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エピローグ 3

 フィリカ達と別れた後、すべての用事が片付いたことを確認してから、先ほど歩いていた道を逆向きに歩く。目的地は冒険者組合の庁舎で、そこがミストと待ち合わせ場所となっていた。


 見慣れた組合ロビーに顔を出してミストの姿を探してみるが、それらしい姿は見当たらない。待ちくたびれてどこかにいってしまたのだろうと考える。おおむね居場所は見当がつく。しばらくこの場所に来ることはないのだから、別れのあいさつでもしているのだろう。


 「やれやれ、出発時間を変更しないといけないな」


 ため息交じりにつぶやく。ミストを一人にしておけばこうなるということは覚悟していたものの予想どおりに動かれると何とも言えない気持ちになる。


 「まあ、いいや。先に手続きを済ませておこう」


 冒険者が所属している冒険者組合を離脱する場合はその期間が一時的なものであったとしても、活動休止届もしくは組合離脱届の申請が必要になる。これを申請せずに、冒険者としての活動を一定期間していないことが認められると、死亡または逃亡扱いとされてしまうのだ。そうなると今までの実績や経歴、冒険者としての地位がすべて消失してしまう。また、組合に払い続けている保険料なども一緒に消えてしまう。それらの冒険者情報は抹消された時点で、完全に破棄されてしまい。たとえ身元の証明ができたとしても、もとに戻すことはできない。


 そのため、少しでも冒険者に復帰する可能性のある物は、しっかりと手続きを行わにといけないのである。


 その大切な手続きを行うためにロビーにある冒険者登録用の受付カウンターへと足を進めた。このカウンターの前に立つのは数か月ぶりだなと思う。普段はあまり訪ねる人間はいないため、基本的にカウンターに受付の人はいない。呼び鈴を鳴らして、人が来るのを待つ。


 すぐに受付のお姉さんが席に着いた。見慣れた顔で、普段は依頼用のカウンターにいる人である。専属の担当者というのはいないため、何人かの職員が兼任で行っているようだ。


 「こんにちは。活動休止届の提出でしょうか?」


 こちらが用件を切り出す前に受付嬢は言った。用件を切り出す前に相手から言われてしまい驚く。どうしてそれを知っているのかと聞こうとしたが、彼女は数多くの冒険者の対応を行う組合の看板娘なのだ。俺たちが冒険者活動を休止し、別の街へ移動することは顔見知りの冒険者たちに伝えてあるので、おそらくその誰かから聞いたのだろう。


 「そうです。書面の記載は完了しているので、内容の確認をお願いします」


 「承りました」


 受付嬢は俺の手から様式を受け取ると、記載している個所に、慣れた手つきで赤色のペンでチェックを入れていく。順調に進んでいた手だが、様式の後半にある個所で手が止まった。


 「サツキさん。復帰予定時期の欄が未記入になっています」


 「ええ、情けない話ですが、今後の見通しが立たなくて。やはり記入しないとまずいですかね」


 「いえ、未定ならそう記載してくれれば結構ですよ」


 受付嬢はそう言いながら、記入欄のところに未定という文字を書き込む。どうやら空白にしておくのがまずかったようだ。


 「組合が活動休止した冒険者が復帰する目安となる時期を把握したいため、記入していただくようになっています。組合が時期を把握する理由は、月ごとで組合に所属する冒険者の数がどの程度いるか見込みを算出し、その月の依頼受注量などを決めているため、算出の根拠として使用するためです。また、休止中の冒険者に依頼があった場合に、依頼人に対していつからの時期なら受注できると説明などにも使用します」


 受付嬢は書類のチェックを再開しながら理由を説明した。その言葉に沿う理由があったのかと心の中で納得する。しかし納得と同時に予定時期はなるべく正確な時期を記載しなければならないのだろうかという疑問も発生した。


 「あくまで予定であり、拘束力はありません。休止届を提出していただければ、予定時期よりも早くなっても、遅くなっても復帰は可能です」


 俺の心を見透かしたように受付嬢が言った。


 「そうですか。安心しました」


 いつでも戻れるのはありがたいと思う。これからやろうとしていることが成功しても、」しばらくの間は冒険者家業を行う必要があるからだ。


 「なるべく早く冒険者に復帰できるように努力します」


 「ええ、お待ちしています。サツキさんやミストさんが居なくなってしまうのは本当に残念です」


 受付嬢が微笑みながら言った。


 「組合の食堂で息がぴったり合った夫婦漫才が聞けなくなるのは、やっぱりさびしいと思います」


 「夫婦!?」


 「あら?違いました?」


 受付嬢が驚いたような口調で言った。そう思われているのかと少し焦ったが、微笑みが崩れないことからからかわれているのだということに気が付いて、苦笑するしかなかった。


 やはり俺は年上の女性は苦手だ。この人ようにいろいろと教えてくれる包容力のある女性は特にそうだ。


 苦笑いを浮かべる俺を尻目に、受付嬢はチェックの終わった書類に受付印を押印して、カウンターの引き出しの中に入れる。


 「はい。書類に不備はありません。書類は確かに受領いたしました。また冒険者としてこの街に戻っていただく日を、心からお待ちしています」


 そういって彼女は頭を下げた。こちらもその動きに合わせて頭を下げる。これで、一つの節目が終わった。


 「他にご質問等はありますでしょうか?」


 質問か。頭の中で何かないだろうかと考えるがたいして気になることもないので思い浮かばない。いや、一つだけ聞き忘れていたことがある。


 「そういえば、お姉さんの名前を聞いていなかった」


 我ながら唐突な台詞だったと思う。受付嬢は豆鉄砲を喰らった鳩のように驚いた表情になった。


 「え、えーと?ふふふ」


 少しの間の後に驚いた表情は、笑いに変わる。


 「別れ際だというのに、今更ですか?」


 「ええ、今更で申し訳ありませんが、お願いします」


 俺の言葉に少しだけ受付嬢は考え込むような仕草をした後に、何かを思いついたようだった。


 「・・・・・・そうですね。それでは、サツキさん達がこの街に帰ってきたときに教えてあげますね」

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