってるんですよ』と一般人にも毒をまき散らしていたのを思い出した。


 「魔王様の言いたいことは理解できます。今の状態は確かに稼ぎが頭打ちですし、一角牛が最強のモンスターであるドラッジオ市では魔王様の成長が望めませんしね。早いとこ資金を稼いで次の街へ移動したほうが我々のためにはなります」


 意外だ。他人に対して辛辣なミストが了承してくれるとは思わなかった。驚いている俺を尻目にミストは黙々と黒パンをビールで流し込む。


 「しかし、嬉々として自殺しては復活する魔王様の特異体質が他人にばれてしまうのは問題あります。ユニークな特技で乗り切るには少々、いえ、大分むりがありますし」


 「それはそうかもしれないが、死ななきゃ問題ないだろう。一角牛さえ相手しなければ死ぬことはないし」


 最近は羊しか討伐していないとはいえ、戦いに慣れてきたのか不覚を取ることが少なくなった。その点はミストも理解しているらしく、食事の手を止めて少しばかり考え込むような表用を浮かべる。


 少しの沈黙のあと、「こんなパーティーに参加したいという稀有な人材がいるのであれば歓迎しましょう」と了解を得ることができた。なお、その言葉のあとに「ばれたら処理しよう」と、小さなつぶやきが聞こえた気がしたが、聞こえないふりをして自分の皿に置かれている黒パンを口に運んだ。


 黒パンはこの世界ではもっともポピュラーな主食の一つらしく、黒麦の精製度の低い粉をこねて焼いて、塩で簡単に味付けしたものである。精製度が低いためそのまま口に入れるとぼそぼそして食べにくい。そのためビールや水と言った液体で湿らせてから飲み込むのが食べ方らしいが、ちょうどいい塩加減とビールの味がなかなかに合うのだ。日本のように様々な調味料や調理法がないため、様々工夫でおいしく食べようという努力が散見されるのは新鮮で面白いと思っている。


 ミストはそんなことは気にせず、自分の好きなように体に詰め込むといった食べ方だが。


 「それで問題になるのが。新しい人材の職業だな。俺としては探知能力が高く、魔物の群れを発見してくれるレンジャーや前線で戦う俺のサポートをしてくれるメイジなんかが重要だな。後はもう一人前衛がいて、そいつが盾役を引き受けてくれれば、戦闘はずっと楽になるな。後は傷の手当てができる人材でもいい、ヒーラーとかメディックとか」


 「メイジは私がいるので却下です。アイデンティティーは取らないでいただきたい。前衛職は魔王様の育成には不必要なので却下で。そうするとレンジャーかヒーラーが良いと思います。人数はどちらか一人で……、数を増やし過ぎて収入が減るのは避けたいですから」


 「うーん、そうするとレンジャーだな。モンスターを探知してもらって、後方から弓矢や槍で支援。最後は解体を手伝ってくれれば最高だね」


 黒パンにバターを塗りたくりながら話を聞いていたミストだったが、何かを思い立ったようにこちらを見た。どうやらろくでもないことを思いついたらしい。


 「レンジャーの真似事だったら探索する魔法がいくつかありますよ。『炭鉱のカナリア』『魔力探知』『生物探索』なんかがモンスター探索に転用できます。レベルの低いレンジャーを仲間に入れるよりもそっちのほうが効率的ですよ」


 「嫌だ。お前から教わる魔法はろくな結果にならない。脳みそが焼けるようなあの感触はもう二度と味わいたくない。壊れたくない。爆殺されたくない」


 あの時の感覚を思い出し、ビールを持っている手が震える。しかし、どうしようもなくなれば、魔法を教わることも選択肢に入れる必要があるだろう。多少死んでも何とかなるというのは自分の強みではあるのだ。場合によっては犠牲を出しながら進む必要が出てくるだろう。


 「とりあえず、募集をかけてからですね。明日の朝一番で掲示板を張り出しましょうか。夕方ぐらいまでに募集がなければ、魔王様がレンジャーになるということで」


 「え、期間短くない。そんなにすぐ集まるものなのか?」


 「冒険者の中には気軽に合流と分離を繰り返すような輩が一定数存在します。特定のパーティーを組むよりも日替わりでパーティーを変えて、割のいい委託業務を受けようとする連中ですね。また、パーティーに所属していない新人冒険者もいるはずなので、おそらくはなんとかなるかと」


 「日替わりパーティーかそんなのいるのか。ちなみに、委託業務ってなんだ?」


 「特定の魔物討伐、稀少品の採取、荷物の輸送、野盗の退治、傭兵として戦争の参加等ですね。また、政庁で募集している仕事ですが、街道の整備、市内の清掃、城壁の補修等のインフラ整備系の仕事があります」


 そう言われてみると冒険者の組合なのにどう見ても土方にしか見えない連中が、冒険者ギルド内の酒場にいることを思い出した。ちらりと酒場の隅を見てみると、その一団がにぎやかに酒盛りしている。ああ、なるほど、そうやって生きている連中もいるのか。


 「せっかくだから、明日は休みにしましょう。朝に掲示を出して夕方まで自由行動というのはどうでしょうか。お互いずっといっしょにいるのでは息が詰まりますし、自由な時間は大事だと思います」

 

 「……そうだな。たまには休むのも悪くないな」


 最近は働きっぱなしだったため、休暇をとることは悪くない。週に二日は休みたいものである。それにせっかく異世界にいるのだ。観光というか街の探索もしてもみたい気持ちもある。

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