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第3話 異世界での初仕事 後編

「では、さっそくどうぞ」


 ミストの言葉でふと我に返る。ずきずきと頭の芯が痛み、思考を巡らせることが出来ない。それでも大切な何かを思い出すべく、ぼんやりとした頭で思考を巡らせる。


 最初に浮かんだ単語はスイカ割だった。なぜその言葉が浮かんだかは不明だが。


 ああ、そう言えば魔法を使えるようにしてもらったのか。


 「なぁ、……うまくいったんだよな?それと、俺の周りの地面ってこんなに赤かったかな?」


 紅いだけでなく、水に濡れたような光沢も放っている。


 「紅葉ですよ。魔法の影響か何かで変異したのでしょう。まぁたいした、問題でもないですし、そんな事よりもほら、あれを見てください」


 ミストの説明は腑に落ちないが、追及してもろくでもないことになりそうなので、深く考えないことにしよう。


 ミストに言われるがまま指さす方向を見てみる。そこには灰色の体毛した牛のような生き物がいた。見た目は牛に近いが、日本で見たことのあるホルスタインよりも一回り以上大きく、頭から一本の大きな角が生えていた。


 「一角牛ですね。普段はおとなしいモンスターですが、自分よりも体躯の大きいものに突撃する習性があります。荷馬車なんかが襲われる報告がよくありますから、組合も討伐を奨励しているモンスターです」


 「詳しいな。よくご存知だ」


 「食事をしている時に、近くにいた戦士の男に、討伐のオススメを聞いておきました。一頭倒すごとに銀貨二枚の報酬があるそうですよ」


 意外だ。考えなしに行動しているのかと思ったらちゃんと仕事はやっているのかな。所持金が尽きる程、食事をしたのも魔力を回復させるためと言っていたし、しゃべらないだけで、意外とちゃんと考えているのかもしれない。


 しかし、報酬が銀貨二枚か。


 銀貨二枚という単位がどの程度の難易度を示しているのかわからないが、武器を創り出すことができるようになったことだし、最初の討伐でもあるのだから、ミストも自分の実力を考慮して対戦相手に選んでくれたに違いない。


 ミストのことだから多少は難易度高めかもしれないが、武器を持った人間であれば牛ぐらい何とかなるだろう。


 「あ、すごいな。魔法なんて知らなかったはずなのに、どうすれば魔法が使えるのか頭に入っている」


 武器創造という言葉を頭の中で反芻すると、どうやって術式を組み立てて、魔力の運用し、発動する術式が浮かび上がってくる。元から知っていたように違和感なく頭の中に存在している。


 これが魔法便利さに少し感動しつつ、礼を言おうとミストを見たがなぜか視線をそらされてしまう。


 「……転送は完璧に行うことができました。問題はないデスヨ?」


 うん、なんか引っかかる態度だな。しかし、気にしていても仕方がない。


 自分自身の中にある魔力の流れ、魔法を紡ぐための術式。術式を発動させるためのタイミングと呪文などは問題なく理解している。そしてその魔法に発動のトリガーとなる単語を呟く。


 ちなみに魔法の発動には、魔術式を言葉にして詠唱をする、魔道書など魔法の構成が書かれている文字列に魔力を送り込む、魔方陣を作成し魔力を循環させることで魔法を発動する。神霊に祈って奇跡を呼び寄せるなどといった方法があるのだが、俺の場合はミストから直接脳みそに魔法式が転送されているということもあり、脳みその中が魔道書のようになっているようで、発動するためのトリガーを一言で発動できるようになっており、非常に便利な状態である。


 『心の中にある想像よ、現実と成れ』


 発音と同時に魔力が自分の体から周囲に光となって広がった。どうやらうまく発動できたらしい。ミストとは違い派手な光が発生しているのは、詠唱して発動しているためだろうか。


 武器創造は魔力を消費し、自分の精神にある武器のイメージを取り出して、具現化する魔法である。使用する魔力量、自身の経験や知識によって具現化できる武器の形状や能力は変動してしまうとのことなので、魔力をあまり使用しないシンプルな鉄製の槍を頭の中に描く。


 初めての魔法、初めての戦闘ということもあり、優秀な武器は出ないかもしれない。武器を持ったこともないというのもイメージを創りだすのにマイナス要素である。しかし、元の世界で様々なメディアから得た武器の知識は、イメージするのを容易にしてくれている。


 魔界を統べるものとしてふさわしい武器。その手ごたえが俺にはあった。


 「来い!魔王の槍!!」


 魔法の光が俺の右腕に集まると同時に、ずしりとしない軽やかな重量を感じ、それを両腕しっかり握って構える。


 その槍は緑色で3m程度の長さをしている。金属ではない材料で作られたそれは、武器を扱ったことのない人間でも、その軽さから自由に扱うことが出来るだろうことが想像できる。


 その武器の名は俺でも知っているものだ。


 いわゆる竹やり。


 近代に入ってからも、具体的には戦時中にも使われていた日本人の雑草魂の象徴でもある武器だ。物干しざおなんて言うからこんなものが出来てしまったのだろうか。乾燥して薄茶色になった竹を握りしめてミストと竹を交互に見る。


 「……竹やりですよ。ははは。なんですか?魔王の槍って?ねぇ教えてくださいよ」


 ミストが隠そうともせずに顔を真っ赤にして笑っている。


 ちくしょう。馬鹿にしやがって。竹やりはだって立派な簡易兵器だぞ。農民の決戦兵器をなめるじゃない。


 見ためは貧相かもしれないが竹やりだって立派な武器だ。一回使えば貫通力は落ちるという弱点はあるが、貫通力はあるため、一撃で急所を突いて倒してしまえばいいのだ。


 しかし、……急所ってどこだ?


 「腕が確かなら頭部や首筋が狙い目ですが、魔王様のような素人であれば横腹から心臓を狙ったほうが良いそうですよ。急所を外してもダメージを与えられるので、次の攻撃につながりやすいとのことです。失敗しても死ぬだけですから、安心して何度も攻撃してくださいね」


 笑いながらアドバイスを送るミストの態度が最高に腹ただしい。しかし、腹を突いて攻撃するということは参考にさせてもらおう。罵声と応援の混じった声援を送るミストを無視し、竹やりを一角牛に向ける。


 近くで見てみると体躯は自分の知っている牛よりも大分大きく圧倒される。2t以上はありそうだ。牛というよりもサイに近いかもしれない。ミストが集めた情報によるとこの一角牛と呼ばれているモンスターの特徴は、その体躯を生かした体当たりが最大にして最強の武器で、見た目にそぐわぬ瞬発力をもって標的を串刺しにするという。


 また、角以外にもしっぽによる強打や分厚い皮膚と毛皮による防御などを持っており、並の冒険者にとっては相手にするには危険度の高い難敵だ。


 しかし、そんな強敵にも弱点はある。


 攻撃手段が体の前後に集中しているため側面からの攻撃に対応ができないということである。もちろん横から攻撃すればそれに反応して、牛も動くだろうが、横軸の機敏な動きは人間のほうがはるかに上である。側面から集中して攻撃すれば容易に倒すことは可能であるということだった。


 そのため、実力のある冒険者にとっては容易に倒すことが出来て、報酬額がそれなりであることから、一番人気の討伐対象になっている。


 「うわぁぁぁぁぁ。聞いてたのと大分違うぅぅぅ。」


 しかし、それはあくまでもそれなりの実力がある冒険者の話なのだ。


 情けない悲鳴を上げる俺。確かに側面に回れば攻撃を受けないのだが、牛の振り向く速度が思ったよりも早い。こちらが攻撃する前に牛が正面を向いてしまう。


 こうなると攻撃どころではなく、逆に攻撃されないように常に側面に回り続けるだけで手一杯となってしまい。牛を中心にぐるぐるとまわり続けるなさけない戦いになってしまった。


 「ああああ!あああああ!助けろー!助けてくださいー!ミスト様――!!」


 「もうちょっと、がんばれば一角牛は目を回しますので、それまで耐えてください」


 「無理ー―!俺の体力が尽きるーー!」


 畜生。何が、横腹を狙えだ。毛皮と分厚い皮膚で竹やりなんか刺さらんわ!適当なことを言いやがって!!


 しかしこのままいっても体力が尽きて、自慢の角にやられて死んでしまうだろう。このままでは徐々に不利だ。その状況を打破するためには一瞬のすきを狙って攻撃を加えるかしかない。


 そしてその隙を狙うため、俺は必死で走った。全力疾走なんて何年振りだろう。顔を涙とよだれでべとべとにしながら、体がちぎれる勢いで足を必死に動かす。


 「このやろうぅぅ!!」


 そんな全力疾走の甲斐あってか、牛の動きよりもわずかに早く動くことが出来た。その隙を俺は見逃さない。横腹の毛皮の隙間。一番防御の薄そうなところに竹やりを突き刺した。


 ……突き刺したはずだった。


 現実は非常であった。突き刺した瞬間、自分の持っていた竹やりの先端は一角牛の分厚い皮膚で止まり、穂先がなくなっていた。


 地面を見てみると竹やりの先端は地面に無残にも転げ落ちてしまっている。


 皮膚の固さと雑な刺し方をしたため、横からの必要以上の荷重をかけてしまったのだろう。


 竹やりの貫通力では一角牛の毛皮と皮膚を貫くことが出来ず、耐久力の不足している竹では自分の全力を耐える力がなかったらしい。


 「大丈夫ですよ。まだまだ復活できますからーーー。安心して死んでいください」


 遠くでミストが何かさけんでいるような気がしたが、その言葉は俺の耳に入っては来なかった。なぜならば、俺の正面には角を突き出した一角牛の顔面が迫ってきているのだから。





 「はぁ、はぁ、成し遂げた……。成し遂げたんだ!!俺は」


 心の底から叫んだ。俺の目の前には先ほどまで戦い続けた一角牛の死体が横たわっていた。倒した証拠に角の先端部分を新たに創りだした竹やりで殴打し、えぐり取ったため、自分を何度も死に至らしめた凶悪な角は無残な姿になっている。


 その隣には、何本もの折れた竹やりが転がっており、激戦を思い起こさせる。


 「頑張りましたね。計五回ほどお亡くなりになりまして、途中から死ぬことが前提となった戦い方でしたね。命を使用したゴリ押し戦法はなかなか鬼気迫るものがあってよかったですよ。スプラッター過ぎて気持ち悪かったですが」


 さすがに人間の体に穴の開き、肉や内臓を吹き飛ばしながら戦う姿を見るのは好みではないらしく、散らばった肉片を魔法で消却しながらミストが労いのような言葉をかけてくる。そんな姿を見たくなければ手伝ってくれればよかったのに。


 「まぁ、これで何とか冒険者としての初仕事は終わったわけだ。銀貨二枚あれば、何日かは生活できるだろうし、中古の防具くらいは購入することもできるだろう。ああ、それよりも風呂と洗濯だな。体中にこびりついた血と汗と泥をきれいに洗いたい」


 顔面の汚物を袖で拭いながらため息交じりにつぶやいた。


 正直なところ、一角牛を倒すことが出来たのは、自分の特殊能力を生かした戦法をとったからである。まだまだ死ぬことが出来る回数が残されているとはいえ、この戦い方を続けていけば約一万回のストックなどすぐに尽きてしまうだろう。


 武器は竹やりで何とかするにしても防具は最低限そろえたい。そして、ミストの魔法についても魔法の消費量と討伐で得ることのできる収入のバランスを考えて最低限の魔法を使用してもらって自分のサポートをしてもらわなければ今後まともにやっていけないだろう。


 「そうですね。装備を整えるのは賛成です。……日も暮れてきましたし、街に戻って清算しましょうか。……一角牛は角や毛皮に価値がない魔物なので、討伐報奨金以外が得られません。解体の必要がありませんので、浄化します」


 そういって、ミストは杖を構えた。浄化というが、何をするのだろうか。


 「魔物は体内のマナ密度が非常に高い生物です。マナは密度の濃い場所から薄い場所に移動する性質があるため、魔物の体からは常にマナが放出されています。不足するマナを補い続けないと魔物は死んでしまうため、生きているうちは他の動植物からのマナを吸収し、その密度を維持し続けます。そうすることで体内のマナは安定することが出来るのです。しかし、死によってマナを取り込むことが出来なくなると、濃度の濃いマナが一気に大気中へと分散することになります。待機中のマナ量の急激な変化は、空気を淀ませ瘴気へと変質します。魔物一匹ぐらいでそこまで大ごとになることはまずありませんが、瘴気は生物にとっての毒になりますから、瘴気が発生しないように、マナを消失させる必要があります。それが浄化です」


 要約すれば魔物の死骸を放置するとよくないということかな。まぁ普通の動物であったとしても動物の死骸が多く転がっていれば不衛生だし、病気の温床になったりするかもしれない。


 なんとなく納得しつつミストがなにをするのかなとみていると、ミストが呟くような詠唱を始め、それに呼応するかのように一家牛の死体が少しずつ光の粒子へと変わっていく。  その光は、数秒ほどの短い時間続き、光の粒子が消えたときにはそこに合った死体はすべてどこかへと消えていた。


 ゲームの世界だと死体処理方法について考えたことはなかったが、死体が勝手に消えるわけではないのだから、現実的に考えれば面倒くさくても何かしらの手を加えなければならない。


 「ふぅ。……さて、帰りましょうか。こうやって労働したわけですから、夕食は豪勢に行きたいですね。ビールがあれば最高です」


 ……昼にあれだけ食べて、まだ食べるのか。こんな細身の体でいったいどこに入るというのだろう


 呆れながらも、食べ物のことを考えて笑顔になっているミストに文句を言うことはできなかった。とにかく疲れた。とっとと街に戻って、熱い風呂にでも入りたい。


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